
千葉県でも千葉市くらい茫洋としてつかみ所のない都市はない。政令指定都市で100万人近い人口がいるのに、どこにも特徴が見いだせないでいる。千葉県立博物館の知り合いとは飲食をともにしたこともあるが、千葉だ! という感じがどこにもない。前回の千葉市内で、千葉市民に名物を聞いたら「落花生ですかね」と答える。ほかにはなにか? というと「なにもないんです」。脇にいた子供が「ナシもあるけどね」と言った。仕方なく市内中央の和菓子店『落花生の大和田』の落花生最中を駅前で買う。つぶあんと、栗入りの白あん入りで、おいしい気がした。だれか千葉市らしいものって何か? 教えてほしい。

さて高知県3日目、9月26日に土佐市の『白木果樹園』に向かう。高知市から高速を使ってあっと言う間の土佐市であった。四国の高速道路はまだまだ完全ではないし、基本1車線だが、東西に長い高知県がやけに狭く感じられた。高速を降りて斜面を登ると柑橘農家が多い。

高知県土佐市、白木果樹園からいろんな種類の柑橘類を送ってもらった。現在整理中だけど、非常に難航している。とりあえず、1種ずつ紹介していきたい。水晶文旦は秋に採れる食用ミカンといったものだろうか?今回、高知市などでいっぱい見かけたが、初めて食べた。その来歴を調べると余計にわからなくなる。だいたい、ブンタンのもともとはザボンだとか、ポメロだとか。そのブンタンの中でも土佐文旦から生まれたものらしい。ボクは徳島県美馬郡貞光町(現つるぎ町)生まれで吉野川の北側にあるのが現美馬市美馬町で八朔の産地である。寒くなると八朔が常に家にあり、面倒だなと思いながら食べていたのだけど、その内イヤになって、めったに温州ミカン以外の食用ミカンを食べなくなる。

新潟県西区五十嵐新川漁港周辺の生物・食物図鑑を作っていく。新川漁協に水揚げされる水産物は量的には多くないが、多彩である。今回、星野さんが手に持っているのがシロボヤ(シロボヤ類とすべきかも)である。ていねいに洗うと白くてぬらりひょんの顔そっくりの物体なのがわかる。シロボヤは韓国では普通に食べているし、非常においしいこともわかっている。でも国内では食用であること自体を知らない。漁具にも生物にもなんにでもくっつくやっかいものでしかない。成長するとごつごつして不気味だけど、幼生期には自由に動けるし、ボクたちと同じ脊索(脊椎ではなく単なる棒のようなもの)があるので、決して原始的な生き物ではない。「ほや(マボヤ)」を食べたことがある人が食べたら、似た味だなと思うはずだけど、むしろシロボヤの方が苦みや渋味が薄い。鍋ものなどに入れると、絶品である。無性に食べたくなったけど、残念ながら今回のものは新潟市中心部で行われるイベント用のもの。海のシロボヤに片思い、は間違いだけど、後ろ髪ひかれて帰ってきた。協力/島谷将之さん・星野健一郎さん(拓洋丸)・中務謙吾さん(すべて新潟県新潟市西区五十嵐新川)

10月、31日、八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産の店頭に魚がなかった。当たり前だ。台風が来ているのだから。当然、ほとんどの魚が値を上げている。話が横道にずれるけど、魚はないときな、ない、方がいい。天候に関わりなく魚がいっぱいある世界にだけは行きたくない。気になったのは袋入り(1㎏入り)の「こはだ(コノシロの体長10cm〜14cm)」だ。産地を聞くと熊本だという。有明海産もしくは天草だろうか。「こはだ」は年々右肩上がりに値を上げている。眼の前にある「こはだ」だって、決して安くはないが手が出てしまう、そんな台風来襲である。これで金土日月の4日間楽しめばいいのである。さて、水洗いして開き、強めの振り塩をして30分。我が家の定番、ミツカンの穀物酢で塩を洗い流す。水気を切り、こんどはミツカンの米酢で30分つける。つけ込み時間は脂ののりぐあいで変わるが、今回の熊本産は脂がたっぷりのっていたので30分とする。ちなみにボクはあまり生っぽいのは好きじゃない。これを酢から引き出して、あまり酢を切らないで保存する。まあボクのやり方は町のすし屋風だけど、絶対やってはいけないのが香りのある伝統的な製法の酢を使うこと。魚を調理するときの酢は無個性がいい。赤酢には惹かれるところがあるが高すぎる。酢が馴染む前に1切れ食べてみて、驚くほど脂がのっているので驚きを感じる。ニシン目の中でもコノシロは脂がのっているといっても、決してのりすぎにはならない、嫌みがないのがいい。さて、これを酢の馴染みを確認しながら3日にわたって楽しむ。1日目は酢が若い気がするが、脂がのっているのでとろりと舌に吸いつくようである。ちょっとだけ脂がとろけるときの甘さがある。ニシン目らしい強いうま味と野卑な部分もいい。

新潟県西区五十嵐新川漁港周辺の生物・食物図鑑を作っていく。新川漁協に水揚げされる水産物は量的には多くないが、多彩である。ここ新川漁港周辺には磯もある。日本海で磯と言えばサザエなので、サザエも少なからずとれる。日本海に多い角なしのサザエだ。日本海の北海道西部から九州まであまねくいるのがサザエなので、日本海に行ったらサザエを食わなくちゃと思ってしまうのはボクだけか。星野さんが見せてくれたのは、大人のこぶし大のものもあり、刺身にもできそうでもある。残念ながら今回のものは新潟市中心部で行われるイベント用のもの。磯のサザエの片思い、は間違いだけど、後ろ髪ひかれて帰ってきた。協力/島谷将之さん・星野健一郎さん(拓洋丸)・中務謙吾さん(すべて新潟県新潟市西区五十嵐新川)

高知県といえば釣りウルメだろう。日本広といえどもウルメイワシ専門の釣り漁があるのは高知県だけだ。小振りの丸干しは高知県以外にもいいものがたくさんあるが、大きいのはやはり高知だと思う。干しているのに全長20cmを超えるので、干す前はさぞや大きかろう。漁を見に行っていないのが残念だが、丸干しを見つけると、高いのを承知でついつい手が出る。

3日目はサッポロビールの柴田さんの運転で西に向かう。高知市内から高速に乗る前に市内愛宕町の金曜市んび寄ってくれた。残念ながら野菜が中心で、少しだけ塩乾があるだけ。日曜市のお祭り騒ぎとは打って変わって日常的な露店が並ぶ。

サルトリイバラの葉で餅をくるんだものを、滋賀県で「がらたて」、三重県尾鷲市で「おさすり」、和歌山県・島根県で「かしわ餅」という。地域ごとに呼び名が違うので呼び名採集という意味でも面白い。高知県では安芸市、室戸市・大月町では「しば餅」だ。今現在、高知県では「しば餅」以外は見つけていない。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に三重県熊野市からメダイが来ていた。5.4kgなのでとても1本は買えない。「半身ね」というと「いいよ」だった。この日、ボクは疲れが体中にまわりにまわり、体がゼリー状になっていたので魚を下ろす気にもなれない。半身買いはこのようなときにとてもありがたい。以上は前にも書いた。さて、最近、フェンネルシードをやけに使っている気がする。魚をゆでたり、焼いたりするとき、またフライにも使っている。フライでは前回、パン粉に混ぜて使ったが、今回はメダイたっぷりまぶしてみた。黒コショウ・グラウンド少々と一緒にまぶし、少し寝かせてから揚げる。メダイのフライはほどよく繊維質で柔らかい。どこにも欠点がない。メダイの欠点は欠点のないことだと思っている。そこにフェンネルシードと黒コショウの風味がくると、単調さが消える。口の中に残るフェンネルシードの香りもいい。ついでにそこにじゃぼじゃぼかけ回した、璃の香がほどよい酸味と甘味、すがすがしい香りをプラスしてくれた。フライというものはいろいろ様々な工夫がきく。新潟県で買ったサッポロビールの「風味爽快ニシテ」という不思議な名前のビールをぐびぐび。

高知県幡多郡大月町にある道の駅大月、「ふれあい市場」はとても面白い。前回行ったときにも発見がありすぎて困ったものだが、今回は面白すぎて困っちゃう、といったものを発見した。磯の貝の塩ゆでである。真四角のケースに入っていて、標準和名、地域名がごちゃ混ぜになっている。ニシキウズ貝(ニシキウズガイ)、ニガニシ(キナレイシ)、カタベ貝(カタベガイ)、チャンバラ貝(マガキガイ)だ。製造者は同町の矢野雄二さんであるが、これ、冷凍してもあまり味が変わらないので、お土産にもなる。しかも磯の貝の入門にも役に立つ。個々の貝について解説していきたい。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産の店頭にも台風の影響が出て来た。選ぶなんてできないので、宮城県産ギリギリのヤリイカを買う。ちなみに消費地では、ギリギリを買えるのが買い上手で、むやみにいいものばかりを買うのはバカっ買いという。やはり刺身にはギリギリかな? と思って刺身にする。水洗いして皮を剥き、軽く振り塩をする。食べる直前にヒモ状に切り、ビックリするくらい辛い黄色い唐辛子と、「けらじ」(喜界島特産のものを、高知県安芸市、岡宋農園の岡宗俊介さんが栽培しているもの)と塩で締める。黄色い唐辛子は付着した部分が本体を食べなくても辛いので、ちょんとんとするだけでボクはいい。それよりも「けらじ」の穏やかな酸味と甘味が非常にヤリイカに合う。レモンなどでは締まりすぎて硬くなってしまうが、「けらじ」だと硬くならず、しかもヤリイカのうまさを生かしてくれる。これでアブソルートのソーダ割りに「けらじ」で「けらじ」ずくめ。

新潟県西区五十嵐新川漁港周辺の生物・食物図鑑を作っている。新川漁協やその周辺には自然にも、食べ物にも詳しい猛者がたくさんいる。この猛者と一緒に波打ち際で見つけた生物の7番目はムラサキウニである。ムラサキウニは、一般的に「紫うに」と呼ばれているキタムラサキウニとは縁もゆかりもない。棘はキタムラサキウニよりも太く、表面が比較的つるつるとして滑らか。棘の長さもキタムラサキウニはほぼ同じだが、ムラサキウニは中に極端に長いのがある。一般的な食用ウニではなく、地域性の高い食用ウニである。太平洋側では主に初夏に旬を迎えるが、新潟県での旬は不明だ。新潟県はムラサキウニとキタムラサキウニともにとれる地域なので、こんどはキタムラサキウニを探したい。協力/島谷将之さん・星野健一郎さん(拓洋丸)・中務謙吾さん(すべて新潟県新潟市西区五十嵐新川)

時間が限られているので、三津・高岡をやめて室戸漁港に寄る。水揚げはなく、ここでは魚の呼び名などを採取する。そのまま浦戸屋に寄るが、最強の魚屋といえども時化には勝てず。直売所に寄りながら高知市にもどってもらう。濵町諒介さんにつき合ってもらって申し訳ない。ただできる限り伝統的なものを今のうちに買っておかないと、いつ消えてしまうか知れたものではない。などと濵町さんに話したがわかってくれただろうか?余談だけど徳島では「しきみ」だけど高知では「しきび」などなど、知らない老人と無駄話する。お茶、柑橘類などを徹底的に買って、高知市内にもどる。高知市にもどり、時間が出来たので、『葉牡丹』にオムライスを食べに行く。意外にも酒の後にはおいしいのに、昼ご飯として食べたら平凡だった。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に三重県熊野市からメダイが来ていた。5.4kgなのでとても1本は買えない。「半身ね」というと「いいよ」だった。この日、ボクは疲れが体中にまわりにまわり、体がゼリー状になっていたので魚を下ろす気にもなれない。半身買いはこのようなときにとてもありがたい。以上は前にも書いた。そして今ある食材を整理してみる。鍋具材をあっちからこっちから集める。新潟県の「おしぶ」、こんにゃく、エリンギに金時草(ハンダマ)、玉ねぎを適当に切る。割り下、酒・砂糖・醤油(高知県宿毛市 篠上商店 フンドウカネカ醤油)・水を合わせる。メダイを適当に切り湯通しして冷水に落とし、水分をきる。鍋に割り下を張り、ことこと煮て食べるだけなので、あっと言う間の深夜酒の友となる。10月初旬が過ぎようとしているとき、やっと鍋気温となる。年々歳々、鍋ができる時季が短くなる。ことこと煮たメダイは柔らかく、口の中で脆弱に潰れる。味の特徴は甘味というか、嫌みのなさだろう。この特徴がなく、他の魚に置き換えやすくて平凡なところを関西では嫌い、関東では好む。ついでに言うと、「おしぶ」やこんにゃくや野菜などがおしなべて、大量にとれるのも魅力なのだ。なかなか疲れが去らないので、「ほろよいカップ 司牡丹」をなめるようにやる。情けなし。

10月4日、新潟県西区、五十嵐漁協、新川漁港にいたら漁師の鈴木重雄さんが通りかかった。おかずを釣りに行ってきたようだ。短時間の釣りだったようだけど小振りのアカカマス、カサゴ、キジハタとうまいもんばっかり釣っていた。「キジハタおくれ」と言ったら、「これはダメじゃ」というのでアカカマスとカサゴを分けていただく。鈴木さん、ありがとう。以上は前にも書いた。もらったカサゴは潮煮にする。煮つけではなく汁ものである。水洗いして内臓はずぼ抜き。肝だけは残す。湯通しして冷水に落として残った鱗やぬめりを流す。これを水から昆布を差し入れた中でじっくり30分以上煮る。酒と塩だけで味つける。ここに白木果樹園の青切りの花柚を落とし、吸口に花柚のスライスを添える。カサゴから濃厚なうま味が染み出し、汁だけでご馳走といったものとなる。長時間煮ているのでカサゴの身は柔らかく、身離れがいい。塩と酒だけの味つけなので、カサゴの味を真っ向から味わえる。

5時過ぎに高知県水産振興課、濵町諒介さんが迎えに来てくれた。室戸岬の東側に向かう。高知県室戸市の大敷網でいちばん北にある推名漁港に到着する。徳島県阿南市椿泊から、高知県東洋町、そして室戸市と一直線に太平洋に面している。930年・931年に紀貫之が海賊の来襲に怯えながら北上したところでもある。推名漁港を訪うと推名大敷組合組合長・橋本健さんが迎えてくれた。大敷網が上げられるかどうか双眼鏡でのぞいている。推名、三津、高岡と大敷網が並んでいる。推名漁港から南に、室戸岬東側の全大敷網が総て見ることが出来る。

京浜急行の車内で、夫婦なんだろうか、サンマの話をしてた。「今年のサンマは昔のと比べると落ちるって専門家が言ってた。食べているエサが違うってさ」なんて話だ。まさか、そんなバカなことを言う専門家がいるはずはないと思う。昔のサンマとは2020年以前ということだろうか?この年まではいいサンマが普通に入荷してきていたのだ。でもこれと現在のサンマを比べるのは、愚か者というかバカ丸出しである。敢えて言うとバカそのものかも?過去の味覚の記憶は美化されがちなのだ。それを割り引いて考えなくてはいけない。それができない専門家は削除されるべきだ。もっと言えば、このような専門家は偽専門家である。写真は北海道青森県沖太平洋でとれたもので154g、2㎏で13入りであり、非常にうまかった。4㎏で40とか、それ以上軽いものもある。サンマはサイズでも味が違う。大きいほど値が高いが、150g 以上はその味(価値)は値段に見合っていない。今年は2㎏で9入りなんてものもあるがいくらするんだろう。要するに昔と同じサイズがとれているので豊漁である。今年のサンマの味は比べる必要などない、実にいいサンマである。ついでにサンマを養殖しようなんて人間がいるが、脳みそが溶けているのかも知れない。サンマがとれなくても我慢すべきだし、おいしくない年があってもいい。省エネこそ今やらなくてはいけないこと、自然破壊は極力避けるべし。

高知県ではきし豆(岸豆。川原などに生えているカワラケツメイ)のお茶があり、チャノキを枝ごとつんだ番茶もある。ともに焙じたものを淹れる。単独でも飲むが、ふたつを合わせたものが「土佐番茶」である。単に「番茶」という表示で「きし豆」入りという表示もある。高知県各所で「きし豆」入りの番茶を買っているが、どうやら作る人により「きし豆」比率が違っているようだと思えてきた。今回の晩茶(高知県幡多郡黒潮町)は「きし豆」が比率が高いためだろう、高知市内で買ったものよりも甘味が強い。

イソフエフキというよりも、沖縄の庶民的な魚「くちなじ」と言った方がわかりやすいだろう。沖縄では何度か買っていて、30cm前後ばかりを食べていたのが、ほとんど50cm近い高知県宿毛の個体の刺身を食べてビックリ仰天する。小振りの個体と比べると異次元の味だったのだ。意外に脂があり、口に入れるとこの脂の口溶け感があり、甘く感じる。高知県から送ってきて撮影後に食べたのに、ほどよい食感がある。まさに刺身として上等の味だし、豊かなうま味があるので、口の中で味の中だるみがない。高知県土佐市、白木果樹園の小夏とわさび、醤油で食べたが近年希にみるうまさだった。イソフエフキよりもなお大型になる「たまん(ハマフエフキ)」を味で凌駕する。今回のものは種として最大サイズだと思われるが、本種の評価を大幅に変えることになった。

高知県高知市愛宕町の金曜市の塩乾などを売る店で、買ったものだ。「かますの煮干し」は日本の各地で作られていると思うが、高知県もそのひとつだ。市内にある市(日曜市・金曜市など)では定番的なものだと思われる。問題はアカカマスかヤマトカマスか、だが、今回のものはアカカマスのようだ。過去にはっきりヤマトカマスだと思われるものは見ていない。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に三重県熊野市からメダイが来ていた。5.4kgなのでとても1本は買えない。「半身ね」というと「いいよ」だった。この日、ボクは疲れが体中にまわりにまわり、体がゼリー状になっていたので魚を下ろす気にもなれない。半身買いはこのようなときにとてもありがたい。「頭もおくれ」ということで頭を梨子割りにしてもらう。楽楽、楽ちんとしか言いようがない。ご飯のおかずにさっそく頭半分を煮る。頭は湯通しして冷水に落としてぬめりを流す。水分をよく切り、酒・砂糖たっぷり・醤油(高知県宿毛市。フンドウカネカ こいくち 甘口醤油 篠上商店)ではじけるほど田舎風に煮てみた。煮つけの味つけは本能の赴くままになので、疲れが甘味を欲しているのである。もちろん、ご飯をチンしてぱくぱくと、メダイの皮のねっとりした味で食べる。皮だけでも充分満足できる味だけど、ついでに身の方も食らう。濃厚な味つけで煮ても身は柔らかく、身自体が主張するところはわずかだ。でも、ご飯にはこの嫌みのさが生きる。これにてご飯一膳。煮汁だけで一膳。終いに垂らした高知県土佐市、白木果樹園の花柚が効いている。これなどメダイという平凡すぎる魚の煮つけに持って来いだ。

9月下旬、高知龍馬空港に下りたってバスに乗り、高知市まで。下りたのは「はりまや橋」のたもとだった。「はりまや橋」が昔よりもちょっと橋らしくなっていた。この橋のようで橋ではない橋は、民謡として有名になったわけではなく、ペギー葉山の『南国土佐を後にして』と小林旭の同名の映画のせいだ。小学校の修学旅行で行った高知のコースには含まれていなかった気がするが、当時の教師が無意味だと思っていたせいかも知れぬ。都内では晴れ間すら出ていたのに本降りの雨で、非常に暑いし湿っぽい。バスで植物学なのか環境学なのかをやっている方に声をかけられた。せっかくなので植物学的な疑問を教わる。

10月4日、五十嵐漁協、新川漁港にいたら漁師の鈴木重雄さんが通りかかった。おかず釣りに行ってきたようだ。短時間の釣りだったようだけど小振りのアカカマス、カサゴ、キジハタとうまいもんばっかり釣っていた。「キジハタおくれ」と言ったら、「これはダメじゃ」というのでアカカマスとカサゴを分けていただく。鈴木さん、ありがとう。そのまま関越、圏央道と道交法違反もなく帰宅する。真っ先に、魚を撮影して計測して水洗い。そのままペーパータオルにくるんで保存する。翌日、夜に三枚に下ろして、腹骨・血合い骨を取り、皮をあぶって氷水に落とす。水分をとって冷蔵庫で皮を落ち着かせる。白木果樹園からの酢みかんをあれこれ並べて、なめて、かじってカラマンシー(四季橘)を選ぶ。あとは盛り付けるだけ。三重県尾鷲市岩田昭人さんがくれた辛い青唐辛子「虎の尾」を別盛りにする。カラマンシーを搾り、ザルツブルクの塩をちょんとのせて食べる。小振りながらアカカマスは、予想外に脂がのっていて野性味溢れる強い味がする。舌に感じるうまいが大きい。カラマンシーはシークヮーサーに似ているが、ライムが持つ苦渋さがほどよく存在する。アカカマスの強い味にはカラマンシーだな、と思う。酒はアブソルートのソーダ割りにベルガモット。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に岩手県から「煮だこ」が来ていた。温暖化で、岩手県産で「煮だこ」ならミズダコだろう、と思えない今日この頃であるが、今回のものはまごうことなきミズダコの「煮だこ」だ。見た途端に手が出た。疲れが取れないときは「タコを食べるべし」、と言った魚屋がいたが、本当かどうかはわからないが疲れていることは確かだ。しかも、「煮だこ」は切るだけで食べられる。「煮だこ」は傘膜(足回りのびろびろ)を切り取り、適当に切る。はい、それだーけーよ、なのだ。後は食べるだけ、だけど新潟県新潟市西区内野町の「越の関」をわざわざ冷やしておいた。マダコの味の特徴は小豆を煮たときのような独特の風味だが、ミズダコはこの香りが弱く、マダコと比べると全体に柔らかい。マダコとミズダコを優劣で語る人がいるが、愚かだ。どっちを選ぶかは好みの問題でしかない。ボクなどミズダコを食べたいときは、ミズダコを、マダコを食べたいときはマダコを食べる。食べるまでたった数分の「煮だこ」って素敵な味なのだ。噛むと柔らかくじわじわとタコらしい味わいが口中に広がる。噛む、噛む、噛む、と長々と味が絶えないのがいい。おおおお、冷やした「越の関」に合う。

高知に行ったら必ず買ってしまうものに「てつ干し」がある。今回買ったのは「まいら鉄干し」で、『いずま海産(高知県室戸市)』のものだ。「まいら」とはアオザメのことである。角材状で微かに赤みを帯びている。塩加減がほどよくとてもボク好み。高知県東部の室戸市や安芸市などなどの「てつ干し」は、どれもこれもよく出来ている。はずれがないのがうれしい。しっかり焼き目がつくくらい焼くのが好きなので、じっくり四方八方から火を当て時間をかけながら焼き上げた。これを手でむしりながら野性的に食らう。高知県で買った土佐鶴にも合うし、ビールにも合う。いずれにしても酒の友なのは高知県だからかも。

アドバイザーなどという大層なことをやらかす人間ではないので、あくまでもお手伝いだ。前回、新川漁港活性化協議会の打ち合わせをしているとき新川漁港周辺と新潟市民との接点を探す話となる。新川漁港は釣りのメッカであって、様々な釣りができる。でも釣りというだけではちっとも面白くない。そこでぽかりとボクの脳みそに浮かんだのが、新川漁港隣の五十嵐浜での生き物とのふれあいである。余談になるが、新川漁港、五十嵐浜の漁師さんは、皆実にユニークで、ある意味、自然相手に遊ぶのが好きだ。ボクもその方面では人後に落ちない。漁港内だけではなく、過去に地引き網での成功例があるが、ちょっと大がかりになる。もっと原始的、体当たりで遊ぼうぜ! となる。遊びながら学ぶのが真の学びだ、というのがボクの信念でもある。

秋、高知県のスーパーに「ある率」が高く、旅のできるだけ最後に買うのが、「いもの茎(いものくき、とも、いもぐきとも言う)」だ。要するにサツマイモの茎だけど、直売所にはあるけど、スーパーに並ぶという地域は少ないのではないかと思っているが、データはあまり集めていないので、なんとも言えない。とにもかくにも高知県で「いもの茎」を買い、真四角な「厚あげ」(梶原食品 高知県宿毛市)と炒め煮にする。少しだけアカカマスの煮干しだしを使う。実にありきたりな炒め煮だけど「いもの茎」のしゃきしゃきした食感と、噛みしめたときの味、少しだけの甘味が他に類を見ない味を生んでいる。おいしいんだけどあまり自己主張しない「厚あげ」もとてもうまい。丸みのあるアカカマスの煮干しだしは炒め煮に向いている気がする。穏やかにすべての材料を包み込んで、ひとつの料理としてのまとめている。もちろん合わせるのは、白いご飯だ。

やっとこさ同定できた高知県古満目産ハナザメを湯引きにした。酢みそをつけつけ食べると、やけにうまい。やはりていねいに扱ったメジロザメ科のサメは文句なしに、うまい、ということがわかる。きっとサメだと言わなければ、単純にうまい、と感動できるのではないか、と思う。淡泊な味わいだけど、口の中で脆弱にほぐれるその感じがすでにご馳走だし、サメ独特のうま味がある。この湯引きと酢みそは西日本ではありきたりの組み合わせだけど、素晴らしいとしかいいようがない。これほどおいしい魚が代金(関東では入合)になって、本当にいいのだろうか? と思ってしまう。高知県のコンビニでいくつか買った、「ほろよいカップ 司牡丹」がうまい。

高知県で作られている「ぶしゅかん(モチユ)」は8月後半から10月はじめにかけて水揚げされる、「めじか(マルソウダ)の新子」のためにある、という人がいる。実際、「ぶっしゅかん」が青いのもこの頃である。皮も果汁もおいしい酢みかんなので、何にかけてもうまいが、「めじか(マルソウダ)の新子」の刺身にやけに合う。高知県土佐市、白木果樹園から送って頂いたので、「めじか(マルソウダ)」は無理なので、近所で売られていた小振りのカツオの刺身に使ってみた。変な名だけど、カツオのめじか新子風とでも言えそうである。ほんのり甘味がある「ぶしゅかん」の果汁と醤油の組み合わせが、やや小さく切ったカツオに合う。実に印象深い味で、あえていうと「ぶしゅかん」があるから生まれる味でもある。酢みかん、醤油に、細かくすり下ろした果皮の強い苦みと強い香りが、カツオの刺身を異世界のもののごとくする。「ぶっしゅかん」の特徴は種が大きく多いことだが、この種を取り除こう、なんてことをやったら「めじか新子風」にはならない。

高知県土佐市、白木果樹園からいろんな種類の柑橘類を送ってもらった。現在整理中だけど、非常に難航している。とりあえず、1種ずつ紹介していきたい。ベルガモットという言葉は知っていたが、それが何か?まったく知らなかった。あえて言えば、食べ物なのか? すら知らなかったと言っていい。主産地はイタリアという柑橘類で、鼻をすりつけただけでいい香りがするなんて、ことも。果汁と果皮の香りは、間違いなく柑橘類なのだけど、全体的に、冬の湿った枯れ葉が敷き詰められている森を思わせる。ボクの表現能力を超えている存在なのだけど、果汁には微かに苦みがあり、後味は苦み以上に僅かばかりの甘味がある。イソフエフキの刺身にかけたけど、ベルガモット自体の存在感が強く、わずかな苦みが邪魔な気がする。魚よりもそのまま切り口をなめたくなる。

久しぶりに食べる、アカアジの塩焼きが滅法うまい。アカアジは水揚げ量がごく少なく、手に入れた個体数が少ないので、旬がよくわかっていない。このような種は地道に多固体食べて行くしかない。9月27日、高知県大月町道の駅で買ったアカアジは脂がのっていた。焼き始めると内側から脂が染み出してきて泡となる。焼きたてを食べると、強いうま味があり、身質がいいので口の中でのほぐれ感も上々である。これほどアカアジの塩焼きがうまいとは思わなかった。合わせた酢みかんは高知県産青柚子。

カワラケツメイは、本州、四国、九州などの川原などに生えているマメ科の植物である。これを炒って飲む地域は国内に点々と散らばっているようだ。高知県は島根県とともに広い地域でカワラケツメイのお茶を飲んでいる。高知県で「きし豆茶」という。カワラケツメイが川原など、川岸に生えているために「岸豆」だ。これが和歌山県では「弘法茶」、岐阜県の一部では「びん茶」、島根県では「浜茶」という。カワラケツメイは便秘、利尿作用、むくみを取る薬効があるとされている。ただ島根県津和野などでは「茶は贅沢だから浜茶」を飲むとされている。ちなみに高知県の「土佐番茶」は、若芽だけではなく、枝ごと大雑把に切り取りお茶に、したいわゆる一般的な晩茶も言うが、この晩茶を焙じて「きし豆」を加えたものが普通だという。

高知県宿毛市田ノ浦、すくも湾(漁協) 中央市場で、木村定置 株式会社木村水産 幡多郡大月町安満地松島)の水揚げを見ていた。明らかにアカカマスでもヤマトカマスでもない。なんだろうな? と思ったら木村さん(?)が1本分けてくれた。体長41cm・457g なのでカマスとして大きめである。帰宅して同定してタイワンカマスと判明する。やはりカマスは直感的に同定するのは難しい。大急ぎで三枚に下ろして、軽く振り塩をする。少し寝かせて皮目をあぶる。冷水に落として水分を切り、少し冷蔵庫で皮目を落ち着かせる。やはりカマス類は皮に味がある。独特の香りがあり、これが実にいい。これだけでも魚としては上等である。脇に添えたのは高知県土佐市、白木果樹園の青い小夏。香りはほどほどながら、ほんのり甘味のある優しい味である。

高知県宿毛市、すくも湾(漁協) 中央市場で与力水産さんが競り落とした魚を見ていたら、気になるオニカサゴ属(フサカサゴ科)を発見した。明らかにオニカサゴではないが、持ち帰らないと同定できない。お願いして分けてもらった。驚くなかれ、我がデータベース2個体目のヒュウガカサゴであった。1個体目に出来なかった詳細撮影をして、食べてみた。

9月1日、早朝から鈴木重雄さんの刺し網漁に乗船させていただき、新川の猛者達と海岸線で生き物を探した。これにて詰め込みすぎの4日間がやっと終わった。途端に、異常に腹が減っていることに気がつく。午前中でもろもろが終わったので、越後新川の仲間達に教わった、超オススメの『味の八珍亭』を目指す。ちなみに二番手におすすめなのは『こまどり』だった。先行く車が右折したら、そこが『味の八珍亭』だったものの、なんと定休日だった。疲れと腹ヘリで体がふやけてきた。仕方なく、もうひと踏ん張り、もう一軒の『こまどり』へ。店は実に地味だが、駐車場はやたらに広い。しかも空きがない。困っていたらクラクションが鳴って、ここよ、ここよ、と知らない人が空いたばかりの空間を教えてくれた。駐車場の混み具合をみて、「混んでいそうなのでやめます」と言ったら、「待つかも知れませんが、きっとすぐ入れますよ」と教えてくれる。これから新しい店を探す気にもなれず。熱暑の、店前の空間で待つ。確かにたいして待つこともなく、店に入れたと思ったら、こんどは店内が非常に広いのに驚かされる。昼酒をしている人もいるけど、ほとんどが麺類を食べている。やって来た店員さんに言われた通りに味噌ラーメンにする。これが、信じられないくらいに腹ヘリだったためか、ウルトラ級においしい。スープの塩気で、ふやけた体がしゃきっとして、丼に残ったスープ一滴も残さず平らげた。とすると、噂の『味の八珍亭』はどれほどうまいんだろう?

高知県幡多郡古満目、宿毛からいろんな魚を持ち帰ってきた。まずはクロヒラアジである。クロヒラアジは間違いなく増えている。温かい海域ではまとまって揚がることもあり、普通に食用とされている。ちなみにボクのもっとも好きな魚のひとつである。大月町古満目定置から分けていただいてきた。迷うことなく刺身にして食べた。水揚げの翌日はあまり味がいいとは言い難かった。むしろ焼霜造りにして正解であった。皮付きのまま氷水に落とし、水分を切って刺身状に切る。これまた高知県から持ち帰った「ぶっしゅかん(モチユ)」の皮を散らし、果汁を搾り、醤油をかけ回して食べた。こまったことに酒が欲しくなる。逢魔が時、少し早めだけど「ほろよいカップ 司牡丹」を飲む。

居酒屋で半分討ち死にをし、ホテルまで戻ろうとしたとき見つけたのがステーキの店だった。まさかステーキはないだろう、と思ったらハンバーグがあった。『ドスビーバー』という店で、家族ずれが出て来たのを見て店内に入る。外観通り狭い店だけど、匂いからして正解だと思った。

8月30日、ホテルにたどりついたら体がゆらゆらする。それでももったいない気がして外出する。非常に空腹なのは午前2時から動いているためで、腹にかなり詰め込んでも、詰め込んでも腹が減るのは、情報処理をしながら動いているからだ。ボクの頭部には大量のソケットが生えていて繋がるソケットを探している。歩きながら情報を整理して繋がるソケットを探す、と、とても疲れるし、腹が減るのだ。さて、古町を目指す。居酒屋的な、がさつだけどがさつすぎない店が好きなので、探し歩くが、歩くのが辛くなってきた。そのとき見つけた静かそうな居酒屋に入る。入ってすぐ、だめだ、と思ったけど、もう遅い。仕方ないのでビール、日本酒に刺身などをお願いする。刺身は地物のようだしぎりぎり合格点ではあるが、たぶんこの板前さん、プロではない。しかも注文して出てくるなどのタイミングが悪い。

『古川鮮魚』、8月30日の昼の定食は、やたらに盛りだくさんであった。お客さんで立て込んでいた中、先ず出て来たものは新潟名産とも言えそうな茶豆だ。新潟県で食べる枝豆はいつ食べても最上級の味がする。アジの南蛮漬け(?)に「ばい(ツバイ)」の小鉢もいい。ツバイは日本海特産の小型のエゾバイ科の巻き貝で、煮る巻き貝の中でも味は最上級といえるものだ。古川鮮魚の大女将が煮ているのだろうが、煮加減もいい。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に下関市赤間町『下関勇次水産』から45cm・1.4kg のハガツオが来ていた。小振りだし、週明けなので鮮度は抜群とは言い難い。ただし触った感じがいいのである。以上は前にも述べた。1本全部余すところなく食べたが、今回だけは塩焼きがいちばんだった。三枚に下ろして切り身にして、切身3切れだけ振り塩をし、そのまま寝かす。水分が出て来たら袋に入れて密閉して3度に分けて食べた。づけ、塩焼き、みりん干し、煮つけ、ポシェ、フライにして、塩焼きがいちばんおいしかった。この場合のいちばんは今回限りのことで、ボクのいちばんはコロコロ替わる。ときどき食のエッセイなどで、普遍的な意味で、こうすべきだとか、この食べ方がいちばん、だとか、何々はこれに限る、とか書いているのを見るが、愚かしいとしかいいようがない。言語能力が低いのだと思う。一人で歩き出たばかりの幼稚園生のようだし、食べ物の本質がわかっていない。食は緩みのないハンドルのようではなく、ハンドルのない乗り物のようだ。好みも、味の評価も日日時々に変化する。ということで今回だけは塩焼きが滅法うまかった。ということで次回は違うかも知れない。こんな不安定さが食べ物のいいところなのだ。小振りだったし、それほど脂がのっていたわけでもないのに、焼いた香りに脳みそを直に触られるような快楽を感じた。皮にも豊かな味があり、身にも名状しがたい味があった。切り身の大方をみりん干しにしてしまったことを後悔した。ご飯の友と、お茶の友として、買った日の昼に、あっと言う間の3切れでした、という制御不能の自分を大いに反省した。今回だけは、ハガツオは塩焼きに限る。

2025年8月30日、午前2時に新潟市漁協の競り場・中央卸売市場を回り、8時過ぎにホテルにもどりメモを整理する。9時過ぎに本町を目指す。1980年前後に新潟市の本町通を歩いている。目的は朝市だった。新潟市の朝市は本町(本町通とその周辺)と白山が有名で観光名所でもあった。並んでいるものが多彩で、新潟を感じられるものだらけだった。何時間でもいて飽きないところだった。ただ、今、昔のにぎやかさはない。本町には浜焼きの店があり、農産物を売る露店も多かった。それが今や見る影もない。新潟市の新潟市らしさは朝市にあり、だと思うのだけど、これでは消滅してしまう。唯一の救いは、未だに元気のいい魚屋が何軒もあって繁盛していることかも。写真は本町下市場。

新潟市には地物の市場と中央市場がある。中央市場には食堂や麺類の店がある。基本的に市場で働く人が行かない、観光客相手の食堂、新しいタイプのラーメンの店には立ち入らないので、『水産食堂』一択となる。ここは素っ気ない造りだが、意外に味がいい。しかも市場人が食べている、市場人のための食堂であるのがいい。迷わず、定食をお願いする。AとBあったけど、どっちだった忘れた。トンカツにみそ汁という普通の取り合わせながら、やはりここは安定していておいしい。次もここしかないと思いけり。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に連続してバイが来ている。活けの貝は産地不明であることが多い。産地を聞いてくれるなら買ってもいいけどな、というと問い合わせてくれて山形県産だということがわかる。これを産地でもある新潟県新潟市、新川漁港で聞いたやり方で、塩ゆでにしてみた。ザルなどに入れて流水で貝を洗う。水分を切り、鍋に塩水を入れた中に入れて火をつける。沸騰してきたら2、3分煮て火をとめる。そのまま鍋止めをして冷ます。5分、10分煮たものとは似ても似つかない味になった。醤油など発酵調味料を使っていないので、バイの味が直に感じられる。そして足の部分がしこっとしているのである。しかも足の甘味は、よく煮たもの以上にある。あまり煮ていないのにワタには火が通り、濃厚でいながら後味がいい。数え切れないほど食べているバイの本当の味に行き着いた気がする。バイは酒の肴でもあるがおやつでもある。文字の世界に疲れたら2個、3個食べて休む。その内、皿の中は空になる。

産みの苦しみの中、それでも外出せざる終えなくて駅前に出た。帰りにスーパーによって「ウルメのほお刺し」を買って帰ってくる。お昼ご飯に焼いたら、はずれだった。干しがあまく、好ましい風味に欠ける。丸干しはときどき無性に食べたくなるが、めったに当たりに出合えない。ここ数ヶ月での当たりは群馬県高崎魚市場『魚栄』で買った、やせっぽちの「うるめいわし」(小川商店 佐伯市米水津色利浦1533)だった。ウルメイワシは大きくても痩せていても、いいものはよく、ダメなものはダメで、『小川商店』のは痩せっているのに滅法うまかった。

最初に漁港で遊ぶときは救命胴衣を着用してほしい。漁港内で落ちたらまず助からない。子供用など2000円以下のものもある。ついでにいうと私事ではあるが、ゴミ拾いセットを持っていく。最小限でもいいのでゴミを拾ってくる。釣りにはマナーが大切なのである。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に下関市赤間町『下関勇次水産』から45cm・1.4kg のハガツオが来ていた。小振りだし、週明けなので鮮度は抜群とは言い難い。ただし触った感じがいいのである。帰宅して下ろしたらぎりぎり生でいけるといったもの。三枚に下ろし、切身にし、いろんな料理を作るために下処理をする。残った身を細かく切りつける。これを醤油・少量のみりん・しょうが、胡麻で漬けにする。

7時前に新潟市内のホテルにチェックイン。ぼろ切れのようだったので湯船につかる。つかりながら眠気の大波に襲われる。それにしても面白いと夢中になるのは、年を取っても同じである。お昼にカツ丼を食べたのに、夕方、お腹と背中がくっつきそうだったのは、走行距離500キロ以上、午前0時に出発してから面白すぎて興奮に次ぐ興奮、そしてテキスト化までして、街歩きまでしたせいだ。腹の虫をなだめるために、新潟県新潟市西区内野町、スーパー『ichiman』で買った「ふなべたの刺身(タマガンゾウビラメの刺身)」、「身欠きニシン煮」、「鶏の唐揚げ」と、『ブーランジェ・ヨネヤマ』のパンでビール。救いはスーパー『ichiman』の惣菜の味と、これまた『ブーランジェ・ヨネヤマ』のパンの味だ。惣菜の味つけがいいし、パンにも味がある。惣菜とパンを食べながら、内野町ってまだまだ生きている町なのだ、と思う。新川漁港の活性化を目指しているが、町を取り残しての活性化はないと思っている。漁業と商業を一つと考えないと真の意味での地域おこしはできない。心の中にまだざわざわ感が残っていたので、いつもバッグに放り込んでいる菊水の白缶を飲んでしまう。6時半過ぎまでは意識があったはず。

ボクの生まれた徳島県美馬郡貞光町(現つるぎ町)には、何軒もの「食堂」があった。小学生だったボクが歩いて行ける範囲にも4軒あったのではないか?家族だけではなく町内の人で、「食堂」という人はほとんどいなかった、もっぱら「うどん屋」である。例えば「飯田食堂(写真の)」という名があっても、「飯田のうどん屋」だった。同級生の「食堂」の子供は「うどん屋の子」と呼ばれていが、これはボクが「からっちゃ(唐津屋)の子」と呼ばれてたのと同じだ。この「食堂」を「うどん屋」というのは大阪も同じだったようだ。宮本輝が1977年デビュー作「泥の河」で太宰治賞を受賞し、1978年「螢川」で芥川賞を受賞する。単行本『螢川・泥の河』が出たのは1978年で、東京都千代田区神保町、東京堂書店に積まれていたのを、すぐに手に入れた。当時は大阪というところが今以上にわからなかった。「泥の河」の舞台は淀川が毛馬水門から枝分かれして南流する。大川と名を変えるが、実はこちらの方が本来の淀川である。流れは堂島にぶつかり一度分かれる。北を流れるのが堂島川、南が土佐堀川だ。その両川が再び1つになり、安治川になる。このひとつになるところの南岸が「泥の河」の舞台である。ここは大阪に行くたびに寄る野田の大阪中央市場の南であり、過去に大阪中央市場から船津橋をタクシーで渡って、この舞台の近く、 江之子島の雑喉場魚市場跡碑まで行ったことがあるが、コンクリートだらけで灰色の世界がまさか「泥の河」の舞台だとは思わなかった。主人公、信雄が自分の家、「やなぎ食堂」を指差して、「僕の家、そこのうどん屋や」と言うのである。きんつばを焼き、うどんもあるし酒のつまみもある、多様であることが「食堂」の定義だとされているが、これは東京だけの話だ。大阪では今でも、中華そばがあってもオムライスがあっても、「食堂」ではなく「うどん屋」なのかも。「泥の河」で重要な、土佐堀川にかかる端建蔵橋(はたてくらばし)のたもとに行ってみたい気がしてきた。ただし、端建蔵橋は工事中らしい。

新潟県西区五十嵐新川漁港では朝、水揚げと同時に魚貝類が買える。まだシステムとして成り立っていないが、新川漁港周辺では評判となっている。国内各地で同様のことが行われているが、漁船から直接買うので鮮度はこれ以上望めないし、しかも安い。午前7時から8時過ぎくらいまで、新川漁港で船が帰ってくるのを待っている人たちがいるが、問題は時間と場所がまちまちであること。これを解決すれば、新川漁港最大の魅力となるだろう。

2025年秋、新潟旅日記05 新潟市内野町へ昼過ぎ上越市を後にして、新潟市西区内野町に向かう。内野町に入って気がついた。1980年前後、おんぼろシビックで日本各地を走っていた頃、不幸に不幸が重なってたどり着いたのが内野駅だ。海岸線を、車を走らせていて砂浜にエゴノリ取りの人たちに会って話をしている内に、大間違いをやらかせていることに気がついた。地図を見て道を左折、にぎやかな街に入って、とそれが内野町だったことになる。にぎやかだった記憶しかないが、今や人影まばらとなっている。くるりと街を回って、『やしち酒店』で内野町の酒を買う。この店、酒屋らしく清潔で無駄な飾りがないのがいい。酒の扱いもていねいと見た。内野町には4軒酒蔵があったが、能登半島地震で2軒が廃業を余儀なくされている。新潟県でも新潟市周辺の街は潟(沼や湖)の上に出来ている。地震によわい地域なのである。ここで樋木酒造の鶴友、塩川酒造の越の関を買う。その土地に行ったらその土地の酒を買うのが、ボク流なのである。この2つの酒蔵の酒はともにボク好みでもあった。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産で東京都八王子市元八王子の鮨忠さん(鮨忠元八支店。念のため支店ではない)に会った。立ち話をしていたら煮イカが作りたくなる。「煮イカ」は八王子を中心に無数に散らばっていたすし屋、『鮨忠』の名物でもある。水と砂糖と醤油だけで煮るもので、味は素朴なものである。コツはつきっきりで煮ることかも。「煮イカ」は誰でも作れるけど、職人が作るものと、素人が作るものではどこかしら違う。八王子市横川町の鮨忠さんは「一度にたくさん煮るからうまい」と言っていたが、確かにそんなものかも。ただし、一般家庭で少ない量を煮ても結構うまいと思う。甘いのが勝った味で、スルメイカ本来の味を生かすなんて、まったく考えないで作る。ただスルメイカは濃厚な味つけにすると、余計にスルメイカの味が強くなる。なんだろうな? この蒸したサツマイモのような香りというか風味。これがないとスルメイカらしいとは感じられない風味。煮つけた時間が短く、煮汁は鍋止めしてから染みているので柔らかいのもいい。

新潟県西区五十嵐新川漁港周辺の生物・食物図鑑を作っている。新川漁協やその周辺には自然にも、食べ物にも詳しい猛者がたくさんいる。この猛者と一緒に波打ち際で見つけた生物の6番目はコタマガイである。

新潟県上越市公文書センターで古文書をコピーさせてもらう。センターに向かう道すがら左右に広がる田を見て、悲しくなる。それにしても上越市の田の状況は異常だと思う。高田城市公園にもどりしばしテキストを打つ。散歩中のご夫婦に一番近い食堂の名前を聞いて向かう。教わった『食堂なかしま』という店は見た目からして真新しい。少々不安に感じたが、中はいたって普通の食堂だった。お腹と背中がくっついた末の、朝昼兼用なので、かつ丼と冷や奴にする。客の前に必ずあったのを見て取った冷や奴は、びっくりするほど安かった。それにしても腹の中が空っぽになると、ついついかつ丼とは、我ながら平凡な男よな、……。

考えてみると久方ぶりのマアジの刺身だ。釣ってすぐに首を折ってあるので、身はまだ堅堅である。脂はさほど乗っていないが、食感がこの上なくいい。しょうが醤油で食べて、おお、うまいじゃないかと思い、今度はへべす(宮崎県日向市の酢みかん)をじゃばじゃばかけて食べる。酢みかんと醤油まみれのマアジの刺身を、ご飯のせるうれしさよ、真夏日よ。なんて感じである。ものすごく酢みかんを欲するのは、暑いせいでもある。それにしても横須賀沖のマアジはいつ食べても、うまいねー。

2025年8月29日、10時前に上越市南本町の『高橋孫左衛門商店』に立ち寄る。少しだけ歩いてみたかった南本町だが、時間がなかったので笹飴だけを買った。『高橋孫左衛門商店』は1624年創業という。となると徳川三代将軍家光の時代で、貨幣経済はまだ不完全な時代である。また、十返舎一九(明和2年〜天保2年/1765-1831)も立ち寄ったことがあるという。東海道中膝栗毛が売れに売れた後、生活のためもあって、死ぬまで道中記を書いていた。その一九が『越後紀行集』を書くにあたって立ち寄っていたらしい。そしていちばん有名なのは、夏目漱石の『坊ちゃん』(明治39/1906)に出てくる越後の笹飴である。小説の筋とは無関係に唐突に下女の清の好物として越後の笹飴が登場し、笹ごと飴を食べる清の姿が坊ちゃんの夢に出る。

水産物に通じているとは、水産物を日々に生かせているということだ。ボクなどまだまだ修業が足りないが、日々水産物を生かすことに精進している。新潟県に行ったら、必ず買うのが麩だ。車麩は必ず買い、ときに新発田麩、そして「おしぶ」なども買う。今回買ってきたのは「おしぶ」だ。半分に切るとそのまま汁の実などになり、丸のまま使うときには10分くらい水につけると戻る。今回は我が家の魚の煮汁ストックで「おしぶ」となすをたく。いろどりが地味で、茶色で、華のない料理だけど、まあボクの脳みその大方に染みついている、おいしいの色が茶色では、こうなるのが当たり前だ。スルメイカ、コウイカ、カサゴ類など魚類他種、煮ハマなどの味が凝縮された煮汁で単純にたいただけ。魚貝類の味で煮染まった「おしぶ」くらいうまいものはない。このおいしさは豆腐にもなく、野菜にもない。麩にしかない麩のおいしさで、麩を知らなかった40年くらい前のボクはおいしいをひとつ知らなかったことになる。これがやけにご飯に合うし、ビールにも合う。ビタミンが足りない気がするけど、ボクにとっての完全無欠の味である。

最初に、漁港で遊ぶときは救命胴衣を着用してほしい。漁港内で落ちたらまず助からない。子供用など2000円以下のものもある。浮かんでいるだけで助かる可能性が高い。さて新潟県西区五十嵐新川漁港周辺の生物・食物図鑑を作っているが、漁港内にもいろんな魚がいるのである。ヒイラギは隣で釣っていた高校生がダブルで揚げていたので、魚影が濃いのかも知れない。潮時と関係なく釣れるのもありがたい。浅場にいるので、防波堤釣り(波止釣り)をしていると結構釣れる魚ではあるが、マアジなどとは違い持ち帰らない人が多い。棘があるしヌメリがあるけれど、マアジよりもおいしいんだよ、と言いたい。島根県中海周辺では高級魚だし、高知県でも好んで食べる。持って帰ってねといいたい。しかもしかもこの魚、シイカシイカっと光るのである。食道にいる発光細菌の光りなのでそんなに強い光ではない。でもこのかそけき光が幻想的なのだ。浅場で見ていると、惹かれて魅了される。ついでにこの魚かなり愚痴っぽい。ぐちぐちは言わないけど、ギギギーと鳴く。そーっと観察して御覧、なのだ。

2025年8月29日、8時半過ぎに上越市高田の朝市に向かう。上越市は高田の朝市が3,4、7、9のつく日、直江津が3、8のつく日にある。新潟県の魅力のひとつが県内各地に散らばる朝市である。ボクなど朝市が好きで新潟に行く。ところが年々、新潟の朝市が寂しくなるが上越市もその例に漏れない。専業農家が少なくなり、兼業農家ばかりになり、現金収入があるために市に来なくなったのかも。主役となる農家の出店が消えている。しかも名物、「どらやき」がない。

トビウオの季節は、三日にあげず皮付きの「たたきなます」を作り、「みそたたき(なめろう)」を作る。「みそたたき(なめろう)」は何十回作っても、たぶん何千回作っても飽きが来ないだろう。よく作るので、体調のバロメーターにもなる。最近、やけにみそ多めなのである。極端に長時間のディスクワークで汗をかくわけでもないのに、みその塩気が欲しい。今回は胸鰭を切り取り、腹鰭を抜いて三枚に下ろす。腹骨・血合い骨を取り、皮付きのまま細かく切る。大葉、みょうが、ねぎ、玉ねぎ、しょうが、にんにく、三重県尾鷲市の青く辛い唐辛子など多種類少しずつ刻む。この日は長崎県長崎市、『チョーコー』の長崎みそをたっぷり加えて、たたく。塩分取り過ぎで身体に悪そうなのに、爽快感を覚える。トビウオは強い味つけ、香りのある野菜と一緒でも、背の青い魚特有のうまみがあるので、塩気よりも魚のうま味が勝つ。合わせたのは冷蔵庫の隅に残っていたホッピーだけど、「みそたたき(なめろう)」には、このような下町居酒屋的なものが会う。

新潟県でよく見かけるのが「伊勢ひじき」である。赤い縁取りをした紙のパッケージに入っていて、昔ながらの文様が描かれている。山陰以北の日本海ではヒジキがとれないので、新潟県では古くより伊勢(三重県伊勢地方)からヒジキを取り寄せて流通させていたのかな? などと思ったりする。今回、「伊勢ひじき」を買った新潟県西区内野町『ichiman』は、新潟市の地スーパーといったところで、新潟を感じさせるものがたくさん売られていた。「伊勢ひじき」、『角平商会』(三重県多気郡明和町大淀乙655)は三重県伊勢地方のものだけど新潟らしいと感じて買ってしまう、ものでもあるのだ。

旅の準備に追われている最中ですが、連休最後の日なのでしばし、おいしい話をば。高崎市総合地方卸売市場に行くと、『市場食堂』で必ず朝ご飯を食べる。普通の食堂であることがうれしいし、海鮮丼的なものがないのもいい。築地でも、移転後の豊洲でもそうだが、市場人というものは意外に魚飯を食べない。簡単な定食とか、牛丼などがいいのである。高崎市総合地方卸売市場、『市場食堂』は、今どき少なくなりすぎの市場人のための市場の食堂である。ここでもっぱら食べるのは「もつ煮込み定食」である。なんだかんだで群馬と言えばもつ煮込みとなる。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産の店頭に、もうとても「新」のつかないコウイカが愛知県三河湾から来ていた。これを見た途端、今年は新イカを食べないで終わるのだな、と思った。別に新イカが好きなわけではないが、季節を感じられるものなので、一度くらいは食べて置きたかった。仕方がないので、外套長9cm前後を3ばい買って帰ってきた。帰宅するや間髪入れずに下処理をする。外套膜をていねいにペーパータオルにくるんで深夜を待つ。一日を3つに分けているので、ボクの深夜は丑三つ時である。湯に1秒弱くぐらせ、氷水に取り、水分をきって切りつけただけだ。まだまだコウイカらしい味がないものの、考えてみると5月の漁の最盛期以来食べていない。印象に残らない平凡な味ながら、嫌みもない。ゆっくり味わって食べないと、イカらしい味にも乏しい。まあこれはこれで、9月のコウイカの味として記憶に止めておこう。酒は新潟市西区内野町、「鶴の友 上白」が、やけにうまい、カネタタキの啼かない深夜なのであった。

最初に漁港で遊ぶときは救命胴衣を着用してほしい。漁港内で落ちたらまず助からない。子供用など2000円以下のものもある。さて新潟県西区五十嵐新川漁港周辺の生物・食物図鑑を作っている。新川漁港の漁港内は釣り初心者には一日遊べるところだし、横を流れる新川側などでは上級者にとっても大物が狙える場所である。また漁港内にもいろんな魚、ホヤ類、甲殻類などがいる。網ですくうといろんな生き物がとれる。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産、クマゴロウが銭州に行ったようで、ムロアジ属が小山になっている。ほぼクサヤモロかな、と思いながらも同定のために小振りのものを連れ帰ったら、全部クサヤモロだった。銭州では大物釣りのエサとなるので、クサヤモロはクサヤモロとは呼ばれず、エサと呼ばれている。ただ料理法によっては大物釣りの主役である「もろこ(クエやマハタかな)」やカンパチ、シマアジよりもうまい。特にフライにするとシマアジなどは目じゃないね、と言いたい。体長23cm・145g前後を三枚に下ろして腹骨・血合い骨を取る。水分をよく拭き取って塩コショウする。小麦粉をまぶし。溶き卵にくぐらせ、パン粉をつけて揚げる。後は食べるだけだ。

魚類学的愚痴というものをば。てんやわんややっさもっさで、昨日が土曜日で今日が日曜日で、明日が祝日だということを忘れていた。上越市から持ち帰った古文書の準備をしているし、旅があるし、事務処理もある。そんなとき、鹿児島県鹿児島市の久保和博さんから画像が送られてきた。赤いハタで同定不能だった。遠藤広光さんまでわずらわして、コクテンアオハタというところまでたどりつく。ただ、『日本産魚類大図鑑』(益田一、荒賀忠一、尼岡邦夫、上野輝弥彌、吉野哲夫 東海大学出版会 1984)とは似ても似つかない。「アオハタ」なのに赤い。蒲原稔治の1957年は遠い遠い昔なんだなと思う。そんなこんなで忙しい最中に忙しいが重なる。やはり標準和名というのは難しい。本種、ヤハズアオハタ、アオハタモドキ、スミツキアオハタに関しては標準和名の再検討を要すとは素人的な考えなのだろう。遠藤広光さんに感謝します。非常に貴重な魚を見つけてくれた久保和博さんにも感謝!

2025年8月29日、早朝5時から上越市、一印上越魚市場で、挨拶もしないまま並んでいる水産生物を調べる。徹底的に産地と水産生物を撮影、気になるものは後々テキスト化できるようにメモを取る。横道世之介、ときどき視察という名目で背広組が市場を見学しているのに出くわすことがあるけれど、100%税金の無駄である。メモも取っているわけでもないし、何も見ていない。差別用語が含まれるが群盲象を評す以上に意味がない。市場で物事が見られるようになるためには熟練を要す。背広組の市場視察は背広組だけでは無理、やめなさいといいたい。背広組と違ってボクの市場は超過酷、かつ重労働なのだ。競りが終わったあと高田城址公園で暫しまどろむ、というか意識をなくす。目覚ましがなって堀まで歩いたら、曇り空の下そこは極楽浄土だった。夜を徹しての新潟行なので疲れはとれないが、極楽へのエレベ−ターに乗った気分になる。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産で「きんき(キチジ)」の荷を前にしてすし屋が、左の網走、右の羅臼と交互に見て立ち尽くしている。北海道網走は近年人気が高いので、値段は非常に高い。右の羅臼も負けず劣らず高いけど網走ほどではない。煮つけにするならサイズ的には小振りな網走で、羅臼は大きすぎる。横に並んで右左を見て、つられ買いする。1尾でいいので羅臼産のいちばん小さい22cm・306gを、量りに乗せて値段を聞いてから買う。さすがに「きんき(キチジ)」をキヨミズガイはできない。帰宅して、すぐに煮つけにする。水洗いして湯通しして冷水に落とす(この工程は必須ではない)。水分をよくきり、酒・みりん・砂糖・たまり醤油(必須ではない)・濃い口醤油で煮る。煮上がりで朝ご飯のおかずにしたが、そんなに多くは食べられない。脂が多すぎるし、うますぎるからだ。とろとろ口に含むと溶け出して消える。そのはかなさよ、といいたいところだけど非常に強い味だ。保冷剤を皿に敷いてラップをして置く。昼ご飯には室温になった煮つけをおかずにする。いただきもののニラをみそ汁にしたが、余計な気がした。純粋に「きんき(キチジ)」だけでご飯を食べたい。今回は肝心の肝に触らないように気をつける。

新潟県西区五十嵐新川漁港周辺の生物・食物図鑑を作っていく。新川漁港の漁港内は初心者には一日遊べるところだし、横を流れる新川側などでは上級者にとっても大物が狙える場所である。新川漁港内では小物が、横を流れる新川側では大物が釣れるのだが、地元の高校生が新川側に行ったり、漁港内に行ったりして次々に釣り上げていたのがクロダイである。新川側で釣り上げたのが20cmクラス、漁港内のサビキに来たのが9cmほどである。あまりにもきれいなので撮影させてもらった。要するにこれは高校生の釣果の横取りというやつだ。新川側では大物が来るようだが、さすがに日が昇り潮止まりとあってはそれは望むべくもない。それでも飽きない程度に釣れるのがいい。近所に新川釣具があって便利な釣り場でもある。釣りマナーを守れる人はぜひ、新川漁港へ。

まさか新潟の市場にハマグリがあるとは思わなかった。一時は絶滅危惧種であったほどなので、まさかまさか新潟で出合えるなんて。さっそく手に入れて持ち帰った。手に取ってみるとまさしくハマグリなので、大いに感激する。帰宅した日に吸物にした。料理以前の料理で、差し昆布(昆布の切れ端を入れる)をした水に洗ったハマグリを沈めて火をつける。殻が開いたら出来上がりだけど、火を通しながら身がふくらんできているのがわかる。ふっくらと柔らかくハマグリらしいうま味に満ちている。チョウセンハマグリとの微妙な差はわからないけど、この吸物は絶品である。

4年振りかな? サンマの佃煮。佃煮の炊き上がりに合わせてご飯をたく。湯気の立っているご飯の上にサンマの佃煮をそのまま乗せて食べる。佃煮は骨が柔らかくどこにも抵抗を感じないまま、喉に消えていく。ご飯も、サンマの佃煮も駆け足で消えて行く。サンマの佃煮は脂がのっているのと、のっていないのでは別物の感がある。前回は痩せ細ったサンマで佃煮を作っているが、調味料で硬く締まった中に強いうま味があって、これはこれでおいしかった。今回の佃煮は非常に脂がのっているサンマで作ったので、ふわふわして柔らかく、調味料の甘さに、佃煮が口の中で脆弱につぶれるときに感じられる甘味がある。ただ、背の青い魚特有のうま味はさほど感じられない。要するに、脂があってもなくても、サンマの佃煮はうまい、としかいいようがない。

「なみのこ」と言う名でむつ市(青森県)からやってきたコタマガイは3cm前後と小さかった。二枚貝は特別な場合を除いて小さい方が扱いやすい。何時ものようにみそ汁にして、残りをオリーブオイルで蒸した。貝から出た汁と油だけの料理だが、そこにエリンギの風味を足してみた。アサリなどと比べると淡泊な味で物足りなさを感じることが多いが、濃厚なエリンギの風味と貝の味を取り込んだオリーブオイルで、味に奥行きが生まれた。塩を使っていないのにほどよい塩分濃度なのは、貝が水から持っている塩気による。

気象庁の夏は6月、7月、8月だが、9月も夏に加えた方がいい。9月も半ばになって、いまだに耐えがたい暑さが続き、どう考えても残暑などとは言っていられない状況である。残暑を見舞うのは10月になってからだ。時季時季に時季のものを購入して食べること、季節に抗わないとこをモットーとしている人間にはやけに切ない時代になったものよ、と思う。それでも9月になれば関東の海には秋の魚がやってくる。今季初トビウオは千葉県鴨川からやってきた。たぶん駿河湾でも、相模湾でも同じようにトビウオがやってきているはずだ。何尾か購入してあれこれ作る。最初は「たたきなます」だ。トビウオの味は皮にあり、身は皮の添え物でしかない。もちろん身の淡泊さを楽しんでもいいが、まずは三枚に下ろし腹骨、腹鰭の担鰭骨を取り、皮付き血合い骨そのままで薄く切りつける。それに刻んだみょうが、大葉、にんにくと和えるだけだ。天盛りにしたのは三重県尾鷲市の青い唐辛子「虎の尾」で、すだちを添えた。食べる直前に好みの量の「虎の尾」を混ぜ込み、すだちを搾り。醤油をたらして食べる。トビウオは明らかに背の青い魚である。回遊魚特有のうま味に満ちている。わずかだが酸味があるのも特徴だろう。おいしさの種類が豊富だとも言えるだろう。「虎の尾」がその味のアクセントになる。結構な「たたきなます」に、酒は新潟県新潟市内野町の「鶴の友」で、いい時間が過ごせた。

新潟県西区五十嵐新川漁港周辺の生物・食物図鑑を作っていく。新川漁協やその周辺には自然にも、食べ物にも詳しい猛者がたくさんいる。この猛者と一緒に波打ち際で見つけた生物の5番目はヒメバカガイである。

9が月振りのカドガワフエダイは、刺身にして、カルパッチョにもしてみた。我が家のカルパッチョはオリーブオイル・塩・にんにくが基本で、好みの香辛野菜、香酸柑橘類などで絵を描くようにつくる。カルパッチョは描くようにつくるので、カルパッチョなのだ。皿にオリーブオイル・にんにく・塩を塗りつける。ここにできるだけ薄く切った身を貼り付けていく。全部貼り付けたらスプーンなどでたたき全体を馴染ませる。ここにスダチの果汁を点々と搾り。スダチ・ローゼル・オレンジミントを描くように散らす。カルパッチョは濃厚な味わいであるが、カドガワフエダイのうま味がそこにしっかり浮き上がってくる。逢魔が時にカルパッチョをつまみ、安いジンの水割りで口の中を洗う。久しぶりに素晴らしいカルパッチョができたという喜びがこみ上げてくる。

八王子総合卸売センター『八百角』の社長は、売れそうにないのに仕入れてくる野菜がとても多い。最近、店内はかなり東南アジアなので、東南アジア系も多くエスニックな感じが強くなっている。そこに殴り込みをかけているのがヨーロッパ系である。特に、最近、ナスはイタリアなのかも知れない。たぶん八百屋で「ナポリ」と呼ばれているカボチャ型のナスも、ナポリなんだからイタリア産なのだろう。正式には、Rosso di Napoli Eggplant らしくて、エチオピア原産のナスだという。

新潟県西区五十嵐新川漁港周辺の生物・食物図鑑を作っている。今回は新川漁協で水揚げされる代表的な魚のひとつ「ねずり」と呼ばれている、アカシタビラメである。1尾だけだったので入念に同定して、水洗いする。アカシタビラメの定番料理と言えばムニエルである。皮が剥きやすいのが特徴で、ある意味、まな板を汚さない魚である。今回は産卵期なのか比較的大きな卵巣が入っていた。剥いて塩コショウする。小麦粉をつけて、じっくりとソテーし、仕上げにバターで風味づけする。鰭際の香ばしさが際立つ。不思議なもので中心部分よりも鰭と鰭筋にうま味がある。この鰭際だけでもゴージャスな味である。そこに真子の甘味が加わるのだから言うこと無し。少しだけ醤油を垂らして、ご飯を食べた。じっくりソテーしていて骨があまり気にならないので格好のおかずである。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に小ヤリ(ヤリイカの若い個体)が来ていた。小ヤリは秋の季語にしたいくらい秋のものだ。大気は真夏だけれど、海は徐々に秋なのかもしれないと思った。でも産地がわからない。荷の造りからすると茨城県かなと思われる。小ヤリの最大の産地が茨城県なのもある。新イカ(コウイカのポンポン玉くらいのもの)を食べそびれ、小ヤリもか?というときの小ヤリである。帰宅したらとっととげそを抜き、開いて墨と内臓を洗い流す。これをペーパータオルにくるんで冷蔵しておく。深夜に皮を剥かず、1、2秒湯につけて氷水に落とす。水分をよくきり適当に切って三重県尾鷲市の辛い青唐辛子、「虎の尾」とスダチを添える。醤油をかけ、スダチを搾り、ざざああと和えて後は食らうのみ。これを小鉢ものといい深夜酒の友という。そんなに味のない時季だけど、柔らかくほの甘い。スダチの酸味と青唐辛子の辛みあってのおいしさだ。合わせたのは、新潟県新潟市西区内野町の「鶴の友」。いい時間をいただけた。

新潟県西区五十嵐新川漁港周辺の生物・食物図鑑を作っていく。新川漁協やその周辺には自然にも、食べ物にも詳しい猛者がたくさんいる。この猛者と一緒に波打ち際で見つけた生物の4番目はキンセンガニである。日本各地の浅い砂地にいる小型のカニで、漁の対象ではなく、子供の遊び相手といった存在である。丸っこくて見た目が可愛いので、海辺暮らしをしていればだれもが必ず出合う存在といったものだろう。

暑さのせいで体はぼろぼろだ。慢性的に疲れているし、体が変に熱っぽい。新潟県新潟市のスーパーで、「はっか糖」を買ったのは体が涼を欲していたからかも知れぬ。白いチョークを思わせる物体を口に入れると、あっと言う間に溶ける。溶けながらハッカの香と刺激(?)が口の中を満たす。冷や冷やとして、ただただ甘い後味がいい。「はっか糖」を子供の頃、実際に食べたかどうか記憶にないが、なぜかしら懐かしい。

ボクの珍魚度は学者的だということを述べたい。高級魚とか、そのへんに普通にいる魚に対して姿が面白いので騒いでいるのを見るのは嫌いである。「リュウグウノツカイはどれくらい珍しいんですか?」などという質問に、何年か前に魚類学者のSさんが困った顔で答えていた。リュウグウノツカイは、見た目が奇妙で珍魚といえなくはないが、それほどたいした珍魚ではなく、博物館などでの必要性はそんなに高くない。これに対して、今回、鹿児島県鹿児島市、大倉の久保さんが送って来てくれた画像のカドガワフエダイは、世界的に見て珍魚とは言えそうにないが、国内の魚類学者にとっては非常に貴重で、必要性も高い。だいたい国内での発見個体数が少なすぎて、生息域すらわかっていない。発見された個体の大きさを考えると、国内で再生産されているのか、どうかもわからない。カドガワフエダイの珍魚度は今のところ高いけど、温暖化でこれから国内においても増える可能性がある。先々ずーっと珍魚であり続けるかは微妙である。我がサイトの珍魚度は変化するのだ。確実にいえることは、今、大学、博物館にとってリュウグウノツカイはそれほど貴重ではないが、カドガワフエダイはとても貴重だ、ということである。一般の人は変わった形をしていないと、珍魚とは思わない。だから至って平凡な姿のカドガワフエダイは珍魚ではない。魚類学者と一般人にとっての珍魚・貴重な魚というの尺度はまったく違っている。

新潟県西区五十嵐新川漁港周辺の生物・食物図鑑を作っていく。新川漁協やその周辺には自然界にも、食べ物にも詳しい猛者がたくさんいる。この猛者とともに自然界、波打ち際で見つけた生物の3番目は砂浜にいるネズリの子だ。砂の上でぴたぴた跳ねているのを見るまで、まさか手づかみで波の中にいる魚をつかまえる人がいるとは思わなかった。全長70mmしかないので、ウシノシタ科の魚であることはわかったが、そこから先は見当がつかない。マクロ撮影して拡大してその正体がわかった。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産で買った新潟県佐渡石原水産からアラ、体長43cm・713g の兜(頭部)は塩焼きにした。あきらかに暑気がとれず、バテ気味の自分に野生を取り戻すための塩焼きである。頭部の塩焼きは食いにくい、が他のどこよりもうまい。うますぎて困っちゃうくらいうまいので、ついつい手づかみで食らう。マンモスの肉を食らうがごとき気迫でアラを食らってみる。野生を取り戻すのがいちばんの暑気払いである。うまいのは重々知っている。過去に何度もウマスギてこてんぱんにやられている。それなのにまたこてんぱんにやられた。まずは皮を引っぺがして食い、その下に隠れている身を指でほじくり出して食う。身はちょびっとなのにおいしいが大きい。最初はちょびっとずつ食らっていたら、頬肉を食べてからは一気呵成に食べ尽くす。なんとかカマの部分を残すことに成功する。さて、カマは炊き込みご飯かな?

長野県には、そばやうどんを大根の搾り汁とみそで食べる文化がある。上田市や高遠ではそばを食べ、うどんはスーパーで「おしぼりうどん(古越製麺所 御代田町・滝沢食品 千曲市)」でしか知らない。農水省のサイトには長野県坂城町の郷土料理とあるので、「おしぼりうどん」の名を、御代田町と千曲市の会社がとったのかも知れないと、最初は思っていた。ただ農水省は郷土料理を深く掘り下げたりはしない。「おしぼり」というのは辛味大根を下ろして汁を搾ったもので、「おしぼり」で食べる「うどん」ということになる。あたりまえだけど、そばを食べると「おしぼりそば」である。長野県は、そばだけではなく、うどんもよく食べるところなので「おしぼり」でそばを食べるなら、当然、長野県の各地で、「おしぼり」でうどんも食べるはずという当然のことが、農水省には見えていない。だから農水省が坂城町を挙げると、まるで坂城町だけの郷土料理のように見えしまう。またゆで汁ごと出して熱いうどんを「おしぼり」で食べる、とするとそれが法律の如く一人歩きする。無意識でも無駄な法律を作り出すのは愚か者のやることである。本流などといういかがわしいことをいう人間が出てくる。松代町で買ったときなどは普通の冷やしうどんのように食べる、と聞いた。食べ方は家々で違う可能性がある。農水省のページには往々にして、このような他の地域に対する配慮に欠ける決めつけが見受けられる。農水省が郷土料理を大切に思うなら、この点、早急に改訂すべし。

水産物とヒトとの関わりを調べた、その調べ始めの地が新潟県である。学生気分が抜けないときであったが、最初に新潟で感じたことはサケ比率が高いことだ。徳島から上京したとき、東京にはサケが多いと思ったものだが、新潟のサケ度は東京と比較できないほど高い。どこに行ってもサケがあり、マス(カラフトマス)があり、季節には本マス(サクラマス)がある。その頂点にあるのがサケで、庶民的なマス(カラフトマス)がある。季節限定の本マス(サクラマス)がある山形県よりも本マス(サクラマス)の地位が低いのも新潟県の特徴だろう。さて、北海道のサケ漁はトキシラズの初夏から始まるが、新潟県などでは9月中旬から始まり10月、11月が盛漁期である。今年、新潟市西区五十嵐新川にサケ漁を見に行きたいと思っているが、県内でのサケ漁の前、9月1日に、新潟市のスーパーでサケのブロックを買った。新潟中央市場、上越市一印にも北海道からたっぷりサケがやって来ていた。少なくなってはいるが、新潟県では今でもサケがとれている。でも、漁期前なのでスーパーのサケ売り場の主役は北海道産だ。これこそが産地間流通(産地はその産物をとるだけではなく、好む傾向があるので、ないときには別の産地からもってくる)というものだ。そして、新潟市のスーパーで買った北海道産サケが非常に上物であった。いいサケを見極める能力が新潟県人にはあり、それを流通のプロ達もよく知っているのだろう。

新潟県西区五十嵐新川漁港周辺の生物・食物図鑑を作っていく。新川漁協やその周辺には自然界にも、食べ物にも詳しい猛者がたくさんいる。この猛者とともに自然界で見つけた生物の2番目は砂浜にいるマクラガイだ。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に産地不明のボタンエビがきていた。小振りで見た目にはあまりいい状態ではないが、鮮度はいい。明らかに千葉県銚子以北の底曳き網で揚がったものである。タラバエビ科のタラバエビ属のエビは近年高騰している。完品はとても手が出ないことが多いので、思わず手が出た。一般に、「ぼたんえび」と呼ばれている標準和名トヤマエビはカゴ漁でとっていることが多いので、ときに生きているものが混ざるが、太平洋側の標準和名ボタンエビは底曳き網でとっているので品質にばらつきがある。トヤマエビは比較的流通量が多いが、ボタンエビの流通は少なく貴重でもある。今回のは壊れもあるものの、見つけると必ず買うのは流通量が少ないからだ。

新潟県西区五十嵐新川漁港周辺の生物・食物図鑑を作っていく。新川漁協に水揚げされる水産物は量的には多くないが、多彩である。うまいもん揃いだとも言えるだろう。その最たるものがコナガニシである。日本海に多い巻き貝であるが、唾液腺にテトラミンを持ち、内臓に苦みがあるなど、非常にやっかいな存在だ。日本海側では鳥取県、石川県では食べているが、他の地域では見向きもしない。ただし、刺身にするとこれ以上の美味は望めない、と思っている。歩留まりは最低である。食べる部分はふたのついた足の部分だけ、あとは洗い流す。ぬめりはほとんどないので、水分をきって適当に切るだけだ。

新潟に行ったはいいが、あまりにも慌ただしく、最低限の買い物しかできなかった。旅の疲れがとれた木曜日(2025年9月4日、八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に行くと新潟県佐渡石原水産からアラが来ていた。佐渡をはじめ新潟県を代表する魚のひとつがアラである。なんとなく縁を感じて買ってみた。体長43cm・713g なので関東でいう「小アラ」よりも大きく、「中アラ」というべきだろう。とりあえず刺身を造る。水洗いをして三枚に下ろし、皮を引き、腹骨を大きく取り、血合い骨を抜き、皮を引く。やや薄めに切りつける。それほど脂がのっているわけではないが、アラのよさはうま味と上品な舌触りにあり、なので気にならない。それにしてもうま味が長々と続き舌の上でだれない、その上、後味がいい。ついつい箸が伸びる、といった味である。だから年がら年中関東の市場に置かれ、いつも高値がついているのだ。端的に言うと、アラを食べることは贅沢をすることなのである。酒は新潟県新潟市内野町の「鶴の友」。地味だけどアラの刺身に合う。箸も止まらず、酒も止まらず、とあいなる。

新潟県西区五十嵐新川漁港周辺の生物・食物図鑑を作っていく。新川漁協やその周辺には自然界にも、食べ物にも詳しい猛者がたくさんいる。この猛者とともに見つけた生物の1番目は砂浜にいるフジノハナガイである。大きさ1cm前後の小さな小さな二枚貝だけど、実に美しい。形はスヌーピーのようだし、名前の通り「藤の花」の花弁のようだ。やたらに美しく、しかも可憐である。昔々は子供達の格好の遊び相手だった。

『越後名寄』は非常に重要な書であるが、水産生物もしくは地誌、歴史の豊富な知識を持たない人間には意味のないものである。ただし、本書を丹念に紐解くと、江戸時代の越後という土地柄がもちろんほんのわずかだが見えてくる。また本書に関してはネット上での閲覧が可能である。著者の丸山元純(天和2/1682-宝暦8/1758)は越後長岡藩(牧野家)内の医師の家に生まれ、越後寺泊で医師として暮らす。徳川綱吉から吉宗、家重と比較的安定した時代を生きる。『越後名寄』(宝暦6年 1756年)は越後の地誌である。江戸の文化史としては平賀源内以前であることも重要であるし、化政期以前になったことにも意味があると思われる。明らかに本草綱目の影響下にある『和漢三才図会』(正徳2年 1712)に習って、越後という地域の地誌を網羅したものと言えるだろう。全三〇巻の大著だが水産生物的には、巻二四、二五だけとみていい。また呼び名などでは、『物類称呼』(越谷吾山著 安永4/1775)以上に重要である。■本コラムは、じょじょに改訂していく。本書の重要性を教えていただき、閲覧を許可していただいた、上越市公文書センターには大いに感謝。

普段のおかずは、ありきたりな何もない日に暇みつけて作るもので、ありふれたものでしかない。ただし、そんなものが日々の生活には大切だし、日々を豊かにしてくれるのである。さて、おかずの代表格といえば煮魚だろう。魚の身も皮も余すことなく食べられて、ご飯に合う。煮魚は煮汁を多めにして煮ると失敗しないが、この煮汁があまることがある。魚を湯通しするのは煮汁を濁らせないためだし、二度使いすることを見越してだ。そんなときは少しずつ冷凍保存しておく。魚でも貝でも、イカタコでもいろんな汁を継ぎ足し継ぎ足しすると、非常にうま味豊かな調味料が出来上がる。あまり味のない魚を煮つけるときにも使えるし、野菜や豆腐を煮てもおいしい。今回はこの保存して置いた煮汁でおからの炒り煮を作った。魚料理をよく作る家なら定番料理にすべきである。なんといってもおからは安くてうまい。おからは豆乳を絞った「から」なので「おから」だけど、ここには大豆のうま味がたくさん残っている。それが魚貝類から染み出てきたうま味と一緒になると、大層なごちそうになる。ご飯の友として作っているが、夜酒の友にもなる。おかずとしても肴としても一級品である。

昼に千葉県銚子産を塩焼きで食べて、夜に北海道根室産のマイワシを塩焼きで食べる。ともに100g前後だが、脂の量は根室産が銚子産を圧倒している。塩焼きは脂の多い方がうまいのか?残念ながら、脂がのった方がおいしい。気になるのは魚焼きグリルの中が火事になることだけ、やっぱりマイワシの塩焼きは脂ののったものがいい。根室産の方が値段は2倍もするので、値段通りの味だ、と言ってもいい。

瀬戸内海周辺は「茶かゆ」をよく食べる。家島諸島(兵庫県姫路市)坊勢島でも、「茶かゆ」を食べているのだとばかり思っていた。実際に坊勢島に水揚げや水産物の話を聞きに行って、ついでと言ってはなんだが、「茶がゆ」のことを聞くと、島では「茶がゆ」ではなく「緑豆がゆ」だという。坊勢漁業協同組合で教わって、「どんなものだろう、食べたいな」と言ったら、島のオカアサンが持って来てくれた。朝煮て、冷たくして昼に食べようと思っていたものらしい。それほど冷えてはいないが、喉ごしがいいので涼やかな味がする。程よい塩味で、緑豆のもつ、青臭み(?)が実に好ましい。気がついたら、オカアサンのお昼ご飯を全部平らげてしまっていた。お昼ご飯、大丈夫だったかな?「緑豆の入ったかゆは食べても、すぐ腹が空きます」と言われたが、本当にすぐ腹が空いてきた。坊勢島にはすしの名店があり、旅館のご飯も矢鱈においしかった。鱈腹食べた後なのに、また「緑豆がゆ」が食べたくなった。

我がサイトの、テーマのひとつが季節と地域性である。群馬県といえば「もつ煮込み」が浮かぶが、なぜだろう? と思って過去の画像を渉猟する。群馬県のスーパー、直売所巡りは定期的にやっている。当然、朝ご飯もしくは昼ご飯を食べてくる。北は渋川市から南は館林市までの画像だが、朝ご飯、昼ご飯の画像整理していると、やたらに「もつ煮込み」が見つかるのである。太田市の食堂では、「群馬県は豚肉をよく食べるので、『豚もつ煮込み』もよく食べる」と教わった。肉には詳しくないが、この「もつ煮込み度」の高さは他の県には見られないのではないか。高崎市総合地方卸売市場の『市場食堂』には「もつ煮込み」の大盛りまである。群馬県内の「もつ煮込み」はどこで食べてもおいしいのもありがたい。

長野県中野市・飯綱町などで食べられている夏の料理に「やたら」がある。大根などのみそ漬け、ピーマン型の青い唐辛子・ぼたんごしょう(かぐらなんばん)、八町きゅうり、丸ナス、みょうがを、すべて細かく刻んで混ぜただけの料理である。みそ漬けの塩気があるので、混ぜ合わせてもの足りなかったら、塩を加える。みそ漬けの塩気が強く、また多めにみそ漬けを刻めば塩はいらない。とにかくすべてを刻んで刻んで刻む。一心に刻むのがコツである。みそ漬けだけの塩気で全体がしっとりとして、味が馴染んでくる。長野県飯綱町、滝澤農園の滝澤さんに教わって早10年になるが、ほぼ毎年作っている。ボクの場合、徹頭徹尾、ご飯に乗せて食べているが、飽きが来ない味で、毎日食べても結構毛だらけである。

舵丸水産に北海道斜里から生筋子(サケの卵巣)が来ていた。サケの来遊が減っているので筋子が高くなるのは当然だけど、2020年から年に1度だけしか買えないし、買う量も減っている。できれば500gくらいでつくりたいのに、今年は200gで作っている。これじゃオママゴトではないか。温暖化が原因であることは明確だ。でも、猛暑でエアコンなしでは死んでしまうし、できるはずの省エネすら誰もしようとしないし、無駄なエネルギーそのものの戦争をする愚か者がいる、こんな世の中じゃあ温暖化はとまらないんだろうな。ままよと思いながら食べる塩イクラだけど、やはりうまいねー。サケの卵巣にしかない独特の風味がある。この時季はまだ卵粒の皮膜が柔らかいので、舌で潰せるのもいい。

野菜と骨のない魚の塩焼き、市販のドレッシングを合わせた料理は作るのも楽ちん、食べるのも楽ちん。ご飯よりもパンとの相性がいい、など、今どきの生活にマッチしていると思う。今回は撮影のために最小限の野菜を添えたが、見た目など気にせずにたっぷり盛り合わせる方がいい。写真は半身だが、これでは多いと思ったら半身の半身にすればいい。意外にボリューミーなので人によっては糖質は抜きでも、食事として成立するかも。

今年は熱暑でしかも、盆の後先は、毎年のことながら魚が少ない。こんなとき、年間を通して状態を見ているハマダイを見つけてほっとする。小笠原産だというがパーチも箱もない。当日入荷ではないが、フエダイ科の魚なのでモチがいいので手が出た。旬というか脂のある時季は4月から6月くらいまでで、産卵が近づくと不安定になる。今回の個体は脂こそほどほどであるが、非常にうま味が豊かである。刺身は、非常に味わい深かった。そして深夜に、いただきもののークヮーサー、三重県尾鷲市の青い唐辛子、虎の尾で塩締めにしてみた。一気に夏らしくなる。刺身を食べても体の重さは取れないが、香酸柑橘類と青唐辛子の辛みが暑さのストレスから解き放ってくれる。合わせたのは安ジンのソーダ割りで、爽やかなド深夜、一人きり。

ピーマンのような形をした辛い青唐辛子が、新潟県、群馬県、長野県、岐阜県にある。他県人だとわかると、長野県の直売所でも、群馬県の直売所でも「これ唐辛子で辛いんですけど、大丈夫ですか?」と聞かれることが多い。同じ地区で「かぐらなんばん」ともいい、「ぼたんごしょう」ともいい、呼び名がこんがらがってる。「かぐらなんばん」は「神楽南蛮(なんばん)」と書かれることが多く、「ぼたんごしょう」は「牡丹胡椒(ごしょう)」だ。「牡丹胡椒」は形からだと思うが、「神楽南蛮」の由来はわからない。「かぐらなんばん」という表示の多い長野県中野市で「『ぼたんごしょう』とも言うよ」と教わったので、呼び名が違うだけで、まったく同じ品種なのだと思われる。飛びっきり辛いのもあり、あまり辛くないものもありで辛さはまちまちである。今年は長野県中野市オランチェ(直売所)、飯綱町の直売所で買っているが、ふたつともあまり辛くない。年々辛みに弱くなっているのでちょうどいいかも。