
関東に住んでいるからこその、5月16日は記念すべき今季初タカベであった。関西など他の地域に暮らす方達は「なんじゃそれは?」という感じかも知れない。夏になると関東人はタカベにざわつくのである。
不思議な魚で山陰、茨城県から南にいる魚なのに、関東以外ではまとまってとれないのだ。主な産地は東京都、千葉県、神奈川県、静岡県など相模湾周辺である。ときどき三重県や和歌山県からも入荷してくるが関東ものほど高値がつかない。
八王子総合卸売センター、福泉で見つけたタカベは本場、静岡県下田産である。18.5cm SL・144gと小振りだが腹回りは十分太っている。このぼってり感が尾に近い方にまで広がったときが最旬である。
タカベは毎年、「高いな」と思いながら買う魚なのだけど、福泉(八王子総合卸売センター)で支払いをしながら安くすら感じた。ここ数年、コロナと同時に魚もとれなくなり高騰が続いているためだ。
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フエフキダイ科メイチダイ属の魚は1955年以前はメイチダイだけが国内で知られていた。1960年代に急に種が増えるのは赤崎正人という魚類学者の功績に負うようである。本種は当時、魚類学的には沖縄県でしか見つかっていなかったようだ。
食用魚としては沖縄県の次には東京都で認知される。1980年代には東京都小笠原で水揚げされたものが築地にやってくるようになって高値をつけ始めたからだ。
1990年代後半に築地で初めて買ったとき、見た目にもこれといった特徴のない魚で、味も取り立ててうまいわけでもないのに高いのが不思議だった。
もちろんこれは小笠原から船で送られてくるために鮮度がそれほどいいとは言えないが、白身の少ない時代に嫌みのない味わいと歩留まりのよさ、使いやすさだけでの評価でしかなかったのだと思っている。
そこに鹿児島からシロダイが来るようになって、大型であることから一段上の高値をつけ始める。航空便なので鮮度が非常にいいためだ。
さて、八王子総合卸売協同組合、マル幸、クマゴロウが銭州から釣り上げてきたものは、釣り上げてすぐ締めて血抜きをしているために、鹿児島県産以上に鮮度がよい。三枚に下ろすと身(筋肉)が生きており、切った部分が盛り上がってくる。卵巣が膨らみ始めているものの、まだ小さいことからも明らかに旬真っ只中であることがわかる。
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三重県鳥羽市安楽島、出間リカさんにいろいろ頂いた中に「ゆでヒジキ」があった。ヒジキは生ではもちろん食べられない。非常に長時間ゆで無機ヒ素を流し去って初めて食べられる。普通はこれを干して出荷するが、今回のものはゆでて放冷したもの。そのまま料理に使える。
ヒジキと言えば相も変わらず、鶏肉やなまり節で炒り煮にしたり、練り製品と一緒に煮たり。味つけは醤油ベースの甘辛味と決まっている。
ここで目にとまったのがウミンチュにいただいたジョールベーコンである。沖縄県のオキハムという会社のもので、豚の首の部分の肉を使ったベーコンである。
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兵庫県明石、明石浦漁協からやってきていた針イカ(コウイカ)は2はい入りだった。慌ただしさに紛れて1はい分の胴を食べそびれてしまい、仕方なく冷凍する。
イカのいいところは冷凍がきくことである。
ある深夜、撮影が終わったのはいいが、あまりのハラヘリに眠る気にもなれない。冷凍庫をあさって出て来たのがかの針イカだ。
値段を考えると解凍して刺身だけれど腹の虫が治まりそうにない。まさかまさかの虫押さえにお好み焼きを作る。
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フランス料理のポワレ(poêlé)は比較的新しい料理だけれど、ボクは勝手に、この国での塩焼きや煮つけのような料理だと考えている。テクニックは必要だけど、工程は簡単である。
要するに魚のソテーだが、表面はこんがりと香ばしく、中はしっとりと豊潤に仕上げるのだけど、外と中の食感の落差が大きいのが特徴である。
沖縄県石垣島のウミンチュがコロダイを送ってくれた。コロダイの旬は難しい。5月、6月に入荷量がやや多いのはイサキ科ならではかなと思っていると、秋が深まる10月、11月にまとまってやってきたり。しかもどの時季のものを下ろしてもそれなりに脂がある。
今回、石垣島産は生殖巣が見当たらないことからすると、産卵を終え、産卵からの回復期に当たるのかも知れないと思った。
さて、いろんな料理を作ってみたが、いちばんうまかったのが先にも述べたポワレである。
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たまにはおいしくない話を。
今や国内漁業で大問題そのものの、未利用魚という言葉がわかっていない人間が多すぎる。特にマイナー魚との混同が甚だしい。今、市場でそれなりに値のついているヨスジフエダイが未利用魚なんて、ビックリするようなことを平気で言う人がいる。ひょっとしたら物事を予算でしか考えない役人がわざとマイナー魚と混同させているとか、か?
例えばコショウダイは明らかに深刻な未利用魚だが、未利用魚と言う人には会っていない。
海域にもよるがディディモゾーン(ディディモゾイドとも)の寄生率が高すぎるのだ。魚屋などの話を聞いても、この手の魚に手を出さないのは寄生虫のせいだと言う。例えば1個体の寄生虫を持ったコショウダイを仕入れたら、二度と仕入れないと思う。
問題はとても味のいい魚だということだ。寄生虫はヒトが食べても問題はない。気味悪いだけだけど、それでもこれを見て食べなさいとはとても言えない。
今年になり豊洲で4㎏近いのを1尾、そして今月地元で1尾、地方の方に送って頂いたのが1尾の計3尾手に入れているが、全部ディディモゾーンに寄生されていた。少ないものは刺身にもできたが、どこを切ってもディディモゾーンに当たるといった個体もあった。
ちなみに九州でも東岸の個体は寄生虫のいる確立が低く、東シナ海側で高い気がするが、これなどはできるだけ早く確かめたい。ただ残念なことに天草などでは水揚げしないで廃棄してしまっている。この寄生率に予算をつける県なり国はないものだろうか?
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ときどき無性に食べたくなるもののひとつだ。うれしいことに関東のスーパーでは定番的な商品で、例えばマイワシの丸干し以上にウルメイワシの丸干しを見かける機会が多かったりする。
ウルメイワシの丸干しは、新宿のデパートなどでは上乾品なのに1尾50g近くあって400円前後するものもあれば、通常の干しのあまいタイプで1本17g前後で40円くらいのものもある。
ボクなどは後者で十分なのだけど、ときどきよく乾かした上乾品が欲しくなると、徳島県県南宍喰のものや、高知県のものを取り寄せたりする。
ちなみにこのよく乾かしたものを三重県尾鷲市では「かんぴんたん」といい、島根県浜田市では「しんしびる」という。尾鷲市では「かんぴんたん」という言葉を上手に使っているが、島根県の「しんしびる」はせっかく面白い言葉なのに生かせていない。島根県人よ、言葉は大切なのだぜ。
さて我が家の近所のスーパーでいつでも買える、「うるめ干」は鹿児島県薩摩川内市湯田町にある下園薩男商店のものだ。
これが実にすぐれた干もので、たぶん東京人の好みであるやや柔らかく生干しではあるものの、焼いた時の風味といい、最上級のものだと思っている。
下園薩男商店の丸干しは「頬ざし」、とか「えらざし」とされるものだ。テレビどころか偉そうに水産物を語るヤカラ(日本の水産学ってもうダメかもね)までなんでもかんでも「目ざし」なんていい散らかすが、地域によって刺し方が違うのだ。
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日本各地に残る「煮なます」もしくは「湯なます」は基本的には同じ物だ。どうやら非常に古い料理で酢を使っていることから、19世紀初頭以後に生まれ、日本各地に広まり、その土地土地のさまざまな素材を使って作られるようになったと思われる。
例えば、島根県松江地方の郷土料理「スズキの煮なます」も江戸時代にはすでに作られ始め、城下町の質素な生活の中に溶け込んでいったのだと思っている。
この「煮なます」の原型は精進料理だと思う。大根とにんじんで紅白にし、せん切りもしくは拍子木に切る。
これを油で炒めて、酒・砂糖・醤油で入り煮にし、仕上げに酢を加える。もしくは油は使わないで調味料だけで煮るというのもあるようだ。
今回はここに冷凍スルメイカの胴の部分を加えてみた。要するに刺身にした余り物を使って作った「煮なます」だ。
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今年は産卵期のマダイの画像を雄雌、未成熟なものまで買い求め撮影した。ほぼ兵庫県明石産だったので魚島の鯛の走りである。
マダイの産卵期は晩春から初夏にかけて、この時季、播磨灘や燧灘に見られるのが魚島である。産卵期の魚が海表面に島のごとく、盛り上がるように群れる。
残念ながら瀬戸内海の魚は減少傾向にある。これには様々な要因があると思うが、魚島現象は見られなくなっても漁の最盛期であることは間違いない。
産卵期の魚をとることの是非はともかく、消費者は安くておいしい時季の魚を食べない手はない。
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徳川家康が慶長20年、大坂夏の陣で豊臣氏を滅ぼす。その元和2年1月21日、鷹狩りに行ったときに、京都の貿易商・呉服商の三代目茶屋四郎次郎の話を聞いて食べたものが「鯛の天ぷら」だとされている。
茶屋四郎次郎の話は近頃、鯛の天ぷら(興津鯛(アカアマダイとも))を榧(かや/イチイ科の木本植物で実は食用になり、食用油もとれる)の油で揚げて、韮
(ニラ)をすりかけてかけて食べる」というものだ。同翌元和2年4月17日に数え年75歳で死去している。
これが広がり「徳川家康が鷹狩りのとき天ぷらにあたって死んだ」という伝説が巷間に流布する。もちろん天ぷらと徳川家康の死は無関係だと思うものの、この天ぷらとはなんだろう?
天ぷらの種は興津鯛(アカアマダイ)とも鯛(マダイ)ともされている。
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比較的浅場の岩礁域にいる現在のカサゴ亜目の、メバル属、カサゴ属の魚たちは、江戸時代にはあまりよくわからない魚たちだったようだ。かの18世紀の『和漢三才図会』の記述すらそっけない。例えばカサゴはカサゴそのものらしいけど、カサゴを含めて藻魚や目張とされるものが何か? はてんでわからない。
この状態が今でも続いていて、カサゴなどは国内に生きている人のわずか1パーセントの人が知っているか否か的な魚だと思う。
ほんの数年前に無音のテレビ番組を見る仕事をしていたら、タレントが「初めて見ましたうんぬん」、脚本家が「こんな珍しい魚が食べられることをうんぬん」なんて場面があった。これが実際に放送されたはずだが、それほどカサゴは世に知られていない。
魚を調べているとイロハのイ以下の魚なので、現世の普通との差がありすぎて困る。
ただ江戸時代、カサゴはどちらかというと下魚であった。それが沿岸域の環境が悪化し、沿岸域の漁業が衰退するにつれて値上がりし始める。1970年代の終わり頃、家族で渋谷まで魚を食べに行ったことがある。「この魚は高いんだぞ」と言われたのがカサゴだったのだけは、魚類学を一から勉強し始めたときなので鮮明に覚えている。当時は「きんき(キチジ)」よりもカサゴだった可能性が高い。
そんなカサゴには様々な色変化がある。この体色変化をサイトに反映させようと思っていたときに見つけたのが、青森県下北郡水(むつ市)のカサゴだ。鮮やかな色合いに思わず手が出てしまった。脇に全部買いしそうな料理屋さんがいたのですまんすまん、といいながら1尾だけ抜く。
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八王子総合卸売協同組合、マル幸に新潟県佐渡市からカナガシラがきていた。ボクのもっとも好きな、もっとも愛を感じる魚である。
ちなみにカナガシラを食べると金運が上昇するというが、ボクの金運も上がるかな?
触ると身に張りがなく、その上、大小混じりなので激安である。そんな状態でもカナガシラは料理次第ではうまいのである。たぶん産卵期なのでたくさん揚がり、安い時季なので選別が行き届かないのだと思う。
こんなことでひるむボクではない。むしろこの安さにありがたさを感じ、大漁のカナガシラにセレブレートを送りたい。
この時季のカナガシラを見過ごす人間は魚通とは言えない。
もちろん煮つけるならうま味豊かにたまり醤油なども駆使して煮つけるなど工夫がいる。
そしてなによりも作りたいのがエスカベッシュである。
昔々、エスカベッシュという料理がヨーロッパにあり、これが日本に入ってきて、「ヨーロッパ=南蛮」、なので南蛮漬けが生まれたのだと思う。初めて料理雑誌で見つけたときは、なんだ南蛮漬けかと思ったけど、実は本家本元だったのだ。
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産卵期のマダイの撮影をしていてなにがうれしいかというと真子に尽きる。年を取ってからは白子派に傾きつつあるが、いまだに子供舌なので真子が出てくるだけでうれしい。ほくほく甘いのが好きなのは舌が若い証拠でもある。
スズキ目の魚はおしなべて白子の方が味わい深いが、卵巣に真がついているのは万人向きだからだろう。真子はほくほくとして甘味があるものの味に奥行きがない。その短兵急な味がわかりやすいのだ。
マダイの生殖巣の真子、白子だけをさす言語はないようだ。本朝食鑑、物類称呼、大言海、広辞苑を見ても、歳時記を見ても見当たらない。市場では「鯛真子(たいまこ)」、「鯛子(たいこ、たいご)」だ。関西では「たいご」と語尾が濁音だったと思うがはっきりしない。
どんな真子でもいいわけではない。東京湾から四国、瀬戸内海などの個体は、もちろんだいたいの話ではあるが、2月くらいになると卵巣は膨らみ始める。3月、4月と徐々に大きくなるが、この時季の実熟なものは決していいとはいえない。4月の後半から卵巣を触ると張りが生まれて来ていて、卵粒が小さく粒立っては見えない。5月いっぱいはこの張りが続き、6月になると成熟しすぎて卵粒がばらけて水っぽくなる。日本列島で見ると日本海側では少し遅れ、東北日本海側では1月くらい遅い可能性が高いと感じている。
ということで関東から四国の太平洋側、瀬戸内海の鯛子の旬は4月末から5月末までが目安だと思っている。
真子料理といっても煮るか焼くかだと思っているが、断然甘辛く煮たものが好き。焼くよりもほくほく甘いのが、よりほくほく甘いからだ。
真子は胆嚢をつぶさないように取り出す。汚れや血液を流水で流して水分をよくきる。
一口大に切る。
鍋に酒・砂糖・醤油・水を煮立たせた中で煮汁を絡めながら煮る。ぐつぐつ味を含ませながら煮てはいけない。真子の表面に味がつくだけでいい。
個人的にはこれで飯、だ。甘辛くほくほくしてうま味もあるのが糖質である飯に合いすぎる。
酒には個人的意見ながら合わぬ。
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