
野に咲く花の名前は知らないけど、とても美しい。
人間が努力して栽培した花の数十億倍きれいである。
優れた料理も同じだと思う。
名前は知らないけど、「あの素晴らしい味をもう一度」食べたいと、泣きたいほど思う、そんなものである。
なんにも考えないで、それがなんとなく目の前にあるという事実がすごい。
きゅうりとゆでたマグロ(Tuna)とマヨネーズが材料なのであっと言う間に出来上がる。
しかも久しぶりに、非常に久しぶりに作ったのに、思った通りの味なのである。
塩気はゆでたマグロだけのものだけど、実に濃厚なうまさを感じるのは、マグロが持っているうま味成分のためだ。
真逆にあるのがきゅうりだけど、たぶんきゅうりのない夏は考えられないほど爽やかな味である。
そしてマヨネーズ、起源はどうでもいいけど、ボクが子供の頃から食卓にあった、すごいヤツなのだ。
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八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に北海道根室市『北海屋商店』からマイワシが来ていた。たぶん2㎏判で、上イワシとされるものである。
マイワシは年間を通して産地ごとに買って比べているので、数尾買う。
帰宅後、すべて手開きにする。
驚くことに中骨近くが赤い。
脳みそに「?」がいっぱい浮かんだが、根室から航空便(空の便を使って送られたもの)で来るには、経費から考えても上物でなければならない。
脂がないのか? あるのか?
皮を剥いたら皮の下にある脂の層が、牡丹雪が積もったようである。
口の中に入れた途端に溶ける。
醤油を落として、そのまま茶の友とする。
非常に濃い目に煮だした奈良県十津川村の番茶が合う。
刺身だって茶菓子代わりになる、のである。
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夏だ、夏だ、夏バテで、穴子だ、なんて思う。
蒸し暑いし、やることが多すぎるし、で、7月になったばかりなのに滅法バテている。
こんなときには長いものがいい。
ドジョウでもいいのだけど、手に入らない。
浜名湖で買った鰻を食べて、今度は穴子を食べる。
煮立て穴子を軽くあぶって、ツメを塗って逢魔が時に本物ビールをやる。
煮穴子は舌の上で脆弱に崩れていきながら、強いうま味と、調味料の甘みが一体化する。
これをビールで流す。
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外気温は34度もあり、ベランダの温度計は38度などという日の、常備菜は十六ささげ(ジュウロクササゲ)と薩摩揚げをたいたものだ。
十六ささげは八百屋の特売品だし、薩摩揚げはそろそろダメになりそうだったもので、日常生活というのは、実はこのような合理性によって営まれているのである。
このとりたててうまいとも思えないものが、ないと寂しいのは米好きだからかも。
米(ご飯)というのは多様な脇役を要するものなのだ。
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新子(コノシロの稚魚・幼魚)は手が届く値段になると、買うことにしている。
別に生粋の江戸っ子ではないので、そんなに急いでは買わない。
だいたい最初は100g、20000円くらいするので、とても手が出ない。
ちなみに今回買った体長7㎝・7g前後くらいになると、開きやすくなるし、味が出てくる。
袋入りで産地不明だが、実に鮮度がよく開きやすかった。
開いて腹骨と背鰭を取り、やや強めの振り塩をする。
8分ほどおいて、安い酢で洗う。
軽く酢を切って保存する。
1時間ほどで酢が回る。
念のために新子、こはだだけは味や香りのある酢は避けたい。
できればミツカンの「白菊」クラスだけど、手に入りやすいミツカンの「銘撰」を使った。
さて、このサイズになるとしっかりニシン目ならではの味がする。
小さい割りになだらかな中にピークのある味といったらいいだろう。
非常に脆弱なのでたいして噛むこともなく半分溶ける。
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八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産にキツネダイが来ていた。
伊豆半島の以東にあまりいない魚で、西、駿河湾以南に多い。
今回のものは静岡県御前崎産であるが、過去にも何度か御前崎の荷を見ている。
体長30cm・624g なので本種としては大型である。
ベラ科タキベラ属は味のいい魚が多いが、本種は取り分けうまい。
ただ旬がよくわからない。
さて、三枚に下ろすと身に張りがあり、少ししっとりしている。
透明感がなく少し白濁しているのは、少ないながら脂ありとみた。
皮に味があるので水洗いして三枚に下ろす。
腹骨・血合い骨を取り、皮付きのまま刺身状にきる。
これを沸かした塩水の中で2、3秒湯引きする。
梅肉とわさび醤油で食べたが、やはりおいしい魚だと改めて思った。
水揚げ量がそれほど多くないので知名度が低い。
そのせいで高級魚ではあるが、それ以上ではない。
湯引きは飽きることがなく、半身分作って食べ尽くすことができた。
今回は上品過ぎると思った身にほどよい甘味があり、食感の心地よさを楽しめた。
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日記風に。
朝一番の冷たい茶漬けほどうまいものはない。
最低限のおかずと、焙じたての番茶と、それだけがいい。
十津川村など奈良県や三重県などの番茶でなけらば出ない、さらりとした味と苦味が夏バテぎみのボクを現に戻してくれる。
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岡山県の郷土料理に「かけ汁」、「かけ飯」というのがある。児島湾などをはじめ、汽水域や浅場にいる魚を材料とするもので、岡山県を代表するものである。
過去に様々な魚で作っているが今回作ったのはコノシロのかけ汁である。
「このしろ(標準和名コノシロの成魚)」もしくは、「つなし(コノシロの若い個体、小型)」のミンチ(細かく叩いた身)からは非常に濃厚で味わい深いだしがでる。
豊かなうま味があるのに、後味がよく軽い味わいで、食べ始めるととまらなくなる。
ご飯がなくなると新たによそい、「かけ汁」をかけてかきこむと箸が止まらなくなる。
ごぼう、にんじんなどの根菜が非常にいい役をこなしているのもわかる。
日常的な安い魚を使って、これほどの味わい深い料理を生み出すとは、岡山県の食文化の奥深さを感じる。
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