バカガイ

バカガイの形態写真一覧 (スワイプで別写真表示)
殻長10cm前後になる。薄いベージュで放射線状の褐色の筋が入る事が多い。[北海道根室産]
内部。殻長10cm前後になる。薄いベージュで放射線状の褐色の筋が入る事が多い。

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珍魚度・珍しさ★★★
がんばって探せば手に入る
魚貝の物知り度 ★★★
知っていたら通人級
食べ物としての重要度 ★★★★
重要
味の評価度 ★★★★
非常に美味
分類
軟体動物門二枚貝綱異歯亜綱マルスダレガイ目バカガイ超科バカガイ科バカガイ亜科バカガイ属(Mactra)
外国名
英名/Rediated trough-shell,Surf-clam
学名
Mactra chinensis Philippi,1846
漢字・学名由来
漢字 馬鹿貝 Bakagai
由来・語源 『目八譜』より。
アオヤギ(青柳)の方が流通上では普通である。また青柳は剥き身のことであるという説もある。
■ 「場替え」の意味。潮の満ち引き、砂地の変化に敏感で一夜にして棲む場所を替えてしまうので「場替」。それが転訛したもの。
■ 東京都東部、千葉県などで「ばか」もしくは「ばかげ」というのに由来する。
■ 水揚げして叺(かます)などに入れておくとだらしなく足(舌)を伸ばしているので「ばかのようだ」。
■ その昔、東京千葉県などで「バカのようにたくさんとれた」ため。

バカ貝 潮干狩りで掘り出されても、完全に貝殻をとじないで舌(足)を出している。
目八譜
1843(天保14)、武蔵石寿(武蔵孫左衛門)が編んだ貝の図譜のひとつ。図は服部雪斎が描く。武蔵石寿は貝類を形態的に類別。1064種を掲載する。現在使われている標準和名の多くが本書からのもの。貝類学的に非常に重要。
地方名・市場名

概要

生息域

海水生。潮間帯下部〜水深20mの細かい砂地。
サハリン、オホーツク海から九州まで。北海道のものはエゾバカガイとされていたことがある。
中国大陸沿岸。

生態

身の色(濃い方が雄)、生殖腺の色(クリーム色-雄、赤-雌)
■ 潮間帯下部〜水深30メートルの砂泥地。
■ 産卵期は早春から夏。北海道では夏から初秋。
■ 内湾の浅い砂地に棲む。砂地にもぐり、水管を出してプランクトンやデトリタス(有機質の死骸や破片など)を漉して食べている。
■ 北海道では10年前後の寿命であるという。
■ 潮干狩りではアサリよりもやや沖合(水深はアサリとほとんど同じで、より深い場所にいる)

基本情報

北海道から九州までの内湾の砂地に普通。古くは瀬戸内海、東京湾でもたくさんとれたが今や安定した産地とは言えなくなってきている。現在入荷量の多いのは北海道と愛知県だ。
日本各地で様々な呼び名があるが関東では青柳といった方が通りがよい。青柳は千葉県市原市の地名で、ここが江戸時代以来東京湾(江戸湾)で水揚げされたバカガイの集積地だったためらしい。東京湾周辺は産地であったが、今では国内屈指の消費地、もっとも取扱量、消費量が多い。これは二枚貝を剥き身にする技術が関東で非常に発達したためだという人がいる。
刺身用に生の剥き身や活(貝殻のまま生きている状態)で出荷されている。また貝柱(星)のみでの流通もある。これをすしダネに天種にまたぬたなどに調理する。古くは一般家庭でも料理されていたが、今や基本的に料理店で食べるものとなっている。
また西日本ではキヌガイ、ヒメガイなどといって干ものに加工される。身は浜でゆでたものもある。
珍魚度 珍しいわけではなく一般的な食用貝だが、年年減少傾向にあり、生きている状態(貝殻のついた状態)で手に入れるのは難しい。

水産基本情報

市場での評価 年間をとおして剥き身などで入荷してくる。国産の他、韓国などからの輸入品もある。剥き身は大きさも揃っていて高価。殻つき(活け)は比較的二枚貝の仲間では安い。他には干物などの加工品・珍味としても出回っている。
漁法 貝桁網
主な産地 北海道、愛知県、千葉県
入荷形態
たて 左は北海道産、右は東京湾産。北海道のものは大型で黄色い。東京湾産は近年は小振りで赤身が強い
舌切り 小振りのものは出荷しても開けないので、むき身にして内臓部分を切り取ったもの。安くておいしい。
活け 古くは一斗缶に入って千葉県内房から都内に入荷していたという。それが今や貝殻つきの活けはむしろ珍しくなっている。
貝柱(はしら) 1個の貝に大小の貝柱があり、大きい方を大星、小さい方を小星という。大きいものは年々減少している。

選び方・食べ方・その他

選び方

むき身は指ではじいて動くもの。痩せていないもの。
活け(殻つき)は持って重いもの。

味わい

旬は2月くらいから7月いっぱいまでだが、生殖巣が大きくなると味が落ちる。産地によってずれがある。年間を通じて入荷があり、産卵期や身が太る時季に違いがある。
貝殻は薄くもろい。歩留まりがいい。
足、内臓、ひも、貝柱などで味が異なり、別種の味が楽しめる。

栄養

タンパク質、脂質は少なく、ビタミン類、無機質の鉄、カルシウムなどが豊富。

危険性など

食べ方・料理法・作り方

バカガイ(アオヤギ/青柳)の料理・レシピ・食べ方/生食(ゆでる、生、なめろう)、ゆでる(ぬた、酢のもの)、揚げる(天ぷら、フライ)、煮る(佃煮)、みそ汁、汁、他
江戸前青柳の刺身(東京湾バカガイの刺身) 東京湾産の足は赤みがかった色をしていて味と風味が強い。これを好むかどうかは個人差がでそう。剥いて塩水の中で砂や貝殻を流す。足と内臓、貝柱(星)、水管ひもを分ける。足は開き、水管ひもはていねいに表面の皮膜をこそげとる。貝柱以外はさっと湯に通して氷水にとり、水分をとる。

北海道産バカガイの刺身 北海道産は大振りで白っぽいものが多い。古くはこの色合いが嫌われたが、近年大きさから値を上げている。色合いによる味の違いはないと思う。
小柱の刺身(バカガイ貝柱の刺身) 市販の小柱を塩水で洗い、わさびじょうゆで食べる。適度な食感と強い甘味と微かな渋みが感じられる。足(青柳)よりも貝柱の方がうまいくらいだと思う。
青柳のぬた(バカガイのぬた) 青柳(バカガイ)の舌切りとコシアブラ(わけぎで作るのが一般的)を酢みそで和えた。コシアブラの渋みと苦み、歯触りが青柳とおっつかっつのせめぎ合いを演じて、実に味わい深い。香り高い、わけぎ、甘草、菜花(のらぼう)など春の山菜や野菜を合わせて楽しむべし。
小柱のかき揚げ 小柱はかき揚げにする。適度な食感がかき揚げのなかで貝らしい風味、甘味を主張する。実にうまい。小柱のかき揚げは、江戸前天ぷらでは主役級ともいえそう。ゆでたものを天ぷらにしてもいい。またフライも美味しい。

バカガイのフライ 瀬戸内海や東京湾周辺の一般家庭で作られていたもの。軟体部分の内臓を取り去り、串に刺して小麦粉をまぶして、卵にくぐらせて、パン粉をつけて揚げたもの。じっくり揚げると火が通り硬くなり、油が跳ねるので高温で短時間揚げるといい。
焼きバカガイ バカガイを開いて片側だけにして強火で短時間に焼き上げたもの。貝の風味が強く香りとてもうまい。焼きたてを食べてよし。
バカガイの干物 むき身の水管の部分に金串などをさして干して焼く。これを千葉県内房では「目ざし」というが実に香りと風味が高くうまい。
バカガイのアヒージョ ニンニク風味をつけたオリーブオイルのなかでむき身を煮込んだもの。小腹が空いたときにこのバカガイのうま味が出たオリーブオイルをフランスパンにつけて食べる。
バカガイのバター焼き 小降りのバカガイを剥き、砂をよく洗い流してバターでソテーしたもの。酒よりもワイン、ご飯よりもパンに合う。

好んで食べる地域・名物料理

すき焼き 燧灘一帯。すき焼きにトリガイ(バカガイ)の剥き身。
天ぷら 燧灘一帯。剥いて水切りしたものを天ぷらに。油がはねるのが難点。
かき揚げ 小柱をかき揚げにしたもの。都内で「かき揚げ」というと小柱が一、小エビ(シバエビ)が二となる。
バカガイの一大消費地、東京 非常に大量のバカガイが東京都近郊に集まってくる。これを青柳(剥き身)にして都内に送られてくる。塩ゆでしたものも含めて東京はバカガイの大消費地である。これはもともと江戸前と言われた東京湾の隅田川河口域、品川、羽田、大島などで大量にとれていたためである。
ばか貝のなめろう 千葉の郷土料理ともいえるのが千葉県富津などで作られる「なめろう」、そしてこれを焼いた「さんが焼き」である。シソ、ネギ、みょうがにしょうがなどの香辛野菜とバカガイの身を味噌でたたいたもの。これは時間がたつと水が出るのが難点であるが、旨味が口いっぱいに広がり、味噌の個性がほどよくこれを納めてくれる。夜、多めに作り酒の肴にして、翌朝、焼いて「さんが焼き」にして飯をたんと「食らう」のもいい。[千葉県内房]
さんが焼き 「なめろう」は多めに作り酒の肴にして、翌朝、焼いて「さんが焼き」にして飯をたんと「食らう」のもいい。[千葉県内房]
あられそば 東京の老舗そば屋では一般的なもの。かけそばに小柱を散らす。『守貞謾稿』(天保8年〜幕末まで)に「あられ ばかと云う貝の柱をそばの上に加うを云う」がある。そば屋の品書きのなかでももっとも高価なものとなっているが、江戸時代はどうだったのだろう。[室町 砂場など都内のそば店]
焼きとりがい トリガイ(バカガイ)のむき身を塩焼きにしたもの。非常に濃厚な味わいながら、ほんのりとした苦みが後味をよくしてくれる。名品である。[味良 愛媛県西条市]

加工品・名産品

佃煮 千葉県内房船橋から富津などでは佃煮が作られている。
桜貝 剥き身のまま海水などで洗い干したもの。みりん干しもある。珍味。
ゆでバカガイ 千葉県内房で盛んに作られている。そのままでも、酢の物などにしてもうまい。別名「はたき(ハタキ)」と言うこともある。「はたき」は青柳(バカガイ)は浜で殻ごとゆでる。茹で上がったら身を貝殻から外すのにたたくように落とすため。[佃甚 東京都中央区築地場内]

目ざし(ばか貝の生干し) 千葉県内房、上総などではバカガイをむき水管に竹串を刺して干す、これを目差しという。また身を開いて干したものを生干し。ともにあぶって食べて非常に美味。近年作る人が希。[千葉県のすし屋さん手造り]

姫貝 バカガイの干もの、「姫貝」は日本各地で作られているが年年生産量が減っている。非常に濃厚なうま味と、微かな甘味をともなった渋味が感じられて食べ始めると止められなくなる。写真は三重県伊勢湾周辺で作られているもの。
姫貝 バカガイの干ものである。丸ごと針金に刺して干し、伸ばしたもの。愛媛県名物ともされている。[青木商店 愛媛県西条市]
佃煮 木更津産バカガイのむき身を生の状態から佃煮に煮上げたもの。甘さもしょうゆ辛さもほどよい。名品のひとつ。[五大力船 千葉県木更津市]
青柳の煮つけ 青柳の舌切り、水管などをあっさりと煮上げた総菜。名品である。[杉岩商店 千葉県船橋市]

釣り情報

むき身はフグかっとう釣りの餌になる。

歴史・ことわざなど

エゾバカガイ型 バカガイより「アオヤギ(青柳)」というほうが一般的。サハリンやオホーツク海などに棲息する北方系のエゾバカガイ型と、南方系のバカガイに分かれる。
むきみ 〈 ・・・・・気違い陽気に東京湾の浅草ノリがサッパリ採れなくなったと思ったら、バカ貝、藻貝などがバカ沢山にとれだして、千葉の浦安あたりでは二万の町民が毎日二千タル(二百石)のムキミと取組んで大ワラワ・・・・・このバカ貝の貝柱をとるには特殊な技術がいるので、ムキミのベテラン“ムキコ”は引張りだこで毎冬三百人も伊勢湾方面に招かれていたものだが、お膝元のバカ景気で今年は五十人にへらして残りはムキコの養成にあたるという騒ぎ・・・・・女子供でもムキミづくりで一日四、五十円かせげるのに目をつけた館山の女学校、浦安のムキコを招きムキミ講座を始めたと云う。冬異変の一コマ・・・・・ 〉(読売1949, ii, 14 堀越氏 報)(夢蛤)
小鍋仕立て 〈貝柱(はしら)でやるときは、ちりれんげで掬ったハシラを、ちりれんげごと小鍋の中へ入れて煮る。こうすれば引きあげるときもばらばらにならない。ここへ柚子をしぼって、酒を飲むのは、こたえられない。〉『味と映画の歳時記』(池波正太郎 新潮文庫)。再現するときはカツオ節だしに酒、しょうゆで味つけした地で食べるのがいい。

地方名・市場名

ヒメガイ[姫貝]
参考加工品表示 場所三重県 
ヤギ
備考青柳(アオヤギ)を略した呼び名。市場ではもっぱらヤギ。 参考聞取 場所関東周辺の市場で 
アオヤギ[青柳]
備考「青柳(あおやぎ)」というのは千葉県市原市の地名で、その昔、バカガイの集積地(集めて出荷する場所)だった。また『広辞苑』には貝殻を取り除いたものを「あおやぎ」というとある。 参考『広辞苑』 場所東京都築地などの市場 
キヌガイ[絹貝]
場所福岡県北九州市小倉、豊前海、大分県中津市 
バカゲ
場所千葉県船橋 
トリガイ
場所愛媛県西条市、和歌山縣和歌山市 
ウバガイ
場所熊本県熊本市 九州中央魚類 
カムリガイ バカ クツワガイ[轡貝?] ミナトガイ[港貝?]

アサリ アブラガイ ハマグリ アホガイ アマガイ ウバガイ オッゲ カタノハマグリ カタハマグリ カモガイ キイレゲ サクラガイ シオフキ シシガイ シタゲ バガイ ミナトガイ バケナイナイ ルオセイ
参考文献より。