
山梨県上野原市でトラック行商をしている太田商店の太田さんが、舵丸水産で大量にゴマサバの切り身を仕入れていた。「太田さん、何枚かおくれ」と言うと、いつも爽やかな太田さんは、「いいよ」というので2枚もらってきた。帰宅後すぐみそ煮にしてご飯の友にする。ゴマサバはあまり脂があるわけでもないが、うま味は豊かだ。8時半に煮始めて、約1時間で出来上がる。鍋止めをしているのを皿に一枚取り、昼ご飯のおかずとする。サバのみそ煮は強い味なので、一枚で茶碗一ぱいには多すぎるくらいだ。確かに脂ののったマサバには敵わないが、昼ご飯に一切れあるとこんなにいいおかずはないと思う。ちなみにこの日の昼ご飯は、ゴマサバのみそ煮、若布と豆腐のみそ汁(あじ煮干しだし)、炉端漬け(東京都調布市の漬物)、金時草のサラダで、昼20分ほどのおいしい時間が過ごせた。太田さん、ありがとうさん。

11月6日に買った汐っこ(カンパチの若魚)は昨日9日に総てなくなる。4日間にわたって刺身で食べられたというのは山口県下関市、『下関勇次水産』の扱い方がよかったからだ。カンパチという魚は優秀でいつ食べても刺身はおいしいと思う。問題があるとしたら嫌みがなく、非常によくできた味過ぎる、という点だ。ただただおいしい刺身はすぐに飽きが来るのである。料理屋などで刺身盛り合わせには持って来いだが、主役にはなれないのは、平均点が高いだけで、欠点がないせいだ。だから最終日は酢洗いにした。箸で一切れ取ると粕酢(赤酢)の香りがほんの少しだけする。これを醤油とわさびで食べるのだけど、醤油はちょんとつける程度でいい。酢にからめたのはほんの1、2秒なので酸っぱくはないが粕酢にはうま味がある。非常に優秀な嫌みのない汐っこの味に、凹凸感がプラスされる。一切れ一切れのインパクトが強くて、やけに箸が伸びる。酢洗いはご飯よりも酒に合うので、「鶴の友 特撰」をこれが最後の正1合。

鹿児島県産のマイワシは久しぶり、だったので買った。触った感じがとてもよかったので期待しすぎるくらい期待して持ち帰った。ちなみに生殖巣は膨らんでいない。

イカを買うのは、先ずいちばんにご飯のおかずにしたいがためだ。ここ1週間、なぜか、ご飯と食べるイカがない。スルメイカ豊漁なのに休漁を迫ったりという、すったもんだのせいかも知れぬ。その日、あったのはアオリイカの当歳もので、秋イカと言われるものだ。そんなに高く感じないのは、スルメイカが高いせいだ。早々に帰宅して、すぐに水洗いして刺身にする。早朝におまんじゅう1個なのでお腹と背中が張りついている。刺身の出来上がりまで10分。こんどは冷凍しておいたご飯をチンする。

秋なので「幽安焼き」を作る。「祐庵焼き」かも知れないが、こんなもんどっちゃでもええ。柚子を入れると、「柚庵焼き」と書くときもあるので、これでいいのかも。江戸時代前期の琵琶湖西岸堅田の北村祐庵の名からとったとされている。とすると琵琶湖発祥ということになる。それがうなずけるのは、海水魚よりも淡水魚の方が合うところだ。そんなことはともかくなぜか夏には作らない。肌寒くなると作り、風がぬるくなると作らなくなるのが「幽安焼き」だ。さて半日ほど漬け込んだものの水分を拭き取り、焦がさないようにじっくり焼き上げる。血合いなのでどす黒い仕上がりになる。見た目よりも香りが素晴らしいとしかいいようがない。たぶん血合いからうまい液体が調味料と一緒に染み出て、それが焦げたことで放出される香りだろう。これをおもむろに手で半割にして食べる。最近、上品さよりも本能の人となり下がっているので仕方がない。一切れ丸ごと土佐番茶の茶請けとして食べてしまう。濃厚でしかも、野卑なうまさに、土佐番茶濃い目が合う。もちろんご飯の友にしてみたが、これだっていい。日本の発酵調味料は実にご飯泥棒だし、めじの血合いの強いうま味も飯に合う。

1980年代くらい、初秋(9月)、築地場内に行くと「汐っこ(「しょご」ともカンパチの1㎏前後以下)」が出始めており、季節を感じて仕入れていく人が多かった。「汐っこ」は関東では秋の季語にしたいほど、秋に漁の最盛期を迎え、人気があった。だから秋になると必ず真っ先に「汐っこ」を買っていたが、今や「汐っこ」の存在感はほぼない。年がら年中、カンパチの成魚が入荷しているし、「汐っこ」自体が秋の汐(潮)とは無縁になったからだ。秋だから「汐っこ」を買ったのではなく、めぼしいもの、買い頃なものがなかったという消極的な理由で買った。ただし買って正解だった。山口県下関市、『下関勇次水産』は扱いがていねいで血抜きも完璧である。刺身は脂の乗りはほどよく、上品な味わいでほの甘くしっかりブリ属らしいうま味が感じられる。ほどよい食感があり、後味がいい。同サイズのブリは値がつかないのに、カンパチには値がつくのはこの食感と後味のせいかも。

江戸時代、天保三年(1832)春に「まぐろ(クロマグロ)」の水揚げが多く、しわいやで狷介な滝沢馬琴も二尺ほどの半身八十文で買って食べている。ちょうど今回の「めじ(めじか)」くらいの大きさで、江戸時代の春(2月から5月)なら刺身でも食べたはずである。江戸時代、この天保時代に大量に揚がったサイズのクロマグロは決して安くはなかった。安かったのは四尺以上の個体で、二尺サイズは本来は高級、なのに安かったので馬琴は手に入れたのだ。さて、2025年の今も、「めじ」は決して安くはない。1尾はとても買えないので、舵丸水産、クマゴロウにお願いして「半身でもいいかい」、「いいよ」ということでやっとこさ買った。我ながら馬琴の気持ちがよくわかる。「めじ」が島根県で揚がり始めたと言うことは、水温が下がった証拠だろう。これから順調に揚がってほしいものである。まだまだ走りなのに、今回の個体はとても脂が乗っていた。この脂が舌をコーティングする。ねっとりとして甘味があり、酸味は少ない。大物なら中トロといった感じかも知れない。たいそうおいしいので、久しぶりに刺身の大量食いをする。こんなボクを馬琴はなんと言うのやら。■参考文献/『馬琴の食卓 日本たべもの史譚』(鈴木晋一 平凡社新書)

先日、京都中央卸売市場、シーフーズ大谷さんと話をする機会があって、京都人、京都の料理店は季節に合わせた料理を作る。時季外れは高値がつくのではなく、売れないのだという。ボクなども京都人ではないが、季節に合わせて食べ物を買い、食べている。温暖化で遅れたり、早まったりすると、それはそれでいいが、無理矢理なものは食べない当然、マガキは基本的に10月からで3月いっぱいで食べるのをやめる。八王子卸売協同組合、舵丸水産で殻つきマガキを初買いしたのはなんとそろそろ11月というとき。宮城県で種ガキを生育して、北海道釧路町、昆布森海域で育てたものだ。残念ながらその後も、入荷も不安定だし、値段も高い状態が続いている。さて、昆布森の長細いマガキはまだまだ軟体は痩せてはいたが、それでも初物はうれしいものだ。剥きたてを食べると、味は非常に濃厚である。うま味に満ちており、軟体の食感もいい。久しぶりにカキを食べているな、という実感が湧く。3個ではもの足りなかったかも知れない。20年ほど前まで、10月になると長方形の深い簡便な箱にどさどさと殻付きガキが、投げ入れられていたのが山積みになっていた。あれは今や幻となったとみるべきかも。

三浦半島大津沖でヒラメか、カンパチかのエサになるはずが、ボクのエサになった小アジ(マアジ)の刺身にタヒチライムをしぼり、塩をつけては食べる、11月の小アジが抜群にうまい。意外に脂がのっているのはたまたまなのか?釣り師クマゴロウは魚屋クマゴロウでもあるので、魚の扱いがいい。釣り上げた翌日なのに食感が実に心地よいのもある。スエーデンのアブソルートと合わせるときの刺身は柑橘+塩だけ。あっさりしているはずなのにうま味が濃厚である。

スーパーに立派なブリの切り身が並んでいたので2切れ買った。北海道産、北海道青森県沖太平洋で揚がったブリ切り身が2切れで254gなので、切り身としては大きめである。1切れ250円くらいなので最近では安いと言えるだろう。明らかに刺身でもいけそうだけど、食べたかったのは煮つけ、切り身が大きかったので塩焼きも作った。

ある晴れた秋の朝、八王子卸売協同組合、舵丸水産、クマゴロウが「そこの小魚全部持って行っていいよ」、と言ったので、ありがたくもらってきた。中にマルアジが混ざっていて体長15cm・50g 前後だった。茅ヶ崎沖で釣り上げたもので、ねらいはカンパチなので間違いなくエサの残りである。よろこんでもらってきたのは、気温が下がって干ものの外干しが出来そうだ、と思ったからだが、考えてみると我が家の冷凍庫には高知県で買った干ものがいっぱいたまっている。サビキ釣りで釣り上げたのだろう、見た目は悪いが鮮度抜群である。急遽、刺身を造る。

お茶の水、駿河台にあった学校の隣に居酒屋があった。神保町で働き始めてすぐに、この居酒屋で友人と酒を飲んだ。この居酒屋に必ずあったのが「いしもちの塩焼き(シログチの塩焼き)」で、お願いするといつも生焼けだったので、いつも焼き直してもらっていた。卒業したての頃、同級生とこの居酒屋で「いしもちの塩焼き」をお願いして、また生焼けだったので大笑いしたものだ。以来彼とは会っていなかった。そんな男とまた会うなんて。「いしもちの塩焼き」には想い出がいっぱいある。舵丸水産で1尾だけ「いしもち(シログチ)」を買ったのも、久しぶりに同級生とあったからだ。それほど「いしもちの塩焼き」は東京を代表する魚料理であった。東京湾で盛んだった「いしもち釣り」も、「焼き魚を釣りに行く」という感じだった。さて、水洗いしてずぼ抜き(口から内臓を出す)し、振り塩をして1日寝かせる。塩をして1時間程度で焼いてもいい。我が家で丸のまま焼けるぎりぎりのサイズだったので、つきっきりで焼き上げる。今回は焼き上げて間髪入れずに食べたが、塩焼きは冷めてから食べてもおいしいことも書いておく。これでご飯を食べたが、小骨が少なく、身離れがいいなど、至っておかず向きの魚である。取り分け皮の風味がいい。この皮の風味は冷めた方が強く感じられるのは不思議だ。データを見るとシログチの塩焼きは去年の秋に食べて以来だ。来年は毎月味見して記録をとろう。

10月17日、二宮定置に入った小型のアイゴの干ものは持ち帰ってすぐ、立て塩にして干したものでまったくくせも臭味もない。話が横道に逸れるが、徳島県県南に、このくせのない干ものを嫌う(臭い干ものが好きな)老人達(当然ほかの地域にもいまだにいる)がまだ存在するが、いかなボクの生まれが徳島県でも、この臭みが好きになる可能性はないと思っている。このアイゴやタカノハダイ、ニザダイの臭みを好む傾向は、生まれてすぐから連綿と臭みのある魚を食べることで手に入れたものだろう。このような臭みを好む老人達を継ぐ人もいない、と思う。閑話休題。アイゴのおいしさは、一に皮、二に身だ。小さい個体のいいところは、意識しなくても身も皮も一緒に口に入ってしまうことだろう。身に対する皮の量的な比率が大きいこともあると思う。香ばしさと強いうま味が口の中いっぱいに広がる。1尾だけゼンマイ状の内臓を残して干してみた。臭みはあるものの内臓のうま味が恐ろしいほどに強い。細長い袋状の消化管自体もおいしいが、ゼンマイの中には海藻らしいものが少し入っていて、独特の味がする。小型なので臭みは耐えられないほどではない。好きか? と言われると、好きではないが、これくらいなら珍重する向きもありそうである。

6,7月にアカガイの味が落ちる。これが秋になり回復してくる。一年を通してみると11月のアカガイは2、3月と比べると落ちるがとても美味である。毎年一月に2、3回ずつ味見しているが、今年の10月はこれが最初で最後になりそう。もちろん中国産だが、これが町のすし屋の定番といえる。1個120g前後なのですし屋も使いやすいだろう。ちなみに宮城県や瀬戸内海、大分県のものと比べると確かに味は少々落ちるとは思うけど、毎日味見するとか、並べて食べないとわからないレベルだと思っている。さて、10月の中国産は身がふくらんで弾力がある。強い甘味があり、ほどよい渋味がある。端的においしいと思う。この味なら半額の中国産は悪くない。アカガイ好きで年間を通して食べているが、今回はとてもおいしかった。深夜酒に中国のアカガイもいいと思うな。

毎年、日本海のズワイガニの11月の解禁後に、高級な日本海の雄ガニは1尾だけ11月中に買うことにしている。今年は解禁が1ヶ月早い山形県産を買ってみた。日本海産雄のズワイガニは年1回だけの贅沢である。12月になるととても手が出なくなる、その前。2024年は鳥取県産、2023年は兵庫県産、そして今年が山形県となる。余談だが、山形県では「芳ガニ」と呼ばせたいらしい。「芳」は当て字で、山形県から能登半島にかけて「葦ガニ(よしがに)」と呼ばれていた。足が長く細いので「葦(ヨシ)」なのだろう。「よしがに」という消え去りそうな呼び名が復活するのはいいことかも。さて、鼠ヶ関から来たズワイガニはとても身が詰まっていた。甘味が強くカニらしい風味も豊かだ。日本海どころか、太平洋側、北海道のズワイガニと比較する能力すら持ち合わせていないが、今季初ズワイガニはボクをとても幸せな気分にしてくれた。ズワイガニの身の魅力は筋肉が束状になっていて、ヒモ状にほぐれることだ。脚1本だけ味見するつもりが、昼下がりなのに2本、3本とやめられなくなる。あっと言う間に鉗脚(ハサミ脚)も含めて食べきる。

ここ2回の新潟行では、2回とも、帰宅した日の夜中は「サケのあらのみそ汁」を作っている。簡単に作れるし、腹にたまるからだ。ついでにいうと酒の肴にもなる。濃い目に作るのが疲れているのに眠れないときの味つけの秘訣だ。暑い日でも寒い日でも、熱々を食べることにしている。サケの魅力は骨などからいいだしが出ること。煮ても硬くならず、身離れがよくふんわりとして甘味があることだ。そしてサケ科特有の風味が感じられることもいい。これ以上望めないくらいに味わい深く、酒と一緒に流し込むと味の相乗効果を生む。酒は新潟県新潟市内野町「鶴の友 特撰」を正一合。

10月17日、神奈川県小田原魚市場、二宮定置はたいへんなことになっていた。大量の小型のゴマサバ、イサキでダンベ3個、4個が並ぶ。そんな慌ただしい中、お邪魔して申し訳ない。中に小型のタカベがあった。体長13cm・38g前後である。高級魚のタカベだが、このサイズではどうしようもない。以上は前回にも書いた。これで干ものを作る。水洗いして水分をきり、塩水に10〜15分ほどつける。室温20℃前後で塩分を控えているなら10分くらい。水分をよくきり、室内の風通しのいいところで24時間干す。地域によっては外干しができる。この場合、半日くらいで干し上がる。後は焼くだけである。非常に強いうま味があるのだけれど、表面にまず脂の熱せられ、また固まる途中の半溶けの風味がする。他の魚にはない独特の風味で、これがタカベの価値を上げているのだ。皮も身も全部うまいのが小型魚の干もののいいところだ。蒸かしたサツマイモのお菜にする。滋賀県の番茶を大ジョッキで1パイ。

10月17日、神奈川県小田原魚市場、二宮定置はたいへんなことになっていた。大量の小型のゴマサバ、イサキでダンベ3個、4個が並ぶ。そんな慌ただしい中、お邪魔して申し訳ない。中に小型のタカベがあった。体長13cm・38g前後である。高級魚のタカベだが、このサイズではどうしようもない。小田原で「くちもの」と呼ばれる雑多な箱にしても売りにくく、ダンベに入れると魚粉業者に嫌われそうである。持ち帰って水洗いしてペーパータオルにくるんで保存。昼下がりに「あぶり(焼霜造り)」にする、といても三枚に下ろし、腹骨・血合い骨を取り、皮をあぶって氷水に落とす。水分をきり、冷蔵庫で少し寝かせて皮目を落ち着かせて切っただけ。これが端的においしい。文句なしといってもいいだろう。タカベは皮を生かさないとダメだ。若い個体の血合いは鮮度がよくてもくすみ、食感のよさは数時間しかもたない。舌にずんと響くような強いうま味とあぶった香りで、「これを捨てたらあかん」とぞ思う。

10月17日、神奈川県小田原魚市場、二宮定置はたいへんなことになっていた。大量の小型のゴマサバ、イサキでダンベ3個、4個が並ぶ。そんな慌ただしい中、お邪魔して申し訳ない。二宮定置にアイゴの成魚はたくさん揚がるが、今回のように体長13cm・50g前後が入ることはあまりない。瀬戸内海ではこの秋の小型を珍重する。トン単位の魚にもまれて決していい状態ではなかったが、十数尾もらってきた。潰れてしまったものを除き、水揚げから5時間後に頭を落として内臓を取り去る。ペーパータオルに巻いて、昼過ぎに刺身にする。小型のアイゴは基本的に生かして置いて、締めて料理する。だから瀬戸内海の一部ではそれなりに値がつくのだ。野締め(漁の間に死んでしまったもの)で、ほかの魚にもまれているので、食感は望まなかったが、意外にもほどよい歯触りがある。アイゴの身(筋肉)の特徴はうま味の豊かさだが、こちらも想像以上である。相模湾の小アイゴの味は瀬戸内海とかわらず、非常にうまい。昼なので土佐番茶で口中を洗うが、至極満足。

秋深しなので、小田原魚市場にはうまそうな魚が揃っている。マアジが少ないので買受人は右往左往しているが、うまい魚が欲しいボクにはどこ吹く風なのである。どうしても欲しかったのは活けのヘダイである。生け簀の中のヘダイを数えている買受人が一人二人三人と、やけに目につく。さんの水産さんにお願いしたが、かなり厳しい戦いになりそうだ。ということでなんとか手に入れたのは、体長24.5cm・414g と小振りである。ていねいに締めてもらって、手渡ししてもらってビックリ。何がビックリしたかというと、下ろしたらその脂の乗りにビックリしたのだけど、その脂が体の表面にも感じられたからだ。脂と言っても深海性の魚の脂ではなくタイ科の魚の上品な脂である。毎年思うことだけど、この時季のヘダイの刺身にはおいしすぎて腰が抜けそうになる。1切れ、1切れの味が大きい。ぱきっとわかりやすいおいしさである。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に北海道根室・厚岸産マイワシが連続してきている。近所のスーパーにもあるので、一消費者になるとこれまた北海道産のサンマか、北海道産のマイワシか、で迷うかも。非常にいい感じの岩手県産ゴマサバが格安なので、そっちもいいとかとか。さて、北海道根室産は売れに売れ、残ったのはたったの5尾だけ。市場の残りものにいいものはなし、なので迷ったけどすべて買う。残り全買いは気持ちのいいものだ。刺身になりそうなものは1尾しかないので、とりあえず1尾だけ刺身で味見。根室で10月半ばといえば本来は冬だろうに、それほど低水温に強くないマイワシが揚がり、しかもべっとりと脂がのっているのって、不思議である。温暖化はわかっているのに、信じられぬ思いがする。それにしても10月の根室産マイワシは非常にうまい。

軽く眠っただけで、元気なくたどり着いても小田原魚市場をひとまわするとシャキッとはしないけど、ある程度はしゃんとする。ただし残念なことに、むりやり来たので目が見えていない。オヤビッチャの隣にコトヒキがいる、と思ったら二宮定置の山崎さんが、「ヒメコトヒキですね」、といってくれた。めったにとれないし、売れない魚なので意外に手に入れるのが難しい。いいわけがましいが、元気なら真っ先に見つけたはずなのに、疲れすぎているので反応できなかった。ヒメコトヒキにしては非常に大きい、と言っても体長14cm・83g しかないが、相模湾では最大級だろう。触ったら硬いというか身がぎゅうぎゅうに詰まっているようだ。表面の手触りに脂感がある。下ろしてみたら、もっとすごかった。本種の身色がこんなに美しいとは思わなかった。血合いの赤味こそ弱いが脂が層をなしている。くせのない上質の白身で下にねっとりとからみつく。そこに脂の口溶け感がある。刺身としては今年いちばんかも知れぬ。

小田原魚市場をひとまわりして、初めて気がつくこともある。そうだ、秋はオアカムロだ、というのもそのひとつだ。見渡した限りでは、ボクにちょうどいいクチもの(いろんな魚がばらばらに入っているもの)や2、3尾の箱がない。せっかく旬を迎えているのに、全体を見渡しても2箱しかない。最近、オアカムロは引く手あまたの人気、なので決して安くはない。そこに小田原のすし屋、『海攻』さんが来て、オアカムロ談義になる。諦めて、別の魚に決めたとき、『海攻』さんが1尾だけ恵んでくれた。ありがたや、である。渋滞もなく帰り着いたのが、10時過ぎ。魚の処理は仮眠後にして、オアカムロだけ下ろして刺身を数切れだけ。ムロアジ属なので豊かなうま味がある。上品で淡麗というのとは真逆の野性味溢れるうまさだ。口の中で暴れると言ってもいい。しかも脂が皮下に層を作っていて、口溶け感から甘さを感じる。仮眠前に杯1ぱいだけの新潟市西区内野町「鶴の友 別撰」をなめる。最近、これくらいでも鎮静効果がのぞめる。

八王子卸売協同組合、舵丸水産に香川県観音寺産のスズキが来ていた。重さからすると平均2㎏前後で買いやすいので1本買いする。以上は前回も書いた。さて、刺身にして、今度はカルパッチョにする。皮を引いた身をできるだけ薄く切る。皿ににんにく、塩、オリーブオイルを敷く。ここにスズキの身を並べて行く。上からスプーンでとんとんと叩いて身を調味料と馴染ませる。上からも軽く振り塩をし、高知県土佐市『白木果樹園』のピンクレモネードをたらす。タイムと黄色い激辛唐辛子を散らし、ピンクレモネードも散らす。スズキくらいカルパッチョに向いた魚はないかもしれない。くせのない白身で身質がいいので多少たたいても食感は残る。魚らしいうま味が豊かで、ほんのりと甘味がある。最近、新しい白身魚が大挙して押し寄せているために、影が薄くなったスズキの、味の実力を再確認した。ここにピンクレモネードのほどよい酸味、甘味が合う。合わせたのはジンのソーダ割りにピンクレモネードで、ピンクレモネードずくめな夜だった。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に三重間熊野市からメダイが来ていた。5.4kgなのでとても1本は買えない。この日、ボクは疲れが体中にまわりにまわり、体がゼリー状になっていたので魚を下ろす気にもなれない。半身買いはこのようなときにとてもありがたい。以上は前にも書いた。ある日突然、最低気温が10度台に落ちてきた。実際、ここ1週間、我が家の寒暖計は20度以上にはらない。ということで、買って1週間目から数回メダイを鍋にする。保存して置いたメダイで鍋にするというものだ。昆布だしに酒のつゆ、湯通しして冷水に落としぬめりを流し水切りした塩漬けのメダイだけの鍋だ。湯通ししても塩気があるので、塩は無用である。要するに昆布だしでことことたいて食べるだけの鍋だ。長時間じっくりたいているので柔らかい。塩気のあるつゆもどんどんうま味を増し、一緒にたいている豆腐だっておいしい。メダイはじっくりたいて味が出るのだというのが、わかると思う。仕上げに好みの野菜を投入して食べる。酒は深夜なのに、ジンと青切りのだいだいのソーダ割り。

八王子卸売協同組合、舵丸水産にスズキが来ていた。重さからすると平均2㎏前後で買いやすい。しかも香川県観音寺市産なのである。千葉県が大産地なのでめったに西からのスズキは目にしない、ので買ってみた。体長58cm・2.4kg である。スズキには悪い時季だと思って下ろすと真子も白子もなく、腹の中が非常にきれいだった。観音寺では活け越しをしているのかな? と思う。しかも下ろす手に脂がつく。関東では産卵群がとれる時季なのに燧灘では産卵に向かわないのだろうか?連休明けなので、鮮度的にも不安を感じながら刺身にしたら、驚くなかれ、大正解だった。締め方、血抜きがしっかり出来ているのだろう。非常にきれいな身で、強いうま味と脂がある。うま味が舌の上、口中で中だれしない。上質な白身ならではの後味のよさもある。これほどおいしいスズキの刺身にはめったに出合えない。おいしい燧灘のスズキの刺身に、酒は新潟市西区内野町の「鶴の友 別撰」。幸せだな!

八王子卸売協同組合、舵丸水産に北海道増毛の孝子屋から大振りの「ぼたんえび(トヤマエビ)」が来ていた。水揚げしたのは、増毛町の北にある苫前町苫前港、豊翔丸である。トヤマエビは非常に贅沢なものだが、月に一度くらい2,3尾買っていた。懐具合からそれが2尾になり、そして今回のは60g前後なのに1尾買うのがやっとこさだった。この60g前後で1尾500〜600円くらいになるので、それじゃお昼ご飯を食べられる、と思う人もいるだろう。100gを超えた個体は1尾1200円〜1500円で買えていたが、今は無理かも。もちろん年齢的なものか、1尾で充分になったのもある。刺身といっても剥き身にするだけ。可食部は頭部のミソ、外子、体幹部分の筋肉で半分以下になる。何度食べても「高くても食べたいエビだな」と平凡な感想しか吐けない。甘えび(ホッコクアカエビ)との違いは大きさもあるが、食感の強さだろう。甘えび(ホッコクアカエビ)には強い甘さと、後からくるエビらしい風味の豊かさがある。トヤマエビは甘味こそ甘えびに勝てないが、身のボリューム感と、食感の心地よさ楽しめる。要するにどっちが上とか下とかは言えない。つけ加えると、外子はあまり好きではないのは子供口だからかも。流通という意味で、この2種を比較すると、甘えびは死ぬと鮮度落ちが早く、例えば産地で食べるのと、都内で食べるのに差があるが、トヤマエビはそれがない。だいたい都内に来た時点でまだ生きている個体がいる。

台風が2つ通り過ぎたのもあって、八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産の店頭にはめぼしい魚が少ない中に、台風の影響を受けなかった北海道ものがそれなりにある。いきなり目に飛び込んできた釧路産ハタハタを、いきなり袋をちぎって、いきなり確保する。これを夜、湯煮にする。「湯煮」とは液体でゆっくり魚などに火を通す料理法で、言語自体は北海道道東からオホーツク海のもの。山形県庄内では「湯上げ」である。なぜ、「湯煮」としたかというと根室市であった釧路町の方に「道東では「『めんめ(キチジ)』を『湯煮』にすることが多いがハタハタでも作る」と聞取しているからだ。このあたり釧路市、釧路町、厚岸町に行って調べたいものだと思っているが果たせていない。ちなみに今回、「湯煮」を使ったのは根室での聞取があったためで、無闇に料理名を当てはめるべきではない。フレンチではポシェに近いもので、熱を通す本体からできるだけうま味、というかエキスを煮汁に放出しない、ための料理法だ。今回はズボ抜きして、そのまま水からゆっくり火を通し、あくをすくいながらことこと15分くらい煮たもの。ハタハタ、キチジはきれいな魚なので湯通しは無用。これを高知県土佐市『白木果樹園』の「ぶしゅかん(モチユ)」と醤油だけで食べる。煮上がりにも果汁を落としているので酢みかんを使わない北海道の料理に酢みかんと、異色の取り合わせとなる。

台風が2つ通り過ぎたのもあって、八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産の店頭にはめぼしい魚が少ない。ボクが行った時には、あらかたいいものは売れてしまった後だった。それでもじっくり探せばあるのが日本列島のよさだと思っている。愛知県産シロギスに高値のものと、安値のものがある。安値の方が大きく、高値の方が小さい。安値の方が鮮度が悪く、高値の方が鮮度がいいのだ。塩煮にするなら安い方、天ぷらなら高い方と、迷って天ダネとして高値を買って来る。体長15cm・重さ40g前後は生で食べるには小さすぎる。どのような世界でもそうだが、このようなわかりにくさがあるから面白いのだ。持ち帰ってすぐに水洗いする。腹開きにして腹骨と血合い骨を抜き、背鰭を切り取り、縁をきれいに成形する。軽く振り塩をしてペーパータオルにくるんで保存する。これを大トラブルを抱えた深夜に揚げる。玉ねぎと金時草を一緒に揚げ、大根おろしと高知県土佐市『白木果樹園』の小夏を添える。シロギスにとっては決していい時季ではない。揚げても身がふんわりふくらまない。それでも皮目にある独特の風味と身の甘さがある。やはりシロギスの天ぷらはうまい。時季外れなのに予想以上にうまい。関東にとっての最大の供給地は昔は日本海だったが、最近は愛知県ものばかりになっている。どうしてだろう? なんて思いながら新潟県で買ったサッポロビールの「風味爽快ニシテ」500ml を2本も飲んでしまう。ボクって逆境に弱いな。

10月、31日、八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産の店頭に魚がなかった。当たり前だ。台風が来ているのだから。当然、ほとんどの魚が値を上げている。話が横道にずれるけど、魚はないときな、ない、方がいい。天候に関わりなく魚がいっぱいある世界にだけは行きたくない。気になったのは袋入り(1㎏入り)の「こはだ(コノシロの体長10cm〜14cm)」だ。産地を聞くと熊本だという。有明海産もしくは天草だろうか。「こはだ」は年々右肩上がりに値を上げている。眼の前にある「こはだ」だって、決して安くはないが手が出てしまう、そんな台風来襲である。これで金土日月の4日間楽しめばいいのである。さて、水洗いして開き、強めの振り塩をして30分。我が家の定番、ミツカンの穀物酢で塩を洗い流す。水気を切り、こんどはミツカンの米酢で30分つける。つけ込み時間は脂ののりぐあいで変わるが、今回の熊本産は脂がたっぷりのっていたので30分とする。ちなみにボクはあまり生っぽいのは好きじゃない。これを酢から引き出して、あまり酢を切らないで保存する。まあボクのやり方は町のすし屋風だけど、絶対やってはいけないのが香りのある伝統的な製法の酢を使うこと。魚を調理するときの酢は無個性がいい。赤酢には惹かれるところがあるが高すぎる。酢が馴染む前に1切れ食べてみて、驚くほど脂がのっているので驚きを感じる。ニシン目の中でもコノシロは脂がのっているといっても、決してのりすぎにはならない、嫌みがないのがいい。さて、これを酢の馴染みを確認しながら3日にわたって楽しむ。1日目は酢が若い気がするが、脂がのっているのでとろりと舌に吸いつくようである。ちょっとだけ脂がとろけるときの甘さがある。ニシン目らしい強いうま味と野卑な部分もいい。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に三重県熊野市からメダイが来ていた。5.4kgなのでとても1本は買えない。「半身ね」というと「いいよ」だった。この日、ボクは疲れが体中にまわりにまわり、体がゼリー状になっていたので魚を下ろす気にもなれない。半身買いはこのようなときにとてもありがたい。以上は前にも書いた。さて、最近、フェンネルシードをやけに使っている気がする。魚をゆでたり、焼いたりするとき、またフライにも使っている。フライでは前回、パン粉に混ぜて使ったが、今回はメダイたっぷりまぶしてみた。黒コショウ・グラウンド少々と一緒にまぶし、少し寝かせてから揚げる。メダイのフライはほどよく繊維質で柔らかい。どこにも欠点がない。メダイの欠点は欠点のないことだと思っている。そこにフェンネルシードと黒コショウの風味がくると、単調さが消える。口の中に残るフェンネルシードの香りもいい。ついでにそこにじゃぼじゃぼかけ回した、璃の香がほどよい酸味と甘味、すがすがしい香りをプラスしてくれた。フライというものはいろいろ様々な工夫がきく。新潟県で買ったサッポロビールの「風味爽快ニシテ」という不思議な名前のビールをぐびぐび。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産の店頭にも台風の影響が出て来た。選ぶなんてできないので、宮城県産ギリギリのヤリイカを買う。ちなみに消費地では、ギリギリを買えるのが買い上手で、むやみにいいものばかりを買うのはバカっ買いという。やはり刺身にはギリギリかな? と思って刺身にする。水洗いして皮を剥き、軽く振り塩をする。食べる直前にヒモ状に切り、ビックリするくらい辛い黄色い唐辛子と、「けらじ」(喜界島特産のものを、高知県安芸市、岡宋農園の岡宗俊介さんが栽培しているもの)と塩で締める。黄色い唐辛子は付着した部分が本体を食べなくても辛いので、ちょんとんとするだけでボクはいい。それよりも「けらじ」の穏やかな酸味と甘味が非常にヤリイカに合う。レモンなどでは締まりすぎて硬くなってしまうが、「けらじ」だと硬くならず、しかもヤリイカのうまさを生かしてくれる。これでアブソルートのソーダ割りに「けらじ」で「けらじ」ずくめ。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に三重県熊野市からメダイが来ていた。5.4kgなのでとても1本は買えない。「半身ね」というと「いいよ」だった。この日、ボクは疲れが体中にまわりにまわり、体がゼリー状になっていたので魚を下ろす気にもなれない。半身買いはこのようなときにとてもありがたい。以上は前にも書いた。そして今ある食材を整理してみる。鍋具材をあっちからこっちから集める。新潟県の「おしぶ」、こんにゃく、エリンギに金時草(ハンダマ)、玉ねぎを適当に切る。割り下、酒・砂糖・醤油(高知県宿毛市 篠上商店 フンドウカネカ醤油)・水を合わせる。メダイを適当に切り湯通しして冷水に落とし、水分をきる。鍋に割り下を張り、ことこと煮て食べるだけなので、あっと言う間の深夜酒の友となる。10月初旬が過ぎようとしているとき、やっと鍋気温となる。年々歳々、鍋ができる時季が短くなる。ことこと煮たメダイは柔らかく、口の中で脆弱に潰れる。味の特徴は甘味というか、嫌みのなさだろう。この特徴がなく、他の魚に置き換えやすくて平凡なところを関西では嫌い、関東では好む。ついでに言うと、「おしぶ」やこんにゃくや野菜などがおしなべて、大量にとれるのも魅力なのだ。なかなか疲れが去らないので、「ほろよいカップ 司牡丹」をなめるようにやる。情けなし。

10月4日、新潟県西区、五十嵐漁協、新川漁港にいたら漁師の鈴木重雄さんが通りかかった。おかずを釣りに行ってきたようだ。短時間の釣りだったようだけど小振りのアカカマス、カサゴ、キジハタとうまいもんばっかり釣っていた。「キジハタおくれ」と言ったら、「これはダメじゃ」というのでアカカマスとカサゴを分けていただく。鈴木さん、ありがとう。以上は前にも書いた。もらったカサゴは潮煮にする。煮つけではなく汁ものである。水洗いして内臓はずぼ抜き。肝だけは残す。湯通しして冷水に落として残った鱗やぬめりを流す。これを水から昆布を差し入れた中でじっくり30分以上煮る。酒と塩だけで味つける。ここに白木果樹園の青切りの花柚を落とし、吸口に花柚のスライスを添える。カサゴから濃厚なうま味が染み出し、汁だけでご馳走といったものとなる。長時間煮ているのでカサゴの身は柔らかく、身離れがいい。塩と酒だけの味つけなので、カサゴの味を真っ向から味わえる。

イソフエフキというよりも、沖縄の庶民的な魚「くちなじ」と言った方がわかりやすいだろう。沖縄では何度か買っていて、30cm前後ばかりを食べていたのが、ほとんど50cm近い高知県宿毛の個体の刺身を食べてビックリ仰天する。小振りの個体と比べると異次元の味だったのだ。意外に脂があり、口に入れるとこの脂の口溶け感があり、甘く感じる。高知県から送ってきて撮影後に食べたのに、ほどよい食感がある。まさに刺身として上等の味だし、豊かなうま味があるので、口の中で味の中だるみがない。高知県土佐市、白木果樹園の小夏とわさび、醤油で食べたが近年希にみるうまさだった。イソフエフキよりもなお大型になる「たまん(ハマフエフキ)」を味で凌駕する。今回のものは種として最大サイズだと思われるが、本種の評価を大幅に変えることになった。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に三重県熊野市からメダイが来ていた。5.4kgなのでとても1本は買えない。「半身ね」というと「いいよ」だった。この日、ボクは疲れが体中にまわりにまわり、体がゼリー状になっていたので魚を下ろす気にもなれない。半身買いはこのようなときにとてもありがたい。「頭もおくれ」ということで頭を梨子割りにしてもらう。楽楽、楽ちんとしか言いようがない。ご飯のおかずにさっそく頭半分を煮る。頭は湯通しして冷水に落としてぬめりを流す。水分をよく切り、酒・砂糖たっぷり・醤油(高知県宿毛市。フンドウカネカ こいくち 甘口醤油 篠上商店)ではじけるほど田舎風に煮てみた。煮つけの味つけは本能の赴くままになので、疲れが甘味を欲しているのである。もちろん、ご飯をチンしてぱくぱくと、メダイの皮のねっとりした味で食べる。皮だけでも充分満足できる味だけど、ついでに身の方も食らう。濃厚な味つけで煮ても身は柔らかく、身自体が主張するところはわずかだ。でも、ご飯にはこの嫌みのさが生きる。これにてご飯一膳。煮汁だけで一膳。終いに垂らした高知県土佐市、白木果樹園の花柚が効いている。これなどメダイという平凡すぎる魚の煮つけに持って来いだ。

10月4日、五十嵐漁協、新川漁港にいたら漁師の鈴木重雄さんが通りかかった。おかず釣りに行ってきたようだ。短時間の釣りだったようだけど小振りのアカカマス、カサゴ、キジハタとうまいもんばっかり釣っていた。「キジハタおくれ」と言ったら、「これはダメじゃ」というのでアカカマスとカサゴを分けていただく。鈴木さん、ありがとう。そのまま関越、圏央道と道交法違反もなく帰宅する。真っ先に、魚を撮影して計測して水洗い。そのままペーパータオルにくるんで保存する。翌日、夜に三枚に下ろして、腹骨・血合い骨を取り、皮をあぶって氷水に落とす。水分をとって冷蔵庫で皮を落ち着かせる。白木果樹園からの酢みかんをあれこれ並べて、なめて、かじってカラマンシー(四季橘)を選ぶ。あとは盛り付けるだけ。三重県尾鷲市岩田昭人さんがくれた辛い青唐辛子「虎の尾」を別盛りにする。カラマンシーを搾り、ザルツブルクの塩をちょんとのせて食べる。小振りながらアカカマスは、予想外に脂がのっていて野性味溢れる強い味がする。舌に感じるうまいが大きい。カラマンシーはシークヮーサーに似ているが、ライムが持つ苦渋さがほどよく存在する。アカカマスの強い味にはカラマンシーだな、と思う。酒はアブソルートのソーダ割りにベルガモット。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に岩手県から「煮だこ」が来ていた。温暖化で、岩手県産で「煮だこ」ならミズダコだろう、と思えない今日この頃であるが、今回のものはまごうことなきミズダコの「煮だこ」だ。見た途端に手が出た。疲れが取れないときは「タコを食べるべし」、と言った魚屋がいたが、本当かどうかはわからないが疲れていることは確かだ。しかも、「煮だこ」は切るだけで食べられる。「煮だこ」は傘膜(足回りのびろびろ)を切り取り、適当に切る。はい、それだーけーよ、なのだ。後は食べるだけ、だけど新潟県新潟市西区内野町の「越の関」をわざわざ冷やしておいた。マダコの味の特徴は小豆を煮たときのような独特の風味だが、ミズダコはこの香りが弱く、マダコと比べると全体に柔らかい。マダコとミズダコを優劣で語る人がいるが、愚かだ。どっちを選ぶかは好みの問題でしかない。ボクなどミズダコを食べたいときは、ミズダコを、マダコを食べたいときはマダコを食べる。食べるまでたった数分の「煮だこ」って素敵な味なのだ。噛むと柔らかくじわじわとタコらしい味わいが口中に広がる。噛む、噛む、噛む、と長々と味が絶えないのがいい。おおおお、冷やした「越の関」に合う。

やっとこさ同定できた高知県古満目産ハナザメを湯引きにした。酢みそをつけつけ食べると、やけにうまい。やはりていねいに扱ったメジロザメ科のサメは文句なしに、うまい、ということがわかる。きっとサメだと言わなければ、単純にうまい、と感動できるのではないか、と思う。淡泊な味わいだけど、口の中で脆弱にほぐれるその感じがすでにご馳走だし、サメ独特のうま味がある。この湯引きと酢みそは西日本ではありきたりの組み合わせだけど、素晴らしいとしかいいようがない。これほどおいしい魚が代金(関東では入合)になって、本当にいいのだろうか? と思ってしまう。高知県のコンビニでいくつか買った、「ほろよいカップ 司牡丹」がうまい。

高知県で作られている「ぶしゅかん(モチユ)」は8月後半から10月はじめにかけて水揚げされる、「めじか(マルソウダ)の新子」のためにある、という人がいる。実際、「ぶっしゅかん」が青いのもこの頃である。皮も果汁もおいしい酢みかんなので、何にかけてもうまいが、「めじか(マルソウダ)の新子」の刺身にやけに合う。高知県土佐市、白木果樹園から送って頂いたので、「めじか(マルソウダ)」は無理なので、近所で売られていた小振りのカツオの刺身に使ってみた。変な名だけど、カツオのめじか新子風とでも言えそうである。ほんのり甘味がある「ぶしゅかん」の果汁と醤油の組み合わせが、やや小さく切ったカツオに合う。実に印象深い味で、あえていうと「ぶしゅかん」があるから生まれる味でもある。酢みかん、醤油に、細かくすり下ろした果皮の強い苦みと強い香りが、カツオの刺身を異世界のもののごとくする。「ぶっしゅかん」の特徴は種が大きく多いことだが、この種を取り除こう、なんてことをやったら「めじか新子風」にはならない。

久しぶりに食べる、アカアジの塩焼きが滅法うまい。アカアジは水揚げ量がごく少なく、手に入れた個体数が少ないので、旬がよくわかっていない。このような種は地道に多固体食べて行くしかない。9月27日、高知県大月町道の駅で買ったアカアジは脂がのっていた。焼き始めると内側から脂が染み出してきて泡となる。焼きたてを食べると、強いうま味があり、身質がいいので口の中でのほぐれ感も上々である。これほどアカアジの塩焼きがうまいとは思わなかった。合わせた酢みかんは高知県産青柚子。

高知県宿毛市田ノ浦、すくも湾(漁協) 中央市場で、木村定置 株式会社木村水産 幡多郡大月町安満地松島)の水揚げを見ていた。明らかにアカカマスでもヤマトカマスでもない。なんだろうな? と思ったら木村さん(?)が1本分けてくれた。体長41cm・457g なのでカマスとして大きめである。帰宅して同定してタイワンカマスと判明する。やはりカマスは直感的に同定するのは難しい。大急ぎで三枚に下ろして、軽く振り塩をする。少し寝かせて皮目をあぶる。冷水に落として水分を切り、少し冷蔵庫で皮目を落ち着かせる。やはりカマス類は皮に味がある。独特の香りがあり、これが実にいい。これだけでも魚としては上等である。脇に添えたのは高知県土佐市、白木果樹園の青い小夏。香りはほどほどながら、ほんのり甘味のある優しい味である。

高知県宿毛市、すくも湾(漁協) 中央市場で与力水産さんが競り落とした魚を見ていたら、気になるオニカサゴ属(フサカサゴ科)を発見した。明らかにオニカサゴではないが、持ち帰らないと同定できない。お願いして分けてもらった。驚くなかれ、我がデータベース2個体目のヒュウガカサゴであった。1個体目に出来なかった詳細撮影をして、食べてみた。

高知県幡多郡古満目、宿毛からいろんな魚を持ち帰ってきた。まずはクロヒラアジである。クロヒラアジは間違いなく増えている。温かい海域ではまとまって揚がることもあり、普通に食用とされている。ちなみにボクのもっとも好きな魚のひとつである。大月町古満目定置から分けていただいてきた。迷うことなく刺身にして食べた。水揚げの翌日はあまり味がいいとは言い難かった。むしろ焼霜造りにして正解であった。皮付きのまま氷水に落とし、水分を切って刺身状に切る。これまた高知県から持ち帰った「ぶっしゅかん(モチユ)」の皮を散らし、果汁を搾り、醤油をかけ回して食べた。こまったことに酒が欲しくなる。逢魔が時、少し早めだけど「ほろよいカップ 司牡丹」を飲む。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に下関市赤間町『下関勇次水産』から45cm・1.4kg のハガツオが来ていた。小振りだし、週明けなので鮮度は抜群とは言い難い。ただし触った感じがいいのである。以上は前にも述べた。1本全部余すところなく食べたが、今回だけは塩焼きがいちばんだった。三枚に下ろして切り身にして、切身3切れだけ振り塩をし、そのまま寝かす。水分が出て来たら袋に入れて密閉して3度に分けて食べた。づけ、塩焼き、みりん干し、煮つけ、ポシェ、フライにして、塩焼きがいちばんおいしかった。この場合のいちばんは今回限りのことで、ボクのいちばんはコロコロ替わる。ときどき食のエッセイなどで、普遍的な意味で、こうすべきだとか、この食べ方がいちばん、だとか、何々はこれに限る、とか書いているのを見るが、愚かしいとしかいいようがない。言語能力が低いのだと思う。一人で歩き出たばかりの幼稚園生のようだし、食べ物の本質がわかっていない。食は緩みのないハンドルのようではなく、ハンドルのない乗り物のようだ。好みも、味の評価も日日時々に変化する。ということで今回だけは塩焼きが滅法うまかった。ということで次回は違うかも知れない。こんな不安定さが食べ物のいいところなのだ。小振りだったし、それほど脂がのっていたわけでもないのに、焼いた香りに脳みそを直に触られるような快楽を感じた。皮にも豊かな味があり、身にも名状しがたい味があった。切り身の大方をみりん干しにしてしまったことを後悔した。ご飯の友と、お茶の友として、買った日の昼に、あっと言う間の3切れでした、という制御不能の自分を大いに反省した。今回だけは、ハガツオは塩焼きに限る。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に連続してバイが来ている。活けの貝は産地不明であることが多い。産地を聞いてくれるなら買ってもいいけどな、というと問い合わせてくれて山形県産だということがわかる。これを産地でもある新潟県新潟市、新川漁港で聞いたやり方で、塩ゆでにしてみた。ザルなどに入れて流水で貝を洗う。水分を切り、鍋に塩水を入れた中に入れて火をつける。沸騰してきたら2、3分煮て火をとめる。そのまま鍋止めをして冷ます。5分、10分煮たものとは似ても似つかない味になった。醤油など発酵調味料を使っていないので、バイの味が直に感じられる。そして足の部分がしこっとしているのである。しかも足の甘味は、よく煮たもの以上にある。あまり煮ていないのにワタには火が通り、濃厚でいながら後味がいい。数え切れないほど食べているバイの本当の味に行き着いた気がする。バイは酒の肴でもあるがおやつでもある。文字の世界に疲れたら2個、3個食べて休む。その内、皿の中は空になる。

産みの苦しみの中、それでも外出せざる終えなくて駅前に出た。帰りにスーパーによって「ウルメのほお刺し」を買って帰ってくる。お昼ご飯に焼いたら、はずれだった。干しがあまく、好ましい風味に欠ける。丸干しはときどき無性に食べたくなるが、めったに当たりに出合えない。ここ数ヶ月での当たりは群馬県高崎魚市場『魚栄』で買った、やせっぽちの「うるめいわし」(小川商店 佐伯市米水津色利浦1533)だった。ウルメイワシは大きくても痩せていても、いいものはよく、ダメなものはダメで、『小川商店』のは痩せっているのに滅法うまかった。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に下関市赤間町『下関勇次水産』から45cm・1.4kg のハガツオが来ていた。小振りだし、週明けなので鮮度は抜群とは言い難い。ただし触った感じがいいのである。帰宅して下ろしたらぎりぎり生でいけるといったもの。三枚に下ろし、切身にし、いろんな料理を作るために下処理をする。残った身を細かく切りつける。これを醤油・少量のみりん・しょうが、胡麻で漬けにする。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産で東京都八王子市元八王子の鮨忠さん(鮨忠元八支店。念のため支店ではない)に会った。立ち話をしていたら煮イカが作りたくなる。「煮イカ」は八王子を中心に無数に散らばっていたすし屋、『鮨忠』の名物でもある。水と砂糖と醤油だけで煮るもので、味は素朴なものである。コツはつきっきりで煮ることかも。「煮イカ」は誰でも作れるけど、職人が作るものと、素人が作るものではどこかしら違う。八王子市横川町の鮨忠さんは「一度にたくさん煮るからうまい」と言っていたが、確かにそんなものかも。ただし、一般家庭で少ない量を煮ても結構うまいと思う。甘いのが勝った味で、スルメイカ本来の味を生かすなんて、まったく考えないで作る。ただスルメイカは濃厚な味つけにすると、余計にスルメイカの味が強くなる。なんだろうな? この蒸したサツマイモのような香りというか風味。これがないとスルメイカらしいとは感じられない風味。煮つけた時間が短く、煮汁は鍋止めしてから染みているので柔らかいのもいい。

考えてみると久方ぶりのマアジの刺身だ。釣ってすぐに首を折ってあるので、身はまだ堅堅である。脂はさほど乗っていないが、食感がこの上なくいい。しょうが醤油で食べて、おお、うまいじゃないかと思い、今度はへべす(宮崎県日向市の酢みかん)をじゃばじゃばかけて食べる。酢みかんと醤油まみれのマアジの刺身を、ご飯のせるうれしさよ、真夏日よ。なんて感じである。ものすごく酢みかんを欲するのは、暑いせいでもある。それにしても横須賀沖のマアジはいつ食べても、うまいねー。

水産物に通じているとは、水産物を日々に生かせているということだ。ボクなどまだまだ修業が足りないが、日々水産物を生かすことに精進している。新潟県に行ったら、必ず買うのが麩だ。車麩は必ず買い、ときに新発田麩、そして「おしぶ」なども買う。今回買ってきたのは「おしぶ」だ。半分に切るとそのまま汁の実などになり、丸のまま使うときには10分くらい水につけると戻る。今回は我が家の魚の煮汁ストックで「おしぶ」となすをたく。いろどりが地味で、茶色で、華のない料理だけど、まあボクの脳みその大方に染みついている、おいしいの色が茶色では、こうなるのが当たり前だ。スルメイカ、コウイカ、カサゴ類など魚類他種、煮ハマなどの味が凝縮された煮汁で単純にたいただけ。魚貝類の味で煮染まった「おしぶ」くらいうまいものはない。このおいしさは豆腐にもなく、野菜にもない。麩にしかない麩のおいしさで、麩を知らなかった40年くらい前のボクはおいしいをひとつ知らなかったことになる。これがやけにご飯に合うし、ビールにも合う。ビタミンが足りない気がするけど、ボクにとっての完全無欠の味である。

トビウオの季節は、三日にあげず皮付きの「たたきなます」を作り、「みそたたき(なめろう)」を作る。「みそたたき(なめろう)」は何十回作っても、たぶん何千回作っても飽きが来ないだろう。よく作るので、体調のバロメーターにもなる。最近、やけにみそ多めなのである。極端に長時間のディスクワークで汗をかくわけでもないのに、みその塩気が欲しい。今回は胸鰭を切り取り、腹鰭を抜いて三枚に下ろす。腹骨・血合い骨を取り、皮付きのまま細かく切る。大葉、みょうが、ねぎ、玉ねぎ、しょうが、にんにく、三重県尾鷲市の青く辛い唐辛子など多種類少しずつ刻む。この日は長崎県長崎市、『チョーコー』の長崎みそをたっぷり加えて、たたく。塩分取り過ぎで身体に悪そうなのに、爽快感を覚える。トビウオは強い味つけ、香りのある野菜と一緒でも、背の青い魚特有のうまみがあるので、塩気よりも魚のうま味が勝つ。合わせたのは冷蔵庫の隅に残っていたホッピーだけど、「みそたたき(なめろう)」には、このような下町居酒屋的なものが会う。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産の店頭に、もうとても「新」のつかないコウイカが愛知県三河湾から来ていた。これを見た途端、今年は新イカを食べないで終わるのだな、と思った。別に新イカが好きなわけではないが、季節を感じられるものなので、一度くらいは食べて置きたかった。仕方がないので、外套長9cm前後を3ばい買って帰ってきた。帰宅するや間髪入れずに下処理をする。外套膜をていねいにペーパータオルにくるんで深夜を待つ。一日を3つに分けているので、ボクの深夜は丑三つ時である。湯に1秒弱くぐらせ、氷水に取り、水分をきって切りつけただけだ。まだまだコウイカらしい味がないものの、考えてみると5月の漁の最盛期以来食べていない。印象に残らない平凡な味ながら、嫌みもない。ゆっくり味わって食べないと、イカらしい味にも乏しい。まあこれはこれで、9月のコウイカの味として記憶に止めておこう。酒は新潟市西区内野町、「鶴の友 上白」が、やけにうまい、カネタタキの啼かない深夜なのであった。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産、クマゴロウが銭州に行ったようで、ムロアジ属が小山になっている。ほぼクサヤモロかな、と思いながらも同定のために小振りのものを連れ帰ったら、全部クサヤモロだった。銭州では大物釣りのエサとなるので、クサヤモロはクサヤモロとは呼ばれず、エサと呼ばれている。ただ料理法によっては大物釣りの主役である「もろこ(クエやマハタかな)」やカンパチ、シマアジよりもうまい。特にフライにするとシマアジなどは目じゃないね、と言いたい。体長23cm・145g前後を三枚に下ろして腹骨・血合い骨を取る。水分をよく拭き取って塩コショウする。小麦粉をまぶし。溶き卵にくぐらせ、パン粉をつけて揚げる。後は食べるだけだ。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産で「きんき(キチジ)」の荷を前にしてすし屋が、左の網走、右の羅臼と交互に見て立ち尽くしている。北海道網走は近年人気が高いので、値段は非常に高い。右の羅臼も負けず劣らず高いけど網走ほどではない。煮つけにするならサイズ的には小振りな網走で、羅臼は大きすぎる。横に並んで右左を見て、つられ買いする。1尾でいいので羅臼産のいちばん小さい22cm・306gを、量りに乗せて値段を聞いてから買う。さすがに「きんき(キチジ)」をキヨミズガイはできない。帰宅して、すぐに煮つけにする。水洗いして湯通しして冷水に落とす(この工程は必須ではない)。水分をよくきり、酒・みりん・砂糖・たまり醤油(必須ではない)・濃い口醤油で煮る。煮上がりで朝ご飯のおかずにしたが、そんなに多くは食べられない。脂が多すぎるし、うますぎるからだ。とろとろ口に含むと溶け出して消える。そのはかなさよ、といいたいところだけど非常に強い味だ。保冷剤を皿に敷いてラップをして置く。昼ご飯には室温になった煮つけをおかずにする。いただきもののニラをみそ汁にしたが、余計な気がした。純粋に「きんき(キチジ)」だけでご飯を食べたい。今回は肝心の肝に触らないように気をつける。

4年振りかな? サンマの佃煮。佃煮の炊き上がりに合わせてご飯をたく。湯気の立っているご飯の上にサンマの佃煮をそのまま乗せて食べる。佃煮は骨が柔らかくどこにも抵抗を感じないまま、喉に消えていく。ご飯も、サンマの佃煮も駆け足で消えて行く。サンマの佃煮は脂がのっているのと、のっていないのでは別物の感がある。前回は痩せ細ったサンマで佃煮を作っているが、調味料で硬く締まった中に強いうま味があって、これはこれでおいしかった。今回の佃煮は非常に脂がのっているサンマで作ったので、ふわふわして柔らかく、調味料の甘さに、佃煮が口の中で脆弱につぶれるときに感じられる甘味がある。ただ、背の青い魚特有のうま味はさほど感じられない。要するに、脂があってもなくても、サンマの佃煮はうまい、としかいいようがない。

「なみのこ」と言う名でむつ市(青森県)からやってきたコタマガイは3cm前後と小さかった。二枚貝は特別な場合を除いて小さい方が扱いやすい。何時ものようにみそ汁にして、残りをオリーブオイルで蒸した。貝から出た汁と油だけの料理だが、そこにエリンギの風味を足してみた。アサリなどと比べると淡泊な味で物足りなさを感じることが多いが、濃厚なエリンギの風味と貝の味を取り込んだオリーブオイルで、味に奥行きが生まれた。塩を使っていないのにほどよい塩分濃度なのは、貝が水から持っている塩気による。

気象庁の夏は6月、7月、8月だが、9月も夏に加えた方がいい。9月も半ばになって、いまだに耐えがたい暑さが続き、どう考えても残暑などとは言っていられない状況である。残暑を見舞うのは10月になってからだ。時季時季に時季のものを購入して食べること、季節に抗わないとこをモットーとしている人間にはやけに切ない時代になったものよ、と思う。それでも9月になれば関東の海には秋の魚がやってくる。今季初トビウオは千葉県鴨川からやってきた。たぶん駿河湾でも、相模湾でも同じようにトビウオがやってきているはずだ。何尾か購入してあれこれ作る。最初は「たたきなます」だ。トビウオの味は皮にあり、身は皮の添え物でしかない。もちろん身の淡泊さを楽しんでもいいが、まずは三枚に下ろし腹骨、腹鰭の担鰭骨を取り、皮付き血合い骨そのままで薄く切りつける。それに刻んだみょうが、大葉、にんにくと和えるだけだ。天盛りにしたのは三重県尾鷲市の青い唐辛子「虎の尾」で、すだちを添えた。食べる直前に好みの量の「虎の尾」を混ぜ込み、すだちを搾り。醤油をたらして食べる。トビウオは明らかに背の青い魚である。回遊魚特有のうま味に満ちている。わずかだが酸味があるのも特徴だろう。おいしさの種類が豊富だとも言えるだろう。「虎の尾」がその味のアクセントになる。結構な「たたきなます」に、酒は新潟県新潟市内野町の「鶴の友」で、いい時間が過ごせた。

9が月振りのカドガワフエダイは、刺身にして、カルパッチョにもしてみた。我が家のカルパッチョはオリーブオイル・塩・にんにくが基本で、好みの香辛野菜、香酸柑橘類などで絵を描くようにつくる。カルパッチョは描くようにつくるので、カルパッチョなのだ。皿にオリーブオイル・にんにく・塩を塗りつける。ここにできるだけ薄く切った身を貼り付けていく。全部貼り付けたらスプーンなどでたたき全体を馴染ませる。ここにスダチの果汁を点々と搾り。スダチ・ローゼル・オレンジミントを描くように散らす。カルパッチョは濃厚な味わいであるが、カドガワフエダイのうま味がそこにしっかり浮き上がってくる。逢魔が時にカルパッチョをつまみ、安いジンの水割りで口の中を洗う。久しぶりに素晴らしいカルパッチョができたという喜びがこみ上げてくる。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に小ヤリ(ヤリイカの若い個体)が来ていた。小ヤリは秋の季語にしたいくらい秋のものだ。大気は真夏だけれど、海は徐々に秋なのかもしれないと思った。でも産地がわからない。荷の造りからすると茨城県かなと思われる。小ヤリの最大の産地が茨城県なのもある。新イカ(コウイカのポンポン玉くらいのもの)を食べそびれ、小ヤリもか?というときの小ヤリである。帰宅したらとっととげそを抜き、開いて墨と内臓を洗い流す。これをペーパータオルにくるんで冷蔵しておく。深夜に皮を剥かず、1、2秒湯につけて氷水に落とす。水分をよくきり適当に切って三重県尾鷲市の辛い青唐辛子、「虎の尾」とスダチを添える。醤油をかけ、スダチを搾り、ざざああと和えて後は食らうのみ。これを小鉢ものといい深夜酒の友という。そんなに味のない時季だけど、柔らかくほの甘い。スダチの酸味と青唐辛子の辛みあってのおいしさだ。合わせたのは、新潟県新潟市西区内野町の「鶴の友」。いい時間をいただけた。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産で買った新潟県佐渡石原水産からアラ、体長43cm・713g の兜(頭部)は塩焼きにした。あきらかに暑気がとれず、バテ気味の自分に野生を取り戻すための塩焼きである。頭部の塩焼きは食いにくい、が他のどこよりもうまい。うますぎて困っちゃうくらいうまいので、ついつい手づかみで食らう。マンモスの肉を食らうがごとき気迫でアラを食らってみる。野生を取り戻すのがいちばんの暑気払いである。うまいのは重々知っている。過去に何度もウマスギてこてんぱんにやられている。それなのにまたこてんぱんにやられた。まずは皮を引っぺがして食い、その下に隠れている身を指でほじくり出して食う。身はちょびっとなのにおいしいが大きい。最初はちょびっとずつ食らっていたら、頬肉を食べてからは一気呵成に食べ尽くす。なんとかカマの部分を残すことに成功する。さて、カマは炊き込みご飯かな?

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に産地不明のボタンエビがきていた。小振りで見た目にはあまりいい状態ではないが、鮮度はいい。明らかに千葉県銚子以北の底曳き網で揚がったものである。タラバエビ科のタラバエビ属のエビは近年高騰している。完品はとても手が出ないことが多いので、思わず手が出た。一般に、「ぼたんえび」と呼ばれている標準和名トヤマエビはカゴ漁でとっていることが多いので、ときに生きているものが混ざるが、太平洋側の標準和名ボタンエビは底曳き網でとっているので品質にばらつきがある。トヤマエビは比較的流通量が多いが、ボタンエビの流通は少なく貴重でもある。今回のは壊れもあるものの、見つけると必ず買うのは流通量が少ないからだ。

新潟に行ったはいいが、あまりにも慌ただしく、最低限の買い物しかできなかった。旅の疲れがとれた木曜日(2025年9月4日、八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に行くと新潟県佐渡石原水産からアラが来ていた。佐渡をはじめ新潟県を代表する魚のひとつがアラである。なんとなく縁を感じて買ってみた。体長43cm・713g なので関東でいう「小アラ」よりも大きく、「中アラ」というべきだろう。とりあえず刺身を造る。水洗いをして三枚に下ろし、皮を引き、腹骨を大きく取り、血合い骨を抜き、皮を引く。やや薄めに切りつける。それほど脂がのっているわけではないが、アラのよさはうま味と上品な舌触りにあり、なので気にならない。それにしてもうま味が長々と続き舌の上でだれない、その上、後味がいい。ついつい箸が伸びる、といった味である。だから年がら年中関東の市場に置かれ、いつも高値がついているのだ。端的に言うと、アラを食べることは贅沢をすることなのである。酒は新潟県新潟市内野町の「鶴の友」。地味だけどアラの刺身に合う。箸も止まらず、酒も止まらず、とあいなる。

普段のおかずは、ありきたりな何もない日に暇みつけて作るもので、ありふれたものでしかない。ただし、そんなものが日々の生活には大切だし、日々を豊かにしてくれるのである。さて、おかずの代表格といえば煮魚だろう。魚の身も皮も余すことなく食べられて、ご飯に合う。煮魚は煮汁を多めにして煮ると失敗しないが、この煮汁があまることがある。魚を湯通しするのは煮汁を濁らせないためだし、二度使いすることを見越してだ。そんなときは少しずつ冷凍保存しておく。魚でも貝でも、イカタコでもいろんな汁を継ぎ足し継ぎ足しすると、非常にうま味豊かな調味料が出来上がる。あまり味のない魚を煮つけるときにも使えるし、野菜や豆腐を煮てもおいしい。今回はこの保存して置いた煮汁でおからの炒り煮を作った。魚料理をよく作る家なら定番料理にすべきである。なんといってもおからは安くてうまい。おからは豆乳を絞った「から」なので「おから」だけど、ここには大豆のうま味がたくさん残っている。それが魚貝類から染み出てきたうま味と一緒になると、大層なごちそうになる。ご飯の友として作っているが、夜酒の友にもなる。おかずとしても肴としても一級品である。

昼に千葉県銚子産を塩焼きで食べて、夜に北海道根室産のマイワシを塩焼きで食べる。ともに100g前後だが、脂の量は根室産が銚子産を圧倒している。塩焼きは脂の多い方がうまいのか?残念ながら、脂がのった方がおいしい。気になるのは魚焼きグリルの中が火事になることだけ、やっぱりマイワシの塩焼きは脂ののったものがいい。根室産の方が値段は2倍もするので、値段通りの味だ、と言ってもいい。

舵丸水産に北海道斜里から生筋子(サケの卵巣)が来ていた。サケの来遊が減っているので筋子が高くなるのは当然だけど、2020年から年に1度だけしか買えないし、買う量も減っている。できれば500gくらいでつくりたいのに、今年は200gで作っている。これじゃオママゴトではないか。温暖化が原因であることは明確だ。でも、猛暑でエアコンなしでは死んでしまうし、できるはずの省エネすら誰もしようとしないし、無駄なエネルギーそのものの戦争をする愚か者がいる、こんな世の中じゃあ温暖化はとまらないんだろうな。ままよと思いながら食べる塩イクラだけど、やはりうまいねー。サケの卵巣にしかない独特の風味がある。この時季はまだ卵粒の皮膜が柔らかいので、舌で潰せるのもいい。

野菜と骨のない魚の塩焼き、市販のドレッシングを合わせた料理は作るのも楽ちん、食べるのも楽ちん。ご飯よりもパンとの相性がいい、など、今どきの生活にマッチしていると思う。今回は撮影のために最小限の野菜を添えたが、見た目など気にせずにたっぷり盛り合わせる方がいい。写真は半身だが、これでは多いと思ったら半身の半身にすればいい。意外にボリューミーなので人によっては糖質は抜きでも、食事として成立するかも。

今年は熱暑でしかも、盆の後先は、毎年のことながら魚が少ない。こんなとき、年間を通して状態を見ているハマダイを見つけてほっとする。小笠原産だというがパーチも箱もない。当日入荷ではないが、フエダイ科の魚なのでモチがいいので手が出た。旬というか脂のある時季は4月から6月くらいまでで、産卵が近づくと不安定になる。今回の個体は脂こそほどほどであるが、非常にうま味が豊かである。刺身は、非常に味わい深かった。そして深夜に、いただきもののークヮーサー、三重県尾鷲市の青い唐辛子、虎の尾で塩締めにしてみた。一気に夏らしくなる。刺身を食べても体の重さは取れないが、香酸柑橘類と青唐辛子の辛みが暑さのストレスから解き放ってくれる。合わせたのは安ジンのソーダ割りで、爽やかなド深夜、一人きり。

「スーパーのワラサ(3㎏から7㎏くらいのブリ)安いね」と山梨県のジイサマから声がかかる。なのに八王子の市場にはワラサがない。魚屋相手の仲卸が閉店してしまったからだ。「安くていいワラサがあるはずなのに残念だ」、というので近所のスーパーをまわると2店舗にあり、都心のスーパーにも並んでいた。安いし、ものがいい。今こそが一般家庭にとってのワラサの旬だ。「いや違う、今脂が抜けてまずいときだ」という通ぶった人もいるかも知れない。そんなヤカラは無視すべし。この時季のワラサは食べ方次第では非常にうまいのである。一般家庭人は上手に暮らすことが第一、通にはなってはいけない。念のために、通ぶる、やたらにこだわる人は箒で掃きすてるほどいるが、平凡な人、暮らし上手な人はめったにいない。人は平凡である方が難しいのだ。スーパーで買った切り身なので、お昼ご飯用にささっと煮て、忙しない日々にあるので、さささっと昼に食べることができる。砂糖多めで、こてこて甘辛く煮たワラサくらいうまいものはない。ブリのいいところは、大きくても小さくでも煮て硬く締まらないことだ。ふんわり柔らかいのをご飯にのせて、食べるうれしさよ、猛暑の夏よ。

八王子卸売協同組合、舵丸水産に根室・厚岸から13(13尾で2㎏)と11(11尾で2㎏)が来ていたということは書いた。近所のスーパーも魚売場はサンマでギラギラしている。当然、なんてたって塩焼き、な気分になる。何度か都心に出ているが、今年は、そば屋でもサンマ定食を食べた。

産地の撮影をし忘れたので、産地不明のキメジ(キハダマグロの幼魚)は、1.5kg ほどなので味はあるけど脂はない。年のせいか、この脂のない若いマグロ属(キハダマグロ、クロマグロmメバチマグロ、ビンナガマグロなど)が好きだ。ただ1本買いした半身ほどの量を食べると飽きる。

皿を冷やした上に、底にも保冷剤を敷いている。そうしないと室温で表面がうるうるする。刺身を口に入れた途端に溶けるといったもので、これ刺身なんだろうか? と疑問に思えるほどだ。ただし脂がさらりとして軽く、きよらかな舌触りで、しっかり背の青い魚の味もある。濃厚で強い味なのに箸が伸びる。高値なのに飛ぶように売れていた、そのわけは食べるとわかる。群馬県中之条町の「貴娘」というイケル酒を用意したが、飲む間が見つけられなかった。酒の肴はおいしすぎてはいけないのだ。

スズキ目タイ科の魚の塩焼きは上品でいながら、味わい深い。当然、クロダイの塩焼きは抜群にうまい。クロダイの問題点は生きている水域で味が違うことだ。神奈川県相模湾のもので臭みのあるものはないが、東京都墨田区の横か北かはわからないが十間川、また江戸川区新川の個体は釣り上げたときから臭ったという。クロダイはほぼ淡水でも生きていけるし、汚染にも強い。育ちで味の違う魚だが、海で揚がったものはほぼ大丈夫である。今回の大分県佐伯産、クロダイの塩焼きは絶品だった。脂がのっていたので、焼いた香りがよく、表面に脂から産まれる香ばしさがある。あまりにも皮がうまいので、身を食べ忘れてしまいそうだった。しょうが、柚子果汁、大根おろしを用意したけど、無用だった。

マグロの心臓を干したのは初めて。おいしいではないか。あまり魚の内臓は好きではないが、もともと血抜きをしていたのもあるが、再度血抜きをしたのがよかったかも。いただきもののシークヮーサーをじゃぶじゃぶかけながら食べる。非常に食べやすい。少し硬めだけど、マグロの血液の風味があり、うま味がある。後味に甘さが来るのもいい。100%酒のつまみだけど、このようなものが一品あるといい。

八王子卸売協同組合、舵丸水産に根室・厚岸から13(13尾で2㎏)と11(11尾で2㎏)が来ていた。迷うことなく根室市杉山水産の11を買う。昨年は18から始めているので、今年は滑り出しから上々である。値段は500円なのでワンコインである。ここ数年でいちばんいいものだし、安いと思う。さすがに室温で表面が潤むというほどではないが、身が脂のせいで非常に柔らかい。当然、脂から来る甘味がある。サンマには特有の渋甘い味わいがあるが、久々に魅了される。非常に酒をやりたくなったが、お昼なのでご飯で我慢する。ご飯だってすすみすぎて、困った。今年の初サンマは上々吉。これ以上はいらぬ。

8月になって、神奈川県小田原市、小田原魚市場で揚がっていたクロダイは触った限りだけど、身に張りがあり、脂を感じるものだった。落とせなかったのもあって、魚屋さんをつかまえて、聞いてみると、みな「最高だよ」という。比較的保守的な、と思われる人までいいと言うことは、旬だと断定してもいいようだ。さて、それでは大分県佐伯産のクロダイはどうなのか?脂ののりこそ驚くほどではなかったが、うま味が充実して、多様なアミノ酸が生み出す、甘味が感じられる。醤油をつけないで口に入れているのに生臭みを感じない。結構な味としかいいようがない。違う産地でみてもクロダイは6、7月は不安定で、8月になると回復する。ほぼ一年を通して安定している。これだけうまいクロダイの刺身を前に、やることが立て込んでいるので、深夜一人で凍頂ウーロン茶とは情けない。

八王子卸売協同組合、舵丸水産に江戸前、船橋(千葉県船橋市)から新子なのか、「こはだ」なのか微妙なのがやって来ていた。7月とは違い、10cm・15g前後なので開きやすいのもありがたい。開いてみたら1枚漬け(1尾で1かんの握り)には小さすぎるので、ぎりぎり新子ということにする。最近、豊洲でもそうだが、多少大きくても新子で通っていることが多い。個人的には1枚漬けになるサイズは「こはだ」である。ボクの最大のテーマは季節と地域性なのであるが、コノシロには未だに季節が感じられる。コノシロはこのサイズから味わい深くなる。新子は季節を味わうものだが、成長するに従いコノシロの味を楽しむものに代わる。このサイズはうま味が豊かで、柔らかいのであっけなく喉に消えていく。いくらでも食べられるし、箸が伸びて困る。非常に軽い味なので、夜の酒に合う。最近、夜酒が多く、PCを終了させてからの時間を楽しむことが多い。そんなときにもこのサイズは好ましい。群馬県前橋市、「桂川」を正一合。

初めて食べたのは愛知県師崎(愛知県知多郡南知多町師)の旅館である。非常においしくなかった。以後長いこと避けていた。おいしさを知ったのは20年くらい前、ドラム缶たき火で焼いて食べたときだ。大アサリ(ウチムラサキ)焼きたてをあつつ、といいながら食べないとダメなのだ。もしくは、せめて温かい内、冷める前に口に放り込む。これほど焼きたてと、焼いて冷めたものとの味の落差のある食材はない気がしている。焼きすぎると硬くなるが、温かい内ならば、これがいいのである。無闇に噛むしかないのだけど、じわじわとおいしいがにじみ出てくる。個人的には酒と醤油少々と、貝からでてきたおいしさを、軟体にまぶしつけて食べる。終いに貝殻の内側をしゃぶるのが好きだ。

ピンクペッパーは懐かしい味がした。子供の頃は草木の実を見ると、「食えるか? 食えないか?」とよく話したものだ。1960年前後まではそんな時代だったとも言える。食べられる実を教わると、食べてみるのが当たり前だった。その無数に食べた実のどれかに似ている。同じような赤い実だったけどなんだったのだろう?辛みはあまり強くなく、ちょっとだけ酸味があり、口の中に爽やかさ、いい香りが広がる。酸味もある。ピンクペッパーは薄く切りつけて塩・オリーブオイル・にんにくで味つけしたクロダイにぴったりはまる。今回のクロダイは明らかに旬を迎えていた。とても脂がのっていて、おいしかったのもあるが、このぴったり感はまるで寸法を計ったようだ。ボクが作るカルパッチョのテーマは「野に咲く花の名前は知らない」だけど、ピンクペッパーは野に咲く花のようでもある。合わせたのは安いジンの水割りだけど、滅法合う。

三重県鳥羽市安楽島、出間リカさんに送って頂いた貝類の中に「がんこーじ(オニサザエ)」が入っていたというのは前回も書いた。「がんこーじ」の刺身は嫌みがなく、しかもシコシコッっとした食感が心地よいので、非常に魅力的である。噛んでいると身(足)から甘味が出てくるので、最後までうまい。今回は高知県土佐山の柚子果汁と塩で食べたけど、柑橘類との相性が抜群にいい。ちなみにボクだけの個人的な考えだけど、貝の刺身と柑橘類のときにはジンとかウオッカが合う。ころころと切りつけた刺身を口に放り込んで、ウオッカで流す。ヴァランダーの深みにはまっているので飲んでいる、アブソルートととても合うのがうれしい。

神奈川県小田原から持ち帰った魚で処理済みのもの(塩をしたり、ゆでて干したり)がまだかなり残っている。そんな魚の在庫を見てから八王子総合卸売センター・八王子卸売協同組合に行ったが、それほど欲しいものはない。八王子総合卸売センター、福泉でなんとなくクロダイを買う。小田原で話題に上ったからでもあるし、この日いちばん上等だったからだ。帰宅してクロダイを下ろしながら、一般家庭にもっとも取り入れてほしい魚料理、みそ汁を作る。中骨をとんとんと食べやすい大きさに切る。ボクは魚の臭みに敏感なので湯通しして霜降りに、冷水に落とし鰭際のぬるを流し、水分をよくきる。ちなみに沖縄本島泡瀬であったトビイカ漁師は、毎日飲むみそ汁、「いまいゆの魚汁(いうしる)」を作るときにはこんな面倒なことはやらない。適当に切って、水で煮るだけだという。考えてみると魚のみそ汁はいい加減に作るべきなのかも。家庭料理に向上心はいらないと思っているが、魚が苦手だった過去は捨てられない。差し昆布をした水に放り込み。昆布はあくまでもボク流であるのでやらなくてもいい。なににでも差し昆布をするのはボクのくせだ。煮立てて、あくをすくって多めのみそ(長崎みそ)を溶く。あとは、しょうがの搾り汁を数滴垂らし、ねぎを散らすだけ。みそは多すぎるくらいのみそ汁だけど、やけに体に効くのである。8月の大分県のクロダイは脂がのっていて、みそ汁の表面がギラついているし、強いうま味がある。市場から帰り着いて、なかなか去らなかった熱気がとれる。ちなみに先に述べたトビイカ漁師は、毎日飲むみそ汁、「いまいゆの魚汁(いうしる)」には、味の素的なものを入れるというし、チューブのにんにくも入れるという。チューブのにんにくは恐くてまだ試していないが、家庭料理にはルール無用(ルールというのは害があるけど益はない)なのでやってみたい。

ヒラソウダは産卵期の7、8、9月は不安定な時季だと思っている。9月下旬から安定する。海水温が下がるとともに脂がのってくる。それでは真夏(気象庁が定義する)はおいしくないか、というとおいしいのである。ヒラソウダは脂がのったものもうまいが、脂があまりない時季もうまい。8月8日、小田原魚市場に見事なヒラソウダが並んでいたので、買受人の『さんの水産』さんにお願いして1尾確保してもらう。今回のヒラソウダは体長44cm・1.492kgで大きい。丸々と太っていて触ると非常に硬い。三枚に下ろすと、身が赤く、脂はほどんとない。これが実にうまいのである。すいすいと箸が伸びてすいすいと胃袋に消えて行く。明らかに酸味があるが、うま味100とすると5くらいの比率である。とにかく舌がよろこんでねじれるくらいにうまい。今回は三重県尾鷲市の青唐辛子、「虎の尾」と酢と醤油で食べたら相性がよく、結局半身全部食べてしまう。プーアール茶で我慢しようとしたが無理だった。群馬県吉岡町、「船尾瀧 本醸造」をば冷やして小一合。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産で北海道増毛産の甘エビ(ホッコクアカエビ)をたっぷり買った。魚を料理するには暑すぎるし、郷土料理を作りたかったのもあるし、いただいた食材と試したかったのもある。ちなみに北海道の甘エビ漁はほぼ日本海で行われているが、増毛では甘エビ(ホッコクアカエビ)、縞エビ(モロトゲアカエビ)、牡丹エビ(トヤマエビ)の3種前部が安定的に水揚げされている。もっとも行ってみたい町のひとつでもある。本種を生まれて初めて食べたのは学生時代で、アンノン族そのものだった家族とわざわざ銀座まで食べに行ったのだ。1980年前後、とてもトレンディな食べ物だったことがわかる。今や近縁種のホンホッコクアカエビとともに冷凍輸入されてもいるので、非常に身近な、どちらかというと地味なものとなっている。ただし、一度も凍らせていない国産の刺身はスーパーなどに並ぶ格安もののとは別物である。ときどき刺身を飽食したくなるのは、ただ単純にうまいからだ。頭は別の料理に使ったので、もう翌日になった頃に、安物のジンと合わせる。わさびと醤油だけで食べ始めると、非常に甘いけど、この甘いと感じる味はとても複雑である。ねっとりした身と甘いと感じる味とは一体で、口の中でなんの変容も起こさない。ここにスダチ果汁を落としただけのジンが合う。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に山口県下関市、『下関勇次水産』から真っ黒な魚が来ていた。パーチを剥がすとなんとシマセトダイだった。重さ2㎏はこの魚の最大級だと思う。刺身などいろいろ作っているときに三重県尾鷲市、岩田昭人さんから地元の青唐辛子、「虎の尾」が来た。毎年毎年とてもありがたい。助かります。シマセトダイの刺身を「虎の尾」、酢、醤油で食べ、翌日、安いジンの友にまた刺身を作った。2キロ級はめったに手に入らないと思うが、シマセトダイは小型はあまり味がなく、大きければ大きいほどおいしいと考えていたが、今回の個体など、まさにこれを立証していた。小型ばかり食べていたので、この格差に驚かざるおえない。なんと味のあることだろう。そこに「虎の尾」というのがとてもいい。今回のシマセトダイは、さほど脂がなかったものの、身に張りがありうま味が豊かである。舌に感じる味が長々と続きダレがない。

三重県鳥羽市安楽島、出間リカさんに送って頂いた貝類の中にイワガキが入っていて、でかいのが1つ混ざっていた。最近、天然ものは小型化しているので、18cm・837gはすごい。これを今、いちばん食べたい蒸しイワガキにする。今年は我が故郷徳島県産も、いきなり知らない人がくれた産地不明のイワガキも蒸して食べている。最近流行りの言葉で言えば、マイブームというやつである。我がサイトのうまいもん順もイワガキの1位は蒸す、に変えている。今年に入って連続して作っているものの、今だに蒸し時間がよくわからない。5分蒸し、あとは2分ごとにみて、約10分くらい蒸した。これを食べやすい大きさに切って、すだち果汁を落としては食べる。鳥羽市安楽島のイワガキは産卵期はまだ先のようで、7月末日の個体は非常に食感がよかった。甘味や渋味は蒸すと少し弱くなるが、口の中でおいしさのとどまっている時間が長くなる。ずーっとうまい。実は、すだちはうまさのブレーキ役で、でおいしいの暴走をほどよく抑えている。酒はお礼にもらった缶アルコールいろいろの中から角ハイボールにしたけど、なんでもよかったかもな。

7月25日、八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産で北海道根室市『坂井商店』からのマイワシを買った。棒受け網、花咲港揚がりである。1尾70gほどなので小羽サイズである。小さいのにものすごく高い。触ってそのわけがわかる。非常に脂が乗っているのである。しかも鮮度抜群。マイワシは最近、荷(一箱の大きさ)が小さくなり、仕立て(出荷法)で勝負する時代なのがわかる。触るそばから脂がにじみ出るので、刺身は決してきれいじゃない。脂が皮下に層を作るとともに身に刺し込んでいるからだ。1尾分、普通の濃口醤油と辛味控えめのボタンゴショウ(長野県中野市の唐辛子)で食べたら、脂だけではなく背の青い魚のおいしさにもあふれていた。あとはいただきものの鳥取県で醸された刺身醤油をかけ、にんにくをからめ、ご飯にのせて一気食い。関東の濃口醤油にはない、まったりした味の醤油と合わせると、やたらにご飯が進む。小羽なのに味が大きいね〜。

八王子総合卸売センター、福泉に、ダツ(ダツ科テンジクダツ属)が来ていた。背鰭の軟条を数えているとみんなが見に来る。見ないでとも言えないので、とにかく数える。すべて25なのでテンジクダツである。1尾買うか、2尾買うかで迷った末に大きなものばかりだったので1尾だけ。ものすごく忙しい日だったので産地を見忘れた。これがボクの今季初テンジクダツ属である。8月から晩秋まで途切れることなく入荷してくる。味のよさを知る人が少ないので安いのもありがたい。押っ取り刀で家に帰り、大急ぎで下ろす。1m近いので半分にして三枚に下ろす。前の方は腹骨や血合い骨が複雑なので、腹鰭の少し前から後ろを刺身にする。この部分は血合い骨こそあるものの、マサバなどとなんら変わりがない。すすーっと刺身にして味見すると、びっくり仰天、脂たっぷりうま味も強い。なにより程よい食感があるのがいい。朝なので、凍頂烏龍茶の茶の子にしたらおいしすぎて、困るほどだった。お昼ご飯もテンジクダツの刺身定食。夜、群馬県前橋市、「桂川 本醸造」ロックで口中を洗いながらくらう。かなりたっぷり食べたのに飽きが来ない。これから背鰭の軟条を数える日々が続くけど、楽しい日々でもある。

今、創造の世界にいて頭を叩いたり、脳みそをかき混ぜたりと、外出できないので仕方がなく保存食でご飯を食べる。最近のご飯は簡単ご飯で、一汁一菜なので、冷凍庫でめぼしいものを掘り起こす。出て来たのはツムブリの腹身で、すでに振り塩をしてある。下ろした日に左右の腹身に振り塩をし、1時間以上置き、水分を拭き取る。片方を焼き、片方を冷凍保存した、その片割れである。室温28℃もあるので、解凍はあっと言う間、水分を拭き取って焼くだけである。取り分け脂が豊かな部分なので、すぐにグリルの中で小さな炎があがる。焼き上がりが早いのでまめに位置を変えて、ひっくり返す。

7月25日、八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産でタイラギを買った。いちばん悪いときなのにビックリするくらい高い。八王子というところは豊洲などと比べると安いにも関わらず、この値段か? と、知りあいのすし屋と顔を見合わせた。それでもすし屋は買って行くし、ボクも1つだけ買う。夏枯れに、大型のタイラギはありがたいくらいなのだろう。貝殻の長さが31cm・重さは614gで、軟体の重さは2割前後と痩せていた。生殖巣は見られなかったので、産卵後だと思われる。ただ、下ろしたら貝柱はそれほど痩せていない。すし屋のすごいところは重さや脇から見た感じで、良し悪しを見極めているところだ。ボクが買おうと思ったのも、すし屋の見極めを信じたからだ。貝柱はふくよかさに欠けていたが実にいい味であった。食感が心地よく、うま味が非常に豊かでしかも独特のおいしい渋味がある。甘味は後から追いかけてくるのだけれども、こちらも強い。ついでに言うと、びら(外套膜)がやたらにおいしかった。小さい方の貝柱も同様にうまい。7月末日の産地不明のタイラギはアタリだったが、自分で選ぶ自信はない。

三重県鳥羽市安楽島、出間リカさんに送って頂いた貝類の中にサザエがたっぷり入っていた。今、創造の世界にいて、引きこもり状態となっているので、ありがたや♪ ありがたや♪ by守屋浩である。(ちょい旅先で耳に飛び込んできて、頭から離れない。これはまさしく名曲だと思う)大きめのサザエを剥き身にして苦味のある内臓は少しだけ残し、足を刺身にする。ワタは湯通しして氷水に落とし、水分を切る。ちなみにサザエは剥き身にしやすく、刺身にしてもぬめりが少ない。巻き貝の中でももっとも難易度が低い。しかも料理に困ったらそのまま壺焼きにすればいい。たっぷり造って、たっぷり食べたいのがサザエの刺身だ。これにいただきものの『夢産地とさやま開発公社』(高知市土佐山桑尾)の柚子果汁をじゃぶじゃぶかけて、塩味で食べる。ちょうどヴァランダーを再読したいと思っているので、酒はスエーデンのアブソルートのソーダ割り。刺身を楊子でちまちま口に運んではアブソルートで舌を洗い、またサザエでアブソルートというのがいいのである。サザエの刺身は磯というか海の香がする。海風を思わせる味でもある。大量に造っても足りないくらいにボク好みの味で、合いの手で食べるワタも少しだけならいい感じである。刺身を食べ終わった途端、意識が遠のいて行く、ありがたや♪ ありがたや♪

石川県・福井県に「塩いり」・「浜いり」、沖縄県に「まーす煮」というのがある。やや強めの塩水で短時間水分を飛ばしながら煮るというもの。郷土料理ではあるが古代には日本列島全域で作られていたものだろう。また我がサイトでデータとして聞取し、画像を持っているのがこの3県だけだという話で、全国を見渡すといずれかの地域に同様の料理が残っているはずである。スズキの頭部やあらを塩煮にしようとして、豆腐がないことに気がついた。塩煮の豆腐は魚以上にうまい。非常に残念だが、なければそれでいいのが家庭料理のよさなのである。ていねいに鱗をとり、水分をきったあらを用意する。大きめの鉄鍋に水と多めの塩を煮立たせたなかに放り込む。あとは一気呵成、終始強火で煮るだけである。物理的には塩分濃度の高い煮汁の中にうま味が出てしまいそうだが、出ない。水分量が少ないためだと思う。それでも煮汁は非常に味が濃い。塩が濃いというよりもうま味豊かだと言えばわかってもらえるだろう。請戸のスズキが非常にていねいに処理され、乗っているためだろうか、煮上がりが美しいし、非常に柔らかい。全部が全部おいしさの塊のようである。最近、長野県長野市「若緑」本醸造をロックで飲む、そんなひ弱なボクだけど、いい酒の時間が過ごせた。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産、クマゴロウが銭州で釣り上げて来たもので、3㎏を超える雄の白子持ちの個体でこれでもか、と料理した。中でももっとも大量に作ったのが「なめろう(みそたたき)」だ。「なめろう」は、「みそたたき」の千葉県外房での呼び名だが、特徴は酢で食べることだ。「なめろう」はできるだけ切れる包丁で、ツムブリの身、夏の青じそ、みょうが、長野県中野市の青唐辛子「ぼたんごしょう」、静岡県浜松市『加藤醤油』の「大地」というみそでかなり徹底的にたたく。魚のうま味に香辛野菜の味、夏の青唐辛子の辛味、そしてみその味わいを全部足し算したのが「なめろう」である。「うまいに決まってるだろう」と千葉県千倉のオッカサンに言われてことがあるが、「なめろう」は作る魚で味が違っている。アジ科の魚はすべて「なめろう」に向いている。あまり脂が乗っていなかったツムブリだけど、豊かなうま味がある。酸味はほとんどないが、酢をつけながら食べることで夏の熱気が失せる。小型のツムブリで作ったことはあるが、うま味は今回の個体ほどにはなかった。鱠皿いっぱいのツムブリの「なめろう」が見る間に消えて行く。それにしても浜松市のみそはうまい。「ぼたんごしょう」の辛味もいい。半分翌日の「さんが焼き」に残したいと思ったが、残せなかった。「なめろう」に合わせたのは、サッポロの銀座ライオンビヤホールスペシャルという、長い名前のビールを350mlだけ。なめろう(みそたたき)はビールにも合う。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に福島県浪江町請戸から「ふっこ(スズキの若い個体)」が来ていた。いわき市の『海宝水産』からで、体高があり、背が左右に膨らんでいる。触らなくても上物だ、と思えたので、いきなり確保する。体長34cm・0.6㎏なのでまさに「ふっこサイズ」だ。以上は前回書いた。今回は刺身、塩焼き、煮つけと平凡な料理ばかり作った。取り分けおいしかったのは塩焼きである。塩焼きの作り方は切り身にして振り塩をするだけ。コツはすぐに焼かないことだ。できれば1時間以上は寝かして欲しいものである。今回は買ったその日に振り塩をして、翌日夜に酒の肴に焼いた。ときどき小さな炎が上がるので、焼け具合を見ながら焼く。皿に盛り、いの一番に香りをいただく。汽水域に多いスズキは皮目の香りが御馳走である。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産でキハダマグロの若い個体18kg前後のロインをサクにしていた。忙しい日だったので1サク買って帰ってきた。キハダマグロのサク買いは安くて、おいしくて、市場から帰った日のお昼ご飯にすぐ食べることができて、といいこと尽くめである。ちなみに築地に大物競りを見に通っていた2005年から2010年くらいまで、大物競り場でたくさんの人の話を聞いた。本マ(クロマグロ)だけの築地だとばっかり思っていたら、意外にキハダマグロを好む仲買が決して少なくないことに気づいた。大物の目利きで、キハダマグロをついでに競って帰る人がいる。気になったので、キハダマグロを競り落とした方の店までサクを買いに行ったこともある。このサクのおいしかったこと、は今も忘れない。以来のキハダ好きである。ちなみに雑喉場研究家だった故酒井亮介さんは、大阪の「はつ好き」(はつは大阪でのキハダマグロの呼び名)は産地である紀州(和歌山)が近いからだと言っていた。東京では周辺であまりとれないので、あまり食べなかったようだ。それが今や東京近海はクロマグロよりも、キハダマグロが多い気がする。関東でもキハダマグロをふんだんに食べるべきなのである。銚子産のキハダの刺身がやたらにうまかった。18kgくらいだろうと言っていたが、もっと大型かも知れぬ。もちろんクロマグロの脂の甘さや濃厚なうま味はないものの、さらりとおいしくてちゃんとマグロらしいうまさが楽しめる。

生まれて初めてのミンチカツは、徳島市内、市場で買ってもらったものだと記憶してる。ボクの生まれた徳島県美馬郡貞光町(現つるぎ町)商店街の、家の通りを挟んだ正面の肉屋にはなかった気がする。上京したら「ミンチカツ」じゃなくて「メンチカツ」と書かれていた。それほど気にしないでミンチカツと言ったりメンチカツと言ったりした。東京都世田谷区弦巻の洋食店で、1週間に1度だけ外食していた時期があって、メンチカツばかり食べていた。ロースカツよりも安かったからだ。どうやら関西圏ではミンチカツで、関東ではメンチカツみたいだと明確に脳みそに刻みつけたのはその頃だ。ということでカツオの血合いを叩いてカツ(フライ)にしたものも、徳島生まれのボクにはミンチカツかな。ナツメッグがきいているのもいい。いつもは牛乳を使うのだけど、切らしていてバターと卵黄、小麦粉を加えてソフトにした。ミンチにしてもカツオ特有のうまい、がぐんぐんと舌を押してくる。しっとりしているのはバターのせいだが、硬く締まりがちなカツオの身が柔らかいのもいい。じゃぼじゃぼとウスターソースをかけて、お昼ご飯にする。

そろそろイカだな、と思って八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産の店先に行き。バライカ(スルメイカの若い個体)にするか、ダルマ(小型のケンサキイカ)にするか迷って、ケンサキイカを2はいを手に取る。長崎県平戸産である。メヒカリイカ型(小型のまま繁殖する個体群)で小さいが抱卵していた。素直に刺身にして酒の肴にする。小さくてもちゃんとねっとりして甘い。非常に味が濃い。意外なおいしさにちょっとだけ驚き、味のメモをとろうとして文字が浮かばない。平戸産小型のケンサキはうまいとしか書きようがない。

年間を通して、いろんな大きさのツムブリを食べているが、やはり2㎏以上がおいしい。旬は8月以降で秋が深まると脂が乗ってくる。7月の3㎏ものは小さな白子を抱えていた。産卵はまだまだ先である。毎年、8月後半から脂が乗ってくるので、7月はまだ脂の乗りはわるい。ただ獲物を飽食しているのだろう。刺身は食感がほどよく強いうま味がある。この味が舌の上で延々と残る。

水産生物と人間との関わりを調べている限り、普通の小売店、魚屋、スーパー巡りは欠かせない。市場や漁場で水産生物を探しているだけでは、なんにもわかりはしない。さて、長野県飯綱町、第一スーパーで見つけたのが「山田のさばカツ」だ。大分県佐伯市『山田水産』が作っているもので、九州から北信に送られて来たんだな、というのも感慨深い。大きな会社らしいが、このようなオヤジの琴線に触れる商品を作っているところがすごい。サバのカツ(フライ)に甘辛いたれを染み込ませたもので、実にイケている味である。ちょっと温めるとやたらにおいしくて、もうひとつの「さんまの蒲焼き」も買えばよかったと後悔した。ちなみに最近、やたら無機質なラベルの、無機質で上品な加工品が多くなってきている。ちっとも魅力的ではないけど、売れるんだろう。「山田のさばカツ」のような人間味のある商品が増えるといいな。たぶん今どきの若い衆も好きだと思う。

秋田県男鹿半島沖、痩せた個体が多い場所の赤テリ(ウスメバル)を刺身、焼霜造り、煮つけ、バター焼きにしてみた。3尾いて一番左右幅のあるものの刺身は、非常においしかった。ウスメバルは漁期ははっきりしているが、卵胎生の魚の特徴として旬がわかりにくい。今回、この個体だけ身に張りがあり、刺身に引くと味と甘味があった。舌の上で味のだれがない。このおいしさは予想外。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に福島県浪江町請戸から「ふっこ」が来ていた。いわき市の『海宝水産』からで、体高があり、背が左右に膨らんでいる。触らなくても上物だ、と思えたので、いきなり確保する。体長34cm・0.6㎏なのでスズキとしては小振りである。帰宅後、下ろしながら浮き浮きしているボクがいる。「野バラ咲いてる♪」を唄っているボクがいる。下ろすのが楽しい。活け締めしたばかりのような身色だし、味見すると心地よい食感だし、とりあえず、昼ご飯のおかずにして楽しむ。うま味豊か、小振りなのに、脂の乗りがほどよい。醤油なしで食べても、おいしいのにびっくり。おいしい刺身はご飯がいい。酒の味が邪魔ですらある。それにしても20年以上前の請戸のことが思い出される。福島の水産は新しい時代を迎えているのかも。