
中に「「白ミル(ナミガイ)」が入っていた。小振りだけど水管を触ると固太りで、むちむち健康優良児的である。
主に水管を食べる二枚貝、ナミガイとミルクイは比較されがちである。「ナミガイはミルクイのニセモノだ。まずい」、なんて言う人すらいる。そんなことを言うヤカラは舌がおかしいのだと思っている。なんでもかんでも比べる病に罹ってしまっている、言うなれば病人(やまいびと)である。
ミルクイとナミガイは別の味で別々にうまい。階級的に考えても縁もゆかりもない貝であり、共通点はともに水管が大きいという点だ。
軟体類はよく動かす部分が大型化する傾向にある。よく足(腕)を動かすマダコの足は大きく、むしろ胴で海水を取り込み噴射して移動するイカの足は小さい。浅蜊は水管も足もよく使うのでともに大きく、トリガイなどは足が大きい。イタヤガイ科は移動に足ではなく貝柱で貝殻をパクパクするために貝柱が大きい。
ナミガイ、ミルクイは泥の中に深く潜り、水管(哺乳類の口にあたる)を泥の表面上にまで伸ばして懸濁物質(エサ)をとる。泥上に伸ばしたり引っ込めたりを頻繁にするので水管が巨大化したのだ。
ナミガイは江戸時代以前の書籍にはなく、江戸時代の百科事典的な『本朝食鑑』や『和漢三才図会』にもない。天保時代、彼の赭鞭会の中心にいた武蔵石壽の『目八譜』にのみ「波貝」、「翁の面貝」がある。このあたり室町時代後期、戦国時代の会席料理の記録にもあるミル(クイ)と比べると陰が薄いのかも知れぬ。
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測定すると2尾同じ中羽で、19cm SL・91g、ともっとも使いやすいサイズだった。見ている内にどんどん箱の中身が消えて行くではないか。人気がありすぎるくらいなのは、脂がのっているからである。マイワシのよし悪しは触っただけでわかる。
脂がのっているなとは思ったが、裂いてみたら思った以上だった。3月なのに真子、白子はなく産卵群ではない。刺身にすべきかと躊躇するくらいに脂がのっている。
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魚で作るリエットは暮らしの手帖で見て勝手に作っているものだが、こいつを初めて知ったのは合縁奇縁というか若い頃いろんな分野の知り合いが集まってワイワイやっていたときに、突然だれかが作り始めたのがこれ、だった気がする。もう一度、横浜の料理店でも食べているが、ボクはあくまでも運転手でしかなかったので、食べただけって感じだった。
考えてみると1980年前後にはインターネットもなく、ケータイ電話もなかったので、新宿や下北沢のへんなアパートに集まって、勝手に音楽を聴いたり、勝手に踊る人がいたり、絵を描く人がいたり、へんな料理を作る人がいたりというのがコミュニケーションというヤツだった。
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あまりにも寒いので熱燗をお願いしたら、「悪いねイサキしかなくて」と言ってオバチャンが出してくれたのが、「なめろう」だった。
10年間くらい防波堤釣りに外房に通っていたが、「なめろうの基本はアジなんだ」と心に刻んだ気がする。
ちなみに魚の身をみそ、香辛野菜と包丁で叩いて作る料理を千葉県外房や徳島県南部では「なめろう」という。三陸などでは「みそたたき」だ。魚の料理は同じ物でも地域ごとに呼び名が違う。徳島県南部の漁師はマグロ漁などで日本各地を巡っている。「なめろう」という言葉が徳島県南部に存在するのはこの漁師さんたちの交流からかも知れない。
ちなみにボクが「なめろう」というのは外房で最初に教わったからで、三陸で教わっていたら「みそたたき」と言うと思う。それがスジというものだ。
さて、「悪いね」と言うくらいだから「イサキのなめろう」は「マアジのなめろう」よりも劣るのだろうか?
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高級なアカガイが入っていたのには恐縮至極であった。限りなく球形に近く、持ち重りがする。剥き身にする前に中身が想像できるといった上物である。
アカガイが歴史的に登場するのは古いと思う。ただ実際に食べた記録となると室町時代末、戦国時代かも知れない。一次的な文献を読んでもいないのに述べるのはハレンチだけど、戦国時代が伊勢宗瑞に始まるとしたら1500年代半ばから後期にかけて、三好家もまだ健在で、堺は独立した国家のようであったときだ。
すなわち京都が壊滅的な状況で、堺、岸和田など大阪湾中心の食文化がこの国の主流であったのでアカガイ、ミルクイなどがしばしば歴史上に登場するのだと思っているのだ。
明らかにアカガイを高級な食材と考えた最初は大阪湾や瀬戸内海なのだ。きっと山口県宇部のアカガイなど毛利氏代々などがさんざん食べていたのだろう、なんてことも考えてしまう。
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いただいたのが3月15日で、実際に料理したのが17日と時間が空いたので、今回は総て加熱して食べた。
世に「喉黒」が持てはやされるのは脂がのっていて、生でよし、焼いてよし、煮てよしだからだ。
17日は早朝、兵庫県日本海但馬地方から帰宅したばかりだったので、寝たり起きたりしながら「喉黒」料理を作る。
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和歌山県産だということは荷を端から端までみてやっとわかった。関東出荷で水氷にする努力を感じたものの、流通上もっとも見にくいのが発泡に文字を彫り込んだ表示なのである。
「日本海」というどでかい表示すら暗いと見えにくい。便利だとは思うけど、今回のものは海岸線が長い和歌山県のどこで揚がったのかまではわからなかった。
ちなみに大阪で、和歌山県産は人気が高く「有田」だとか、「加太」など、地域名で呼ばれている。
東京送りとはいえ、和歌山県でももっと細かく、市もしくは漁港がわかる表示をすべきだと思う。
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競り場では当然、個人では手に入らないので但馬漁業協同組合にお願いして1袋手に入れていただく。これを日々料理して、とうとう1袋全部食べ尽くしてしまった。もっと買って来るべきだったと後悔したがもう遅い。
ホンダワラの古名は「なのりそ」で、古代から食用になっていた海藻である。残念ながら、徐々に食文化が衰退している。食文化があって盛んに食べられていたものを、知らない(食べない)からといって、食文化を放棄するのは危険な時代が来ていると思っている。新しい食文化を取り入れる前に、古き食文化を見直すべきだと思っている
但馬漁業協同組合には、より簡単に家庭に持ち込める商品の開発をお願いしたいと思っている。
大げさではなく、一度食べたら病みつきになる味である。ぜひ一度お試し願いたい。
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中にミヤコボラが含まれていた。「都法螺」は『六百介品』という江戸時代の著者不明の書にある。国内の多くの貝の名は、たぶん江戸時代にいた博物学的頭脳の人々がときに一般的な呼び名から採取し、ときに自ら命名したのだと思っている。もちろん見た目はしっかりおさえてだけど、「常陸帯貝」のように、いかに雅な名をつけるかを競ったのではないかと考えている。
きっと本種の名も『六百介品』の著者の創作だろうと思っていたら、山口県宇部市ではミヤコボラと呼ぶようなのだ。ひょっとしたら『六百介品』の著者は宇部生まれなのかも知れない。和歌山市で「泥さざえ」、兵庫県姫路で「泥貝」と呼ぶのは沖合いの泥場にいるからだが、これに「都」をつけたのは貝殻がきれいだからだ。
日本各地で揚がるが紀伊水道にめんした和歌山市から大阪湾、瀬戸内海の底曳き網での水揚げが多い。和歌山県西部、大阪市などではスーパーの売場にも並んでいる。
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冷凍流通する干ものなので食べたのは本日の朝である。要するに朝ご飯の友というやつで、早朝から解凍し、手に取ってみて大いに後悔する。これはご飯の友じゃなく酒の肴かも知れないと思ったからだ。
もう遅い、そのまま焼き上げて、これまた兵庫県但馬香住のジンバのみそ汁、豊岡市のたくわんとともに朝ご飯に食べた。
日本海但馬沖のハタハタは脂が豊かである。脂の強い魚の干ものはべとつくものだが、その脂のべとつきがない。
ていねいに作っていることは触るだけでわかる。徹底的に水洗いして、やや強めの干しているのだ。
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下ろしてみると卵巣の膨らみが弱く、胃袋には頭足類やアミなどが大量に入っていた。長崎県のイサキは産卵のための乱食いのときを迎えているようだ。
最近では年間を通して入荷してくるイサキであるが、3月も後半になると質的にも安定してくる。この時季、味のピークを知るために1週間に1尾ずつ味見することにしているが、今季は1尾目から大当たりだった。
さて、今回の個体は体長30cm・620gだった。このサイズは1尾での塩焼きには大きすぎるなど、意外にお買い得である。初物なので、スタンダードに刺身にして、塩焼きにして食べてみた。
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ヤリイカは大の好物でもあるし、雄雌関係なく食べたかっただけでもある。
ここ数年、ヤリイカは3月に入荷のピークを迎えている気がする。
兵庫県但馬、日本海に面した余部の定置にもたくさんヤリイカが入網していた。まだ白いヤリイカをそのまま刺身で食べたらうまかろうと思ったり、雄雌微妙な大きさだけど、雄が多そうだと思ったりしたのだ。
よしなしごと満々、体調も決していいとはいえないとき、ぬるい気温に近所の桜は満開になろうとしている。この時季は、毎年おいてけぼりをくっている気がして、心がわさわさする。
帰宅して身を開いたらやはり雄であった。成熟度は低く、産卵はまだまだ先だろう。ていねいに水分を拭き取って保存する。
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前回のことがあるので、白いレジ袋の中身が楽しみでならない。今回はダブルムツだった。
香住でクロノドと呼ばれているムツと、ノドグロ(アカムツ)だ。アカムツが「喉黒」なので、黒い色合いのムツを「黒喉」と呼ぶわけだ。ともに口腔・腹腔膜が黒い。
漁協に預かってもらって持ち帰ってもまだ生かっていた。あまりにもきれいなので形態を撮影してから食べた。
さすがに刺身とはいかないので、塩焼き、フィッシュ&ティップス、あら煮にする。
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