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味わい

マアナゴの兜は国宝級なのだ

先週は魚があまりなく、久しぶりに我が家の魚資源が枯渇しているので、冷凍庫からとっておきのものを出してくる。素焼きにした穴子(マアナゴ)の兜(頭部)である。マアナゴのいちばんうまい部分は頭だ、なんて短絡的なことは言わないが、最後まで惜しんで取って置きたいくらいにうまい、無類の味だ、とは思っている。7月13日に、八王子綜合卸売協同組合、マル幸水産で買い求めた宮城県産大アナゴの兜だ。75cm TL・713gなので、すし屋、天ぷら屋では使いにくいが、料理の技さえ持っていれば一般家庭向きのサイズだと考えている。この大アナゴで8品作り、兜で9品目となる。1本1500円也の9分の1なので、1品の原価は平均170円弱でしかない。さて、−20度の冷凍庫から取り出して、保存袋と厳重に巻き巻きしたラップを脱がせる。タオルにくるんで室温で戻す。軽く焼いて、兜を半割にする。鰓などを取り、こんどは強火で表面をかりっと焼き上げてタレ(みりん・醤油同割りを煮つめたもので、市販のウナギのタレでもおいしい)を2、3度くぐらせて焼き上げる。さて大アナゴの兜は思った以上に食べられる部分が多い。なによりもマアナゴの皮が、こーーーんなにおいしいなんて、兜を食べないとわからないと思う。世界三大珍味なんて、例えばキャビアなどちょぼっと食べるから世界に冠たるものになるという、非常にいかがわしい代物だが、マアナゴの皮は飽食してもうまい。皮だけで酒を飲み、飯を食らってもこれに代わるものはないと、もちろん食べているときは思う。しかも頭部に付着している筋肉のうまさよ。名状しがたい味なので、文字にしようがないが、ほろっと柔らかいのに舌の上での存在感がすごくデカイ。大方食べ終わった残骸は口の中に放り込んでガムのように嚙む。これだけでも十分御馳走の類とは泣けてくる。深夜なので、千葉県酒々井の甲子正宗をグラスいっぱいだけ、にすべきだったが、無理だった。
バカガイの雌雄子持ち
味わい

青柳も、名残のをつけるべき、か

八王子綜合卸売協同組合、マル幸に青柳(バカガイの剥き身のことでプラスティックのトレイに乗せられている)があった。見た目からして北海道産とみたが、はっきりしない。矢鱈にバカが好きなおバカなボクは、人様が買っているのを見るとつられる質なので、素直に手を出す。ときは7月も末のことで当然、生殖巣は膨らんでいる。雄雌混じりを選んで買うが、味的には雌雄に変わりはないと思っている。これが生粋の貝食いである(千葉県)船橋や木更津っこなら違いがわかるのかも知れぬが、こちらは撮影のための雌雄混ざりである。身(足)の方は少し痩せ気味である。この生殖巣の膨らみ具合から考えるとそろそろ産地は禁漁にすべきだろう。
小アジを加えたシイラ
コラム

シイラの西京漬けはブリの西京漬けよりもうまし

2005年頃、切身屋で無駄話をしていたとき、まな板に水洗いしたシイラが乗っていた。みそ漬け用としては大振りの60gの切身にするためである。切身屋は骨のない背の部分だけを正確に60gの切身にしていく。尾に近い部分は、「お得感が出るように切るのがプロなのよ」と言っていた。「昔(バブル期)はブリやサワラに化けていたけどね。今じゃシイラで出ています♪」ちょっとお高い弁当用である。ちなみにこの時すでにチェーン店や町の平凡な弁当総菜の店では国産魚は使っていなかった。高いのもあるし、質にばらつきがあるせいだ。国産魚といえば、養殖のブリは業務用の弁当に使えても天然のブリは使えないし、シイラを使うこと自体が珍しかった。「国民の質が落ちているんだろうね」と言ったのは築地場内の老人である。魚をまるでナショナルブランドのチョコレートのごとく思っているのが、今どきのヒトなのである。花火を見て夏を感じるのに、魚を食べて季節を感じない。さて、バブルの時、よくブリやサワラにに化けたことがあるシイラだけど、切り身屋も築地の老人も「みそ漬けにするとブリ以上の味だし、値段も安いんだから罪はねー」という。ボクなどもそうだと思っているがいかがだろう? 今や料理店でシイラの焼き物が出てくるとうれしくて泣けてくる。夏から冬にかけてのシイラは決しブリやサワラに味で劣るわけがない。さて、7月の末、神奈川県、小田原魚市場、原辰定置のシイラ中型(5㎏)を一本連れ帰ってきた。
コラム

オキヒイラギはやっぱり丸干しに限る

神奈川県小田原市、江の安定置、ワタルさんにオキヒイラギをいただいてきいた。標準和名よりも山口県の「平太郎」、高知県の「にろぎ」の方が有名だと思う。相模湾周辺ではギラとかアブラッコというが、高知や山口ほど人気がなく、東京湾沿岸、相模湾、駿河湾の周辺ではまれに干物などにする程度だ。おいしいのに東海、関東などであまり知名度が上がらないのは、単に呼び名のせいだと思う。ちなみに「にろぎ」は呼び名的には弱いが、かの檀一雄がオシなのである。檀一雄は昭和という時代に唯一、素材にまで言及した小説家で真の食いもん好きだ。そして、「平太郎」は太郞なのである。擬人化もここまで優れているとまるで商品名の戦略会議をしたようではないか。ちなみに鹿児島県、熊本県、福岡県、山口県、岡山県、徳島県、などなど全国各地で買い求めたオキヒイラギで丸干しを作っているが味に遜色はない。同じなのだ。
コラム

丑の日には大穴子蒲焼き丼なのだ!

八王子綜合卸売協同組合、マル幸に宮城県産の大アナゴがあった。触った感じ締まっていないし、料理屋の店主が仕入れているのを見て、釣られ買いした。こんち丑の日とはいかなかったが、少し遅れて長いものを食い暑気払う、のだ。75cm TL・713gなので、兵庫県明石ではデンスケ、広島ではトウヘイと呼ばれるサイズである。このサイズ、すし屋、天ぷら屋が使いにくいので少々安く買えるのもありがたい。その上、安いからと言って味が劣るわけではない。むしろ余計に脂がのっていたり、焼いてふっくら福福するなどいいところだらけである。さて、土用丑の日に鰻を食べる習慣は明らかに江戸時代後期からだと思う。平賀源内とか太田蜀山人だとかの説があるが、時代的に合わない。意外に普通の鰻屋が、何気なく考えたら当たったというあたりが正しそうだ。ちなみに関東のウナギ漁を何カ所かで見ているが、天然ウナギの旬は秋なのである。天然ウナギの旬ではない時季だからこその土用丑の日なのだ。土用丑の日に「うがつくものを食べる」などというが、むしろ「長いものを食べる」という地域の方が多い。だからうどんを食べる地域もあるし、ドジョウを食べる地域もある。長いと言えば穴子(マアナゴ)も同じ、ボクの昔の仕事場近くの鰻屋にも大行列が出来ていたようで、死ぬ思いをして食べたと自慢された、今年の土用丑の日だが、土用丑の日こそ自宅で穴子を食うべしなのだ。
船上締めで鮮度抜群のトビウオ
コラム

立夏前、千葉県鴨川からトビウオが来た

7月31日、八王子綜合卸売協同組合、マル幸の店頭、目線を下げた途端、パーチの下にあるトビウオ科の魚に違和感を感じた。ツクシトビウオかなと思って引っ張り上げたらトビウオであった。立秋前のトビウオは、少し早い気がするが気のせいかな。東京には早春というよりも真冬ともいえそうな2月になると大型のハマトビウオが鹿児島県や四国、東京都島嶼部、静岡県、紀伊半島などからやってくる。春めいてくると相模湾でもハマトビウオが揚がり始める。晩春から初夏にかけてはツクシトビウオ、ホソトビウオがきて、夏真っ盛りになってトビウオがみられる。毎年、多少早い遅いがあるものの、この順番は変わらない。ちなみに数日前、小田原魚市場で見たのはウチダトビウオとツクシトビウオである。相模湾奥の小田原周辺よりも外房の方が暖流の影響が強いためトビウオなど、暖流の申し子は外房の方がとれ始めは早い。千葉県鴨川産で体長27cm・263gが今季初トビウオであった。船上締めしているためか身が硬く締まり鮮度抜群である。
料理法・レシピ

爪の先アオリのアヒージョ

神奈川県小田原市、江の安定置、ワタルさんにアオリイカの極小と小をいただく。「アヒージョにしなよ」とてもアヒージョという言葉が出てくるような人には見えないので、ビックリしたが、実にありがたい。ワタルさん、ありがとう!相模湾のアオリイカは晩春から梅雨時にかけて産卵するのだと思う。7月も中旬になると大人の爪くらい(外套長1cm前後)の大きさが定置網に入る。下旬になると握りの、丸漬けにはならないが、二枚漬けくらいにはなるサイズが混ざる。
コラム

千葉県銚子は江戸にとっては鰯の故郷

八王子綜合卸売協同組合、マル幸に千葉県銚子からマイワシが来ていた。最近、マイワシはどこの産でもいい、といった感がある。全体の鮮度の水準が上がっているのだ。あとは脂ののりだなと思って水氷の中に手を突っ込んで、数尾つかんでは離す。触った個体すべてに張りがあり、脂が感じられる。お隣に別の産地のものがあったが、段違いにいい。江戸時代から昭和の初期にかけて千葉県銚子は江戸時代以来の水路(高速道路)の始点のひとつ。この江戸までの直行便があったために醤油業が栄え、漁業が栄えたのである。ちなみに江戸時代、鰯(マイワシ、カタクチイワシ)が江戸の町の基本食になったのも、この利根川→江戸川→新川→小名木川→日本橋の舟運によるのである。それから昭和をへて平成にかけても、銚子はマイワシの供給地であり続ける。そして一時の不漁期を経て、また銚子の鰯が復活してきている。全国的なマイワシの豊漁期が近づいてきている気もする。
コラム

入手困難ヒラソウダ

神奈川県、小田原魚市場、原辰定置の発泡の前で立ち止まっていたら、次々に同じ目線で立ち止まる人がいる。顔見知りなどボクの方を見て、「だろ?」と言っているかのようだ。ボクが非常に欲しそうな顔をしている魚を、ときにゆずってくれることがあるので、欲しいな、欲しいな、という顔をしてみせる。1980年代にはわんさかわんさかとれて、漁師さんのおかずでしかなかった魚である。昔、小田原の釣り宿で地元の水産業者と名乗る人に、この魚の話をしたら、「丸(マルソウダ)は金になるが平はおかずにしかなんねーだら」と言われたことがある。同船宿の船頭に、この魚を海面近くで釣り上げて喜んでいたら、「手返しが悪い」と怒鳴られたことさえもあった。ボクの視線の先にあったのがその魚、1.5kgのヒラソウダである。遠目で見ていても立ち止まっている人がいる。ボクは食べたいだけだけど、魚屋さんたちは納入先を考えているに違いない。最近、ヒラソウダのおいしさを知る料理人が増えているのだ。結局、このヒラソウダは手に入らなかった。たぶん漁協(小田原)の水揚げで米神岩の沖合いの個体だろう。手に入ったのは、体長33cm・544gであったが、食べたいだけのボクにはこれで十分だ。ヒラソウダの旬は秋が深まる時季から師走、新年にかけてだと思っている。これが鹿児島や大分や四国、紀伊半島、伊豆半島周辺で微妙にずれる。しかもヒラソウダの凄いところは旬ではなく脂がなくても、そこそこうまいことである。
シイラのステーキ
コラム

シイラのステーキで、ご飯おかわり!

神奈川県、小田原魚市場、原辰定置のシイラ中型(5㎏)を一本連れ帰ってきた。当然、朝から晩までシイラ、シイラ、シイラ料理なのだ。ちなみにシイラを手放しにほめたいわけではない。例えばシイラはある程度大きくないとダメだ。小型は干物にしたり、ボクの生まれ故郷、徳島では燻製にしたりしてうまいなー、とは思うけど、鮮魚では今ひとつ工夫しないとうまくない。まあ工夫するのも楽しいけど、大小あれば大ってのがシイラなのである。さて学生時代に雑誌で覚えた料理と、バブルのときに鉄板のあるステーキ店で見た料理法を合体させた料理を作る。ステーキである。ステーキ店ではホタテガイを牛肉と同じような味つけにしていて、食って、感激して、以来の我が家の勝手に真似真似料理である。ちなみに若い頃、深夜ワイワイガヤガヤやっていたときに、ほぼデルモで日常会話は英語という、女子が焼いたステーキの作り方も同じだったのでアメリカンなのかも知れない。
マアジ
コラム

小アジおいし小田原、なーのだ

神奈川県、小田原魚市場、二宮定置に小アジを分けてもらう。手の平に乗せただけで、身に張りがあり、体表の色も違っている。どう考えても、野締めではない。帰宅して測定すると体長12cm・25g前後だった。マアジは20gもあれば立派な刺身が作れる。明らかに「刺身で食べてね」という意味である。大小に関わらずというか、むしろ小さい方がうまいのは、アジ科の魚でマアジくらいだと思う。持ち帰った水産動物は、撮影しなければならぬものは撮影の準備、撮影しないものは水洗いして下ろしておく。ここで体の塩分を洗い流す。この時季の小田原魚市場には箱根颪という名の熱風が吹く。ここに3時間前後立っているだけで、体中に塩味がつき、頭がクラクラしてくる。
エサをくわえたシイラ
コラム

シイラの刺身に旬の始まりをみた

神奈川県、小田原魚市場、原辰定置のシイラ中型(5㎏)を一本連れ帰ってきた。水揚げされたばかりのシイラの美しさは表現しようがない。頭は宇宙怪獣ジャミラのようで、じーと見ていると動き出しそうで恐い。美しいと不気味さが同居している空想世界にいる何か、のようでもある。最近、シイラのことを毒魚とか、まずいとか書いているネット上のサイトをよく見かける。所謂フェイク魚情報という悪質なものである。シイラは島根県などで食中毒が起こったことがある。でも問題なのはシイラ自体ではなく、白身ではなくむしろサバ科の魚のように鮮度保持が難しいことにある。ちなみにシイラの一大産地である島根県でもいろいろ研究が進んでいることも述べておく。島根県、高知県など日本各地で揚がったシイラを心待ちにしている地域がある。岡山県や広島県、長野県の山間部である。岡山県新見市や広島県庄原市で聞くと、多くの人が刺身が好きだという。例えば島根沖、シイラ漬け漁業で揚がったシイラが山間部に送られ、刺身や焼き物になって食卓を飾っていたのだ。庄原市の女性など「サメもうまいけど、マンサク(シイラ)の刺身にはかなわん」とのこと。ちなみにシイラの刺身のうまさは食べ慣れたからうまいのではなく、シイラ自体がうまいのでる。さて、小田原は国内随一、魚の扱いがいいところである。原辰のシイラも見事なものだった。
コラム

オキアジの刺身はやはり五つ星

八王子綜合卸売協同組合、マル幸、クマゴロウが銭州で釣り上げた魚にオキアジがあった。体長41cm・ほぼ2㎏を筆頭に大型ばかりである。オキアジは相模湾でもときどきサビキなどにかかるが、若魚しか釣れたとは聞いていない。これってすごいことかも知れぬ。こんなに大型の個体が5、6尾も釣れ上がること自体めったにないことではないだろうか?ちなみにオキアジはあまり大きな群れを作らず、比較的沖合いの泥場・砂場などで、泥や砂と一緒にエビや軟体類をエサとしているようである。クマゴロウの仕掛けが落ちたところにちょうど、この小さな群れがたまたまいたとしか思えない。さて真ん中のサイズ、体長35cm・1.2kgを連れ帰ってきた。相変わらず魚屋が活け締めにしたものなので鮮度抜群である。三枚に下ろすといちばんいい時季ではないものの、ほどほどに脂がのっており、味見すると豊かなうま味がある。たぶん、オキアジは味で魚のトップランナーの1種である。もちろんサイズはあるがいつ食べても味わい深く、しかも食べた後にも味が殷々を舌に残る。
ヤマトカマスの水揚げ
コラム

神奈川、スーパーヤオマサのかますの酢じめ

現在、小田原で水揚げされている水ガマス(ヤマトカマス)は小振りであるが、これが秋になると徐々に大きく育つ。小さいけれど、フライにすると抜群にうまいし、天ぷらにもいい。開いて干物にしてもいいと思う。ときに愚かな食通とかなんとかが、本ガマス(アカカマス)と比べると水ガマスは劣るとか、まずいとか言うけれど、そんなに簡単に切り捨ててもらっては困る。こんな無知な話を、聞いて、読んで、食べてもいないのに、あれこれやととやかくいうヤカラがいるのも困りものである。実は水ガマスはじっくりしっかり食べて味わえば、非常にうまいのである。小田原魚市場に水揚げしている日渉丸、江の安、ワタルさん曰く、「100g手前くらいになると刺身は最高だよな」は非常に正確な表現であって、水ガマスの刺身は当日限りではあるが、金の草鞋を履いてでも探して食べろ、というくらいにうまいのだ。問題はうま味豊かなのに保ちが悪いことなのだ。だから干物になり、カマスの干物で一升飯なのである。
ミナミアカエソ
料理法・レシピ

ミナミアカエソは唐揚げだな

関西や四国の居酒屋と関東の居酒屋で、料理の価値観・重要度が、今でも大いに違っていると思っている。例えば汁である。関東では料理のひとつではなく、締めの握り飯についてくるだけの付属的なものでしかない。関西で粕汁などは酒の肴のひとつだし、いろいろ工夫がなされている。そして魚の唐揚げである。大阪などで居酒屋ののれんをくぐると必ず、「がしらの唐揚げ」がある。魚の唐揚げは関西では高級だし、ごちそうでもある。ガシラは標準和名のカサゴのことで木津の市場などでこまい(小さい)カサゴがぎょうさん売られているのは唐揚げ用だ。これが東京では片隅に追いやられている感がある。東京などでは油が汚れるといって作らない店まである。大阪のようにごちそうだという概念がないので、高い値段がつけられないこともある。四国生まれなので、関東の居酒屋で粕汁や魚の唐揚げがないのは実に淋しいと思っている。八王子綜合卸売協同組合、マル幸、クマゴロウが銭州で釣り上げた中にミナミアカエソがあった。面白いもので江ノ島や平塚、小田原などに揚がるのはアカエソで銭州や三宅島で揚がるのはミナミアカエソなのだ。現在、銭州、御蔵島のものは15個体検索してすべてミナミアカエソである。
イラの清蒸
料理法・レシピ

面の皮の厚いイラは清蒸だろう

八王子綜合卸売協同組合、マル幸、クマゴロウが銭州で釣り上げたイラはいろいろ料理して、すべて美味であった。ベラ科の魚が今ひとつ人気がないのは漁獲後の扱いの問題であって、魚屋であるクマゴロウなどが締めると俄然上物となる。さて、魚類学者の内田恵太郎は本種はしばしばコブダイと混同されるという。例えば和歌山県などでイラはコブダイのことでもある。またイラをカンダイ(コブダイの地方名)と呼ぶ地域もある。共通点は体高があり、頭の大きいことと頭部の皮がぶよぶよと柔らかく厚みがあることだ。この皮ぶよぶよというと清蒸(蒸し魚)だよな、と思うのはボクだけではないと思う。熱帯域ミクロネシアなどで、大型のハタ類が減少したのは清蒸にしてうまいからだと現地の方から聞いたことがある。危険な密漁までしてとってペイするのは清蒸にしてうますぎるからだ。ところが温帯域ではそれに代わる魚がわんさかいるし、しかもそんなに高くない魚ばかりなのである。本種などその代表格だ。面白いのはマダイなどで作っても平凡だし、スズキやブリで作ってもそんなにうまくない。面の皮が分厚くなくてはだめなのだ。
味わい

アカササノハベラで夏の味

八王子綜合卸売協同組合、マル幸、クマゴロウが銭州で釣り上げた魚でもっとも人気がないのがアカササノハベラだ。銭州ではなくても、相模湾などの釣りでもお馴染みの魚である。銭州の遠征釣りでこんな小物を釣り上げることが出来る、これぞ釣り名人のなせる技でもある。たぶんこの赤い魚を黙って持ち帰ってくるのはボクくらいだと思うので、言うなれば人助けのつもりでもある。防波堤釣り師(波止釣り師)なのでホシササノハベラは嫌いだけど、アカササノハベラはどちらかというと好きだ。当たり前だけど猛烈攻撃を受けた魚は憎い。ホシササノハベラなどクサフグ以上に煩わしい。船釣り師にとってのアカササノハベラも同じだろう。無尽蔵に釣れるホシササノハベラだって、食えばうまいということは忘れてはいけないのだけれど。
千葉県船橋産こはだ
コラム

江戸前船橋のこはだ、でぃ

八王子綜合卸売協同組合、マル幸に江戸前、千葉県船橋産のコハダが来ていた。非常に鮮度がよく、きらきらしている。標準和名のコノシロで、逆出世魚(これはボクの造語です)である。小さいほど高い。初夏の新子、ししてコハダ、少し大きくなってナカズミとなりコノシロとなる。昔、この成長段階での呼び名を定義づけようと思ったことがあるが、やめた。てんでんばらばらだからだ。「それでいいのだ」というすし職人が多いのも事実だ。おしなべて高級すし店のコハダは小さく、町のすし屋(町ずし)のコハダは大きめである。今回の個体はほぼ同サイズで、全長19cmなので高級すし屋は使わないけど、町ずしは好んで使うていのものだ。ちなみに個人的にはこのサイズが大の好物である。この1週間トラブル続きなので、午前2時くらいに目が覚めて、軽く酒をやることが多くなっている。その深夜酒の肴に買い求めてくる。
鳥羽市安楽島産バテイラ
コラム

鳥羽市安楽島のシリタカを食べて考えた

三重県鳥羽市安楽島、出間リカさんに磯ものをいろいろ送って頂く。中にバテイラが入っていた。この磯の巻き貝は味のいいことから国内各地で愛されていて、膨大な量の呼び名が存在している。鳥羽市安楽島ではシリタカ(尻高)だ。巻き貝は真横から見ると基本的に円錐形である。この円錐形をお尻と考えるのは鳥羽市だけではなく、日本各地でも同じだ。四国ではお尻を「つべ」というので、愛媛県ではツベタカだったりする。鳥羽市安楽島産バテイラの特徴は思い切った尻高であることだ。これまで撮影した中でいちばんのっぽかも知れない。さて、バテイラは磯の小型の貝としては珍しく流通の場でも至って普通である。昔は比較的手頃な値段だったが、近年やたらに値を上げている。昔はサザエよりも安いバテイラだったが、現在では真逆であるのは好物なので悲しい。この磯玉とか磯もんとかされる小型の巻き貝が心底好きなので、市場で見つけると、最低限ではあるが買い求めて深夜酒のあてに買っている。長年、産地での味の違いはさほどないと思っていたら違っていたようだ。
コラム

舞鶴産ダルマ大小ありが素晴らしかった

八王子綜合卸売協同組合、マル幸に京都府舞鶴産のダルマ(ケンサキイカの若い個体)がきていた。舞鶴漁港には京都府の丹後半島・若狭湾全域から船で、陸送で魚介類がやってくる。そんなこんなで厳密な産地はわからないが、なんとなく想像してみるのも楽しい。プロにしかわからないことだけど、ダルマ(小型)は産地で重さを量って氷の上に平らに並べた(下氷)だけの荷(発泡の箱)仕立てでやってくる。大きくなるとていねいに並べられてくるが、かなりお高い。比較的貧しいので、ダルマのお買い得感に惹かれてしまう。今回の荷が取り分け魅力的なのは大小ばらつきがあることだ。とても優秀な居酒屋さんなど喜んで自分好みの大きさを拾い、仕入れていく。小さいのを選んでいるときには「煮イカ」、大きいのを選んでいるときには刺身だろうななんて、「いいサイズですね」なんて横から声を掛けると、「今数えてるんでい」と怒鳴られので止めましょう。さてボクは大80gを2はい、小25gを手の平一杯買って来た。
ツムブリの小
コラム

ツムブリ小、意外に美味

八王子綜合卸売協同組合、マル幸、クマゴロウが銭州で釣り上げたスマートな魚をボクにホイっ、とくれた。全長50cm以上あるのに重さは2㎏足らずでほっそりした魚なので落としそうになる。標準和名のツムブリを紡錘魚と書くのは、糸を縒るときの糸巻きの形をしているからだ。英名はレインボーランナーで、虹色に光りながら海を猛スピードで泳ぐ魚という意味。千葉県勝浦沖で一度だけ体側を七色にきらめかせながら海を走り抜けるのを見ているが、釣ったことは、ない。本種は全世界の熱帯域から温帯域を遊泳している。ちなみに昔は、国内でも本種が揚がるのは房総半島くらいまでだった。その黒潮洗う外房でも珍しい魚だったと記憶している。これが今やオホーツク海でも揚がっている。これがいかに未来への大きな不安材料であるか、いかに未来に黒い影を落としているか、ちゃんとわかっていないとダメだ。
コラム

梅雨明け直前、ちゃんと活け締めしたイラは最高!

八王子綜合卸売協同組合、マル幸、クマゴロウが銭州もしくは利島あたりで釣り上げたものだ。1.4kgは本種としては大物である。本種を釣り上げたことがないのでよくわからないけど、平べったい魚なので釣り味もいいのでは。さて、7月中旬の個体は左右が膨らみ加減ではあったが、生殖巣は膨らんでいなかった。ベラ科の産卵期は初夏だと思うので産卵後、エサを荒食いしている時季ではないか? 消化管の中は貝殻などで満杯の状態だった。下ろしてみる。三枚に下ろすと切った側が膨らんでくる。ベラ科の魚の脂がのっているか否かはわかりにくいものの、味見の切身を舌の上で転がすと明らかに脂の存在を感じる。イラは産卵後の回復が早いということなのだろう。魚屋が釣り上げて締めた魚なので、鮮度抜群である。イラは鮮度が悪いと変に水っぽく感じるが、新しいと身が締まっている。
鴨川産ハガツオ
コラム

ほぼ梅雨明けの千葉県鴨川産ハガツオ

八王子綜合卸売センター、福泉に千葉県鴨川から中型のハガツオが来ていた。千葉県鴨川市にある定置網は大きく、黒潮を直接受けるところなので回遊性の魚が多い。見事な同鴨川産ゴマサバと並んで鮮度抜群のハガツオがあったので思わず買ってしまった。ハガツオの旬は秋から晩春(4、5月)くらいまでだと思っている。魚には生殖巣が大きくなると脂が増すものと、脂がなくなるものがある。イサキなどは産卵近くになっても脂があるが、ハガツオは抜けていくのだ。ただし眼の前にあるのは、船上締めをうたっているだけに鮮度もいい。本種など、基本的な魚に関しては春夏秋冬買って食べてみている。そんな季節の中で比較的漁獲量が多い時季の、夏ハガツオというのも「買い」の理由である。
コラム

鳥羽市安楽島のバフンウニうまし

三重県鳥羽市安楽島、出間リカさんに磯ものをいろいろ送って頂く。中にバフンウニが入っていた。鳥羽市では「がぜ」と呼ぶ。日本列島で揚がる食用ウニはバフンウニ、エゾバフンウニ、キタムラサキウニ、アカウニ、ムラサキウニ、シラヒゲウニ、ガンガゼ類などだ。国内流通する国産ウニのほとんどが北海道で揚がるエゾバフンウニとキタムラサキウニで占められており。温かい海域であがるウニ4種である、バフンウニ、ムラサキウニ、アカウニ、シラヒゲウニなどは近年、ローカルな存在になってしまっている。またバフンウニは地域によっては苦味の強い個体があるなど、食べる地域と食べない地域がまちまちなのである。ちなみに大阪の市場では、古くから標準和名のバフンウニがいちばん人気が高かったそうだ。
料理法・レシピ

鰯焼き勝手に名づけて地中海風

八王子綜合協同卸売組合、マル幸にまた八戸産マイワシが来ているな、と思って2本だけ計測用に買う。前回とほぼ同じサイズ、20cm、75g前後だ。2本だけでも買えるところが小さな市場のいいところなのである。たぶんスーパーで買っても4本入り、もしくは3本入りで、2本とか1本では買えないと思う。今どきの市場は親切そのもの。今や貴重な、商店街でもある市場にいらしゃい!マイワシに飽きてきたので、久しぶりに素焼きにする。水洗いをして水分をよくきり、焼くだけなので誰でもできる。八戸産マイワシは脂がのっていたので、表面が揚げたように焼き上がる。
料理法・レシピ

ポワレ・ポワレの日々で今日はメダイ

45年近く前、福生や瑞穂など基地のある地域だけではなく、東京都西部に点々と平屋建てのアメリカンハウス(米軍ハウスというのかも)が散らばっていた。昔、住んでいた地域にも数軒のアメリカンハウスが残っていて、いつの間にかフランス系アメリカ人の家族と仲良くなった。ときどき夕ご飯に招ばれることがあったが、そこにフランス語しかしゃべれない生粋のフランス人バアチャンいて、彼女が作る料理は明らかにフランス家庭料理だった。なかでも定番中の定番料理と言えそうなものがマダラを使った料理だったのだ。それがポワレらしいと気づいたのは数年後のことで、要するにフランス人にとってポワレは、日本人にとっての塩焼きのようなもの、ではないかと考えた。英語、フランス語、日本語がごちゃ混ぜで聞いた話なので、一部想像が入るが、作り方は。料理する日の前日に、冷凍フィレ(アラスカ産のfrozen filletsで300gくらいでとても大きい)なので解凍する。白ワインとかオリーブオイル、乾燥したハーブ類でマリネする。1日程度寝かせて水分をよくきり、塩コショウする。多めのオリーブオイルで、強火でソテーする。皮目をソテーしたら、裏返し、身側をソテーしながらアロゼする。こんがり焼き目がついたら皿に盛る。ソテーしたフライパンにマリネしたときの液体、オリーブオイルを追加してトマトやナス、ポワロネギなどの野菜をソテーして油ごとマダラのソテーの上に乗せる。ポワレにはさまざまなやり方があるが、これこそがフランス一般家庭でのポワレではないかと、勝手に考えている。
コラム

羅臼産ブリの旬は梅雨時から始まる

6月末、北海道羅臼町の定置網に、時鮭(トキシラズ/サケ)が入っているのは当たり前だけど、10㎏以上のブリがそれ以上に入っていたのには驚かされた。2009年の秋口、北海道から「見たことのない魚がとれました」と連絡が来て14年、いつの間にか北海道は、ブリ最大の産地になっている。ただブリがとれる時季が想像以上に早すぎないかと、不安がよぎる羅臼旅からもどって半月。なんとその羅臼産が八王子綜合卸売協同組合に来ていた。8㎏なのでブリとしてはぎりぎりだし、少々痩せているが、マル幸、クマゴロウ曰く100パーセントブリ、しかも上物だという。ちなみに最近の傾向では、8㎏級は関東の市場においては立派なブリである。さて、どんなに上物でも7月のブリは安い。撮影したいのもあり、丸々、1尾買ってきた。不思議なことに痩せているのに体表に脂が感じられるのである。ちなみに7月のブリといてば「がりごり」とか「ごりごり」とか言われる。脂が抜けて身が痩せ、硬くなって非常にまずいのだ。鹿児島県など、初夏にまとまって揚がる地域では、抱卵個体はある程度の値で売れるが産卵したら商品価値はゼロになる。根室海峡で揚がるブリは索餌回遊で、北の海で獲物をむさぼり食っているのだと思う。産卵回遊のブリはなんどか食べたことはあるが、産卵後エサをむさぼるために北上したブリは食べたことがない。
コラム

釣れてうれしい小ゴマサバで祐庵焼き

さて相模湾ではイナダとかイサキ釣りとか、初心者でも楽しめる釣り物が多い時季である。ボクと魚の話などしたこともない、たぶんボクの本業を知らないに違いないという人の息子さんから、初釣果をいただいた。「魚の食べ方を教えて欲しい」って聞かれて、なんだボクの商売を知っていてくれたんだとわかってビックリ。といってもそんなにたくさん釣れたわけでもないようなので、いちばんたくさんクーラーに入っていた、ゴマちゃんを2尾だけもらい、大量に釣れているゴマサバ、イナダ、アジ(マアジ)、小イサキの保存方法とかいろいろアドバイスしてきた。ちなみに釣り初心者は釣れたら釣れたままなので、釣り当日でもゴマサバは生で食べるのは難しい。大名下ろしを教えて、イナダの煮つけ、マアジのなめろう、イサキの刺身を作り、幽庵焼きの仕込みを一緒にやって来た。
ちりめんスパゲッティ
コラム

ちりめん使いつくし作戦、トリはちりめんパスタ

四国徳島県人なので、露地物のすだちが出たら、ちりめんを買いに行こう、となる。都内でいいちりめんとなると豊洲市場に行くしかない。関西、四国で当たり前に手に入るちりめんが関東では手に入れにくい、どころかめったにないのだ。さて、毎日毎日水産生物がやってくる。我が家には保冷剤専用の冷凍庫があるのだけど、あまりにもたくさんくるので、底の底の底の保冷剤まで掘り出しても、くる水産生物に追いつかない。保冷剤は4列並びになっている。その最後の1列の底から見慣れた『日本丸大』の紙袋が出て来たのだ。いつ買ったのか忘れるくらいに昔のものらしく、ビニール二重にくるんでいても、そのまま食べるとひねているのがわかる。思った以上に残っていたので、チャーハンを作って、またチャーハンを作り、最後の一握りでパスタを作る。ちりめんは飯ものに使うに限るのだ。パスタなので誰でも簡単に作れると思う。1.6mm、9分のスパゲッティをまずはやや多めに塩を放り込んだ鍋に、放り込む。フライパンににんにく1かけと鷹の爪を刻んで加え、ちりめんも加えてチリチリ香ばしくソテーする。茹で上がったスパの湯をきらないようにフライパンに投入して火をとめ、八百角(八王子綜合卸売センター)で買ったブッシュバジルを大量に加える。皿に盛り、ちょっとだけ高いオリーブオイルを追いかけして、ブッシュバジルをてんこ盛りにして出来上がり。塩気はちりめんの、とゆで汁の、だけ。ブッシュバジルがやたらに香りよく、しかも菜らしい味がある。このブッシュバジルの香りと青臭味が、ときどきパリパリ、さくさくっとする、ちりめんと、ちりめんから出ただしを吸ったパスタに合う。パスタはちゃんとちゃんと1人前だけど、足りませぬなー。ポテチン。
八戸産マイワシ
コラム

八戸産マイワシ上々

ここ数年、年年歳歳、季節ごとに、月ごとにマイワシの産地が変わる。明らかにマイワシが豊漁期を迎えたのだと思う。考えてみると俳句の季語的な「入梅鰯」などという、もともとからしてわがまま俳諧人の、現実離れした話が当てはまる地域はがんばって探さなくてはならなくなり、不漁期を乗り越えて年間を通して国内のどこかしらでマイワシは旬を迎えるように変わってきた。八王子の市場には青森県八戸産のマイワシが連日やってきている。今のところ並イワシの仕立ての4kg箱(昔は8㎏なんてのもあった)だけど、鮮度は十二分によく、しかも脂がのっている。7月は夜明けどきに起きるとお茶と菓子、仕事に励み空腹をなだめながら市場に行き魚を探す。面白いもので満腹だと魚がおいしそうに思えないのだ。
明石のマアジ
コラム

大アジに明石海峡夏景色を感じる

八王子綜合卸売協同組合、マル幸に兵庫県明石市明石浦漁協から大アジ(マアジ)が来ていた。見事なアジではあるが値段もすごかった。マアジは大きいからうまいとは限らないというか、大きい方が腑抜けアジであったりする。小さい方はドングリ君的な感じ。山猫のボクとしては懐具合もあって大アジには警戒心が沸くのだけど、マル幸のクマゴロウ曰く、「ばっきばき(魚屋はしばしば上物にこのような言語を使う)だかんね」、は百パーセント正しいと思う。ちゃんと財布の中身を考えてあまり大きすぎない、体の後半に厚みのあるのを1尾買う。それでも体長38cm・748gあった。今、明石浦漁協の眼の前の漁場では1㎏上も揚がっているという。本来、淡路島から明石海峡、播磨灘にかけてのマアジはそれほど大きくなかったはず。大アジの産地は和歌山県加太あたりだ。まさかとは思うが温暖化で紀伊水道の大アジが鳴門海峡、もしくは明石海峡を越えて播磨灘に入ったのかも。ちなみに瀬戸内海の食文化は魚に関しての話だけど、ブリの若い個体、ハマチを好んで食べたり、ベラ類を食べたりなど、小魚文化だ。マダイやサワラ、ヒラなど瀬戸内海で産卵する種以外はすべて小型なのである。それなのに明石でブリが揚がり、大アジが揚がっているのは、明らかに播磨灘の海水温が上がっているためで、決して手放しで喜べない。ちなみに明石海峡の周辺は栄養豊富なのだ。小エビ類が多く、イカナゴ、カタクチイワシのシラスがいたり、マダイにしてもスズキにしてもマルアジにしても明石海峡大橋をくぐると脂体質に変身する。だから今回の大アジも触っただけで脂が感じられる。下ろしてみると生殖巣がほとんど見られないのは索餌回遊だからだろう。
エゾイシカゲガイの貝
コラム

夏だ、イシガキガイだ!

岩手県陸前高田、広田湾から今年もイシガキガイ(エゾイシカゲガイ)がやってきていた。八王子でこんなに高いものを持ってこれるのは、八王子綜合卸売協同組合のマル幸しかない。なにしろ今や閖上のアカガイと変わらないというか、以上の値段がつく。本種はもともとは浅場の底曳き網などで混獲されるものでしかなかった。それが細々と入荷していただけだ。これをもちろんプロの間でのことだけど、高級二枚貝として認知されるようになったのは、広田湾で養殖され始めてからだ。ちなみに二枚貝の養殖は比較的栄養分の多い海域に稚貝を保護して育てるだけ。魚の養殖と比べると汚染も膨大な魚粉を消費することもない。毎年、広田湾からの荷を見る度に、夏だな、とマル幸のクマゴロウと話している気がする。今年も入荷の度に刺身用に数個ずつ買う日々が始まったことにもなる。エゾイシカゲガイはトリガイと同じザルガイ科で見た目が似ている。違いは強い放射録と貝殻の厚みである。筋肉はトリガイは黒、エゾイシカゲガイは黄金色だ。
コラム

お呼びでない、ゴマサバでセビチェ

八王子の市場人には釣り師が多い。釣り物で季節が感じられるくらいに多いといってもいいだろう。今、相模湾でもっとも釣り師に嫌われている魚、それはゴマサバである。大きければいいのだけど、体長30cm・500g前後なので釣り味悪し、食ってもまずいし、なんて感じだ。だから大物釣り師たちには大物のエサでしかないし、仕掛けを無駄に消耗させるヤな魚でしかない。ゴマサバは近縁種で一般的にサバとされているマサバと比べると生息域が遙かに広い。太平洋、インド洋の熱帯域ではマルソウダとともに重要な食用魚ともなっている。古くは相模湾以南の太平洋沿岸に多かったが近年北上傾向にあり、漁獲量も増えているようである。
郷土料理

昔はガヤだって大切に食べられていた。三平汁の話

北海道羅臼町、野家のオバアチャンから、ガヤ(エゾメバル)でも三平汁を作っていたという話を聞いた。三平汁は古くは保存食である塩漬けの魚や「すしにしん(ぬか漬けのニシン)」と季節ごとの野菜を組み合わせて作られていたもの。今、これが塩漬けなど保存しておいた魚から鮮魚へ、わざわざ塩味をつけて作る汁となって作り続けられている。北海道の水産物というとサケ類やタラ類、キンキなど主役級がずらりと並び、なかなか脇役にまで話が及ばない。ただし、考えてみると北海道の厳しい開拓の歴史からしても、魚など種を選んでいられない時代が長かったはずなのだ。昔、室蘭で「ウグイだって食べたもんよ」という老人に出会っている。動物性のタンパク質はヒトにはなくてはならぬものだ。ましてや味のいいガヤなど御馳走だったのかも知れない。北海道羅臼町では時間をみつけては釣り糸を垂れた。垂れたというよりも底までなかなか落ちていかなかった。途中で邪魔する悪魔のようなヤツがいたのだ。そのボクの様子を見て地元の人が笑い、遠くに投げろと言われて投げたら、それでも悪魔が釣れたのだ。しかも3本針に3尾とは、いなかるものか? だからガヤは北海道では嫌われているのだ。ボクもそんなガヤ嫌い症候群にかかる。そんな釣果の中から2尾だけ持ち帰ってきた。ガヤの三平汁を作るためだ。
味わい

メダイはわたがいい

東京都八王子市、八王子綜合卸売協同組合、マル幸、クマゴロウが大メダイを新島沖(東京都伊豆諸島)で爆釣してきた。釣り味のいい魚で、ボクも瀬ノ海で一度釣り上げているが、やりとりを終えて手にした大メダイに興奮冷めやらぬといった感じだった。せっかくの機会なので、長々ほったらかして置いたメダイページの大改訂に取り組むことにする。改訂終了はたぶん1ヶ月くらい先になる。それぐらいメダイの要素、話題は多いのである。さて、体長52cm・2.8kgで体高の割りに尾に近い部分が細く、左右も膨らんでいないので旬は先の先である。それでも下ろしてみると脂があった。さすが東京で長年愛されてきた魚だな、と思ったものだ。この大メダイでいろんな料理を作ってみたが、突出しておいしかったのは意外なものだった。兜煮でもなく清蒸でもなく、刺身でもたたきでも、なめろうでもなく、なんとわた煮がすこぶるつきにうまかったのだ。メダイはサルパだのプランクトンなどの甲殻類、イカなど様々なものを食らっている。だからわた(内臓)が複雑で胃袋にも強い歯がある。秋から冬ならいざ知らず、夏はわたの歩留まりが悪い。それでも十二分にわたの味が楽しめた。歯が並んだ食道を切り取り、腸管ともども裂いてていねいに洗う。肝なども同様に。幽門垂の部分も洗い、水分をていねいに切る。
コラム

羅臼、野家の八角干物はウマスギ!

北海道羅臼町、野家のオバアチャンは干物作りの名人である。山陰・東北以北は本来ひもの作りに向いていない。そこで考え出されたのが回転式の干物機である。特に羅臼町は霧の町なので湿度も高そうである。漁家である野家の作業所の一角には、当然の如く回転式の干物機が置かれていた。吉定丸が羅臼沖でとった魚の一部を干物にしている、そんな想像をいだいていたら、案の定、オバアチャンが立て塩に漬けたばかりの魚を干し始めた。産地で回転式干物器が回っているのを見つけると、回っている魚の正体が無性に知りたくなる。この日、干し始めたのはホッケである。ホッケは、鮮魚の入荷は築地以前、明治期・大正期にも来ていたが、関東で干物が平凡な商材になったのは、塩乾などの荷受けで聞いた限りでは1970年代ではないか? という。ちなみにボクが初めてホッケの干物を食べたのは、新宿にあった、『北の家族』というチェーン店でだ。同じクラスの遠軽生まれの秀才が「北海道じゃ普通だけど、お前ら食ったことネーだろ」と言ったのを覚えている。さてトクビレ(雄を八角)を初めて見たのは1980年代の終わり頃、見るためだけに回っていた築地で、初めて魚を買った、魚たちのひとつである。図鑑でしか見ていなかったので興奮した憶えがある。この八角(トクビレ)、野家では昔は廃棄していたようだ。産地で廃棄していたものが、持ち帰って競りにかけたり、食べるようになったのは消費地や食べる地域での食文化の逆輸入した、とでもいえそうだ。
コラム

カラフトマスの素敵な親子丼

今回の北海道羅臼旅では羅臼町の道を、市街地からさらに北に向かう。知床半島の、道路上最北の地が相泊である。霧の中、まだ明け切らない道ではエゾジカやキタキツネとなんども遭遇し、エゾジカの飛び出しに間一髪で事故を回避したり、という道中だった。相泊漁港は定置網が盛んなところらしく、思った以上に大きな港だった。岸壁近くに人が見えた。最初に出合ったのは孤独顔のキタキツネで、誘われるように進むと、眼の大きな漁師さんが立っていた。
コラム

昔はいっぱいいたのにな! バテイラ

八王子綜合卸売協同組合、マル幸に愛媛県産の大シッタカが来ていた。愛媛県で磯物というと愛南あたりではないか。流転にもどろうか、と思っているところなので奇遇、である。殻長55mm・80g前後もある。我がデータベースでは大分県別府市別府駅高架下の魚屋で買ったものに次ぐ大きさである。バテイラ(シッタカ)は別に大きいからといってうまいわけではない。しかも大きい方が高い。大きい方が歩留まり(可食部分が大きい)がよさそうなのでなんとも言えないが、個人的には殻長40mm以下が好きだ。さて、ものすごく昔、千葉県外房、勝浦市川津漁港が鄙びた小さな漁港だったときの話だ。下(さげ)いっぱいの潮で魚のアタリが遠のき、居眠りをしていたら、防波堤の下から、「寝とるくらいだったら、ほれこれでもとりなさい」と声がかかった。磯もん、マツバガイとヨメガサラを取りに来た地元のバアチャン達だった。手網を持って下りていくと、ボクの手網を見て「これとりな」と教わったのが、堤防の切れ目にたくさん並んだシッタカである。独りもんなので10個ほどもとって、海藻についているマツムシやチグサガイ?、タツノオトシゴなどをとって遊んでいたら、帰りしなにシッタカとマツバガイなどをどっさりいただいたものだ。同外房の千田漁港でクボガイとシッタカをまぜこぜにとっていたら、こっち(シッタカ)がうまいと教えてくれた漁師さんもいた。(注/個人的な意見だが採取はいつも最小限にすべきだと考えている)1970年代末から1980年代くらいまで、バテイラはおいしいけど売り物にはならない貝だった。ましてやクボガイなどとっても仕方ない貝、でしかなかったのだ。写真は現在の川津漁港。
コラム

未利用魚にするなコブシカジカ

北太平洋に生息域を持つコブシカジカを含むウラナイカジカ科の魚はすべて未利用魚といってもいいだろう。見た目が悪い上に触ると部よぶよぶよする。コブシカジカ属には本種とヤマトコブシカジカがいる。2種は非常に似ていて、しっかり検索しないと区別がつかない。本種などが柔らかいのはアンコウ類と同様水分が多いせいだ。この外見と触り心地の悪さで捨てられることが多いが、実はくせがなく独特の食感があって非常においしい魚なのだ。サイトでは過去に何度か手に入れているが、非常に画像が古く、ヤマトコブシカジカとの混同して保存するなど公開不能であった。このたびきれいな個体を眼の前で手に入れることができた。
加工品

北海道の蒲鉾には足がない

今回の知床羅臼旅は脳みそが忙しすぎて、大好きなスーパーにもあまり寄れなかった。唯一、立ち寄ったのが『ビックマートみたに』という斜里町の地元系スーパーである。ここが素晴らしいというか大当たりだった。いろんなものを買い込んで送ってもらった。中に網走市にある『大谷蒲鉾店』の練り製品がある。北海道の練り製品、特に蒲鉾の特徴は足(弾力というか嚙むときこきこする感じ)がないということだ。小田原が始めた、「足こそ命」とは真逆である。個人的には足のある小田原型も、ない北海道型もともに好きで、優劣つけがたしといったところである。今どきの薄汚いアルファベット言語は使いたくはないので使わないが、本当は足がない方が自然には優しい。ついでにいうと北海道、特に知床半島というスケトウダラの産地近くに練り製品の企業がある、というのは非常にいいことだ。漁業には製造業というバックヤードが必要不可欠なのだ。時々、地方自治体の水産課や農水省の話で問題だなと思うのは、日本という国は超アホなので超縦割り行政で「水産系の製造業=農水省の管轄」ではないのである。閑話休題。北海道の練り製品のもうひとつの特徴は甘いということだ。これなど一部、九州の練り製品にも通じる。関西系の四国や中国地方が甘さ控えめなのとは違い、どす甘いのである。ちなみに甘いもんが大好きなので、北海道の練り製品はボク好みだ。
郷土料理

北海道羅臼、めんめの湯煮

フレンチではポシェ、ブランシール(霜降りにする)、エチュベ(蒸し煮)と、液体による食材の、火の通し方にははっきりとした区別がある。また同じポシェ、ブランシールでも細々とした指示が加わる。「湯煮」はフレンチではポシェ(液体で火を通す)にあたるのではないか? ポシェの場合、食材を冷たい液体から入れて煮る、温度を高めてから煮るなど素材や料理によって決まり事があるが、火を完全に通す料理法であることには違いはない。通すまでの温度管理で味が変わる。まるで物理の法則のように素材ごとにやり方、温度管理が異なる。その点、日本料理にははっきりした温度管理の決まりはないと思っている。その微妙な違いは、いわゆる職人技とか、秘伝などというもので語られてしまっている。これがフレンチと和の大きな違いだろう。「湯煮」は明らかにポシェなのに、過去に料理店で食べたものの、どことなく生な火の通し方に違和感を覚えたものだ。今回、野家で食べた湯煮は「めんめ(キチジ)」に完全に火が通っているものの、ふんわりとまるでババロアのような舌触りで、しかも「めんめ」自体のエキス(うま味と脂)が満ちている。余談になるが、「湯煮」と同じ調理法の郷土料理は日本各地にあるはずである。三陸の「湯だき」、山形県庄内の「湯あげ」などだ。面白いことに、湯煮とは逆の考え方に北陸・越前の「塩いり」、「浜いり」、沖縄の「まーす煮」がある作り方は羅臼町特産の羅臼昆布と塩だけだろう。酒の気配はないようである。ある程度温めた湯の中に頭部を除いた丸々1尾を入れて煮立たせないように時間をかけて火を通す。食材は、例えば豚骨スープ鶏の水炊きのように高温で煮ると、素材からうま味成分も脂も液体に出尽くしてしまう。極力煮立たせないで火を通すと魚のうま味は身自体に閉じ込められて、しかも熱で筋肉がほどよく膨らむのである。野家のものは脂の豊かなキチジの脂も、そのうま味も、すべて閉じ込めたものだ。生醤油やポン酢で食べるものだけど、意外に調味料なしがいちばんボク好みだった。今回は天然の羅臼昆布を持ち帰ってきているので、我が家でも、と思っているが、同じレベルを作るといくらかかるものやら。野圭太さんおよびご家族の方たちに大大感謝!
コラム

北海道羅臼でドスイカに目覚める

関東など消費地に暮らしていと手に入れにくい魚はいっぱいある。産地周辺だけで流通し、なかなか都会までやって来ない水産物たちである。その最たるものがドスイカである。テカギイカ科唯一の食用イカで北の海に多い。これが消費地では売れない水産物の代表格でもあるのだ。何しろ胴回りなど手で裂けるほどに柔らかい。水分が多いという以前に皮まで剥けやすいので見た目がむごたらしいのである。めったに関東には来ないために、料理の多様性が見いだせないでいた。それが北海道目梨郡羅臼町で解消した。眼の前の壁が取れたといった感じだ。要するに自由自在にやればいいのだ。
コラム

北海道産マイワシはいつも上物

消費地である東京の魚屋には日本各地から様々な状態のイワシ(マイワシ)が季節季節に届く。年間を通して入荷は絶えることがない。北海道産マイワシは古くから関東に入荷をみていたが、ここ4、5年、明らかに増えている。これが大阪湾産に負けず劣らずの上物なのだ。なぜ北海道産がここまでの質をたもって関東まで来ているのは、明らかにサンマでの鮮度保持の技術が生かされているためだ。それ故に、近年北海道産マイワシは並ではなく常に上イワシである。八王子総合卸売協同組合、マル幸に来ていたのは根室産だ。釧路産とともに北海道産イワシの主流である。最初の荷は散々選られた後だったので、新箱を開けてもらって、味見に2尾持ち帰る。体長20cm・105g前後で生殖巣は小さい。尾に近い部分まで張りを感じる太り気味の個体だ。
ゴマサバ・ヒメジ・ムツ・カイワリ・キシエビ・ネンブツダイ・マアジ
コラム

ダンベ救出大作戦 いろいろ煮干し

いつも小田原から帰ってくると、魚市場で拾った魚、いただいた魚を撮影したり、撮影準備したりと火事場にいるような状況になる。特にミニな魚が大変なのである。バットの中から撮影しなければならないものを選び出しバットに並べ、撮影無用をボウルに放り込む。今回は撮影個体が多くて、ボウルに入れたのは小型のゴマサバ・ヒメジ・ムツ・カイワリ・キシエビ?・ネンブツダイ・マアジだけだった。これを捨てないで煮干しを作る。鍋に湯をわかし、塩を入れる。ちょっと塩辛いなと感じるくらいがいい。約3分くらいゆでる。ゆで加減を見ながらなので正確な時間はわからない。これをザルに上げて冷蔵庫で2日間かけて干す。もちろん寒い時季なら外で干してもいい。干し上がったらザルから剥がし、そのまま乾燥剤を入れて冷蔵保存する。ちなみに煮干しはだれが作ってもうまい。コツはやや塩辛い湯でゆでること。ゆで上がりの状況は、この塩気のきいたゆで干しを食べてみるといい。必ず完全に火を通さないときれいに干し上がらない。
コラム

カマスの塩焼き、カマス飯

同級生に「デブは死ななきゃなおらない」と言われたので自戒を込めて、ご飯もののコラム名にする。さて、アカカマスは一般的食用魚で日本列島に住む人ならば、ましてや未来を考えているならば、知らなきゃー恥である。恥だと思えるほど普通の魚だが、旬を調べるために定期的に食べると、だんだん旬がわからなくなってきた。産卵後に漁獲量も減るし、当たり前だけど入荷量も減る。でも秋も深まってくるといいものが目白押しになり、しかも日本海と太平洋側で産卵期にずれがあるようなのだ。さて、八王子綜合卸売協同組合、マル幸にあったアカカマスは昨日まではうんと高かったけど、今日は少しくらい安く買えるかもと算段した。長崎県佐世保産で体長32cm・301gと大きく、触ると脂ののりもヨシという個体だった。ちなみに魚は鮮度が命、なんてことをいう人がいるが、そんなこたーない。鮮度が命の魚もあるし、鮮度が命の料理法もあるけれど、鮮度はほどほどでいいときもある。自分の作りたい料理に合わせて、買うべきであって、それほど単純ではない。しかも売れ残ったものを買うことは、魚屋にとっても決して嫌なことではない。魚は売れ残ったらただ、だからだ。しかも自然にも優しい。
ナベコワシのぶつ切り
コラム

近所のスーパーで買ったカジカで煮つけ

魚料理や、魚介類自体に精通して、家庭に多様な魚介類料理を取り込みたいなら、できるだけ難易度の低いところから始めよ。手間は省け、がんばるな、というところから進むべきだ。当然、いい包丁など買わなくてもいいし、当然、当然、魚が下ろせなくてもいい。平凡がいちばん。やたらに難しいことを言う人間、通ぶる人間は無視すべし。できるだけ近所の魚屋さんやスーパーを活用すべし。日常的に魚介類料理を作って初めて、必要なら最低限の道具を揃えればいい。以上があくまでも一般人の立場から魚を調べているボクの主張である。それにしても都内のスーパーは最近がんばっていると思う。スーパーに行くと必ず魚介類を売る場所を見るが、昨日など北海道産のカジカが売られていた。都内でカジカはもっとも売りにくい魚のひとつなのだ。このスーパーの頑張りを活用するのも一般人の勤めかも知れぬ。カジカというと淡水にいる標準和名のカジカ(ウツセミカジカなどを含む)を思い浮かべる人が多いと思うが、カジカの多くは海にいる。食用として流通しているものの、ほぼ総てが海のカジカである。明治期の魚類学以前の石川千代松などはやはり淡水魚から研究し、標準和名(図鑑などに載っている名)を決めるときも淡水魚の方が早かったようだ。東京都で江戸時代に生まれたために、北海道からの魚介類が本格的にやってくる時代以前の人で、たぶんカジカといえば淡水魚のカジカの方に馴染みがあった。だから漁獲量が圧倒的に多く、食用魚として重要な海のカジカの呼び名を、その多様性に踏み込むことなく、単に「うみかじか」として採取している。この海のカジカで東京都内に流通しているのはニジカジカ、トゲカジカ(ナベコワシ)、ツマグロカジカ、ギスカジカの4種だ。北海道ではここにオクカジカ、オニカジカ、シモフリカジカ、ヨコスジカジカなどが加わるが、少ない。この海のカジカたちの未利用魚としての度合いは意外に高く、深刻でもあると思っているが、話題に上らないのはなぜだろう。
ガスグリルにヒレダカエビス
料理法・レシピ

難敵カイエビスを丸焼きにする

鹿児島県鹿児島市、恵水産から送って頂いたカイエビスはまさに珍魚である。エビスダイは今や北海道にもいるが、本種は本州では希にしか揚がらない。鹿児島でヨロイダイと呼ばれるのはエビスダイと区別しないで競りにかけられているからだ。エビスダイよりもひとまわり小さいものの、単体で見ると違いがわからないと思う。大小来たので、小(体長17cm・207g)をいちばん簡単な方法で食べる。エビスダイの仲間の特徴は、ラメを思わせる鱗をまとっていることである。水洗いするとき鱗の硬さたるや宝石のごとくで非常に硬く鱗引きで引くに引けず、引けたと思ったらやたらに飛び散る。大きめサイズならなんとか許せるが、小さいにも関わらず鱗の硬さは変わらないのだからやっかい極まりない。こんなときはマツカサウオ方式で焼き上げる。マツカサウオは上位でエビスダイの仲間と同族、同じように非常に硬い鱗を持つ。このような魚は何もしないに限るのである。
コラム

ダンベ救出大作戦 小イサキでなます

神奈川県小田原市、二宮定置のダンベからいろんな魚を救出してくる、というと聞こえはいいが、要するに分けてもらってきているのだ。今回は小イサキが主体だったが中に体長16cm前後の食べ頃サイズが混ざっていて、これで「なます」を作った。別名「酢洗い」ともいう。膾は、鱠とも書くが、これは中国語(かなり古い漢字だが、実際的にはたぶん明の時代の)を当てたのだと思う。国内では古代より「なます」というものが食べられていて、最近では「生酢(なます)」と書く場合もある。この場合は生魚に酢を使った料理という意味だ。国内の料理が本格的に文字になったのは室町時代で、とくに茶会記としてだ。赤貝、鮒、鱸、鯛(マダイ)などが「刺身」で出てくる。当時の「刺身」が「なます」と同義語なのは、「刺身」は完全なる生ではなく塩をして酢に軽く漬けて提供したためだ。後に茶懐石は定型的になり、向付(折敷のいちばん遠いところに置かれる小鉢)ともイコールになる。ちなみに東京のすし屋でも昔は生の状態で漬けることはなく、酢をくぐらせてから漬けるのが当たり前だった。この塩をして締めて、酢をくぐらせる、もしくは少し酢に漬ける、というのが室町時代よりの「なます」そのものだと考えている。この「なます」、「酢洗い」をいろんな魚で試している。
コラム

バラムツは食っちゃいかんのか?

この魚を食うたびに、本マグロの大トロだって2切れ食えば十二分だし、この魚の刺身を2切れ食うとやはり十二分だし、食っちゃいかんとか、要するに食べすぎてはいけない程度のものを食っちゃいかんとか、売り買いしちゃーいかんとかいうヤツ、どうかしてるんじゃないかと思う。沖縄の競り場で酒の肴に大量に食べて、2日間にわたって大人のおむつをしていたというオッサンに会っているが、10切れくらいまでは毎日食べてもなんともないというし。ボクだって今回、頭部から尾に近い部分まで4日間にわたって12g3切れずつ食べても気分爽快だった。ちなみに2切れ(24g)くらいがボクにはちょうどいいが、人体実験のつもりで3切れ、36gずつ食べてみた。この程度だと脂が口の中で溶解するときの甘さがあってとてもおいしい。確かにうまいので、食いすぎる気持ちもわからぬではないが、ボクの年齢では食いすぎる前に味がわからなくなる。若いときには12gを7切れくらい食べていたが、うんざりはしなかったし、体に変化がなかった。大きい方が脂が多いので重さでは計れないが、安全基準など作り、流通させてはいかがだろう。禁酒法時代じゃないが、禁止すると余計に食べたい人が出てくると思う。食に関しても科学的ではなければ危険度が増すばかり。厚生労働省はサリドマイドなど大問題はほったらかしておいて、知らんぷり。あまり問題がないことには条例的なものでもてあそぶ。行政として大丈夫?
長崎県産マイワシ
コラム

長崎県産マイワシでコートレット

八王子市総合卸売協同組合、マル幸水産のマイワシの荷(箱)は必ず、詳細に見る。マイワシは市場にはなくてはならないもの。豊漁となり久しいのでほぼ毎日、マイワシの荷を見ている。どこからやって来てもおかしくはないが、長崎県の文字を見てちょっとビックリした。しかも箱が少し大きめに見える。最近、どんどん小さくなる傾向の荷(箱)にしては大きすぎるのだ(箱は小さいほど鮮度が高い。魚同士がぶつかり合わないからだと思う)。ひょっとしたら4キロ板ではないか? 店が慌ただしいので聞けなかったが、触ってみると、並の鮮度でしかない。もしも長崎県産が年間を通してくるなら、荷の変化を調べることは重要だろう。マイワシが豊漁の時はほぼ日本全国から入荷をみていたと、築地で教わったことがある。いよいよイワシ豊漁も間違いのないレベルなのかも知れない。とすると荷の大きさも大(並)と小(上)と区別してくる可能性がある。マイワシの九州での漁が本格化したら、安くてうまいのが市場に溢れそうである。さて、生殖巣は膨らんでいない。脂ののりもほどほど、体長20cm・重さ100g前後だ。長崎というと漁法がわからない。例えばマアジをとる巻き網に入ったとか、中層を曳くパッチ網に入ったのだろうか? いずれにしろ関東まで来るということは、産地周辺で消費できないくらいとれていることになる。
郷土料理

ときどき外れもあるがイボダイの外れは外れにあらず

魚を買って、期待していた味ではない、ということがボクには少なからずある。知り合いの魚屋に面と向かって「(魚選びが)雑だな」と言われたことがあるので、問題は総てボクにある。今回はかなり真剣に選び、期待が大きかったこともあって、ダメージも大きかった。おいしくない、わけではないが平凡な味だったのだ。特に落ち込んだのは徳島県人がやたらに好きな、イボダイでのつまずきだったためだ。失敗の原因はもっとちゃんと指の感触を確かめなかったところにある。さて、刺身で食べて、味は及第点だったが、期待の割りに、といったものだったので、夏らしい焼き物にする。水洗い、卵巣の大きさから、産卵はまだ先であると確認する。
郷土料理

ホシザメの湯引きは毎日でも食べたい

神奈川県小田原市、江の安、ワタルさんにホシザメをいただく。なんと活魚である。むんむんするような、蒸し暑い朝だったので、ホシザメといえば、というあの料理を思い浮かべて、うほほと笑い、お礼もそこそこにとっとと帰ってきた。ホシザメと言えば、西日本で作られる料理の「湯引き」である。「湯がき」ともいうし、「湯ざらし」などともいう。酢みそで食べるというのも同じである。主に小型の軟骨魚類であるサメやエイが使われている。初めて食べたのは長崎県だったが、サメの種類は不明だった。次いで広島県でホシザメを仕入れている人に会い、「湯引き」の作り方を教わった。サカタザメでもいいというところから、要するに沿岸域のサメのようなもの、ならなんでもよかったのだ。ホシザメで作る、湯引きがいちばんうまいという。確かに同属で瓜二つのシロザメで作るものよりも味がある。でもごくわずかな差でしかない。むしろサカタザメの方がホシザメよりもうまいと思ったこともあるが、こちらもごくごくわずかな差でしかない。山口県ではニュージーランド産のギンザメで作ったものを買い求めていることから、くせのない魚ならなんでもいいのかも知れない。
ツクシトビウオ
コラム

ツクシトビウオは夏の魚

我がサイト最大の目的は自然保護であり、自然保護のためには季節季節に食べる水産物を替えて、食を未来に繋げていく必要があると考えている。国内海域の海の中は春夏秋冬がはっきりしていたが、じょじょに季節が失われつつある。それでも季節を感じていたいと切に思っている。そんな中にあって、比較的昔ながらの回遊をみせているのがトビウオ類である。早春にハマトビウオが、春の終わりにツクシトビウオが、少しだけ遅れてホソトビウオがやってくる。そして立秋を過ぎて到来するのがトビウオ(標準和名の)だ。トビウオ類は同定が難しいので季節感が感じられる人はまずいない。たぶんトビウオさんたちは、ちゃんと見て欲しいな、と思っているはずではあるが。今、市場には毎日のようにツクシトビウオがやってきている。今回のものは、八王子綜合卸売センター、福泉を通り過ぎようとして、そのコバルトブルーに惹かれて荷を見たら千葉県鴨川産だった。すべてていねいに活け締めされている。鮮度のいいトビウオ類は非常に美しい。
サワガニのパック
コラム

今季、サワガニの初食いは梅雨半ば

サワガニは春になると入荷し始めるもので、毎年春になると初物を買っては食べていた。今年は慌ただしくて、これが梅雨時にずれ込んでしまった。料理法はいたって簡単。ボウルなどに入れて水を少し入れて表面の汚れを落とす。水分をよくきって、素揚げにするだけだ。料理中、よく逃げ出すので要注意!さて、徳島県美馬郡貞光町(現つるぎ町字町)の商店街に生まれて最初に見たカニは、生まれた家と隣の家の間の小さな排水路にいた、イデンコガニ(サワガニ)だ。それほど身近な存在で川に行っても山に行っても、我が家にいても出合える、気にも留めない生き物だった。イデンコガニの「いで」は「小さな水路」のことで、「んこ」は特別小さなという意味、そんな場所にいるカニということだ。「いで」ということばは香川県でも使われている。四国は平安時代の言葉がよく残っているとされるので、非常に古い言葉かも知れない。蛇足だが、ボクの故郷では大きな用水路には「お」をつけて「おいで」といったが、徳島県西部だけの言語かも。ちなみに蟹という言語を動物学的な言語と思っている人がいるが、大間違いだ。タラバガニは蟹(カニ)じゃないなんて聞くと無知さらしおって、なんて思う。蟹という言語の歴史は古代にまでさかのぼる。言語の生まれるところは、主に都周辺で、古代の都は奈良県、京都府(現京都市の中心地)とすると淡水性の蟹に対しての呼び名となる。当然、もっとも身近にいる淡水性の蟹といえばサワガニである。
捨てられる可能性すらある魚たち
コラム

ダンベ救出大作戦 小アジの唐揚げ

梅雨の晴れ間で早朝なのに蒸し暑くなりそうな予感がする。ダンベから顔を上げて、一夜城の方向を見ると真上のやけに青青しい空の下、重たそうな雲が山波にのっかっていた。久しぶりにあさる、神奈川県小田原市小田原魚市場、二宮定置のダンベの中身はお馴染みさんばかりだったが、大豆大のキタマクラやハシキンメの稚魚などなどが混ざり、相変わらず面白かった。たくさんの生き物を土産にして、小田原を後にする。道すがら、久しぶりにコンビニでクラシックじゃなくて黒い丸に☆のビールを買った。普段は偽ビールなので晴れがましい気分になる。最近、偽ビールと本ビールの違いがわかるようになってきたけど、本ビールと本ビールの違いはいまだによくわからない。二宮定置のダンベ(大型容器)から拾える生き物は多種多様で、同定に苦しむ個体も少なくない。今回は魚類がほとんどだったので、難易度はとても低かった。ちなみにこのダンベの中身、種はバラバラだけどうまい魚ばかりなのである。それだけに人の口に直接入ることなく、飼料などになってしまうのがもったいなくて仕方がない。
小イサキはゴッソリ
郷土料理

三重県尾鷲のたたきでイサキにほれなおす

神奈川県小田原市、二宮定置で出荷できない小イサキを、もちろんことわって、ダンベ(大型容器)から拾い上げる。尾鷲風の「たたき」を作るためだ。「たたき」というと土佐風のあぶって切りつけるものが有名だが、実は小魚などを細かくたたき切って生で食べるから、「たたき」とされるものの方が全国的には一般的である。この「たたき」→「カツオ」→「土佐風」という言語の不用意な使い方は絶対にやってはいけない。また本来の形の「たたき」を単に「たたき」と呼んでいた地域に、マスコミ登場回数の多い、「なめろう」ががん細胞のように浸潤してきている。ついでにいうと「たたき」以外にも呼び名がありそうなので要注意である。繰り返すが、やたら郷土料理の一地方の名前を連呼するのはオロカモノのやることだ。ちなみにこの「たたき」の元の言語は「たたきなます」であるようだ。これは地域地域で比較的新しく生まれた言語ではなく、非常に古い、例えば日本料理の誕生した室町時代に生まれたものだと考えている。この言語が文化の中心地である畿内から全国に広がったのだ。さて、「たたき」にはいろんな魚が使われるが、もっとも頻度の高いのがマアジ、次いでイサキだろう。両方とも「たたき」にして非常にうまいとは思うが、どちらかというとボクはマアジ派である。これに対して三重県尾鷲市の魚の大人、岩田さんはイサキ派なのだ。しかも最初に教わった尾鷲の「たたき」よりも、もっとワイルドな造りであるようだ。
コラム

内緒だけど、夏のホウライヒメジの刺身は非常にうまし

八王子綜合卸売協同組合、マル幸、クマゴロウが銭州で釣り上げた魚の中に混ざっていたもので、銭州や利島沖などの釣りの名脇役といったところだろう。ホウライヒメジのヒメジ科の魚の特徴は体長に比べて口が大きいことだ。だからシマアジ狙いの大きい針にもすぐに食いついて、その上、口周りが硬いので外れることがない。銭州ではオジサンともども常連さんといったものだろう。この大型のヒメジはほぼボクのためだけに持ち帰ってくれる、そんな魚だが、最近、欲しい人が急増中である。だから「うまい」とは書きたくないが、書かないと嘘になる。ここ数年、神奈川県小田原市、小田原魚市場の個体も素晴らしい味だったが、銭州ものも負けてはいない。
水で戻したイロロ
コラム

鳥羽市安楽島出間リカさんのイワキはおいしい

三重県鳥羽市安楽島、出間リカさんに干したイワキ(イロロ)を送って頂く。イロロは本州以南の潮間帯に普通に見られるもので、群生することから目につきやすい。同定が困難な海藻のなかでは覚えやすいもののひとつである。採取がたやすく、たくさん生育している海藻なので、昔は全国的に食用となっていたはずだと考えている。ただ今現在、食用としているのが確認できているのは、今回の三重県鳥羽市、高知県宿毛市、愛媛県南部一帯、大分県国東の4カ所にすぎない。慶応生まれの海藻学者、岡村金太郎の時代には地方名も多く残り、普通に食用にしていたのかもしれない。特に三重県での食文化は早急に調べて保存する必要がある。食はできる限り多様でなければいけないと思っているので、海藻の食文化の衰退は非常に危険であることも言っておきたい。
料理法・レシピ

イロロの戻し方

早春に磯で採取して干して売られるのが基本である。生のまま干すものと、ゆでてから干したものがある。いずれも、工程は同じ。1時間程度水につける。塩を加えない水でゆでる。冷水に落として粗熱をとる。
イシガキダイの若い個体
コラム

梅雨が来てイシガキダイの塩締め

八王子綜合卸売協同組合、マル幸、クマゴロウが銭州で釣り上げたイシガキダイがあまりにもきれいなので持ち帰ってきた。体長29cm・1㎏弱の若い個体だ。イシダイ科は季節変化がわかりにくいので、定期的に下ろして、食べている。そのためでもある。ちなみに我がサイト最大のテーマは季節だ。もちろん生活をしていく上で干ものや冷凍ものは欠かせないが、季節の感じられないものはつまらない。「イシガキダイに外れなし」、なのではないかと考えている。大小に関わらず、季節に関わらず味がいい。ただ脂ののり具合には季節変化がある。イシダイは春から梅雨時くらいまでは脂のピークだし、たくさん揚がる時でもある。イシガキダイは晩夏から暮れにかけてピークを迎える。
シジミの炒め煮
コラム

臺灣風シジミ炒め煮

バブル期は食の面でも忙しかった。ただの夕食なのにすしに和洋中華などなど都内各所をめぐっていた。取り分け回数が多かったのかインド料理と当時急激に増え始めていた韓国料理、台湾料理であった。台湾料理といえば、渋谷は少々遠かったのに『麗鄕』好きがいたために月に何度も行ったものである。最初に4、5品というときには必ずお願いしていたものに「シジミの炒め煮(不正確かも)」がある。味を覚えて自宅で再現していた。和の食材を使って近づけていたのだが、台湾旅行でバイ(タイワンバイ)やヘナタリなどいくつかの貝料理を食べて、調理法は至って単純なのだと気がついた。要するに渋谷『麗鄕』風から台湾高雄風に変化させたことになるが、いずれにしろボク流の料理でしかない。先日、八王子綜合卸売協同組合、マル幸でやたらに魚を買った。いつも必ず軟体類(貝やイカ、タコなど)を1つプラスするのだが、今回は島根県産ヤマトシジミにする。頭に浮かんでいたのはこの「シジミ炒め煮」と我が家の冷蔵庫の『珠江橋牌』の「草菰老抽」というあやしい醤油である。2年ほど前、新大久保の中華食材の店で比較的基本的な香辛料などを買い出しに行った。醤油は「老抽王」という比較的無個性なものを常備しているので買い。なにを思ったものか、いつもは決して手を出さないヘンテコリン系醤油を1本混ぜてしまったのだ。以後、ずーっと冷蔵庫に眠っていたのを1週間ほど前に発掘した、それが「草菰老抽」だ。帰宅後、薄い塩水を作り、24時間泥抜きをする。これを小分けにしてすぐ使わない分を冷凍保存する。さて、臺灣(台湾)の小型の貝の、基本的な料理は炒め煮だと思う。非常に単純で、まずはしょうがとにんにく、八角を油で炒めて貝を投入、紹興酒と台湾の醤油(要するに甘い醤油)で味つけするだけだ。今回も同じ料理法で、醤油は控えめに加えてみた。甘めが好きなら砂糖を加えてもいい。ちなみに「草菰老抽」はマッシュルームの風味がついているが、どう考えても普通の「老抽王」の方が使いやすい。前回、カミナリイカのげそとセロリを炒める際に使って、なんとか塩分濃度やマシュルームの香り具合がわかってきた。このマッシュルームの風味も決して嫌なものではないと気づいたのもある。さて鍋に油、にんにく、しょうがを入れて火をつける。香りが立ってきたら泥抜きしたヤマトシジミ、次ぎに紹興酒を投入する。全体に油がまわったら醤油を加えて、貝が開いたら出来上がりだ。炒め煮の煮汁は台湾で買って来た地元の醤油や李錦記のものよりも、濃厚で、確実にマシュルームの香りのする不思議な味になった。このマシュルームのエキスが混ざり込んだ甘辛い液体をまとったヤマトシジミの軟体が結構いける。島根県産ヤマトシジミが小振りで、少々食らうのが面倒だが、そのちまちま感も悪くない。クラシックという名の本物ビールでちまちましている内に逢魔が時は過ぎていく。ちなみに炒め煮で出た汁で食べるご飯は最高! なので捨てないこと。いつもクラシックでスタンダードなボクだけど、たまには遊びも必要かも。
コラム

近所の鮹さんにいただいた魚、利島沖クサヤモロの酢洗い

近所に住む鮹さん(岩崎薫さん)が相模湾利島沖の魚をいろいろ持って来てくれた。利島沖には非常に多彩な魚がいて、中にはやたらに値の張る魚もたくさんいるのだが、だいたいそれこそがターゲットである。ちなみに蛸さんの超大型クーラーには、今ではマダイ以上に人気が高いアオダイが背を見せていたことだけは言っておかなくてはならぬ。けどその隣の隣に浮かんでいたクサヤモロを分けていただく。さて伊豆七島は相模湾の南にあり、北から大島、利島、新島、神津島、三宅島、御蔵島、八丈島と並んでいる。中でも山口百恵が住んでいた伊豆大島が有名だが、利島はいちばん小さな島で最近人気の釣り場だ。クサヤモロはこの伊豆諸島海域を代表する魚で、名物「くさや」の代表的な原料である。クサヤモロは5月初旬に天才釣り師、クマゴロウが銭州で釣ったものを分けてもらっている。下ろしてもいないのに、表面に脂が浮き出ており、火をつけたら燃えそうな個体でびっくりしたものである。あれから1月経っている。残念なことに銭州の脂ののりからすると、平凡としかいいようがなかった。同じくらいの真子を抱いていたのにこの違いはなんだろう? 単なる固体差かも知れない。面白いもので小田原などでマアジの水揚げを見ていると非常に固体差を感じるのだ。同じように島根県浜田市の脂質を計って出荷する「どんちっちあじ」でも同様である。この固体差(個体群かも)はアジ科の特徴なのかも知れない。
コラム

鰯の蒲焼きは風なのか

NHK『今日の料理』はたぶん4、5歳くらいから見ている。家の事情で自宅にいなければいけなかったのもあり、大人に始まりの時間を教わってまで見ていた。小学生から中学生のときは『暮らしの手帖』を自宅で、ときに親戚の家にまで出掛けて読んでいた。ボクは幼時から料理番組と料理がのっている雑誌にキの字だったのである。学生時代に江戸川区小岩の魚屋で下ろして売っていたマイワシを買い、初めて作った魚料理のひとつが「鰯の蒲焼き風」だ。山間部育ちなので、あまり魚を食べないまま上京してきて、なんとか好きになりたいと思い始めていたときだ。作り方は『暮らしの手帖』にあったものをそのまま作った記憶がある。『暮らしの手帖』は田舎の家から持って上京した本のひとつである。今や普通の家庭料理である、「鰯の蒲焼き風」の歴史は非常に古く、半世紀以上前にだれかが考えたものということになる。梅雨入りとともに鳥取県境港産の通常仕立てのマイワシが来ていて、少しずつ買っては計測するとともにいろんな料理を作っている。たまには目先を変えてと思って作ったのが、この懐かしい「鰯の蒲焼き風」である。余談だが、同じ料理を豊島区駒込の商店街では「いわしの蒲焼き」として売られていた。ウナギの蒲焼きのように焼くのではなく、フライパンでソテーするからつけられていた「風」などは今や不要で、「鰯の蒲焼き」でいいのかも知れない。
コラム

近所の鮹さんが利島沖で釣った魚、まずはアカササノハベラ

近所に住む鮹さん(岩崎薫さん)が伊豆諸島利島沖で釣り上げた魚をいろいろ持って来てくれた。利島沖の魚は多彩でやたらに値の張る魚もたくさんいて、だいたいそれこそがターゲットである。そんな本命には目もくれず、気になる魚ばっかりいただいた。選んだ魚を見て、蛸さんの目が泳いでいたように見えたが、気のせいだろう。さて、我がテーマというか追い求めているものは自然であり、季節感である。だから季節感のない養殖ものなどは基本的に扱わない。できるだけ、キ・セ・ツを強烈に感じさせてくれる魚が好きなのだ。本命である旬真っ盛りの大きなアオダイの真横に浮かんでいたのが、アカササノハベラである。20世紀末、1997年までササノハベラの仲間はササノハベラだけだった。これがホシササノハベラとアカササノハベラに分かれたときは、かなり大きな衝撃を受けた。『日本産魚類検索 全種の同定 第二版』が全2巻になったのもビックリだったが、1種類だと思われていた魚が実は2種類なんてことがあり得ること自体が理解できなかったのだ。比較的種を分けない主義だった田中茂穂なんて、生きていたらどう思っただろう。どっかの哲学者が物質は名前がつくまで存在しない、なんてことを言っていたはずだが、ちゃんと2種類だと思って見ると、間違いなく2種類なのだから不思議だ。2種はともに晩春から脂がのりはじめ、秋口くらいまで味がいい。ただ少なからぬズレを感じるのだ。だから旬日(10日間)ごとの1尾はアオダイ以上にうれしい。
コラム

初夏の宵、子ケンサキの塩ゆで

八王子綜合卸売協同組合、マル幸水産に長崎県佐世保から子ケンサキがきていた。子ヤリはしばしば入荷をみるが、子ケンサキは珍しい。ケンサキイカは国内でも比較的暖かい海域に生息している。ほんの20世紀の終わり頃まで、関東での高級ツツイカの主役はより冷たい海域にいるヤリイカだった。ヤリイカが冬ならケンサキイカは夏のイカでもあった。しかも入荷量はヤリイカほど多くはなかったのだ。それが今や年がら年中市場にある。しかもたっぷりあるのは、絶対に温暖化のせいである。だからケンサキイカの豊漁は手放しには喜べない。少しだけ後ろめたさを感じながら買うケンサキでもある。さて、子ケンサキをあまり見かけないのは、軟体部分が柔らかいために漁の間に傷ついたり、遠くまで運びにくいためだろう。子ヤリよりも柔らかく、甘味が強いのでもっと入荷してきて欲しいな、なんて思いながら袋に詰め込んで帰ってきた。
コラム

鯛すきは夏のもん

まだまだ続くぞ、産卵期のマダイ、なのである。兵庫県明石、青森県下北、千葉県銚子、大分県などなど値頃であれば買い、下ろして脂ののりをチェック、西京漬けに鯛の天ぷら、フライ、煮つけ、ムニエル、などなどなど捨ててはいかんので食べた。中でも鍋くらい魚島(安くてその割りにうまい)のマダイを消費しやすいものはなかった。マダイなどの魚すき、水炊きを盛んに作っていたのは関西、瀬戸内海周辺だと思う。魚好きは魚を割り下で煮ながら食べるもので、長谷川幸延(明治時代に曾根崎で生まれた生粋の大阪人で劇作家)ではないが、いかにも浪花という感じがする。だからマダイの魚すきは夏の季語(季語辞典的なものではなく、ボクの、だ)である。そこそこうまいマダイが旬の時季の半値どころか十分の一の値段で買えて、たらふく食べられる。大阪を中心とした関西好みといった感じがやたらにする、のである。さて割り下は酒・みりん・醤油・水・砂糖少々を予め合わせて一煮立ちさせて置いたものだ。作るときはたっぷり作りおいて様々な料理に使い回す。マダイは水洗いして、中骨などは湯通しして冷水に落とし、水分をきり、昆布と一緒にだしを取る。身は皮付きのまま食べやすい大きさに切り、湯通しして冷水に落とし水分をきっておく。なくてはならぬのが、この時期に出てくる玉ねぎで、あとはお好きなように、というので、魚好きとなる。
キツネ顔
コラム

キツネがつくベラ科はすべてうまい

八王子総合卸売協同組合、マル幸、クマゴロウが銭州から帰ってくると、本命穴馬全部どけて魚と魚の間に挟まった比較的ミニな魚を探す。今回もウメイロ、シマアジなんてものには目もくれず、釣り師がいちばん嫌がることに熱中する。魚まみれになった甲斐があり、大発見があったのである。この、本命も穴馬を釣り上げるためのシマアジ用13号の釣り針で、ミニな魚でももなんでもかんでも釣り上げる天才ぶりに恐れ入る。すばらしいじゃ、ありませぬか!ミニを手に取ってうれしい涙をこぼしていたら、「そいつらがいなけりゃ、ウメイロ一束だったけんね」なんて天才釣り師が吠える。吠えても馬耳東風だけど、ミニだけを喜んでいては、天才釣り師に悪いので準本命も持ち帰ってきた。キツネベラである。余談になるがベラ科でキツネのつく種は総てうまい。ベラ科のキツネ問題というのがあり、魚類学の世界の牧野富太郎のようなものである田中茂穂が、ほとんどがキツネ顔をしているベラ科で、どの種(学名はすでにあるので)にキツネ+科名を与えるかで迷ったようなのだ。結局、魚類学を今の形に大成した松原喜代松がこの迷いを払拭して、本種が見事にキツネベラとなった。要するに本種はキツネ顔だらけのベラ科の中でも、特別にキツネ顔であるという、お墨付きをもらったことになる。そのキツネ振りは見事な犬歯と口を開けたときの姿を見ればわかる。さて、天才釣り師いわく、「ばっきばっきにいいからよ」、というキツネベラは、ほんまに触っただけで中身が見えるようであった。
コラム

北海道様似産オオズワイガニやたらにうまし!

噴火湾(内浦湾)は北海道南部に位置し、日本列島の太平洋の北の終着点である千島列島からすると盲腸のようなところだ。襟裳岬から様似、浦河、日高と漁業的にも重要な町が続き、一番奥にあるのが「ほっきがい(ウバガイ)」で有名な苫小牧である。この大きな湾で過去にも何度か大発生しているのがオオズワイガニだ。市場ではバルダイ(bairdi)と呼ばれることも多く、噴火湾や道東産よりもロシア産の方が安定的かも知れない。ズワイガニと区別できる人はまずいないはずである、味の点でもズワイそっくりであるため関東の市場では区別しないで販売している。これが八王子総合卸売センター、福泉にもやって来ていた。甲長8cmの雄ばかりである。足を触った限りでは小振りだが上々とみた。ちなみに甲長5cmや6cmになるとゆでガニではなく、みそ汁などにするしかない。もしくは剥き身加工だろう。好不漁の波がある魚介類は加工に回すのもたいへんだろう。ニュースを見ている限りでは、この8cm前後を活けで出荷しているようだ。
スルメイカの沖干し焼き
コラム

蛸さんのスルメイカ船上干しでいっぱいやっか

近所の鮹さんに船上干しをいただいた。今じゃ貴重なスルメイカで作ったもので、その点からしてうれしい。船上干しとは、釣れたスルメイカをその場で裂いて、海水で洗って船にヒモを張って干し上げたものだ。「沖干し」ともいう。船上干しには憧れていた。イカ釣りが苦手なボクは一度も船上で干す、なんてことをやったことがない。イカ釣りのメッカ、静岡県網代から出てサバ(ゴマサバ)しか釣れなかったことすらある。だから、なにげに蛸さんやるじゃん、なんて思った次第だ。船上干しのいいところはただでさえ風のある海上で、しかも船が移動するたびにヒラヒラと急速に乾くことにある。坊主のボクは船上でシンシビーと乾いていくのを見ているだけで、よだれがびちょびちょ垂らしたものである。いただいてすぐに冷凍保存していたのを、深夜仕事をしながら解凍する(といっても温度の高いハードディスクの真横に置くだけ)。後は焼くだけだ。十年くらいまでにはマヨたっぷりつけながら食べたが、今は素っきりそのまま食べる。スルメイカくらい味のあるイカはない。特に皮がやたらにうまい。寝酒に菊正宗樽酒を正五勺。蛸さんありがとう。こんどはもっとちょうだいね。
加工品

アブラガレイのフィレはとても便利

八王子総合卸売協同組合、マル幸で北海道斜里町『丸中しれとこ食品』のアブラガレイの生食用フィレを買う。アブラガレイは北太平洋に生息する大型のカレイである。古くは北洋で大量にとれて、非常に安く市場に流れていた。安いので鮮度管理が行き届かないなどがあり、まずいカレイと思い込まれていた時期がある。岩手県での呼び名、「えんきり(縁切)」などは、一度食べたら二度と食べたくない、縁を切りたい魚という意味である。鮮度が悪い上に、昔は脂がのった魚は下級だったこともある。
マダイのつりがね
コラム

魚の名所 つりがね

日本料理だけの料理用語集・事典はほとんど出版されていない。ボリューム的にも、フランスにラルースがあるのと比べるとこの国は低級だなと思う。味の素に行っても、フランス、中国、日本料理など世界中の料理の事典、用語集はあるものの。和だけでいいものがないのだ。仕方がないので我が机の上は村井弦斎の大型本、鈴木晋一などなど、語源的な辞書類、本草綱目啓蒙などのこまごまとした書籍が山を成す。中でも比較的面白いのが『よくわかる 日本料理用語事典』(遠藤十士夫 旭屋出版 2018)だと思う。いろいろ問題点もあるものの、いまのところこの本でしか見ていない事項がある。そのひとつがマダイを使った図で説明されている「魚の名所」だ。名所の多くは一般的なものだが、独特だと思われるのが「うぐいす骨」、「うなもと」、「たきうち」、「髪分け」、そして「つりがね」だ。図では「つりがね」が、どこを指すのかよくわからないものの、「釣り鐘」だとすると形が見えてくる。魚の胸部のことではないか。頭部と二等辺三角形の形でつながり、腹鰭に繋がる。そこを切り取ると、「釣り鐘」に見えなくはない。
下北半島産マダイ
コラム

下北のタイ

八王子総合卸売協同組合、マル幸の、店先の話ばかりで面白みに欠けるのだけれど、今、タイ(マダイ)だらけである。これは八王子総合卸売センター、総市でも同じだ。ただ総市は養殖ものも多く、天然ものはメインではない。総市にマダイが増えるのは千葉県銚子で大ダイの産卵が始まる頃だ。魚屋にも得意分野があるということでもある。さて、瀬戸内海、東北のマダイが目立つ。今回は青森県下北半島からきた体長36cm・1.2kgで、いちばん手頃で食べ頃サイズだ。郡水という会社からで脇ノ沢、大間、尻屋とあるが、たぶん陸奥湾側だろう。マダイは昔から北海道南部まで生息域をもっていたが、東北以北ではあまりとれなかった。それが最近、東北での水揚げが増えているようなのだ。山形県鶴岡市由良で水揚げを見ていたときなど、「タイで網が上がらない」などという声が飛んでいたほどだ。主産地はじょじょに北に移動しているように感じるがどうだろう。
海鮮食堂 바다횟집のクロソイの鍋
郷土料理

タケノコメバルの韓国東海岸風鍋

最近、魚を見てきゃーとか大騒ぎするヤカラとか、究極の美味なんて意味不明のことをいうヤカラがいるが、このあたりの人間が気持ち悪くて困る。食用魚はあくまでも食用魚で日常食べるものでしかない。こんなに大騒ぎするから魚の消費が伸びない気がする。この点、韓国東海岸は、例えば名物を出す食堂で、アベック(今どきはなんていうんだろう)が名物を食べていても、至って普通で、ただ単にうまいものを食いに来ているだけという感じがとてもよかった。しかも韓国の方達は魚を食べるのが、もちろん見た限りであるけどとても上手だ。今回はタケノコメバルで、その韓国東海岸風(ボクの勝手な思い込み)の鍋を作る。あくまでも「ボクは」ということだけど、姿造りが嫌いだ。刺身がこのイカニモ的な状態で出てくるとガッカリする。口には出さないけど、低級だとさえ思う。韓国東岸、三陟市でたまたま見つけた海鮮食堂 바다횟집(パダフェッチッ)で、刺身をお願いすると、勝手に鍋がついてきた。これは三陟市だけの事ではないだろう。その鍋が非常においしかったのである。海辺の普通の住宅地だったので魚の種類は少なかった。韓国の特徴は刺身用の魚はすべて活魚だということだが、ブリのイナダサイズとクロソイしか泳いでいなかったので、この2種を刺身にしてもらう。刺身の他に何にしようと考えていたら、あらが見事な鍋になって出て来たのだ。刺身との時差がほとんどないということは刺身を造りながらあらの処理を同時にやっていたことになる。ボクはかねてより料理は見た目も大切だけど、合理的でなければならないと思っているので、さもありなんと喜びすら感じた。あまりにもうまいので、ソジュを飲みすぎてしまったくらいだ。韓国東岸では臨院(임원)でタラの鍋も食べているが、明らかにだしと塩だけの非常に単純なつゆであった。だしは節ではなく煮干し系ではないか、韓国は魚と獣肉のだしを合わせる文化があるようだが、東海岸では獣肉系の味はしなかった。でも何か、気がつかないものが加わっているようにも感じる。こんなことだって、調べる価値が大、大にある。また行きたい韓国、なのだ。
コラム

アザハタは東京の魚

20世紀末、築地を歩いていて、アカハタモドキ(小笠原を代表する小型のハタ)かなと思って見たら、本種だったときのうれしい気持ちは忘れられない。そのとき初めて見たわけではなく、ほんの1週間ほど前に、場内で見つけて、戻るルートなので後買いしようともどったところ、売れてしまっていたのだ。その内、小笠原ものが定期的にくる築地では取り立てて珍しいものではないことを知ったものの、初買いはどうしても興奮するものなのである。この初物の画像はポジフィルム時代なので面倒で見る気にもなれない。とにもかくにもボクが名づけた新江戸前、小笠原の魚であることが1990年代わかったことになる。アザハタは今現在は伊豆諸島以南に生息する小型のハタである。本種がなぜ痣羽太なのか、がわからない。1950年代(ボクは松原喜代松が最後の魚類検索を出したとき)以後の、比較的新しい時代の和名で命名者も不明だ。さて、八王子総合卸売協同組合、マル幸、クマゴロウが銭州から釣り上げてきたものは、体長25cm・513gと小振りである。釣り上げてすぐ締めて血抜き済み、鹿児島県産以上に鮮度がよい。銭州は八丈島よりも北、神津島の南にある。近年伊豆諸島神津島や利島あたりでは珍しい魚ではなくなっているようだ。
キダイ
コラム

相模湾で鮹さん大釣り、大トリは小キダイ

ご近所の鮹さん(岩崎薫さん)が相模湾宇佐美沖で釣り上げた中に、オマケのように浮いていたのが小キダイである。全長21cm ・220gなので成魚ではあるが、成人式を終えて間もないといった個体である。キダイは琉球列島や小笠原諸島を除く、日本列島で揚がるタイ科のタイで、国内でもっとも重要なタイ3種のひとつだ。日本海の底曳き網などで大量に水揚げされるなどで非常に安い。関東の釣り人がよく使う言葉、マッチ箱サイズなどは未利用魚となりかねない。余談だが、このマッチ箱などを使った蒲鉾が島根県石見地方にあるが、非常にうまい。見つけたら買って欲しいものである。要するになんとかしないといけない問題魚のひとつなのだ。いただいた日は若い個体でもちゃんと「鼻折れ」しているのを撮影して、水洗いして保鮮紙に包んで冷蔵庫に入れておいた。久しぶりに塩焼きもいいかな、といった感じである。ついでに、江戸時代の書籍に「鼻折鯛」で出てくるのは、間違いなく本種のことだと明言しておきたい。
加工品

鳥羽市安楽島出間リカさんの乾しめかぶ

三重県鳥羽市安楽島、出間リカさんに乾めかぶを送っていただいた。めかぶはワカメの根元にある成熟した胞子葉でここから胞子を放出する。ちなみに陸生植物は体の先端部分が成長点だが、海藻は根元が生長する。もっとも新しいみずみずしい部分でフコイダンなどが豊富に含まれている。食物繊維が豊富で胃腸などをきれいに掃き清めてくれて、体をすっきりさせてくれる。きっとリカさんはボクがデブなのを気遣って送ってくれたのだと思う。
相模湾のチダイ
コラム

相模湾で鮹さん大釣り、二番手はチダイ

標準和名のチダイは関東、特に魚河岸で使われていた呼び名だ。鰓蓋骨の後ろ側が血がにじんだように赤いところから「血鯛」と呼ばれていた。小滝鯛という名もあった。明治期から大正期にかけて魚類学者はさまざまな魚を記載(学名をつける)し、標準和名をすでにあった呼び名からとったり、つけたりした。本種は田中茂穂が1931年に Evynnis japonica Tanaka, 1931 という学名で記載して、東京での呼び名を標準和名にする。残念なことに国内の生き物を大量に持ち帰ったシーボルトとその後継者たちが、すでにオランダに持ち帰り、研究していた中に含まれていたために幻の学名となる。まあ1931年、オランダは遠すぎたということだ。これからわかるようにいかに分類が複雑で重労働かがわかる。関東では花鯛(ハナダイ)という。船釣りなどでは大釣りできるので人気が高い。ただしたくさん釣れる浅い海域のは小型で、数釣りできない深場の方が大きいのだ。蛸さんが釣り上げたチダイは明らかに深場のもので、非常に形がよく全長30cm ・427gもあった。こんなのがクーラーにいっぱい釣れたなんて凄すぎる。その上、触っただけで脂ののりが感じられるといった個体だった。
イワガキ
コラム

長崎県新上五島産イワガキ

まるで梅雨本番のような雨。つめたい雨はいやではないが、ぬるいやるせない雨が降る。市場に着いて最初に目指すのはいつも八王子総合卸売協同組合、マル幸である。店頭に長崎県五島列島新上五島町宿ノ浦産の養殖イワガキがきていた、珍しい形で殻長12cm・150g・厚み2cmから3cmほどで突起がついている。非常に薄っぺらいし、軽いけどそれだけに安い。味見に2個だけ買ってみた。イワガキは大きいものほど高く、豊洲市場などでは巨大なのをこれ見よがしに並べている仲卸がある。ただ、イワガキの味と軟体(可食部分)の大きさは必ずしも貝殻の大きさではなく、また厚みでもない。ついでに述べておきたいのは目の前のイワガキは養殖ものだが、イワガキなど貝類はヒトがエサをやるのではなく、栄養分が流れてくる海域に活かしておくだけだ。昨今の自然保護の観点からして問題のある、肉食魚の養殖とは分けて考えるべきだ。
コラム

今季初タカベは下田産

関東に住んでいるからこその、5月16日は記念すべき今季初タカベであった。関西など他の地域に暮らす方達は「なんじゃそれは?」という感じかも知れない。夏になると関東人はタカベにざわつくのである。不思議な魚で山陰、茨城県から南にいる魚なのに、関東以外ではまとまってとれないのだ。主な産地は東京都、千葉県、神奈川県、静岡県など相模湾周辺である。ときどき三重県や和歌山県からも入荷してくるが関東ものほど高値がつかない。八王子総合卸売センター、福泉で見つけたタカベは本場、静岡県下田産である。18.5cm SL・144gと小振りだが腹回りは十分太っている。このぼってり感が尾に近い方にまで広がったときが最旬である。タカベは毎年、「高いな」と思いながら買う魚なのだけど、福泉(八王子総合卸売センター)で支払いをしながら安くすら感じた。ここ数年、コロナと同時に魚もとれなくなり高騰が続いているためだ。
味わい

シロダイは今が旬

フエフキダイ科メイチダイ属の魚は1955年以前はメイチダイだけが国内で知られていた。1960年代に急に種が増えるのは赤崎正人という魚類学者の功績に負うようである。本種は当時、魚類学的には沖縄県でしか見つかっていなかったようだ。食用魚としては沖縄県の次には東京都で認知される。1980年代には東京都小笠原で水揚げされたものが築地にやってくるようになって高値をつけ始めたからだ。1990年代後半に築地で初めて買ったとき、見た目にもこれといった特徴のない魚で、味も取り立ててうまいわけでもないのに高いのが不思議だった。もちろんこれは小笠原から船で送られてくるために鮮度がそれほどいいとは言えないが、白身の少ない時代に嫌みのない味わいと歩留まりのよさ、使いやすさだけでの評価でしかなかったのだと思っている。そこに鹿児島からシロダイが来るようになって、大型であることから一段上の高値をつけ始める。航空便なので鮮度が非常にいいためだ。さて、八王子総合卸売協同組合、マル幸、クマゴロウが銭州から釣り上げてきたものは、釣り上げてすぐ締めて血抜きをしているために、鹿児島県産以上に鮮度がよい。三枚に下ろすと身(筋肉)が生きており、切った部分が盛り上がってくる。卵巣が膨らみ始めているものの、まだ小さいことからも明らかに旬真っ只中であることがわかる。
コラム

鳥羽市安楽島のヒジキを沖縄風に

三重県鳥羽市安楽島、出間リカさんにいろいろ頂いた中に「ゆでヒジキ」があった。ヒジキは生ではもちろん食べられない。非常に長時間ゆで無機ヒ素を流し去って初めて食べられる。普通はこれを干して出荷するが、今回のものはゆでて放冷したもの。そのまま料理に使える。ヒジキと言えば相も変わらず、鶏肉やなまり節で炒り煮にしたり、練り製品と一緒に煮たり。味つけは醤油ベースの甘辛味と決まっている。ここで目にとまったのがウミンチュにいただいたジョールベーコンである。沖縄県のオキハムという会社のもので、豚の首の部分の肉を使ったベーコンである。
コラム

明石海峡の針イカで大阪風お好み焼き

兵庫県明石、明石浦漁協からやってきていた針イカ(コウイカ)は2はい入りだった。慌ただしさに紛れて1はい分の胴を食べそびれてしまい、仕方なく冷凍する。イカのいいところは冷凍がきくことである。ある深夜、撮影が終わったのはいいが、あまりのハラヘリに眠る気にもなれない。冷凍庫をあさって出て来たのがかの針イカだ。値段を考えると解凍して刺身だけれど腹の虫が治まりそうにない。まさかまさかの虫押さえにお好み焼きを作る。
料理法・レシピ

コロダイのポワレ

フランス料理のポワレ(poêlé)は比較的新しい料理だけれど、ボクは勝手に、この国での塩焼きや煮つけのような料理だと考えている。テクニックは必要だけど、工程は簡単である。要するに魚のソテーだが、表面はこんがりと香ばしく、中はしっとりと豊潤に仕上げるのだけど、外と中の食感の落差が大きいのが特徴である。沖縄県石垣島のウミンチュがコロダイを送ってくれた。コロダイの旬は難しい。5月、6月に入荷量がやや多いのはイサキ科ならではかなと思っていると、秋が深まる10月、11月にまとまってやってきたり。しかもどの時季のものを下ろしてもそれなりに脂がある。今回、石垣島産は生殖巣が見当たらないことからすると、産卵を終え、産卵からの回復期に当たるのかも知れないと思った。さて、いろんな料理を作ってみたが、いちばんうまかったのが先にも述べたポワレである。
コラム

コショウダイはディディモゾイドと戦っている

たまにはおいしくない話を。今や国内漁業で大問題そのものの、未利用魚という言葉がわかっていない人間が多すぎる。特にマイナー魚との混同が甚だしい。今、市場でそれなりに値のついているヨスジフエダイが未利用魚なんて、ビックリするようなことを平気で言う人がいる。ひょっとしたら物事を予算でしか考えない役人がわざとマイナー魚と混同させているとか、か?例えばコショウダイは明らかに深刻な未利用魚だが、未利用魚と言う人には会っていない。海域にもよるがディディモゾーン(ディディモゾイドとも)の寄生率が高すぎるのだ。魚屋などの話を聞いても、この手の魚に手を出さないのは寄生虫のせいだと言う。例えば1個体の寄生虫を持ったコショウダイを仕入れたら、二度と仕入れないと思う。問題はとても味のいい魚だということだ。寄生虫はヒトが食べても問題はない。気味悪いだけだけど、それでもこれを見て食べなさいとはとても言えない。今年になり豊洲で4㎏近いのを1尾、そして今月地元で1尾、地方の方に送って頂いたのが1尾の計3尾手に入れているが、全部ディディモゾーンに寄生されていた。少ないものは刺身にもできたが、どこを切ってもディディモゾーンに当たるといった個体もあった。ちなみに九州でも東岸の個体は寄生虫のいる確立が低く、東シナ海側で高い気がするが、これなどはできるだけ早く確かめたい。ただ残念なことに天草などでは水揚げしないで廃棄してしまっている。この寄生率に予算をつける県なり国はないものだろうか?
コラム

薩摩川内市のうるめ丸干

ときどき無性に食べたくなるもののひとつだ。うれしいことに関東のスーパーでは定番的な商品で、例えばマイワシの丸干し以上にウルメイワシの丸干しを見かける機会が多かったりする。ウルメイワシの丸干しは、新宿のデパートなどでは上乾品なのに1尾50g近くあって400円前後するものもあれば、通常の干しのあまいタイプで1本17g前後で40円くらいのものもある。ボクなどは後者で十分なのだけど、ときどきよく乾かした上乾品が欲しくなると、徳島県県南宍喰のものや、高知県のものを取り寄せたりする。ちなみにこのよく乾かしたものを三重県尾鷲市では「かんぴんたん」といい、島根県浜田市では「しんしびる」という。尾鷲市では「かんぴんたん」という言葉を上手に使っているが、島根県の「しんしびる」はせっかく面白い言葉なのに生かせていない。島根県人よ、言葉は大切なのだぜ。さて我が家の近所のスーパーでいつでも買える、「うるめ干」は鹿児島県薩摩川内市湯田町にある下園薩男商店のものだ。これが実にすぐれた干もので、たぶん東京人の好みであるやや柔らかく生干しではあるものの、焼いた時の風味といい、最上級のものだと思っている。下園薩男商店の丸干しは「頬ざし」、とか「えらざし」とされるものだ。テレビどころか偉そうに水産物を語るヤカラ(日本の水産学ってもうダメかもね)までなんでもかんでも「目ざし」なんていい散らかすが、地域によって刺し方が違うのだ。
料理法・レシピ

イカの煮なます

日本各地に残る「煮なます」もしくは「湯なます」は基本的には同じ物だ。どうやら非常に古い料理で酢を使っていることから、19世紀初頭以後に生まれ、日本各地に広まり、その土地土地のさまざまな素材を使って作られるようになったと思われる。例えば、島根県松江地方の郷土料理「スズキの煮なます」も江戸時代にはすでに作られ始め、城下町の質素な生活の中に溶け込んでいったのだと思っている。この「煮なます」の原型は精進料理だと思う。大根とにんじんで紅白にし、せん切りもしくは拍子木に切る。これを油で炒めて、酒・砂糖・醤油で入り煮にし、仕上げに酢を加える。もしくは油は使わないで調味料だけで煮るというのもあるようだ。今回はここに冷凍スルメイカの胴の部分を加えてみた。要するに刺身にした余り物を使って作った「煮なます」だ。
料理法・レシピ

魚島の鯛は一汐に

今年は産卵期のマダイの画像を雄雌、未成熟なものまで買い求め撮影した。ほぼ兵庫県明石産だったので魚島の鯛の走りである。マダイの産卵期は晩春から初夏にかけて、この時季、播磨灘や燧灘に見られるのが魚島である。産卵期の魚が海表面に島のごとく、盛り上がるように群れる。残念ながら瀬戸内海の魚は減少傾向にある。これには様々な要因があると思うが、魚島現象は見られなくなっても漁の最盛期であることは間違いない。産卵期の魚をとることの是非はともかく、消費者は安くておいしい時季の魚を食べない手はない。
歴史

徳川家康と鯛の天ぷら

徳川家康が慶長20年、大坂夏の陣で豊臣氏を滅ぼす。その元和2年1月21日、鷹狩りに行ったときに、京都の貿易商・呉服商の三代目茶屋四郎次郎の話を聞いて食べたものが「鯛の天ぷら」だとされている。茶屋四郎次郎の話は近頃、鯛の天ぷら(興津鯛(アカアマダイとも))を榧(かや/イチイ科の木本植物で実は食用になり、食用油もとれる)の油で揚げて、韮(ニラ)をすりかけてかけて食べる」というものだ。同翌元和2年4月17日に数え年75歳で死去している。これが広がり「徳川家康が鷹狩りのとき天ぷらにあたって死んだ」という伝説が巷間に流布する。もちろん天ぷらと徳川家康の死は無関係だと思うものの、この天ぷらとはなんだろう?天ぷらの種は興津鯛(アカアマダイ)とも鯛(マダイ)ともされている。
下北郡水のカサゴ
コラム

カサゴは煮つけ用の魚

比較的浅場の岩礁域にいる現在のカサゴ亜目の、メバル属、カサゴ属の魚たちは、江戸時代にはあまりよくわからない魚たちだったようだ。かの18世紀の『和漢三才図会』の記述すらそっけない。例えばカサゴはカサゴそのものらしいけど、カサゴを含めて藻魚や目張とされるものが何か? はてんでわからない。この状態が今でも続いていて、カサゴなどは国内に生きている人のわずか1パーセントの人が知っているか否か的な魚だと思う。ほんの数年前に無音のテレビ番組を見る仕事をしていたら、タレントが「初めて見ましたうんぬん」、脚本家が「こんな珍しい魚が食べられることをうんぬん」なんて場面があった。これが実際に放送されたはずだが、それほどカサゴは世に知られていない。魚を調べているとイロハのイ以下の魚なので、現世の普通との差がありすぎて困る。ただ江戸時代、カサゴはどちらかというと下魚であった。それが沿岸域の環境が悪化し、沿岸域の漁業が衰退するにつれて値上がりし始める。1970年代の終わり頃、家族で渋谷まで魚を食べに行ったことがある。「この魚は高いんだぞ」と言われたのがカサゴだったのだけは、魚類学を一から勉強し始めたときなので鮮明に覚えている。当時は「きんき(キチジ)」よりもカサゴだった可能性が高い。そんなカサゴには様々な色変化がある。この体色変化をサイトに反映させようと思っていたときに見つけたのが、青森県下北郡水(むつ市)のカサゴだ。鮮やかな色合いに思わず手が出てしまった。脇に全部買いしそうな料理屋さんがいたのですまんすまん、といいながら1尾だけ抜く。
料理法・レシピ

佐渡産産卵盛期のカナガシラでエスカベッシュ

八王子総合卸売協同組合、マル幸に新潟県佐渡市からカナガシラがきていた。ボクのもっとも好きな、もっとも愛を感じる魚である。ちなみにカナガシラを食べると金運が上昇するというが、ボクの金運も上がるかな?触ると身に張りがなく、その上、大小混じりなので激安である。そんな状態でもカナガシラは料理次第ではうまいのである。たぶん産卵期なのでたくさん揚がり、安い時季なので選別が行き届かないのだと思う。こんなことでひるむボクではない。むしろこの安さにありがたさを感じ、大漁のカナガシラにセレブレートを送りたい。この時季のカナガシラを見過ごす人間は魚通とは言えない。もちろん煮つけるならうま味豊かにたまり醤油なども駆使して煮つけるなど工夫がいる。そしてなによりも作りたいのがエスカベッシュである。昔々、エスカベッシュという料理がヨーロッパにあり、これが日本に入ってきて、「ヨーロッパ=南蛮」、なので南蛮漬けが生まれたのだと思う。初めて料理雑誌で見つけたときは、なんだ南蛮漬けかと思ったけど、実は本家本元だったのだ。
マダイ真子煮
コラム

鯛子好き

産卵期のマダイの撮影をしていてなにがうれしいかというと真子に尽きる。年を取ってからは白子派に傾きつつあるが、いまだに子供舌なので真子が出てくるだけでうれしい。ほくほく甘いのが好きなのは舌が若い証拠でもある。スズキ目の魚はおしなべて白子の方が味わい深いが、卵巣に真がついているのは万人向きだからだろう。真子はほくほくとして甘味があるものの味に奥行きがない。その短兵急な味がわかりやすいのだ。マダイの生殖巣の真子、白子だけをさす言語はないようだ。本朝食鑑、物類称呼、大言海、広辞苑を見ても、歳時記を見ても見当たらない。市場では「鯛真子(たいまこ)」、「鯛子(たいこ、たいご)」だ。関西では「たいご」と語尾が濁音だったと思うがはっきりしない。どんな真子でもいいわけではない。東京湾から四国、瀬戸内海などの個体は、もちろんだいたいの話ではあるが、2月くらいになると卵巣は膨らみ始める。3月、4月と徐々に大きくなるが、この時季の実熟なものは決していいとはいえない。4月の後半から卵巣を触ると張りが生まれて来ていて、卵粒が小さく粒立っては見えない。5月いっぱいはこの張りが続き、6月になると成熟しすぎて卵粒がばらけて水っぽくなる。日本列島で見ると日本海側では少し遅れ、東北日本海側では1月くらい遅い可能性が高いと感じている。ということで関東から四国の太平洋側、瀬戸内海の鯛子の旬は4月末から5月末までが目安だと思っている。真子料理といっても煮るか焼くかだと思っているが、断然甘辛く煮たものが好き。焼くよりもほくほく甘いのが、よりほくほく甘いからだ。真子は胆嚢をつぶさないように取り出す。汚れや血液を流水で流して水分をよくきる。一口大に切る。鍋に酒・砂糖・醤油・水を煮立たせた中で煮汁を絡めながら煮る。ぐつぐつ味を含ませながら煮てはいけない。真子の表面に味がつくだけでいい。個人的にはこれで飯、だ。甘辛くほくほくしてうま味もあるのが糖質である飯に合いすぎる。酒には個人的意見ながら合わぬ。
コラム

魚の名所 髪分け

前回に引き続き、『よくわかる 日本料理用語事典』(遠藤十士夫 旭屋出版 2018)の四条流式包丁のときの用語、「魚の名所」を巡る。ちなみにこの「魚の名所」という言語はこの書籍以外には見つけていない。このマダイを使った図が粗いことと見当に疑問を感じるところがあり、明確にできない部分もある。今回の「髪分け」は胸鰭のこと。単純に考えると髪を左右に分けるなどだが、胸鰭の形そのものを見ると、むしろ櫛のことかも知れない。日本髪の櫛に「鬢出(びんだし)」というのがあり、胸鰭の形に似ているのだ。さて胸鰭を使った料理というと難しいが、吸物の具ならどうだろう。昆布とマダイのあらだけでだしを取り、胸鰭を具として飾る。胸鰭は焼き物にするにも焦げやすくやっかいであるし、揚げてしまうと食べでがない。ここでは「鯛の髪分けの吸物」を作る。マダイのあら、胸鰭周辺は湯通しして氷水に落とし、汚れや残った鱗、ぬめりなどを流す。水分をよくきり、鍋に水、あら、昆布を入れてだしを取る。一度濾して酒・塩で味つけする。ここに胸鰭とその根元の筋肉(鰭筋)を入れて温める。あらで取っただしは非常にうまい。薬味などは邪魔なくらいの味わいであるが、なにもなしではそっけない。それを補うのが鰭である。胸鰭ひとつと言うなかれ。この胸鰭の根元の鰭を支える鰭筋、かまの一部などがやたらにうまいのである。一点、胸鰭を立てるだけで高級料亭でも出せる品になる。
料理法・レシピ

薩摩のイサキで塩焼きの作り方

鹿児島県鹿児島市にある田中水産さんに旬のイサキをいただいた。28cm・498gなので中イサキである。触っただけで、脂が感じられるといった上物でもある。刺身と焼霜造り、そして塩焼きにした。ほんの1990年代くらいまでイサキの生食(刺身)は特殊だった。飲食店に入って魚を聞いて、イサキだったら、お願いしただけで塩焼きが出て来ていた。考えてみるとこの時代、魚の種類も少なく、決まり切った料理が出て来て、だれも疑問に感じなかったのだ。この定番料理に大いに疑問を感じたのが三重県や千葉県の、海辺の町の魚料理の多様性である。初めてイサキの刺身を食べたのは千葉県勝浦市鵜原だったし、考えてみると「なめろう」もこのとき食べた。イサキはどんな料理にしてもうまいと考えて、最近は様々な料理を作っている。でもイサキが塩焼き用の魚という認識は変わらない。
鹿児島県産アオメエソ
コラム

鹿児島のメヒカリはとろける

鹿児島県鹿児島市にある田中水産さんにアオメエソを送って頂く。鹿児島県ではメヒカリと呼ばれているようだ。古くは阿久根から出船するタカエビ(ヒゲナガエビ)漁の混獲物でしかなかったが、深海魚を積極的に利用しようと言うことでクローズアップされつつある。さてその前に、アオメエソについて。1905年にスタンフォード大学のジョーダンとスタークスによって記載されている。日本との関わりの深いふたりが記載した標本はどこでとれたものか、などはわからないが、なぜか生息域が千葉県銚子以南となっている。本種と形態的にそっくりというか区別がつかないマルアオメエソの方は記載につかった個体はどうやら銚子沖らしく、1955年版、魚類検索で生息域はマルアオメエソは銚子沖、アオメエソは相模湾以南となる。近年、両種は同種であり、マルアオメエソはシノニム、新参和名と決まったのかと思っていたら、いまだに変更されていない。閑話休題。さて、田中水産の田中積社長から、「あぶって食べて見てください」というメッセージが送られてきた。ここ数年、決着のつかないアオメエソ問題を受けて未改訂であったのもあって、じっくり本種の味を楽しめないでいたが、いいきっかけをいただいた気がしてきた。
料理法・レシピ

地ハマのポルト酒蒸

以前、都心のスーパーに入ったらシェリー フィノの特売をしていた。常備している酒なので思わず2本衝動買い。帰宅したらまさかのポルト酒(ルビーポート)だった。おっちょこちょいなボクは、ラベルの絵柄でかってにシェリー だと思い込んでしまったのだ。シェリーフィノはときどき深夜に飲むし、料理にも使うけど、ポルト酒は飲むのもそんなに好きじゃないし、魚貝類の料理には使ったことがない。封も開けないで棚の奥に仕舞い込む。
郷土料理

泉州玉ねぎが出たら、鱧も出る

八王子総合卸売協同組合、マル幸に小振りのハモが来ていた。それだけなら通り過ぎるのだが、なんと相模湾三浦半島にある神奈川県佐島産なのである。漁法がわからない。定置網、刺網であるはずもなく、延縄だろうと考え、今度聞いてみようと思って買い求める。というとで、今季初ハモは佐島産とあいなる。まだ卵巣は未熟で、脂ののりは今ひとつながら初物としては上々だった。
郷土料理

がーらの魚汁はみそ汁

八王子総合卸売協同組合、マル幸でわけてもらった魚にナンヨウカイワリがある。全長60cm前後になるアジ科の魚で、国内では伊豆諸島以南に多い。熱帯系の魚の特徴は1種あたりの個体数が少ないことなので、水揚げ量はさほど多くない。ただ東京都の島嶼部から紀伊半島、高知県、九州南部、沖縄などでは珍しくもなし、といった魚である。「魚に興味のない人」に、このような魚の説明は難しい。ちなみにこの魚、最近まで分類的に不明な点が多く、魚類学者が悪戦苦闘していたことだけは伝えておくつもり。門外漢ではあるが、まことにたいへんだったろう、お疲れ様なのだ。非常にうまい魚であるとともに、沖縄県の「がーら」のひとつでもある。「がーら」は沖縄県でのアジ類に対する呼び名・総称であるが、もっとも一般的な料理が「(魚)汁」なのである。魚と青み(ねぎやフーチバー)だけのみそ汁が本来だけど、近年、豆腐などを入れることもある。「魚汁」として、那覇などの食堂では「いまいゆ」の「さかなしる」、奄美大島では「魚汁」として「いゅん汁」という。ちなみに那覇などのオバアは「さかなしる」とも「さかなじる」でもなく、「しる」ということが多く、あえて聞くと「いおしる」もしくは「いよしる」と発音していた。ちなみに現在のところ、我がサイトの情報としてはあいまいな状況にある。鹿児島県島嶼部、沖縄での本料理に関しては教えて欲しいくらいである。この地域だけではなく、魚料理の中でももっとも重要なものがみそ汁である。魚料理の最高峰だと思っているが、主役級ではない。喜劇人の三木のり平が主役はいなくなっても替えが利くが、うまい役者は替えが利かないと述べていたが、そのうまい役者がみそ汁なのだ。日本全国で作られている普通の料理だが、沖縄県や奄美大島などの鹿児島県島嶼部以外では衰退している気がする。北海道など古くはカジカなどのみそ汁をよく作っていたと言うが、みその消費量の減少とともに作らなくなった、と室蘭の市場で聞いている。作り方は簡単すぎるほど簡単である。魚は小さいものは水洗いしてぶつ切りに、大きなものはあらでいい。我が方は魚の生臭みに敏感なので、これを湯通しする。氷水などに落として残った鱗やぬめりをとる。(これは必須ではない)水分をよくきり、必ず水から煮出してみそを溶く。今回はウミンチュにフーチバーをいただいたので、あしらったが、ねぎでも青菜でもなんでもいい。ここに酒を加えたりするが邪道だと思う。こんなことをするくらいなら沖縄のオバアの真似をして味の素を振る方が増し。この魚汁の重大な問題点は汁ではなく、おかずだということだ。沖縄で「いまいゆの汁」をお願いすると勝手にご飯と小鉢などがついてくる。要するに汁は主菜なのだ。我ながら魚のみそ汁で飯を食うことだけは止められない。腹が立つくらいにうまい、ので腹が出る。三条中納言を笑えない。
コラム

小アラか? 否か?

八王子総合卸売協同組合、マル幸できれいなアラを発見する。この魚、昭和という時代にいろんなところで、特に知的な(?)人達の間でしばしば「あらアラ問題」を起こしていた。ただ意外に、その元ネタは知られていないのではないか?その元ネタが、『最近俳句歳時記 冬』(山本健吉 文藝春秋 1972)だ。あくまで季語の「あら」、すなわちハタ類を述べなければならないのに、いきなり「沖すずき」、すなわち本種が出てくるのだ。季語になるにはある程度一般的でなければならない。「あら」は当時から大相撲九州場所のとき(旧暦の10月なので冬)に、ちゃんことして食べられていたから季語になる。ここに当時も今も非常にマイナーな魚である本種を持って来たのが大間違いなのだ。これが現在でも売られ、改訂をしないことで有名な『カラー図説 日本大歳時記』(水原秋桜子、加藤楸邨、山本健吉 講談社 1983)にも引き継がれている。だいたい山本健吉は明治生まれで、この人達の活躍した時代の俳句・文学の世界は当たり前だけどみじんも科学の目を持っていなかったのだ。このぼんミスを文学の世界のスターだった、丸谷才一などが鵜呑みにして垂れ流す。当然、読者もそのミスを受け継ぐことになる。この時代をボクは知識変調時代と勝手に呼んでいる。この残渣は今でもマスコミに幽霊のように現れる。まあ、俳句や文学の世界は知識でもいいが、民俗学は科学でなければならないというのが我がサイトを始めた動機だ。
尾鰭の唐揚げ
コラム

魚の名所 波返し・たきうち

日本料理だけの料理用語集・事典はほとんど出版されていない。フランスにラルースがあるのと比べるとこの国は低級だなと思う。味の素に行っても、フランス、中国、日本料理など世界中の料理の事典、用語集はあるものの。和だけでいいものがないのだ。仕方がないので我が机の上は村井弦斎の大型本、鈴木晋一などなど、語源的な辞書類、本草綱目啓蒙などのこまごまとした書籍が山を成す。中でも比較的面白いのが『よくわかる 日本料理用語事典』(遠藤十士夫 旭屋出版 2018)だと思う。いろいろ問題点もあるものの、いまのところこの本でしか見ていない事項がある。そのひとつが「魚の名所」だ。非常に粗い図が掲載されていて、四条流式包丁のときの用語とある。背びれ、腹びれなど一般的なものもあるが、「つりがね」、「うなもと」、「髪分け」などなど、たぶん四条流でしか使われていない言語もみられる。この四条流に関する書籍は非常に少なく、あっても高い。こんなときボクの本棚だった三省堂書店が休業中、しかも味の素や国会図書館が遠いのが残念でならない。魚の部分部分に名称がついていると、見立てての料理したくなる。今回は「尾ひれ(波返し)」と尾柄部(尾鰭のつけ根の急激に細まっている部分)である「たきうち」を唐揚げにした。「たきうち」は「滝打ち」ではないかと思うけど、確かめようがない。尾鰭の唐揚げというよりも、波返し・たきうちの唐揚げと言った方が風情がある。料理店では「たきうち」を省略して「波返しの唐揚げ」という品書きでいいだろう。鰭の香ばしさに、尾を支える筋肉のうま味と豊潤さが相まってかなりのウマスギであった。料理名がつくと同様の料理を、総ての大型魚でやってみたくなる。言葉は面白い。
コラム

鯛醤油ラーメンの作り方

相変わらず兵庫県明石市、明石浦漁協からきた色気づいた雄マダイの料理を。今回はやたらに忙しくて兜まで手が回らなかった。本来は骨蒸しとかいろいろ作るのだが、下ろして水分をていねいに拭き取り。素焼きにして冷凍保存しておいた。魚は生で保存するとすぐに劣化するが、火を通したり、味つけをして冷凍すると保存性が高くなり、劣化が遅れるこの素焼き兜で鍋にしてもいいし、野菜と煮てもおいしいのだけど、今回はラーメンを作る。ボクの定番料理である。不思議なもので魚は焼いてだしを取ると、うどん・素麺以上に、ラーメンとの相性が抜群によくなる。

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