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コラム

6月のクロダイ級のクロダイのフライ

タイ科だけどクロダイは安い。今回の東京湾産もポケ、刺身、煮つけ、兜焼き、潮汁、そしてフライにした。1尾1000円で、骨くらいで何も残らなかったので実に安いと思う。魚というと刺身、刺身となりそうだけど、意外にトリで登場したフライが上だった。これは時季ではなく、痩せているクロダイだったせいだ。ほんの少しだけ、カレー粉を振ったのがよかったかも。クロダイの場合、パン粉をつけて揚げると、筋繊維の間にジュ(肉汁というべきか)がたまる。パン粉の香ばしさの内側に豊潤な地帯ができる。この豊潤さにこそ、天然もののタイ科らしいよさがあると思っている。ボクはじゃぶじゃぶウスターソース派なのだけど、大衆食堂的な味になってくれたところもうれしい。半合のご飯を食い切るのにちょうどよかった。デザートのまんじゅうはなしだけど、満足。
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6月下旬、二宮定置のアジの塩焼きがいちばんだった

6月入っていったい何尾マアジの塩焼きを食べただろう。朝と昼ご飯は米の飯なので、米の飯に合うものを作る。アジの塩焼きに、酢の物に、みそ汁は、理想に近い、ので、なんどもなんどもこのワンパターンを繰り返している。中には近所の釣り師が釣り上げた体長34cmという超大アジもいたし、長崎県産もあり、紀伊半島の漁師さんから来た黒っぽいのもあった。どれもこれもおいしすぎて困ったが、神奈川県二宮沖、体長17cm・90g前後がいちばんおいしかった。比較するのは下の下だけど、マアジに関しては勉強中である。例えば同じ相模湾産でも大アジ(マアジ)とは比較したい。当たり前だけど、比較のために別の産地のものと一緒の日に焼いて食べてみたが、皮が柔らかくて、皮の間から吹き出してきた脂の風味がよくて、と二宮定置に分があった。おいしいアジの塩焼きはご飯を食べるのを忘れさせる、と思っているが、残ったご飯にみそ汁をかけて食う日々だった。蛇足になるが、築地場内(現豊洲市場)で仲卸のアジ担当は、目利きだけがなれる特別な存在だと教わっている。確かに大きな金額が動く、アジの仕入れは特別なのだろう。アジのよしあしを見て取るのはそれだけに、とても難しい。たぶんだけど、二宮定置のマアジがずーっとトップとは限らない。基本的に8月くらいまでが安定期だけど、今年の小田原のアジ、他の産地のアジの味はどうなるんだろう。
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時季のミノカサゴの刺身はすごいかも

ミノカサゴの仲間であるフサカサゴ科を含むカサゴ亜目の旬はとてもわかりにくい。ただミノカサゴは海水温の下がる10月になると見た目的にも精彩を欠く。釣りをやっていたときにも、シロギス釣りの最盛期にくるミノカサゴはとてもうまかったものだ。卵生なので産卵前の4月くらいから8月いっぱいがいいと思っている。珍しいものではないが、流通量は少ないのでなかなかいちばんいい時季がわからないでいる。ただ6月初旬のミノカサゴは抜群においしかった。小田原の目利きが買い気を見せているわけは触っただけでわかった。三枚に下ろすと身が盛り上がってくる。刺身に引くのが楽しい。皮なし刺身がこんなにうまいとは思わなかった。脂はあるのかないのか、明確にはわからないけど、味にこくがある。口の中で、おいしい時間が長い。野締めなので望めないはずなのに食感が心地よい。皮に湯をかけた皮霜造りは痩せた晩秋の個体で造っても、それなりにうまいが、今回時季の個体で造ったものは別格のおいしさである。皮下に層があるのが感じられる。皮にうま味があるのだけど、脂と混ざるのである。しみじみ味わっている内に、久しぶりに「高清水」正一合をこえてしまう。
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二宮定置の瓜坊とマダケの煮つけ

昔、江戸川区にいたとき、魚屋でイサキを買うと、水洗いして振り塩をしてもらっていた。イサキは塩焼きというのが当たり前だった。初めてイサキの煮つけを食べたのは後々のことで、伊豆半島の民宿でだ。「いさぎは煮つけで食べた方がうまい」は、島根県美保関、定置網の漁師さんがボクにイサキをくれたときに言った言葉だ。その朝、美保関の旅館の定食(泊まったわけではない)もイサキの煮つけだった。塩焼きと煮つけを比べても仕方がないが、煮つけは塩焼き以上に大小あまり関係がない。そう言えば、和歌山県紀の川市ではイサキとナスと煮合わせていたし、柿を買いに寄った奈良県五條市近くでは冬瓜が添えられていた。時季の野菜と合わせて煮ると、とても日常そのもの、季節そのものが感じられていい。煮つけは平凡な料理で、普段、そこに何気なくあるものである。今回は神奈川県秦野市『じばさんず』で買ったマダケと煮合わせた。まごうことなき飯の友である。小イサキは手づかみで食らいつき、それはそれだけで完結する。ご飯はもっぱら竹の子で食べることとなった。なぜだろう。小イサキは煮つけると、それ自体が非常にうまい。身離れがよくいくらでも食らえる。食べることに集中して、ご飯に目が移らない。その小イサキのうま味を吸収したマダケでご飯が、とても合う。マダケには、とれたてをゆでたので非常に柔らかく、えぐ味などまったくない。マダケの持つ強い甘味と、ちょっとだけ歯を刺激する竹らしい繊維を感じる食感、そしてご飯というのは最強と、もちろん食べているときは思っていた。二宮沖の小イサキと秦野市の、時季のマダケで、初夏の味、味わっているぞ、という気になるのもいい。
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二宮定置、小アジとジャガイモ揚げ

もしも真の節約生活をしたければ、水産物を徹底的に使い尽くすのがいちばんいいのではないか?水産物は多様に使えて、安いものは安い。お金があるときは大型で高い魚を徹底的に使い倒す。ないときは小さな魚を買うといい。もちろんそのためには流通上の価値観や漁師の待遇改善をはからないとダメだけど、定置網や底曳き網などでとれるものをみな食べることで、節約も出来るし、地球にも優しいのだ。日本列島で自給できる可能性がいちばん高いのが、米と水産物なのだから。現状では今回の小アジ(マアジ)などは、ある程度の量が必要だし、大きさを揃えて、いろんな魚の間から選び出さないとダメだ。そんな労力をかけてもほとんどお金にならない。結局、魚粉に化けて二次的に人の口に入ることになる。おいしいのにもったいないこと甚だしい。さて、お菓子屋さんでもらった紙袋(かんぶくろ)に片栗粉と一緒に放り込んだのをがさがさ揺らし、ぱらぱらと油に落として、二度揚げする。じゃがいもも一緒くたに放り込んだので、技と言えば最初は低温から中温に、仕上げは高温で揚げただけ。これを、またまたお菓子屋でもらった別の紙袋に入れて、塩を振って食べ始める。ここでコショウを振ってもいい。小アジだけだとなんとなく単調だけど、じゃがいもと一緒だと、まったく飽きが来ない。午後2時半に食べたのだけど、腹持ちがいいのでまんじゅうに手が伸びなかった。満足感が高いといってもいいだろう。紙袋の合わせ目に入った小アジの破片も食べて、凍頂烏龍茶で口の中を洗う。ちょっとダウンしようか、それとも仕事の続きをしようかな、っと。
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小川原湖産ワカサギの佃煮

どちらかというと貧困なので、国産のワカサギの佃煮は買えない。当然、手頃な生のワカサギが来たら佃煮を作る。ついでに言えば、帰宅したら間髪を入れずに佃煮を作ることも大事だけれど、遠い遠い青森小川原湖から来たんだね、なんてワカサギさんたちに話しかけるのも大事だ。ちなみに佃煮の作り方は簡単である。味つけは自分好みに、水を使わないこと、焦げ付かせないことだけだ。「私にも作れます」と思って作ると作れます。さて、今回はちょっと甘かったかも、でも甘い方がご飯が進むし、でも、でもデブにご飯は禁物だし、人間万事が万事、難しいものである。こってり味つけしているのに、柔らかなワカサギからはキュウリウオ科独特のきゅうりに似た風味がちゃんとする。ちゃんとはらわたはほろ苦い。ボク的には酒のつまみではなく、ご飯の友である。今回は残り少なくなった、奈良県十津川の番茶をていねいに煎り、熱々にいれた茶で、茶漬けにした。一合では、足りんとぞ、思いける。
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大分佐伯市産、中イサキのみそたたき

今回は「みそたたき」がテーマではあるが、みその話でもある。去年、今年と冬の南会津(福島県南会津郡南会津町)に行った。日本全国どこに行っても、もちろん最小限ではあるが、みそを買うので、南会津では2つのみそ店でみそを買った。南会津町『ハローショップみどりや』で朝ご飯のみそ汁を御馳走して頂いているので、みその味の南会津での方向性はわかった上で(もちろんボクの勝手な思い込みだが)買った。話は逸れるが、最近(ボクの最近は5年前まで)、テレビでみそのソムリエ的な若い方を見た。愚かしいなと思った。みそはそのまま食べて、料理して、みそ汁にして、結構長い間使わないと良し悪しがわからない。人間の人生の長さでは、自分のみその好みを理解するのがやっとなのだ。食べ歩きの達人にはがんばればだれでもなれる。そんな感じでみそを語っている気がする。だいたいこのソムリエとかマイスターとか、匠を本来とは違う分野で恥ずかしげもなく自称する人間は、変だと思う。しゃれとかお遊び気分でそのような言語を使うのはいいけど、それを本気で使うのは下下、だろう。閑話休題。この南会津のみそは非常に優れているが、使い方の方向性が狭いと思った。みそ汁を作るとき最初から溶いておいて、煮込んでもうまいし、焼くためのたれ(田楽、みそ焼き)もいい、でもそのまま食べてもそんなにおいしくない。今回作った「みそたたき(なめろう)」向きではないのだ。ちなみに南会津は会津ではあるが、日光(京・鎌倉・江戸)に向かう途中の地域でしかない。現南会津は、蘆名氏時代から会津との関わりがあると思うけど、別の地域と思うべきだ。みその麹分や塩の量も買った範囲で考えると違っている。そして神奈川県相模原市の八百屋さんで売っている、東京都町田市の『井上糀店』のみその話になるが、こちらは煮込むと弱いし、みそ汁を作るときは気をつかわないとダメだけど、そのまま使うと俄然いい。このみそは、まだ2年しか使っていないが、「みそたたき」に使うととても味わい深いし、味に膨らみがあると今回改めてわかったことになる。そして大分県産イサキの「みそたたき」に『井上糀店』は最上級の組み合わせだと思った。イサキの身には脂があるので、みそでたたいてもとろりとしている。そこに穏やかな麹のうま味が合わさると非常にいいのである。イサキがウマスギだったのもあるが、「みそたたき」はみそを選び、それがぴったり合ったといった感じだ。今回は「みそたたき」の話ではみその話に比重が行く。わかりきったことだけど、「みそたたき」は日本各地のみそで味が変わる。過去のみそのデータを整理しなおさないとダメだと思った次第である。
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今季初タカベは6月9日で下田産

初タカベは東京、もしくは関東だけの話だけど、夏の季語である。上京したばかりのとき見た、塩焼きの炎が今も記憶に残る。一緒にいた大人は、すぐにその炎の原因物質である魚を注文している。未成年なのにボクもその魚、タカベをもらい、ビールを飲んだ。八重洲口の狭い露地でも焼いている炎を見ているし、銀座でも見ている。東京でタカベはそんな魚である。一般家庭なので炎を上げて焼くことはできないが、表面に泡立つ脂はタカベそのものである。非常に強い味で、独特の脂の風味も非常に強い。身の味なのか、脂の味なのか判じ得ないところがある。食べている限り、この強い味が口中を満たし続けるので、どうしてもビールが欲しくなる。枝豆以上にビール、という魚はタカベ以外ではサンマだけだ。毎年、「初タカベ 歳も半分 過ぎにけり、と思う。
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6月のクロダイ級のクロダイのポケ

3歳になったばかりの6月のクロダイに味はあったけど、脂はなかった。いろいろやったなかにポケ(ポキ)がある。ボクのポケは赤道の南にある町で、地元の方と、フィリピンの方と、バングラデシュの方とコーラと酒を飲み飲み教わったものだ。4人の中でポケという人とポキという人がいた。基本の材料は魚と、ねぎと胡麻油と醤油だ。なぜネギなのか、熱帯でいちばん高いのが野菜であって、ネギを使うと少量でいいためらしい。ちなみにそのとき町のスーパーでは、リンゴ1個が日本円で800円、レタスは1000円を超えていた。今回はクロダイを細かく切って胡麻油と醤油、甘いトマトとネギだけ。フィリピンの方はティティレムという葉を散らすと言ったものの、たぶんミカン科の植物の葉だけど、そんなもの望めない。今回、熱帯生まれ熱帯育ちの地元の方にいただいた、自家製キダチトウガラシのペーストを耳かき程度に入れてある。胡麻油と醤油を使っているのにも関わらず、ちゃんとクロダイの味が浮き上がってくるし、脂のないところは胡麻油が補ってあまりある。クロダイの本来の味を生かすとか、生かさないという話以前に、端的においしい。パンにも合うし、意外に冷たいそばにのせてもおいしい。酒にも合うが、酒の種類さえ選ばない気がする。
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小田原二宮定置、ゴマサバ子煮干しでラーメン

煮干しでとっただしのラーメンはほぼ和風だけど、ほんのちょっぷり中華風でもある。このような和のだしのラーメンは北陸、中国地方など日本各地にある。とても好きなのだけど、問題は、自宅でも同じ物というか、以上のものが作れることだ。今回の相模湾二宮定置揚がりの、ゴマサバ子煮干しのラーメンなど、たぶん知らないで食べたら、なんじゃこれは! と驚くはずである。出し過ぎただしの多重構造的なうま味、終いに残る苦味が、醤油(今回は薄口醤油)と一緒になると無類の味になる。スープの材料は醤油と煮干し出しだけなのに、濃厚かつ最後までだれない味となるのだ。中華麺と一緒になっても存在感を失わない、完全無欠のラーメンになる。しかも胡麻油とコショウという、2つの油・香辛料であっと言う間に中華風になるのだから不思議だ。ボクが田舎から送られて来た、煮干しでだし取りを失敗して作り始めたものだけど、失敗こそが日常生活の財産を生む。
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小さなだるまさんのようなハシキン子の唐揚げ

神奈川県二宮定置だけの現象だろうか、春から初夏にハシキンメの若い衆と、赤ちゃんがとれる。なぜ二宮沖だけ、とれるんだろう?真鶴町福浦でも小田原市江ノ浦でもとれていないと思う。頭ばっかり大きくて、まるで漫画のキャラクターのようだし、だるまさんのようでもある。大きくなるに従い、深場に移動する。親は正真正銘の深海魚だ。わたを出し、片栗粉をまぶして二度揚げすると、ポテトチップスよりも小さく、形はポテトチップスを食べた後の袋の中に残ったポテトチップスみたいだ。口に5、6尾放り込むと、軽い、やたらに軽い食感でしゃわしゃわする。香ばしいし、しっかり魚の風味がするし。問題はどこかしら儚い味であることだろう。50尾以上揚げて、皿に盛っては食べて、盛っては食べるが、食べた気がしない。ものすごくおいしいのもあって、なくなるその瞬間に涙がこぼれてきた。ウマスギだ、けどハシキンメの赤ちゃんは小さすぎる。でもウマスギだ。できれば1人前100尾くらいにすべきだった。
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6月のぎりぎクロダイ級のクロダイの刺身

関東で、体長30cm(全長34cm)・799gはまだまだ「かいず」だという人と、ちゃんと「くろだい」だという人に分かれる。細かな区分は人によるが、まあ今回の個体は雌でなので、3歳だとしてクロダイと見た。産卵前だった。相模湾では5月に体長35cm以上の大型魚が大きな卵巣を抱えていたが、東京湾の1年遅れの個体は、これから産卵するようである。背中に厚みがないので、上等ではないと見たが、関東での季節による味の変化を見ているので買ってみた。クロダイにはまだまだわからない点が多いので、数食べてデータを取るしかない。野締めに見えるが、非常に鮮度がよく、身には黒い筋が見えるものの、全体としてはキレイである。さすがに近場、東京湾で揚がったものと言えるだろう。思った以上にしっかりした身なので薄めに切りつけてみた。とても味があるが、その味のピークが短いのが欠点といえば欠点かも。少し舌に乗せておくとだれを感じる。ただ、体に張りがなくても産卵前の身なので悪くないことがわかる。
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今季初イワガキは五島列島産

もちろん個人的にだけれど、イワガキは出始めが好きだ。味的にも、軽く、しかも濃厚に、と真逆が同舟しているのが特徴だけど、出始めの方が、軽い味で若々しく、身(軟体)が元気な気がする。今回の五島産など実に若々しい。もちろん強いうま味と、薄く広がる苦味が口いっぱいに広がるうれしさよ、なんて叫びたくなる。その後の貝柱などの強い食感が心地よい。個人的には最初の濃厚よりも、後の食感が好きだったりする。要するにイワガキの味は複雑多層構造的なのである。今回は本の隙間から出て来た、角ハイボールで舌を新しくしている。イワガキが喉を通り過ぎた後のスーハーするところに、角の味が合う気がしてきた。逢魔が時 岩さんおいで 一人飲み
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梅雨前のワカシ愛し、また恋し

小学校低学年のとき、いとこい(夢路いとし・喜味こいし)のよさがわからなかった。高学年になって好きになったのだけど、評論家で小説家、小林信彦の述べるところの、0.5秒のよさ、平坦な芸の真味がわかるようになったのだと思う。変な例えを初手から長々と、だけど要するにワカシ(ブリの幼魚)のよさは、若いとき(小学校低学年)ではわからないもので、人生の道のりを経てわかるもの、だ。歳のせいもあるけど、最近、持ち帰ったその日とか翌朝とかのワカシが、とても好き、好きすぎて困っている。だいたい、刺身がよいのである。脂があるわけでもないし、食感などほとんど望めない。ちょっと酸味があって、なだらかなうま味が後に続く。山場のないドラマのような味だけど、ついつい箸が伸びる。この平凡なよさがわかるようになって、初めて魚の真味を知った気がする。ついでにいうとワカシの味のよさがわかったとき、魚の味に順番をつけるバカらしさとか、愚かさを知った気がする。
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春の小田原、ゴマサバ子で煮干し、で半田素麺

徳島県美馬郡貞光町(現つるぎ町)の家では煮干しが基本だったので、素麺のつゆも煮干しでとっていた。今回は二宮定置で揚がっていたゴマサバ子の煮干しで素麺つゆを作り、いつも疲れ果てている昼下がりに素麺を食らう。つゆは前日から冷やしてある。薬味はねぎとしょうがだけ。ちょっと手間をかけて天ぷらを揚げるなんて気力がない。みりんと薄口醤油と塩だけのつゆなので、非常に軽い味わいである。食べたときの感じは軽いけど、ゴマサバの子はカタクチイワシとは違う味である。煮干し(カタクチイワシ)と同じように鋭角的なピークがあるが、すこしそのピークの幅が広い。奥行きのある味である。ゴマサバ子で作る意味はこの広いピークかも知れぬ。毎年、時季最初の冷たいつゆは塩分濃度が決まらない。ちょっと塩足りないかな、というのが今回の反省点である。蛇足だけど、すだちがまだ高くて買えないのも残念。昨年も同じ事を思っていた自分がいる、これが季節という形のないものの持つ意味なのだ。ちなみに素麺は、我が家では親の代からの徳島県美馬郡つるぎ町半田(現在では同じ町)の杉本手延製麺である。考えてみると、商店街の我が家ではみそ汁に入れるのも、温かいのも、冷たいのも杉本製麺しか使ったことがない。故郷から取り寄せる素麺は、ボクが死ぬまで変わらないかも知れぬ。
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早生まれ1歳イサキの刺身

今どきとれる小イサキは、生まれてちょうど1年なのにちゃんと生殖巣が膨らみかけている。体に縞模様があるので、この小イサキを「瓜坊(イノシシの子供のことで、イノシシの子の模様に似た模様があるため、などの説がある)」という。たぶん8、9月には産卵に加わるのだと思う。イサキはませた魚で、早熟なのである。片身がちょうどいい大きさで、皮下に薄らと脂が見えるのは、うんとたっぷりエサを食べているからだろう。いろんな魚の下敷きになったものも含めて、健康で固太りの小イサキの刺身はとても美しい。今の時季の成魚には皮下に脂の層ができ、身にも混ざり込んでいるので、味が重い。1歳イサキは味がスイスイスイダラだった、ほーいのほーいと軽い。軽いけど味は濃いし、脂の存在はちゃんと舌のざらつきとして残る。いくらでも食らえる。「松みどり」を飲み飲み、二宮定置のみなさんにはお礼に1尾あたり1万円さしあげてもいい、と思ったものだ。この1歳イサキというものは滅法うまいものだが、意外に人の口には届かない。神奈川県小田原あたりなら、一歳イサキ、食えるんじゃないかな?
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関東の「竹の子」はウスメバルのことだ

今年も東京で「竹の子」と呼ばれているウスメバルを淡竹(ハチク)とたいた。去年も淡竹だった気がするが確かめていない。初夏らしい味、それが「竹の子目張」である。この言葉は料理名でもあるが、ウスメバルを指す呼び名でもある。由来はウスメバルと竹の子との相性のよさからである。ウスメバルはとても上品な味だが、それはうわべだけだ。濃厚な味わいが、通奏低音のように確かに存在する。ウスメバルの基本的味の土台は上品に見えて濃厚なのだ。また、魚の味で重要なのは筋肉(身)の繊維である。適度に繊維質でほぐれるからおいしい。繊維がしっかりしていないと、ぼろっとしてちっともおいしくない。この程よい繊維の存在があるから身離れもいいのである。さて、主役のウスメバル以上においしいのが竹の子だ。もちろんウスメバルの味を吸収したためのうまさだが、竹の子と合わせる魚には合う合わないがある。「竹の子目張」なわけは、グッドカップルな点にある。食べる度に主役は竹の子に違いないと思っているけど、竹の子を食べ過ぎるのは厳禁である。ウスメバルの味を吸収した竹の子はできれば半分は残して置きたい。竹の子だけを別の器に移して黙って出すと、食べた人がびっくりして仰天するかもしれない。牛肉でもない、鶏肉でもない。遙かに相性のいい何かと出合った末の、おいしさが竹の子にある。竹の子と結婚したのは何? と思うだろう。そこで生まれた言葉が「竹の子目張」だとも思っている。
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大分佐伯市産、中イサキはどっしりヘビー級

6月の麦藁イサキを前に言うことなし。あれこれ語ってもしゃーない、気がする。刺身の血合いの色がにぶいのがいい。時期外れの鮮やかな血合いの赤を愛で、塩と柑橘なんどで食べるのもいいが、王道ではない。6月のイサキの刺身は電車道、ずんずんと押し切られ圧倒されるの味なのだ。脂の口溶け感があるのに、ちゃんと岩礁域にいる魚の味の個性が感じられるのである。ちなみにイサキは1㎏を超えるととても手が出なくなるが、500gあれば十二分にうまいし、この時季なら2、3百gでもうまいのである。季節に逆らわないで素直に6月の味を楽しむ、それこそがボク流でもある。ついでに作った、焼霜造りだけど、こっちから食べると、素直にイサキと向き合えなくなる。くどいようだが、旬のイサキの、ずんずん真っ直ぐ電車道で押し込まれるところを、無駄ないなしをするが如くになる。要するにうますぎるのである。昔はうますぎて何が悪いと、居直っていた。少し病なので曲り曲がった表現をさせてもらうと、サウンド オブ サイレンスはギターだけのポール・サイモンのソロを聴いてから、エレキギター入りのデユオを聞く方がいい、と思うのと同じだ。これで、部屋の片隅で見つけた角ハイボール350ml缶をやり、ソロで快気していないのに快気祝いをする。
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6月はじめのどんちっちアジ

6月2日、待ってました「どんちっちアジ」である。最近はマアジばかり食べているような気がするが、「どんちっち」には思い入れがある。島根県浜田市、島根県水産技術センター、旋網船主のみなさんで作りあげてきた、ある意味傑作である。脂質測定法を確立したり、奮闘努力の甲斐があったと思う。あとはアジがどっさりとれてくれるのを待つのみだ。さて、ボクの今季初ものはこの日の夜楽しんだ。毎年書いていることだけど、「どんちっちアジ」は皮を剥いた途端に室温で溶け始める。「泣いているのかい?」、なんて言いたいくらい濡れてくる。舌に乗せたとき、最初は存在感を感じないのは脂が大量にあるためだ。甘味というのは呈味成分だけではなく、溶けるという物理現象から来る。甘いな、と思った後に、ちゃんとマアジの背の青い魚特有の強いうま味がくる。味が途中で消えない。殷々としてうまい。半身で「松みどり」を正一合だけ飲んで、かなり気分が上昇する。朝っぱらから続く微熱も消えてなくなる。「どんちっちアジ」は薬だな。
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旧暦4月27日、三重県産2.1kgカツオのあぶりづけ

6月2日の今日、上野原のトラック行商の太田さんと、朝っぱらから立ち話をしていて、「肉もくわなきゃーなんね」という話になる。ここ数日、熱が出て、ときどきお腹が痛いなど不調だ、という話から、立ち話し始める。ボクの日常生活は自宅にいる限り、肉(鶏・豚・牛)を食べる余地がない。尋常ではない量の水産生物を買っているので、いかに効率よく水産物をおいしく、飽きの来ないように食べるか、粉骨砕身している。肉は外出時のみで、めったに食べない。今のボクに必要ななことは、肉をもっと食べるべきかも知れないね、という話である。要するに老人的な老人話だけど、我ながら日々不安である。そして、5月24日に食べたのが、カツオのあぶり漬け、である。醤油と少量のみりんに48時間漬け込んでいるので、そのまま食べられる。室温が高くなってきているので、刺身だと皿の下に保冷剤を敷かなくてはならないが、それも不要。資料を読みながら、酒をなめながら、思いついたら一切れという感じで食べる。ひときれにみょうがとにんにくを乗せ、すだちを垂らして口に運ぶ。2㎏少しの小ガツオなので脂はそんなにないものの、赤身らしいうま味が口に広がる。このぎょうさんなうま味を少しずつ酒で流す。トンカツと揚げ物の歴史の本を読みながら食べても、トンカツが食べたくなったりしないのが、カツオの味の強さである、と気づきもした。いつもメモを見ながら書き直しているのだけど、カツオは肉に代わる存在かも知れぬ、などと思ったもんだ。
イシガレイの刺身
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五月も終わりのイシガレイの刺身

活魚とはいえ、5月の宮城県産のイシガレイは微妙である。イシガレイは産卵期が長いのでマコガレイなどと比べて旬がはっきりしない。時季を読むのが難しい。慎重に選んで、よしと見て買い求めた。実際下ろしてみると脂がある。カレイ科の魚の脂はのっているときでもべったりではなく、指についてもさらりとしている。しかもまだ身がしまっていない。あまりにも新しすぎるので、下ろして夕方まで寝かせた。後は薄めに刺身に引くだけである。食べてみて、はやりイシガレイは活魚に限ると思った。食感がよく、それだけでおいしく思える。その後から来るうま味も豊かである。こくがあるのは脂があるためだと思う。カレイ目にはスダチが合うので、買っておいたのも正解だった。醤油・わさびもいいけど、塩・すだちもいい。今季初イシガレイに初夏を感ず、だ。イシガレイはあまり一般的ではなく、食べたことがある人はとても少ないと思う。ただマコガレイと比べるとお買い得なので、活魚を見つけたらぜひ刺身をお試し願いたい。
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麦イカの丸ごと天ぷらはカキの味

釣り餌用の皿丈(さらたけでスルメイカの子供の三重県熊野地方の呼び名)を勝手にもらってきて、丸ごと揚げようとして大失敗する。30g前後の小イカのゲソを抜き、消化中のものなどを流し、ゲソをもう一度体の中に入れて、水分を切り、焼き串で四方八方から突き刺す。小麦粉をまぶして分厚い衣をつけて中温で揚げる。順調だったのは始めだけ、部屋中油まみれになるし、飛んできた油に襲われるは……。だまってもらってきたのでバチが当たったのかも。二度目の挑戦は丸ごとゆでてゲソを外して、消化中のエサなどを、ていねいに洗い流す。とにかく墨とワタだけ体内に残してゲソを体に刺し込んで、焼き串で徹底的に突き刺す。念のために少し置いて水分をよく拭き取るなどする。小麦粉をまぶして、厚めの衣をつけて中温で揚げる。形は不格好になったが、無事揚がる。
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春の小田原、全長17cmマアジの酢洗い

最近、自分の中に酢愛が多すぎて困っている。必ず酢のものを食卓に、がボクの日常である。マアジを酢締めにするのは日常茶飯事となっているのも酢愛からだ。今回のは酢締めというよりも、酢で洗っただけ。2尾なのでたっぷり食べたいだけ食べる。この日、マアジとマルアジの刺身を食べているのに、酢洗いを食べても、刺身の延長戦とは感じない。今回のマアジは脂がのっているので、生酢でしめても味にこくがある。2尾分作って半合の酒で、全部食べきって仕舞いそうになるのを我慢して半身分残す。それにしても酒に合う。夕方、半合の酒を飲み、資料読みをする、のが最近のボクでもある。〈人の問いたるに 知らずしも〉などと、時間を消費する。
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テラジャーはやっぱり、だな

ウミンチュにテラジャーを送って頂いた。標準和名をマガキガイという。房総半島以南赤道を越えて、ニューギニア、オーストラリア北岸に広い生息域を持つ。高知県で生まれたチャンバラガイという呼び名が有名だが、実はこの呼び名は非常に新しい、作られたものでもある。この面白い呼び名から高知県が代表的な産地であるかのように思う人が多くて困る。国内でとれる量は非常に少なくなっているが、それでも伊豆半島などでも、紀伊半島でも、高知県以外の四国、九州でもある程度とれている。たぶん国内でいちばん漁獲量が多いのは沖縄県だと思う。またフィリピンなどから輸入してもいる。マガキガイの仲間であるソデボラ科(スイショウガイ科)はすべておいしいが、本種とシドロガイがいちばん北に生息域を持つ。漁獲量がいちばん多いのはマガキガイである。当然、おいしいソデボラ科の代表といった存在になっている。
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5月も末の兵庫県明石浦のマサバを生で

兵庫県明石市は歩くのが、とてもとても楽しいところである。例えば山陽本線明石駅から南に下ると海に出る。そのまま西へ西へと歩く。そこは商店もあるけどどちらかというと住宅地といったところで、このあたりを材木町といい、また海を目指すと港町、岬町に入る。このぐちゃぐちゃした町と町並みが好きだ。おいしい玉子焼の店があり、いいすし屋がある。オバチャンがやっている喫茶店に小さな魚やなどなど、また歩きたいな、とぞ思う。さてその海辺にあるのが明石浦漁港で、今回のマサバはここから来ている。ここに水揚げされる魚は原則的に活魚であって、当然、今回のマサバも活け締めである。明石浦というだけで、とりあえず刺身にしたのは、ここで水揚げを何度も見ていて、場内が全部活け場であり、締め方が完全無欠だからだ。明石海峡ではあまりたくさんはマサバがとれない。水揚げが増えたのは最近のことではないか。体長34cm・679gの雌で、大きな真子を抱えている。三枚に下ろすとじんわりと身が反る。血合い骨は抜けるが皮が硬くて剥きにくい。お昼ご飯に薄めに切りつけて、柚子胡椒に、柑橘のすだちを添える。柑橘柑橘なのは徳島県人の性である。一切れ一切れにちょんちょんと少しだけ柚子胡椒を乗せて、すだちを搾って食べる。ちなみに真横に、ご飯はあるけれど、ご飯の友ではなく、刺身と凍頂烏龍茶でしみじみ、じっくり味わう。やはり脂がないために味にこくはない。でもマサバらしい味が豊かで、食感が強くて、一切れにドラマがある。この脂のない時季に、脂のない個体のよさを感じることができることこそが、自然そのままを楽しむことでもある。
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春の小田原、全長20cmマアジのアジフライ

塩コショウしてラップしておいたアジフライ用の中に、干もの用に背開きにしたものが混ざっていた。一緒に作ったので、こんがらがったのだ。ボクは意味もなく、かなりの確率でフライは腹開き、干ものは背開きにしている。もちのろん、逆もある。まあこんなこと、ドッチャでもええ、と思っているというか、大雑把なボクは何も考えないでそうしているだけ、だというか。世に棲んで、人に迷惑や危害を加えること以外はオールアウト! なのだと開き直る。だいたい細かいことを気にするって無駄だと思う。冷凍保存しておいた、塩コショウし、開いたものは室温で戻して水分を取る。小麦粉をまぶし、溶き卵をまとわせ、パン粉をつけて中温で揚げる、だけだ。下高井戸においしい鮮魚を使ったアジフライがあるけど、自分で揚げたてを食べる方がそれ以上だと思っている。要するに、いちばんおいしいアジフライは自家製なのだ。アジフライはいつもいつも、いつ作っても、おいしすぎるので、あっと言う間に食べてしまう。香ばしさよりも、マアジのうま味、青魚特有の個性がでしゃばっているところがええ。マアジは目立ちたがり屋だけど、目立ちたがり屋でも珍しく嫌みがない。最近、そのような俳優がいるが名が出てこない。その上、今回のは脂があるので味にこくがある。やたらにインパクトのある味なのにいくつ食べても腹五分目で、ついつい食べすぎる。最近、もちろん、なんとなくだけど、最初にアジフライを作ったのはマアジの開き干しを作る会社の作業員じゃないかな? と思っている。失敗作をまずは天ぷらにして、若い世代がカツレツ(とんかつ)みたいにパン粉をつけて揚げてみた。なにはともかく、とてもアジフライを考えた人はエライ。
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春の小田原、ゴマサバ子の干ものはかたかたに

今、都内でもっとも手に入りにくいのが小魚の干ものである。あるとすればウルメイワシとカタクチイワシくらい。ボクの故郷、徳島県などでは海辺の町で様々な干ものが手に入ったもので、それが懐かしいのもあって、小魚の干ものを積極的に作っている。過去のデータをみると、時期はずれるけれど、ゴマサバの子はなんども干ものにしている。我が家の干ものは非常に塩分濃度が低く、硬く干しても塩気が少ないので、もの足りないという人がいる。ただ硬く干してあるので水分量が少なく、その分うま味が凝縮している。あぶったものを噛みしめながら食べると、後から後から味が波のように押し寄せてくる。お茶と一緒に食べても止められず、ビールと一緒に食べても止められない。今回はゴマサバの子のうまさを再度痛感した、そんな初夏のような5月の初旬だった。
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山口県日本海側「瀬付きあじ」は間違いなし

山口県日本海側は「アジどころ」である。「アジどころ」というのはおいしいマアジが揚がる地域という意味ではなく、干もの業者が買い付けに回る地域のことをさす、ボクの造語である。干もの業者は何十トンものマアジを仕入れるのだが、仕入れ先は、島根県、山口県、佐賀県、長崎県、愛媛県、量的には落ちるが宮崎県や鹿児島県である。この地域で揚がるマアジの特徴は脂があることである。「アジどころ」、島根県にも厳選した、「しまね定置もん」や「どんちっちあじ」があるが、たぶんそれより昔々からあったのが山口県日本海側の「瀬付きあじ」である。回遊しないで瀬に居着いているマアジのことで平均して脂がある。萩に行った時にも食べているが、外れなしの魅力的なマアジである。久しぶりの「瀬付きあじ」は体長24cm・230gなのでちょうどいい大きさである。大急ぎで朝ご飯用に半身を刺身にして食べた。夕ご飯にも半身食べたので、1尾丸ごと刺身、刺身だ。木曜日に手に入れた止め(前日入荷)なので食感は落ちているものの、ごっつ大きなうま味が舌に広がり、その後に脂の口溶け感が来た。脂を甘いと感じるのと、ご飯の甘さがよく合う。止めと言っても、鮮度がいいので魚臭さはまったくなく、ショウガなしで食べても非常においしい。やはり水氷(塩水に氷を加えた中に魚を入れて輸送)は優れものだ。さて、これより8月くらいまで「瀬付きあじ」はとれるのだろう。並アジだって、悪くないが、ちょっとだけ贅沢して「瀬付きあじ」の日々が続きそう。
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今季初淡竹となまり節を煮る

料理は平凡で日常的なものが好きだ。大仰な料理は自宅ではやるべきではないし、やってもその大仰に見合うほどうまくもない。飾り気が多い、盛りだくさんの要素がある料理はやらない主義のボクには、季節ごとの、季節に見合った料理しか作れない。今回の淡竹となまり節など日本のどこでも、普通に、日常的に作られていたものだ。煮物はディスクに座って作業しながら作れるのがいい。15分ほどで煮染まってきたので、追いみりんして味を調えて、もう5分煮る。この間の味見がとってもボクは好き。ご飯なしで煮上がりを食べる。これが茶の子(香川弁かも。お茶の友のこと)になるから不思議である。このとき注意すべきは煮汁はすくわないことだ。煮汁が少なくなると保存しにくくなる。それと、なまり節と淡竹の比率である。今回の場合、同じくらいのおいしさなので、意識しないでも半々の比率だけど、片方がうますぎるときに半々にするのは難易度がかなり高い。これが白飯に合うのである。これに漬物があると最強だが、今回は近所の老夫人が作っている虫食いだらけの蕪の漬け物である。虫が食うくらいなので、いい味のいい小蕪である。基本当座煮(少し保存しておけるおかず)であるが、もって半日でしかない。ちょっとだけ虚し悲し。
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刺身に最適な大きさのカミナリイカ

今回、鈴木さんが送ってくれた中に、コウイカとカミナリイカ(モンゴウイカという地域が多いが、輸入ものもモンゴウイカというので要注意)が入っていた。専門的になってしまうがAcanthosepion属2種が揃い踏みというのは非常にありがたい。外套長19cm・687gで若い個体である。2㎏以上になる大型のイカだが、あまり大きいものよりも、この程度がいちばんボク好みだ。初日はまずは刺身、そしてゲソの塩ゆでにする。このサイズは扱いやすい。水洗いしてていねいに皮を剥く。剥きやすいのが魅力である。しかもコウイカ類は肉厚である。ちなみに今、カミナリイカもコウイカも漁の最盛期である。さて、柔らかくてイカ特有の甘さが楽しめるのが魅力である。うんとうまいし、後味がいいので切り落とした部分がもったいなくなるくらいに、なくなるのが惜しい。
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旧暦4月25日、三重県産2.1kgカツオの刺身は初鰹の味

江戸時代の初鰹は4月・5月(旧暦)に相模湾でとれるカツオのことであった。新暦にすると5月下旬から6月半ばくらいまで。大きさは2kgくらいが多かっただろう。今回のカツオも2.1kgなので江戸時代に初鰹として持てはやされたサイズだ。今では相模湾だけではなく日本全国から時季を問わず、このサイズがやってくる。相模湾の例えば鎌倉(現神奈川県鎌倉市)で揚がったら、足の速い若い衆が水をかけながら走ったとしても、それほど冷やせないまま、65㎞として10時間近くかかったはずだ。さて、現在、中央市場など市場の休日は水曜日と日曜日である。基本的に前日にとれたものを仲卸などで販売するが、木曜日は微妙である。火曜日に水揚げされたものである可能性があるからだ。ただし、今や流通の発達から鮮度からすると、飛躍的に向上している。本個体は火曜日水揚げと見たが、非常に鮮度がよく、血液がさらさらとして見事である。魚はばっきばっきに鮮度がよいからよい、とは限らない。これで十二分にいい、のだ。しかもそれだけ安い。江戸時代に3両(いろいろ説はあるけれど最低30万円〜60万円くらい)払った三代目(?)中村歌右衛門に食べさせてあげたかったくらいである。2㎏ものなのでそんなに脂はないが、このあっさりと軽い味が矢鱈にいい。酸味があまりなく、強いうま味だけが舌に残る心地よさは例えようがない。古今亭志ん生、金原亭馬生は刺身といえば中トロ(クロマグロ)だったという。ボクはカツオだな、なんて思う。調べものが多すぎてへこたれているので、大量のにんにく、醤油に少量の煮切りみりんで、背肉の全食いである。夕方なのに神奈川県松田町「松みどり」を半合。しばしベッドで奥州史の世界へ。
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子持ちなれどうまし、5月のガンゾウビラメ

いつでも食べられると思うためか、ガンゾウビラメの味のデータがあまりない。旬はヒラメと同じで、寒い時季から春までだが、5月はだめだろう、と思っていた。今回、鈴木さんが送ってくれたのは一色産だと思うけど、案の定、膨らんだ真子を抱えていた。ただし、身に厚みがある。何はともかく、刺身にしてみたが、思った以上に味がある。ヒラメ科の魚は産卵が近づきすぎるとすとんと味がなくなるけど、5月17日のものは多様なアミノ酸がこんがらがった強い味が舌の上で続く。ガンゾウビラメは寒い時季でも脂をそれほど脂の存在を感じない。とすると5月のガンゾウビラメは上等という事になる。わさび醤油と一味唐辛子醤油では、後者がボクには好みだった。あまり華やかさがない味なので、少しピリッが味のアクセントになる。それにしてもガンゾウビラメ、オヌシあなどれぬヤツよな。
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新しい群れ到来、石川県産マイワシの刺身

石川県産マイワシは3月くらいからずーっと入荷が続いている。4月中旬のものは子持ちで腹が少し柔らかかったが、今回のものは硬く孕んでいない。ボクはマイワシの本当の意味での豊漁期を、データをとっては体験していない。初めての豊漁体験、豊漁の味のデータとなる。さて、たぶん石川県富山湾側でとれたマイワシの腹は硬く、刺身にしてもしっかりとして硬い。これを小鉢に入れてショウガとミョウガを乗せて、醤油をかけてかき回して食べる。2尾分で朝ご飯にしたら、刺身が温かいご飯の上で溶ける。半溶けの刺身、飯かき込むうれしさよ、温い風。どことなく、脂ののったマイワシの刺身は初夏の味だと思っていた。4月までは脂がのっているが、5月に空白期が生まれる。6月になると太平洋側の第一弾の群れが入ってきて、そこそこ脂が乗っていた。この空白期が消えたことになる。気象庁の春なのに、気温は初夏とは残念であるが、ヒトが春と秋を削り取ったのだから、ヒトであるボクも文句を言えた義理ではない。5月20日に初夏(はつなつ)となりにけり、だ。世の中暗いことだらけだけど、マイワシだけが明るい話題だし、うまい。
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クロダイのポルトガル風

ポルトガル風としたが、これはボクがポルトガル料理店で食べた料理にヒントを得て作っているだけで、本当にポルトガルで作られているものではない。大量の野菜にクロダイの身が混在しているもので、これを取りもっているのはオリーブオイル(サラダ油でも結構)とにんにくである。テーブルでオイルをかけ回し、混ぜて塩胡椒で味つけするというもので、一般家庭でやると華やかだし、盛り上がると思う。ウルトラC級に簡単で日常的な料理でもある。一般家庭の料理はとにもかくにも簡単に。白身魚というものは塩焼きにすると背の青い魚以上に臭味がある。魚が好きすぎてこんなところがわからない人がいて困るが、これを大量のにんにくと胡椒で消し去ってしまう。実に食べやすい上に大量に野菜が摂れる。このおいしさの表現が難しい。サラダにハムを入れるようにクロダイを入れる、という意味ではなく、野菜にクロダイの持つ味を加えるという感じだろう。大量に作っても、あっと言う間に消え去ること請け合いである。もちろん魚はなんでもいい。
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熊野産サゴシと新玉ねぎの煮つけ

ボクのモットーはできる限りではあるが、季節や気温などに逆らわないで生きること。できる限り、生き物やエネルギーを浪費しないことだ。葉玉ねぎが出たら買い、新玉ねぎが出たら買う。その年の玉ねぎが干し上がったら、初夏だなと思うことも忘れたくない。産卵期の親サワラではなく、若い個体であるサゴシにはあまり季節感はない。年中安定しておいしい。これも喜ばしいことだと思ったりする。さて、そんなサワラの若魚であるサゴシと新玉ねぎの煮上がりは、見るだけですぐには皿に盛らない。煮汁に手が入るくらいに冷めたら、ちょっと柔らかめなので、そーっと手で皿に移す。煮上がりよりもこの時間こそが料理で、よりおいしくしてくれるからだ。今回は甘こってり濃厚ではなく、あっさりした味つけを心がけた。新玉ねぎの甘さを生かしたいからだ。今回の煮つけはあまり塩分濃度が高くない。でも味が強く感じられる。サゴシのおいしいところがいちばん手前の方で感じられる。なにしろ身が矢鱈にうまいのである。うまいは甘いだけどうまい甘いが順番こにくる。この甘いの中に新玉ねぎの甘いが加わっている。別に甘いもん好きすぎるわけではないけど、甘うまい。ついでに言っておきたいのは、新玉ねぎを一度に食べすぎないことだ。サゴシの味が入った新玉ねぎで大盛りご飯が2杯はいける。新玉ねぎだけで2食の飯が食えるのだから、この料理のコストパフォーマンスは非常に高い。ただし、デブには悲しいおいしさなり。
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春の小田原、全長20cmマアジの開き干し

2010年5月にハエは飛んでいなかった。気温も低かったし、湿度も低かったので干ものは外干しできた。そして2025年、風通しが悪いのもあり、室内で扇風機を回して干す。なんて無風流なんだ。それでも干したてを焼いたら、言うに言われぬほどおいしい。相模湾二宮沖のマアジは、温暖化の部屋干しでも結構結構である。そこそこ脂もある。5月も後半になると、もっともっと脂が乗るが、ボクなど今くらいの脂で十二分である。ボクはどちらかというとカンピンタンでシンシビーである方が好き。強く干しただけ、余計にうま味が強く、身に味があり、後味が甘い。これで三度は飯の友ができた。米の値上がりは痛いけど、ご飯派なので飯の友は多ければ多いほどいい。当分、朝ご飯は二宮沖のアジの開きとなりにけり。
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春の小田原、ゴマサバ子の唐揚げはNo.1の味

ムツの子、カタクチイワシ、そしてゴマサバの子を食べ比べる前に、順位を想像してみた。1位・ムツの子、2位・カタクチイワシ、3位・ゴマサバの子だと考えた。ムツ子などさくさくしておいしそうだし、カタクチイワシには味があるだろう? ゴマサバの子に何があるんだろう? が想像できなかった。まさか唐揚げ選手権でダントツ1位がゴマサバの子だとは思わなかった。かじりついたときはちょっとだけサクサクした食感で、平凡だったけど、後から味の大波が来たのである。なんだろう? この味のピークは。口に入れてサクサクした後に来る味。内臓は取ってあるので、体幹部分の中心に、その味があるように思える。ゴマサバは「さば節」の原材料であり、だしを取ると、味の通奏低音的な役割になるが、「めじか節(マルソウダ)」のような個性がない。それなのに唐揚げにしてとんがったうま味があるのである。何年魚を食べていても発見がある、のは当たり前だけど、今回の場合は大きくてウレシイ誤算である。
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黄金の穴子は凄い! 酒焼き編

爽やかな風吹く5月のはずが、てんやわんや、やっさもっさの日々が続いている。その上、変に蒸し暑い。そんな5月に、日課のようになってきたのが深夜酒だ。肴を前に、左手に大振りのグラス、右手に文庫本の深夜酒だ。一日を三等分しているのだけど、夜の眠りを2つに分けて深夜1時過ぎに酒を正一合だけ。5月の酒は安くておいしい、神奈川県松田町の「松みどり」である。最近、酒はスーパーに売っているもので、平凡な値段で、自分好みの酒を買い求めている。黄金穴子を強火で焼いて、みりんを塗っただけで、飾り気なしどころか薬味も山椒だけ。皿は鳥取県岩美町、延興寺窯、山下清志さんの新作だけど、黄金穴子の焼き物に似合う。焼き上がりのみりんが焦げた香りだけでも、正一合いけそうだ。焼き物のよいところは腹にたまらないところで、ましてはマアナゴの後ろの身はうま味の塊のようで、ひとかじりが重量級の味である。そこを「松みどり」だけど、このインターバルが長い。酒も肴も時間を楽しむためのものになっている。こんなものが好きになる歳なんだなと思うのも、深夜酒のよさだ。このところ獅子文六を読み尽くしている。『七時間半』を読みながら、ふと、獅子文六は日本のウェストレイクじゃなかろうか、と思って調べると、なんと年の差40歳で、比ぶべくもない。展開の早さは獅子文六の方が元祖なんだと、とかとか。これがボクの毎深夜だ。
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5月、北海道からオオズワイ雄

昔、ロシア産ズワイガニがお手軽で安くて庶民の食卓をにぎわせていた。近年は突然揚がり始めて、最初はてんやわんやだった、北海道日高地方のオオズワイガニが庶民の味方となりにけり、だ。今回のものは280g前後で、このサイズなら1人前1ぱいでちょうどいい。雌は外子の時季で身(筋肉)が痩せているが、雄はむしろ身入りがいい。
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手負いの麦イカを開き干しに

麦イカ(スルメイカの若い個体)は頭をかじられてはいるが、刺身にだってなる。問題ありの売れない水産生物ってとても魅力的なのだ。いつの間にか連れてきたもので、何にしようかな?と考えて、干すことにする。外がぴゅーぴゅーで干もの日和なのである。立て塩は3分なので非常に薄塩である。干ものを作るのは湿度よりも風かも知れない。一夜明けると見事に干し上げっていた。後は焼くだけ、だ。麦イカなので柔らかい。それだってとても魅力的だけれど、干したイカを焼いた香りって、文字に出来ないところがある。濃厚なうま味が舌に広がるのも魅力的だ。こんなに小さな、手負いのイカがこんなにおいしいなんて。魚にかじられてもおいしければ、売ればいいんじゃないかな?
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熊野産さごしの刺身、焼霜造り

高級魚とされるサワラは2キロ以上で、活け締めでなければならない。大きくても野締めは平凡な値段でしかないし、まして2キロ以下は安い。それでもものがよければ、刺身にもなるし、いろんな料理にも使えて経済的である。今回の熊野市産は野締めではあるが、鮮度がいい上に身に張りがある。切り身にして指でなぞると脂が感じられる。もっとも固体本来の味がわかるのが刺身である。ここから焼いたらどう変化するか、とか、煮たら、というのがわかる。野締めだし、「さごし」だし、当然、食感は望めないが、サバ科らしくうま味豊かだ。思ったよりも脂があるのは、白子持ちで産卵を控えているからだろう。今回は尾鰭近くの身を刺身にしてみたが、やはり細長い魚の尾鰭前の味は素晴らしい。
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春の小田原、ヒコの唐揚げ

ヒコ(カタクチイワシ)は子持ちなら天ぷらに、と思ったけど、子なし状態だった。子持ちなら天ぷら、煮つけ。なしなら唐揚げにすることが多い。たっぷり揚げてビールの友にし、深夜仕事のおやつに食べる。今回の唐揚げはふんわりとしてサクっとしているのを期待したが、まったく違った味わいであった。揚げると硬く締まり、少し重い味になった。ただし、よりカタクチイワシらしいうま味豊かなところが表に出たといった感じである。サクッとして口の奥に消えるのではなく、噛み応えがあり、強いうま味が長く続く。唐揚げにもこんな味わいがあることがわかった気がする。明らかに今の時季のカタクチイワシの味がここにあるのだ、と思われた。ちなみに同じ二宮定置の唐揚げでは6月はふんわりさくさく、8月はさくさくだったが身のふくらみはなかった。相模湾だけでもカタクチイワシには多数の産卵群(同級生)がいるので、味の波を考えると、意外に奥が深そうである。
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倉橋島、目の下1尺半、マダイとごぼうをたく

4月から続けている、マダイ丸々1尾手に入れると、ものすごくたくさんの料理が作れるという話だけれど、全部紹介できないで終わりそうである。かなり昔の話になってしまうので、これが最後の1品とする。マダイ料理で今、いちばん好きなのは煮つけだ。ただ、ボクの場合、好みがころころ何度も変わるので、ほんまのところ今だけの話かも知れぬ。ちなみに好みが一生変わらないなんて人間は信用できない。そんな人間は不幸としかいいようがない。善悪と関係ない部分は、好みだけではなく、ころころ変わってこその楽しい人生だと思っている。マダイのかまは塩焼きに、潮煮にした。頭部の吻から鰓蓋までの部分をゴボウとたく。ゴボウは適当に切って、ことこと柔らかくなるまで下煮して水に放ち粗熱を取り、ザルに上げておく。頭部は適当に切り、湯通しして冷水に落とし残った鱗やぬめりを流す。水分をよく切る。これを酒・砂糖・醤油・水の中で煮る。ゴボウのときにはショウガは入らない。もちろんどうしても入れたかったら入れればいい。目の周辺や口周りに、こんなに食べられる部分の多いことに、いきなりビックリ仰天するはずである。この複雑な頭部の骨周辺にある身(筋肉)と皮が非常に味わい深い。内臓でもないのに味の濃度が高い。当然、合いの手に食べるゴボウも、そんじょそこらには転がっているはずのないお宝的おいしさである。この複雑な骨周りの煮つけは食べる時間が長いのもいい。食べるという事は時間なので、こんな煮つけこそ価値が高い。蛇足だけど、できればゴボウは食べない方がいい。全部別の器に移し、残して置いて、ご飯のおかずにする方がいい、のである。めし泥棒、これにありという一品になる。
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相模湾の、青アジの旬は今だ

青アジ(マルアジ)はアジ科でもムロアジ属である。ムロアジ属の魚は血合いが多く保存性が低いので、主に節(アジ節)や干ものになる。都内のスーパーにもときどき安く並んでいるが、主に加熱用だ。もちろん刺身用、もしくは刺身も売っているが希である。旬は秋だと思っていたが、Kaiくんは、いまだという。食べたら、確かに今だった。実際、下ろすと白子を持っていて、この白子がまだ小さい。相模湾での産卵期は7、8月だろう。要するに7月、8月の小田原の青アジに脂がないのは産卵後だからだ。データを見ると、9月下旬、10月の青アジは脂が乗っている。とすると相模湾の青アジの旬は晩春と秋の2回ということになる。何十年魚を調べてきても、教わることの方が多かりき、だ。さて、青アジの刺身は血合いが大きいので見栄えは悪い。マアジのような成熟した、妖艶な味でもない。むしろ若葉のように爽やかな味である。そこに豊かな味がある。アジ節の原料になるのは味があるからだ、ということがわかる。ていねいに締めているので、食感がここちよい。しょうがも用意したが、醤油・一味唐辛子、すだちがよかった。
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小さくても下ろし安くてうまい、小ハシキンメの刺身

神奈川県小田原市、小田原魚市場で、こいつだけが漫画の世界のキャラクターのようである。あえて言うとダルマサンに似ている。もう少し後になるともっとたくさん揚がるが、この日はちょろりちょろりとまとまらない。当然、ダンベ(大型水槽で魚粉などになるものを入れる)行きとなる。でもふざけた顔して、うまいのに、なー。しかも下ろしやすくて、手間がいらずで小骨がない。今回のものが今季初小ハシキンメであるので、初物に乾杯、だ。ハシキンメは若魚の時には定置網にも入るが、成長すると深海に移動する。春から初夏だけが、小ハシキンメが食べられるとき、でもある。小さいけれど、刺身はとても美しい。たぶんこんなにきれいな刺身も珍しかろう。しかも体長10cm・40g前後しかないのに、ちゃんと脂がある。甘みがあって、うま味もそこそこで何よりも、ほどよい食感がある。変に肌寒いので頂き物の、菊正宗樽酒を一合弱だけ燗つける。燗酒にも合う、合う。
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ホウライヒメジのムニエルはゴージャスな味

ヒメジ科の魚をフランスでは、ルジェー(ルージェ、ルジェとも。Rouget)という。ルジェーは赤い魚という意味である。ルジェーのムニエルやポワレは珍しいものではなくなっているが、昔はめったに巡り合えないものだった。初めてルジェーのムニエル、もしくはポワレを食べたのは、まだ若造で、ただの便利な運転手のようにこき使われていたときだ。フランス直送の素材を使っているという青山の店だった。魚の写真を見た限りルジェーは、ヒメジ科アカヒメジ属まではたどることができた。アカヒメジ属の魚はヒメジ科でもあまり大きくならない。メニューの脇に「ヒメジのムニエル」とあったが、もちろん日本にいる標準和名のヒメジ属ヒメジとは属段階で違う。最近、ヒメジ科のムニエル、ポワレは輸入素材が増え、国産のヒメジ科アカヒメジ属・ウミヒゴイ属の流通が増えたので珍しいものではなくなっている。「ヒメジのムニエル」は「ヒメジ科の魚」と考えるとあながち間違いではないが、店での魚の紹介で、切り身にしてムニエルにならない小魚のヒメジの写真を添えていることが多い、これがなんとなく滑稽である。見当違いですよ、と言いたくなる。そのときの、ルジェーが実にまずかった。冷凍輸入したものだろうし、飾りが多すぎるしで、フランス料理の名店などくそくらえ、と思ったものだ。実は、自分で作ると非常においしいのである。今回のホウライヒメジはウミヒゴイ属で大型になるタイプ。大きくなるとソテーにしにくいが、このサイズはソテーに向いている。三枚に下ろし、腹骨・血合い骨を取る。表面の水分をていねいに取る。塩コショウして、小麦粉をまぶし、少し置く。これを最初弱火でじっくりソテー、中火に上げて、仕上げる。仕上げにタイムの枝とバターでモンテ(強火にして泡立てて塩コショウで味を調える)する。皮は香ばしく、身は豊潤である。最大の魅力は皮の風味と、身よりも遙かに強い甘味だ。甘味がすぐに消えないのもいい。身は端正な味である。柔らかな筋繊維が束になっていて、口の中でほどよくほどける。いけないと思いながら山梨県の一升瓶赤をロックでやってしまう。Vin rouge なので、赤 et 赤だ。
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小田原江之浦沖のやや大アジの刺身

神奈川県小田原市、小田原魚市場で年間を通じて水揚げをみると、必ず年間での魚の味の変化がわかるだろうと思っていた。たしかに個々の魚の味の、大きな波の上下はわかってきたが、いちばんわからないのがマアジとは思いもしなかった。日渉丸、江の安漁場のワタルさんが選んだ個体とか、二宮定置の山崎さんなどの若い衆が選んでくれた固体は時季に関わらずおいしい。結果、大きさによる味の違いがわからなくなってきた。結果、時期はずれ期間がはっきりしなくなっている。5月、6月は当たり外れがない時季ではある。でも、この時季が相模湾西部の旬だとも言い切れない。漁場によるずれがあるのである。小田原随一の目利き、仕立てのプロである、江の安漁場のワタルさんが選んだ固体、江之浦漁港前のマアジなので、食べる前から結果はみえている。脂のいちばんのる時季は少し後だけど、水揚げ15時間後の刺身は室温に置くと、表面が脂で滲み始める。うま味はこの時点ではイマイチだけど、この時点だからこその強い食感がある。
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黄金の穴子は凄い! 天ぷら編

最近、舵丸水産は穴子(マアナゴ)に力を入れている。大量仕入れなのでいろんなマアナゴがくるが、この金色の固体は初めてらしい。そんなに期待していなかったのだけど、がしっと二つ割りにすると液化した脂がキラリキラキラだった。香ばしい衣の下に、皮のうまさがあって、その下に半液化した脂がある。身の甘さがあって、強いうま味がある。なによりも香りが素晴らしい。マアナゴは小骨がある。この小骨が柔らかいので気にならない。だから非常に高価なのだ。ただ、固体によっては小骨の気になる5P(200g)もあるけ、この金色の固体の小骨はまったく気にならない。マアナゴは金色を探せ! なのかも知れない。春菊の天ぷらと合わせて、朝ご飯を食べたら、「今日も頑張れるぞ!」なんて思った。やはり、「ありがとう」くらい言うべきだったかも。
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春の小田原、ムツ子の唐揚げ

今回はカタクチイワシと、ムツ子、ゴマサバ子を2日にわたって唐揚げにして食べた。小魚の唐揚げはいうなれば定番的な料理である。突き出しに小皿に2、3尾とうこともある。ちなみに唐揚げの料理店の料理としての地位は、西日本で高く、東日本で低い。西日本では御馳走で、東日本ではなんとなく注文するものでしかない。西日本の料理人は積極的に作るが、東日本では嫌う料理人が多い。さて、今回唐揚げ3品の第一弾がムツ子である。まだ温もりのある内に口に放り込んだ。非常に上品な味わいで、身にも味がある。冷めたら香ばしさが増して、スナック菓子のような感じになる。味わい深く、上等すぎるスナック菓子である。唐揚げとしては特徴がないのが残念であるが、ついつい箸が伸びる。今回は揚げて塩味(しおあじ)だけだが、これが正解だった。ムツの唐揚げはたいへん軽い味なので、コショウもなにもいらない。こんなにさくっと軽いとは思わなかった。ひとつかみではなく、もっと持ち帰ってきてもよかった。飲み物は、まだ逢魔が時なので凍頂烏龍茶。
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クロダイのカルパッチョは一枚の絵なのだ

初めて魚のカルパッチョを食べたのは、昔々その昔である。サッカー人気が話題になっていたときなので、ほんまに昔だろう。そのときのものは魚の生の切り身を皿に並べて、上に彩りよく香りのある野菜やハーブを並べてお絵かきをするといったもの。ものすごくにんにくがきいていて、テーブルの上で追いオリーブオイルをかけてくれた。以来、そのときに何軒か回った店のスタイルに従っている。ボクの作るカルパッチョは、クロダイの身を皿に馴染ませた状態など、絵描きがカンバスを張るようなものかも。その上に神奈川県秦野市で買った種なし赤ピーマンと、フルーツトマト、タイムを散らしてみた。あるだけの材料なので、とてもシンプルなものとなる。締めて3日目のクロダイの、端切れを集めて薄く切ったのでエレガントではない。今回は夏泳いだ後のような、疲れの波を受けていたのでどっさりとにんにくを使った。仕上げに追いオリーブオイルではなくライムを搾る。ちょっとだけ味は野性的である。甘い素材は今回はなし、あるときはキウイ、季節によってはラズベリーなどを使う。ただ塩とオリーブオイルとにんにくと、白コショウだけの味つけで、うま味たっぷりの3日目の、クロダイの味をそのまま堪能出来てあまりある。ちょっと濃い味だなというところを、ライムの酸味とタイムの香りが救ってくれる。おざなりに作ってもカルパッチョはうまいのだ、ということがわかる。ついつい、皿に並べてチャンチキおけさ♪ なんて唄っている自分がいる。午後2時なのに、山梨で買った一升瓶の赤ワインをロックで一杯。昼酒できないのに、浮かれ飲みして1時間だけダウンする。
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カイワリの刺身、ウマスギてこまっちゃうな

とれて11時間後のカイワリの刺身は、ボクの目の前で脂という名の汗をかいていた。出てくる汗をなめたいと思うのは、魚の脂汗だけだ。カイワリのすごいところはとったその日から味があることだ。このあたりが背の青い魚である、アジ科の魚らしさだ。個人的には味の点ではアジ科の頂点に立つと思う。
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一色産ヒゲソリダイの割り下鍋

ボクは年がら年中鍋を食べる。鍋は時間を楽しむものだ。いつもは早食いなのに、鍋の時にはゆったり時間をかけて食べることが出来るので、精神的にもよい気がする。今回の鍋は割り下で煮ながら食べるだけなので、わざもコツも不要である。まずは魚の切り身と野菜を食べる。ヒゲソリダイの身の味わい深さに恐れおののく。奇妙なくらい、煮れば煮るほどうまい。皮の部分がぶよーーーんと柔らかく、とろっとなる。甘いし、筋繊維がやけに簡単にほどける感じがいい。ちなみにつゆは時間がたつほどおいしくなる。煮汁に染まった野菜はいくら食べても嵩を感じない。こんなに野菜をたっぷり食べても、もっと食べたい気分になる。小鍋仕立てなのに野菜は山盛り盛り盛りである。終いに醤油色に染まった清洲の「かくふ」を食べて、本当に終いにする。時間をかけて食べてもいただきものの菊正宗樽酒正一合とは、我偉し。
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じゃみはまぐりの醤油煮で二合半

酒を飲みたい時もある。酒が主役で肴は脇役ということもある。そんなとき魚屋の店頭で「じゃみ(チョウセンハマグリの幼貝)」を一握り買って来る。ど深夜にざざっと料理して、酒を用意して。こんなざざっと料理が、デスクワークの末の夜酒にもっとも相応しい。面白いもので酒蒸しにして、酒だけでの味つけですらチョウセンハマグリの身は甘味が強いが、醤油・みりんが加わるともっと甘味が増す。わたの濃厚な味、足の食感がくるとたまらない。箸もなにも使わないで、1個手に取っては貝殻ごとしゃぶり、酒で流す。神奈川県の「松みどり」はとてもソフトな飲み口だけど、やけに合う。疲れ果てた、末の夜酒に、二合半。
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刺身のうまさに、クロダイはまだいけるとぞ思う

5月9日の神奈川県小田原魚市場はアジであふれていた。名物といってもいいカイワリもたくさん揚がっていて、活況を呈していた。箱にも、活魚槽にも、この時季多いのがクロダイ(西日本のチヌ)である。活魚槽をのぞくと、手頃なのがいたので、さんの水産さんにお願いして買って頂く。体長37cm・1.5kgの雌で卵巣は非常に大きく膨らんでいたが、ばらけ感はなかった。ちなみに刺身にするなら活魚。加熱するなら活け締め、野締めでも可、だと思っている。いずれにしろ高い魚ではないので、そんなにガタガタ言いたくはない。近年魚価が全般に上がっているが、白身魚はおしなべておいてけぼりになっている。これは白身魚(昔の白身魚で、キチジや目抜け類、アカムツは含まない)全種の価値の下落だし、白身魚に対する国内の料理人、消費者の間違った認識による。その点からしても「クロダイは安い」と、他の白身魚と比べないで無闇に言う人がいることに驚く。ちなみに活魚は決して安くはない。午前、6時過ぎを小田原魚市場で締めてもらい、血抜きしたものを昼過ぎに刺身にすると、身に張りがあり、食感が心地よくてうまいとは思ったが、歯が立たない。一度、仮眠をとって、午後8時して食べたら、俄然おいしくなっていた。そして午後10時に夜酒のともに刺身して味が◎となる。そして翌日の、今はもっとうまくて、ご飯の友としたので、飯がすすんで危険だと思ったほどだ。うま味濃厚で、しかも食感が心地よい。うまいクロダイの刺身で、飯を食う時間はいい時間だ。これなら5月中に、もう一度買ってみよう!
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5月、北海道噴火湾からオオズワイ雌

当たり前だけど、魚介類は年間を通して食べないと、その魚介類の味はわからない。特に甲殻類十脚目短尾亜目ケセンガニ科オオズワイガニは、食べている量も少ないのでがんばるしかない。ただ往々にしてうまいので、苦ではない。今回の北海道産(たぶん北海道日高周辺)雌は気になって致し方ないので、買ってみた。
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ヒゲソリダイの塩焼きで思い出す

愛知県知多郡阿久比町『項明水産』、鈴木項太さんにいろいろ送って頂いた。中にヒゲソリダイがあった。1キロ上でしっかりと締めている。以上は以前にも書いた。腹の部分の塩焼きを作っていて、『かもめ食堂』(2006年)という映画のことを思い出す。待つのが仕事のような仕事だったので、この映画を見てしまったのだ。面白い映画だなと思ったけど、それ以上に気になる点があった。仕事で見ている女子にお願いして、その箇所をもう一度見た。「やはり間違いない」。たぶん養殖されたタイセイヨウサケ(サーモン)だと思われる切身に振り塩をして、すぐに焼き始めている。絶対に間違いとは言えないが、尺からしてこうなったのやも知れぬが、料理監修の面からしてどうかな。以上はかれこれ20年も前のことなので、不確かかも。海水面養殖なので、タイセイヨウサケの体内塩分濃度は高いはず。振り塩をしても馴染むのに時間がかかる。塩がきかないまま焼いたら、表面だけ塩からいだけでしかない。塩と魚の本体とが味の点からしてばらばらじゃないかな?淡水魚は体内の塩分濃度が低いのですぐに塩が馴染む、のとは違う。なんて考えながらヒゲソリダイの腹の身に振り塩をして、待つ間、保存画像にテキストを加えて保存するなどして、ちょうど1時間で焼き始める。一般家庭なのでガス台のグリルで焼き上げる。愛知県一色産のヒゲソリダイは今まさに脂が乗っていて、旬なのである。皮目のうまさは、過去には、イサキ科だったことがあるので、イサキのように独特の好ましい風味があり、皮だけでも御馳走である。ほどよく繊維質の身の甘さよ、強いうま味よ、と思わずつぶやいてしまう。これにて頂き物の、菊正宗樽酒を正一合。項明水産、鈴木項太さんに感謝致します。項明水産https://komeisuisan.com/
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旬に突入したホウライヒメジの刺身・皮霜造り

愛知県知多郡阿久比町『項明水産』、鈴木項太さんにいろいろ送って頂いた。中に比較的小振りのホウライヒメジが入っていた。小さいのに触っただけで上々であることがわかる。非常に硬いのである。5月から夏にかけてはホウライヒメジの時季だ。早速、刺身にして皮霜造りにして楽しんだ。いかにも5月だな! という刺身の色だ。小型なので曇りガラスとまではいかないが、身色が薄濁りになっている。濁りの原因が脂なのだ。ホウライヒメジの味の特徴は甘味が強いことだが、事ほど左様に甘い。しかもうまい!こんなにウマスギだと困っちゃうという味である。
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ヒゲソリダイの、旬はこれから、だ

愛知県知多郡阿久比町『項明水産』、鈴木項太さんにいろいろ送って頂いた。中にヒゲソリダイがあった。1キロ上でしっかりと締めている。まずは刺身で食べてみる。わさびもしょうがもなし、醤油すらつけずの刺身一切れで思ったのは、ヒゲダイの仲間(ヒゲダイ属でセトダイ、ヒゲダイなど)が旬を迎えつつあることだ。一切れなのにぎょうさんうまい、と言うしかない。いきなり脂を感じるとまではいかないが、ねっとりとして、ほどよい脂が舌にへばりつく。ほんの少しだけ磯臭みがあるが、これが本種の持ち味である。この磯臭みは脂がのっていくると完全に消えるが、それはそれでもの足りなく感じる。だいたい醤油とわさび、しょうがで完全に消えるといったもので、味に膨らみをつける素でもある。ご飯の友としたが、身の甘味がご飯と合う。
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三浦半島東京湾のマアジの刺身に時季到来を感ず

今年に入って最高のマアジだと思う。予想していたことだけど、最初の一切れを食べて、予想以上だった。正確に言えることは、東京湾だけではなく、日本全国、マアジの季節到来である。鮮度が非常にいいのに切りつけた身が柔らかいのは、当たり前だけど脂が身に混在しているからだ。ちなみにマアジでも脂べっとりといったものがあるが、個人的には身にほどよく混在するのが好きだ。今回はしょうが醤油で素直に食べたが、困ったおいしさだった。これにて、頂きものの、菊正宗樽酒を正一合。こなから、は遠し。
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倉橋島の魚、イネゴチの潮煮

4月24日、広島県呉市倉橋島、『日美丸』、平本勝美さんにいろいろ送って頂いた。中にイネゴチが入っていた。倉橋島では「蛇鯒(ジャゴチ)」という。体長40cm・567gなので、やや大きめだ。これを刺身にして味のよさにびっくり。潮煮にして、またビックリ仰天する。おいしいのである。潮煮は濃く取った昆布だしと酒・塩だけで煮るのだけど、イネゴチから出るうま味と合体して生まれた汁のうまさを堪能する。皮は無残にも溶けてしまうものの、身がほろほろ脆弱で甘い。イネゴチの身に、こんなに味があるとは思わなかった。きっと倉橋島周りのエサがいいのだろう。また島の多いところで潮の流れが強いからかも知れぬ。
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三重県熊野産皿丈のトマト煮込み

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産の隅っこにイカ(スルメイカ)の箱があった。1ぱい30g前後で、市場ではバライカというサイズよりも小さなサイズで、昔はよくみかけたものだが、最近はめったに見かけることがない。「いくらじゃ?」ときいたら、「エサに買ったヤツだから。少し持っていっていいよ。全部はだめだかんな」と返された。くれるということらしい。せっかくくれるというので、たっぷりもらって来た。銭州のシマアジの上前をはねるとはこのことだ。これで朝ご飯に作ったのがトマト煮込みだ。東京都山手線、目白駅構内に浅野屋を見つけて、買ったバタールと合わせて、とてもおいしい朝ご飯となる。それにしても駅構内に四谷、『浅野屋』の支店があるなんて、さすがに超高級住宅街だな、と思う。ルビーポートで少し甘めに作ってみたが、実に味わい深く、滋味豊かだ。トマトのグルタミンとイカの風味・うま味が一緒になると、最強かも知れない。イカを丸ごと使ったので、見た目は薄汚れた感じだけど、その汚れた分、味はいい。パンに乗せて食らうと、お腹にすーっと消えて行くので朝ご飯にぴったりである。パセリ代わりに使ったギョウジャニンニクの葉が、これまたとてもいい香りを放つ。
高梁市,魚屋
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倉橋島の魚、ヒラの塩焼きとつけ焼き

広島県倉橋島のヒラを目の前にして、岡山県の話をするのはおかしいかも知れぬが……。昔、岡山県高梁市を縦に横に歩いた。家並みがきれいで、「どこから行っても遠い町」な、ところだった。知らない町なのに人恋しくなる、町だ。富山県の城端とともに、もう一度歩きたい街角・曲がり角のあるところでもある。逢魔が時に、ボクと同い年のオバチャンに会って、ヒラの話を聞いた。近くでヒラの骨を切る音が聞こえたので、話しかけやすかった。「ヒラは焼いた方が好き」だという。どうやら1970年という食文化の大変動以前の人間にとって、ヒラは刺身などでも食べるけど、基本的に焼くか煮るか、どちらかの魚のようだ。■写真は岡山県高梁市の魚屋の店頭。
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まだまだいけそう、石川県産マイワシの刺身

関東の人間は海の幸では太平洋側に気が向きがちである。だから入梅鰯などという言語を、さも全国的な言語と誤解する。4月、5月は川崎北部市場の荷受け(大卸のことで世界中から魚を集めてきて競り、相対取引を主催する)だけの話ではあるが、石川県七尾からのマイワシの入荷が盛りを迎えている。この分では七尾だけではなく、日本海全域でマイワシがとれている、気がしてきた。さて、4月30日の石川県産マイワシは、卵巣・精巣がまだまだ未熟で、肋骨に張りついた身は真っ白である。薄くそぎ切りにした刺身に醤油をかけて、しょうがとからめて、昼、ご飯の友とする。切りつけてすぐ、刺身の表面が滲み始める。口溶け感の心地よさに、よしこのが聞こえてくるようだ。温めたご飯の減りが早い。脂から感じられる甘味とご飯の甘味が口の中で結婚する。そこに醤油の味がきて喉に消える。5月1日の舵丸水産にも来ていて、料理人が争うように買っていく。日本海のマイワシの旬は春なのだが、春の過ぎ去るのが寂しい。
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倉橋島の魚、目の下1尺半、鯛の潮煮

4月24日、広島県呉市倉橋島、『日美丸』、平本勝美さんにいろいろ送って頂いた。当然、中には倉橋島名物の鯛(マダイ)が入っていた。全長50cm・2㎏上は目の下一尺半である。桜は散り、5月、6月の産卵盛期を迎えようとしている時季だ。これを骨を残して総て料理し尽くす。刺身は先にも書いた。それはともかく、久しぶりに潮煮を作る。かまの潮煮の、出来上がりにすだち丸々1個搾り込んで、後は食らうだけだ。昆布だしでことことじっくり炊き上げたもので、表面の皮から、身からして、とろりと柔らかい。器に盛り付けるときは国宝を輸送するが如し、の気持ちでなければならない身から飛び出した肩帯(胸鰭周辺)の骨をつまむとひょいっと抜ける。マダイの肩帯と腰帯周り、すなわちかまの部分の骨が大きく小骨が少ないのも魅力だろう。抜けた骨周りの身をすすり込んだら、もうそこにあるのは別世界である。皮と身は、濃厚な昆布だしとマダイのうま味が凝縮されて液体のように舌を這う。潮煮は日本料理の基本ともいうべき料理であるが、要するに昆布の味と魚の味を仲睦まじくさせるといいのだ。皮や身、煮汁をすすり込む時間が永遠続くといい、とも思う。ちなみに潮煮はご飯の友というよりも、酒と相思相愛である。できれば燗酒を用意したい。煮汁は別の器に半分入れて、ときどきぬる燗と半割にして飲む。煮汁で酒がのめるのもうれしいねー。汁も身も皮もなく、器に残ってるのは鰭と骨だけになったら、残念ながら終いである。
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一色のイタヤガイ、ツキヒガイの食べ比べ

鈴木項太さんに送って頂いた愛知県西尾市一色の、イタヤガイ科イタヤガイ、同科ツキヒガイを刺身にして食べ比べてみた。今回はちょっとだけツキヒガイの方が甘味が豊かで、貝らしい風味が優っていた気がする。でも気のせいかも知れない。それにしてもイタヤガイとツキヒガイはうまい。もちろんイタヤガイ科の食用貝は総てうまいけど、この2種はうまさのラインが刺身にして他の二枚貝より上だ。次いでヒオウギかな?といいながら、ヒオウギを食べるとまた違ってくるのが、ボクが通ではない証拠である。結論、イタヤガイ、ツキヒガイ、ヒオウギガイは同じくらいうまい。一色のすごいところは、このイタヤガイ科3種が全部揚がることだろう。
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倉橋島の魚、目の下1尺半、鯛白子天ぷら

4月24日、広島県呉市倉橋島、『日美丸』、平本勝美さんにいろいろ送って頂いた。当然、中には倉橋島名物の鯛(マダイ)が入っていた。桜は散り、5月、6月の産卵盛期を迎えようとしている時季。雄で体が黒ずんではいるものの、精巣(白子)はまだ硬く成熟度は低い。白子は明らかに食べ頃である。白子は天ぷらにした。鯛白子天ぷらは東京都内、天ぷら屋では春の定番種だと思っている。白子を揚げるとき、衣を改めて作り直してから揚げているのが記憶にある。たぶんクルマエビや「めごち(ネズミゴチ)」のための、薄めの衣をつけて高温で揚げると、火が通り過ぎる、もしくは中の白子が散るのだと思う。天ぷら屋では職人さんのなすがままに食べたことはあるが、めったに追加したことはない。その「めったに」の種が白子だった。白子はていねいに取りだし、中の筋などを取り去る。軽く振り塩をして小麦粉をまんべんなくまぶして、厚めの衣をつけて高温で揚げる。使っているのは市販の天ぷら粉(これだと技いらずだ)に氷で冷やした水で厚めの衣を作る。一般家庭なのでわざわざ神経を使って衣を作る気になれない。最近の天ぷら粉はとてもヨイヨイよいやサ、だ。揚げたてを食べる。白子の衣は厚めの方がうまい。さくっと音が聞こえるくらいでなければならない。当然、中から一瞬だけ熱々の半液化した白子がとろりとくる。舌触りは生クリームのようだけど、ちゃんと魚らしい味わいがある。残念なのは、5分以内に食べないとおいしくないことかな。鯛の白子天ぷらに敬意を表して、本物ビールの晴れ風500mlを開ける。ボクに好みのビールが出来るなんて、思わなかった。日美丸さんに感謝!
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倉橋島の魚、目の下1尺半、マダイの刺身

広島県呉市倉橋島、『日美丸』、平本勝美さんにいろいろ送って頂いた。当然、中には倉橋島名物のマダイが入っていた。倉橋島は広島市の南にある。広島側からは江田島があり、倉橋島と大きな島が連なる。呉市に統合されてしまっているが、もともとの呉との間には音戸の瀬戸という海峡がある。たぶん広島県の最南端に当たるのではないか。このあたりは、広島湾から南に島と島が重なり合い、多様な貝類、エビなどが豊富で豊かな海域である。そんな海域で、多彩な貝類やエビなどを食べて育ったのが倉橋島のマダイだ。全長50cm・2㎏上で、吻から目の下、尾の先までが1尺半。マダイは目の下2尺までがいちばんうまいと思っているが、まさにそのサイズである。桜は散り、5月、6月の産卵盛期を迎えようとしている時季。雄で体が黒ずんではいるものの、精巣(白子)はまだ硬く成熟度は低い。『日美丸』のタイ釣りは伝統的なフカセという釣法で、いわゆる一本釣りである。マダイはエサ(食べているもの)、漁法、扱う人によって大きな差が出る。そのどれ一つが欠けても、うまいマダイは生まれない。
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倉橋島の魚、ヒラの刺身

広島県呉市倉橋島、『日美丸』、平本勝美さんにいろいろ送って頂いた。うまいに決まっているセットだけど、本命はさておき、最強クラスの脇役から。ニシン目ヒラ科のヒラである。体長49cm・1.384kg はこの魚としては小振りである。魚類に興味のない人にとっては巨大なニシンのような魚で、北海道でも見つかっているが、あえて言うと瀬戸内海周辺、有明海周辺の魚といいたい。この魚、広い内湾域がないと産卵できないのではないか、と思っている。この点からも、自然破壊だけしかやらない、企業や行政や政治家達は、ヒラだけではなく、地球にとっても敵である。
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増毛産「ぼたんえび」に満足満足!

八王子卸売協同組合、舵丸水産に北海道増毛から特上の「牡丹海老(ぼたんえび)」が来ていたので、味見用に1尾買う。一般的に「ぼたんえび」というのはトヤマエビのことだ。日本海と北海道以北の深場にいる大型の美しいエビである。標準和名(図鑑などにのるときの)ボタンエビは近縁だが別種なので要注意。もちろん標準和名のボタンエビだってやたらにうまい。
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石川県産マイワシの刺身ではなく、なめろう

生の魚とみそとたたいたものは、「みそたたき」ともいい、「なめろう」ともいう。どっちでもいいのだけど、今回は酢で食べたので、千葉県南房での料理名、「なめろう」としたい。千葉県千倉の漁師さん、食堂のオカミサンに教わった食べ方だからだ。最初は酢をつけないで食べてみる。口に入れると、まことにあっけない。噛み応えがなく舌の上で溶ける。脂のりすぎ、といった感じである。疲れから大量投入したにんにくの存在が感じられない。感じられるのはみょうがだけだけど、それだけマイワシの存在感が大きい。荷の作りから石川県七尾産とみたが、富山湾ではなく、七尾湾に入り込んだ群れやも知れぬ。このように思いを馳せるのも楽しい限りなのだ。さて、食べてはやや控えめに酒をあおり、あおりして食べ進んでいったら、皿の上がきれいになってしまっていた。明日の「さんが焼き」はなし、となる。
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竹の子とウスメバルで、「竹の子眼張」

東京では、たぶん江戸時代くらいから、千葉県外房以北の沖合いでとれるウスメバル(スズキ目カサゴ亜目メバル科メバル属)のことを、「たけのこ」とか、「たけのこめばる」といいった。たぶん竹の子がとれ始める頃に旬を迎え、たくさん入荷してくるからだろう。浅い場所にいるメバルは、「黒めばる」と呼ばれていた。こちらは分類的にはクロメバル、アカメバル、シロメバルの3種のことだ。こちらも竹の子との相性がよく、竹の子の時季に旬を迎えるので、「竹の子目張」といってもいいかも知れない。ただ、1980年代後半に築地場内で、「竹の子と煮る」というと黙ってウスメバルが出て来た。1984年、『土井勝 魚のおかず』の「メバルの煮つけ」で竹の子と合わせているのもウスメバルだ。東京では竹の子と合わせるのはウスメバルが主であったと考えている。昔は浅場にいるメバルと比べると、沖合いにいるウスメバルは味的に落ちるなんていう人がいたが、今、そんなことを言う人はほとんどいない。こんなことを言って通ぶる人は嫌いである。ボクは、みな同じようにうまい、としておきたい。話をややこしくしそうだが、念のために標準和名タケノコメバルという魚がいる。メバルにもウスメバルにも似ても似つかぬ魚で、見た目はあんまり美しいとは言いがたい。魚類学の父、田中茂穂は「竹の子のとれるときに旬を迎えるので、タケノコメバルなのだろう」とあるが、明らかにこれは間違いだと思う。ちなみに他にも同じ事を言う魚類学関係の人がいるが、ちゃんと食べていないのだと思っている。タケノコメバルは、体の模様が孟宗竹の竹の子の皮に似ているからタケノコメバルだ。
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安乗のマアジはやたらにおいし

三重県志摩市へは何度か行っているが、安乗漁港のある安乗崎には行ったことがない。魚を食べるということは、知らぬ町を旅する如きである。また、志摩市内ではマアジを買ったことがあるし、食べたこともあるけど流通してきたものを手にするのは初めてだと思う。刺身にすると、思った以上に脂がのっていることがわかる。皮下に脂の層が見えるし、舌に乗せたときの脂の口溶け感があり、ねっとりと舌にからみつく。鮮度がいいので食感もいい。水氷(氷入りの塩水の中に魚を入れてある)に見えたので、値段は並かも知れないけど、味は上といえそうである。小さな真子を持っていたので産卵はまだまだ先で、志摩のマアジは旬を迎えているようだ。
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一色のイタヤガイであっと言う間のグラタン

愛知県西尾市一色から持ち帰ったイタヤガイ科イタヤガイでグラタンを作る。ホタテガイと似ているイタヤガイはホタテガイよりも一回り小さい。ホタテガイはどこでも手に入るがイタヤガイを手に入れるのは大変である。でも、手に入れるためにどんなに苦労しても後悔しない、うまし二枚貝である。同じくイタヤガイ科のホタテガイと比べてると貝柱の大きさでは負けているが、味は上。この豊かなうま味と適度な食感を備え持つ、イタヤガイのグラタンは大御馳走である。だれが作っても簡単に作れるし、食べても矢鱈にうまい。一度食べたら、何度でも、ときどき,無性に食べたくなるはずだ。とろっとろのホワイトソースにからんでも、やたらにうまいエリンギと一緒になっても、イタヤガイの存在感は大きい。ホワイトソースとソテーしたイタヤガイの層との境目が、グラタンを混ぜ込みながら食べることで融和する。この混ざり込み具合を見ながら、加減しながら食べる。クロワッサンでもあるといいお昼になる。
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気温25度を超えても、まだ春なのでアジの天ぷら

ビールを買いに近所のスーパーまで歩く。夕暮れ時なのに腰に付けた温度計は27度。念のためにもう一度見直しても27度だ。「晴れ風」という、不思議な名の新しいビールを飲むために、天ぷらを揚げて、揚げたてに、「晴れ風」。贅沢で飲む、といったもので、ハレの日のビールと言ってもいいだろう。「鯵の天ぷら」は中村武志(国鉄職員で小説家。1909-1992)の「目白三平」にも出てくるので、東京では至って普通の料理のようだ。ところが、アジフライはどこでも食べられるが、天ぷらを出してくれる店は少ない。当然、自分で作ることの方が多い。アジの天ぷらは高温以上の高温で短時間揚げるに限る。かぶりつくと表面の衣が音を立てるくらいがいい。その分、中がしっとりと柔らかく、マアジの背の青い魚特有の濃厚なうまい汁が舌に広がる。こごみの天ぷらも春の味。竹の子の天ぷらも春の味。るらんるらん、な気分で「晴れ風」500ml2本とは贅沢だな〜。
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関東の上アジの主役、沼島産

関東には大きな荷主(大卸で日本各地水産物を集めてくる)がいくつもある。それぞれ荷受けで得意とする地域があるが、兵庫県淡路島だけは全荷受けが仕入れてきている。特にマアジは他の追随を許さない。マアジにも並(味が悪いというわけではない。むしろ味的に上だったりする)と上がある。上アジは産地が限られている。並は島根県以西、九州が主産地である。東京などでのすし職人は、片身2かん(体長20cm)くらいを好んで使う。料理人もこのサイズが好きな人が多い。だから淡路の釣りアジがスポットライトを浴びる。ただ、4月はまだ早い。沼島(淡路島の真南にある島)のマアジが本格化するのはこれからである。切りつけたものを口に入れても脂は少ないので、口溶け感はない。脂がない分、マアジらしい味がある。舌の上にのせても味的にだれを感じない。「沼島はいいな」と思う瞬間である。今季初めて買ったみょうがをくるりと巻いて、ご飯に乗せると実に味わい深い。近年、季節を感じると悲しくなるが、このマアジなどまさに悲しみの種である。季節を感じる食べ物しか食べないつもりだけど、うれしいような悲しいような。これからは島根県の巻き網もの、定置もの。山口県の瀬つき、佐賀県・長崎県、鹿児島県など、マアジに困らない時季を迎える。
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新物に喜びも半分の、ヒジキかな

一色漁港(愛知県西尾市)の競り場に、新物のヒジキ(蒸しただけのもの)が並んでいた。それを前に、買い悩んでいた買受人が少なくなかった。高すぎるのである。新物のヒジキが欲しくて街中でスーパーをめぐったが探せど見つからない。豊橋市のスーパーでやっと三河湾産を手に入れた。今じゃ、ヒジキはとても庶民的とは言いがたい。旅先でなければ買わない値段である。温暖化のせいかも知れないが、海藻類の高騰がとまらない。海藻の減少は過度な治水、自然海岸の減少と正比例する気がするのはボクだけかな。毎年新物は買うことにしているが、たぶん2005年の2倍位している気がする。今回のものは海辺で蒸し上げただけのもので、乾燥工程は経ていない。この三河湾産の新物は非常に太く、柔らかくて、このまま食べてもおいしい。今回は久しぶりに、油揚げ(辻豆腐店 豊橋市)と煮た。「そうだ節削り節」のだしに、醤油と砂糖の味つけで、酒・みりんは使わなかった。柔らかくたいて、優しい味わいに仕立てた。ご飯の友になるぎりぎりの味の濃さである。新物のヒジキは、毎年思う事だけど、うまいとしかいいようがない。蒸し上げたり、煮たりして冷凍したもの、乾燥させたものにはない味がある。これをどっさりご飯に乗せる。春よ、ご飯と一緒に胃袋まで届け、なのだ。
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岸和田産トドの刺身に大阪湾を感じた

刺身は口に入れてしばらくは、野締めなのに臭味はほとんど感じられない。ただ、終いの方の臭味はどうしても気になる。岸和田産というと巻き網のものだろう。野締めで来ても大阪湾のボラにほとんど臭味がないことが大発見である。2005年に泉佐野市で買った活けはおいしかったけど、野締めはダメだったことが思い出される。わさび醤油で食べてみると、どうしても臭味が残るが、野締めなのでボラだからということではない。あれこれ考えて、韓国風に胡麻油と塩で食べる。辛味が欲しかったら一味唐辛子などを振るといい。この韓国風の食べ方をすると臭味はまったく感じられない。ボラらしい濃厚なうま味が感じられる。念のために酢みそをつけてみたが、これもイケてる。大阪湾のボラは食べ方次第で実にうまいもんだ、なんて独りごちる。もともと魚があまり好きではなかったボクなので、かなり臭味には敏感であるが、大阪湾のボラはうまいが勝つ。ボラのおいしさの表現は難しいが上等のコイの刺身にも煮ているし、スズキの刺身にも似ている。でもやはりボラの味だなと思う。また見つけたら買わねばならぬ、大阪湾のボラだ。合わせた酒は、愛知県設楽町『関谷酒造』の蓬莱泉秀撰で、いい時間が過ごせた。
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4月になればマアジ時季到来となる

マアジに関しては大小にかかわらず、良し悪しがあり、小さいからいいとも、大きいからいいとも限らない。大分県産は比較的大形が多く、下氷(氷を敷いて魚を並べる)が基本である。この仕立てを見ただけで産地がわかる、というのも大分らしいところだろう。ちなみに並アジと今回の上アジで、買ったその日だと味は互角である。並上の違いは翌日になって初めてわかる。大分ものは年間を通じて、ていねいな仕立てであるが、さすがに寒い時季のものは脂が少ない。そして4月も半ばの今、箱に並んでいる活け締めもの総てに脂を感じられる。料理屋さんと荷をのぞき込んで、仲良く迷ってしまったほどだ。ふたりして、どれにしようかな? といちばん大型を1尾ずつ袋にしまう。帰宅して、鱗を引き始めると皮の表面に脂が感じられる。三枚に下ろすと身が脂で白濁して柔らかい。この脂で柔らかいのが旬のマアジの特徴である。刺身を口に放り込むと、すぐ舌の上でとろっと脂の口溶け感がする。その後、しっかりアジ科らしい豊かなうま味が残る。脂の多い時季は、うま味も多いのである。こんなに脂が豊かなのに後口がいいのもマアジならではだ。くどくど文字を並べても仕方がない。ここから数ヶ月、大分県産に限らず、日本各地からうまいマアジが届き始める。今年も時季のマアジは大分県佐伯市産から始まった。
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ハチジョウアカムツの兜焼きは酒で食べきる、酒煮

昔、酒飲みだったときよく作ったものに、塩焼きの酒煮がある。塩焼きを適当にばらして、酒と煮るだけの簡単な料理だ。塩焼きと酒、ともに主役といったもので、若い頃は酒をうんとたくさん入れて煮た。吟醸酒などでもいいのかも知れないが、いつも普通酒(本醸造もしくは純米酒)を使う。
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秋田県男鹿の、ワカメのみそ汁はうまかった

徳島県民で山間部に育ったので、ワカメといえば、基本的に「灰わかめ(今はもうない)」と干しワカメだった。生ワカメは上京するまで存在すら知らなかった。東京都内では今でもちゃんと寒い時季になると、生ワカメが売られているし、料理屋さんでも使われる。山国育ちのボクも、いつの間にか寒くなると「生ワカメ」な気持ちになるようになった。東京は産地に隣接しているので、寒くなるに従い「生ワカメ」が食べたくなるのが自然なのかも知れない。ヒトは季節に争わないで生きる方が地球に優しいし、地球上の生き物にも優しい。だから、生ワカメにも季節を感じとることができる自分が喜ばしい。4月半ばになって思うのは、今年、冬から春にかけて、まことにたくさんの生ワカメを食べたこと。初生ワカメは神奈川県江ノ島でとれたもの。秋田県男鹿市船川の漁師、近藤亮さんにワカメをいただいたのが4月1日で、これがボクにとって今季、最後の生ワカメだ。先々、書くかもしれないが、4月10日に故郷から鳴門の糸ワカメ(干しワカメ)が届いた。これからは生ワカメに代わり当分の間、干しワカメとなる。今季の生ワカメのメモの再整理を行っているが、やはり印象的だったのは、くどいようだが男鹿のワカメである。男鹿市では過去にもワカメを買っているけど、心に残らないまま今年に至っている。男鹿のワカメ、福島県只見町『目黒麹店』のさっぱり辛口のみそで作ったみそ汁は最高だった。さて、さっそく糸ワカメで「酢のもん」を作ろう!
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今年も初トゲクリガニは雄

青森県のトゲクリガニは春に外海から産卵のために陸奥湾に入ってくる。その入り口にあたるのが下北・津軽の両半島なのだろう。このとき陸奥湾のトゲクリガニの盛漁期が始まる。5月の連休過ぎまで、陸奥湾で盛んにとれる、それで青森市では「湾内ガニ」という。昔、この時季に青森市に行ったことがある。1988年、青森市内各所にあった市場に入ると真っ先に目に飛び込んできたのが、逃げ出したカニだった。逃げ出したのを追いかけて店から出たオバサンに、「つかまえたら持って帰れ(意訳)」と言われたり、あっちでもこっちでも試食試食でとても楽しかった。これがボクの「湾内ガニ」の初食いである。クリガニ科なので同じクリガニ科のケガニに味が似ているが、脚の身が締まっており、なによりも内子がうまい。ただしこの内子持ちの雌は高い。
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ナンヨウカイワリは平凡なところが取り得

以下は魚類学に興味のある方だけに。ときどきアジ科の魚に標準和名「カイワリ」が多すぎると思われないだろうか? これには歴史的な背景がある。ナンヨウカイワリ、ヒシカイワリなどカイワリとつく魚は昔、Caranx 属であった。今、Caranxの和名はギンガメアジ属(種の上の階級)だが、昔はカイワリ属であった。Caranx にはたくさんのアジ科の魚が含まれていた。基本的に魚の魚類学的な名は「特徴+属名」なので、「●●カイワリ」が多くなったという経緯があるのだ。そして今現在、ナンヨウカイワリはCaranx(ギンガメアジ属)ではなくFerdauia (ナンヨウカイワリ属)である。ついでにこのように学名はめくるめく変わる。伊豆半島の遙か南の海域にある岩礁群、銭州通いしている人に聞くと、「シマアジを狙っていて、こいつが来るとがっかりする」そうである。シマアジと比べると引きが弱く、見た目がシマアジに似てはいるが、どこかしらどんくさいかららしい。ボク、即ち、食べる側としては、確かにシマアジのように味的にスターとは言えないが、比べなければかなり上の部類だと思っている。いただけるならこんなに結構な魚はない。余談になるが、関東海域では、アカハタなど伊豆諸島以南に生息していた魚の多くが相模湾北部、小田原などでも普通にとれるようになってきている。ところが本種はいまだに伊豆半島南部までの魚である。小田原でシマアジは比較的見かける機会が多いのに対して、本種にはいまだに出合っていないことが、とても気になる。関東海域以南でもう少し水揚げが増えると、比較的安くて使える魚として人気が出るに違いない。若い個体なので、単純な刺身には向かないと思ったが、念のために造ってみる。相変わらず、体高のあるアジ科らしいうまさは感じられるが、脂は乗っていない。味に奥行きがない。過去のデータからすると脂ののるのは5月になってからだ。今はうま味と食感を楽しむものと考えるべきだろう。
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塩釜産本マ、昨日のぶつ、今日ののり包み

本マの「ぶつ」を「づけ」にしたものなので、最近の小学生曰く鉄板のうまさ、である。本マの比較的控えめな酸味が醤油で引き出されているし、うま味だって調味料と一緒になって強くなっている。そこにマグロの筋のほどよい噛み応えが来る。これを明石海峡の焼きのり(スサビノリ)とご飯で包むだけの手抜き料理だけど、あっと言う間の大御馳走とあいなる。ちなみに焼きのりは一昨年頂いた明石の初摘み。一昨年から去年、今年にかけて焼きのりを、いただきすぎて、やっと底が見えてきた。明石浦漁協の焼きのりはとてもおいしかったと言っておきたい。ついでにボクは故郷、徳島県美馬郡貞光町(現つるぎ町)でいちばん不器用ものと言われた男なので、のり巻きが作れない。なので、のり包みとなる。
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ハチジョウアカムツの兜煮

煮つけにするなら、魚の体のなかでも複雑に骨が入り組んだ部分の方がおいしい。いちばん複雑なのが、頭部とかま(胸鰭・腹鰭まわり)で、この部分を兜という。骨が多くて食べにくいが、その労力に値倍するほどうまい。料理とは時間を食べるものだ、と思っている。骨と骨の間の身をほじくりほじくり、じっくり長々と、ちまちま食べると、ゆったりしたときが過ごせる。その点からしても兜の煮つけは優れている。赤いハチジョウアカムツの兜煮は、絢爛にして、見た目、雄壮でもある。皮と皮直下には脂の層があるので、煮つけるととろとろになる。身は繊維質で、箸でつまむとほぐれながら剥がれて、口の中に入れると脆弱に崩れる。身に脂が混在しているので一度液化しているのである。口に入れると体内温度でふたたび液化する。固体から半液体化するときに感じる甘さ、うま味の豊かさ、調味料の味と、食べながら自分の周りにおいしさの空間が生まれた気がしてくる。まずはこれにて5勺のご飯を食べて、昼を済ませる。午後は、机の上にそのまま置いて、おやつとして、お茶の友としてつまむつもりだった。夕方までもつな、と思ったら仕事でデータを受け取りに来た若い男子が、「欲しい」というので、残りを泣く泣くタッパーに入れてあげた。お楽しみはこれからだ、と思っていたんだけど……。「終いには骨湯(医者殺し)にするんだよ」。お礼にはまんじゅうがいいからね。
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塩釜産本マのぶつブツぶつブツ

ときどき無性に本マが食べたくなる。ただ今のボクには、本マ(クロマグロ)は赤身ならなんとかなるが、脂の多い部分は最近重すぎる。これは明らかにデスクワークが長すぎるせいで、歳のせいではないと思っている。古今亭志ん生など死ぬまで毎日でも中トロだったらしいし、独特の茶漬けにするのも中トロだった。息子の馬生もそうだ。おでん屋で、中トロを食べておでんを食べないで帰ったことも多かったようだ。志ん生のように早く中トロがおいしいと思う体にもどりたいけど、フル回転の4月いっぱいはむりだ。さて、本マ(クロマグロの成魚)の尾に近い部分が安いのは赤身だし、筋が多いからだ。ただ本マの筋の際には味があるのである。初日はなんとか平造りに近い形になったが、決して感心できるような見た目にはならなかった。でも脂が思った以上に乗っていて、半中トロ的な味がした。いちばん下(尾に近い部分)だって本マは本マだ。高清水本醸造、燗酒うまし、春の宵。
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男鹿のワカメの天ぷらそば

秋田県男鹿市船川の漁師、近藤亮さんにワカメをいただいた。男鹿のワカメは、鮮度がいいことはもちろん、葉先・茎は柔らかく、めかぶはよくねばり、でとてもいいワカメだ。以上は前にも書いた。たくさんいただいたので、いろんな料理を作った。東京風のそばつゆがあったので、お昼は温かいそばにしようと思った。そこで作ったのが、ワカメの天ぷらである。惣菜として売られているのを見た事もあるが、我が家のものはちょっとだけ違っている。衣がぼってり厚いものが多いが、できるだけ薄い衣で口に入れると非常にもろいのである。ちょっと儚い感じだけど、さくさく、さくりと崩れて香ばしい。後からワカメの香りがふわーんと来る。
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ハチジョウアカムツの塩焼き、たぶんフランス風

獅子文六(岩田豊雄 1893-1969)名義の『飲み・食い・書く』は学生の頃、単行本を古書店で買い、文庫本をこれまた古書店で買った。「食べ物本」は作家によっては資料として読める人と、読めない人がいるが、獅子文六は前者の代表格だ。慶應出身なのに文章に久保田万太郎のような慶應臭さがない。そこに、マルセイユではサバの塩焼きにレモンをかけて食べるというのがある。これとそっくりそのままを、1980年代に米軍住宅で見ている。フランス生まれの、米軍の事務官(?)の母親は、ひとりだけ魚を夕食に食べていた。たぶんメカジキの塩焼き(グリルパンで焼いたもの)で、カイエンヌペッパーとレモンを1個丸々かけて食べていた。ボクはデジタルカメラ以前にこの塩焼きにレモン、白コショウもしくはカイエンヌペッパーをかける、という写真を何種類もの魚で撮影していた。ただ、2、3日かけてデジタルデータを見直しても、この塩焼きレモンの画像が見つからない。なので撮り直している。今回はハチジョウアカムツの塩焼きにレモンである。個人的感想だけど、この国では「塩焼きには大根おろしとかしょうが」だけど、改めてレモンの方がおいしいと思った。3切れを2日間かけて食べ比べてみたが、レモン・カイエンヌペッパーよりもレモン・白コショウの方がいい。あまりにもおいしいので、当分、魚の塩焼きはこのフランス風の食べ方でやろうと決めた。
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超手抜きヤナギダコの酢のもの

沖縄のウミンチュの食事に、ときどき登場するのがミツカンすし酢である。すぐ真似をするボクは、すぐにスーパーに行き、買った。ちょうど同じ頃、迷子になった画像を大捜索していて面白い画像を発見した。群馬県中之条町のバアチャンに、コイの話(もちろん恋の話ではない)を聞いたときのものだ。台所で「酢のものも、すしも全部これじゃ」と見せてもらったのが、1升瓶入りのすし酢(ミツカンではない)だったのだ。そのとき「漬物(作り)にも使うよ」と言われたはず。戦前生まれは、とても合理的なのだ。ちなみに本来酢のものは保存食で、1週間くらいにわたって食べるものだ。ボクの故郷である徳島県美馬郡貞光町(現つるぎ町)の隣町美馬町の、親戚の家で、何度も酢のものを食べているが、やはり作り置いたものだった。きゅうりとワカメ、ちりめんじゃこの酢のものが多かったが、ワカメなど茶色に変色していたが、子供のボクがいつもお代わりするくらいのおいしさだった。ボクは、魚料理にグルメとか通とか、こだわりは無用で邪魔なものだと思っている。こつこつ地道にちゃんと、いちいち加減酢を作ってもいいが、この便利なすし酢などもっと活用すべき、料理は最短を目指せ、なのだ。ということで、ヤナギダコの酢のものを作るのにミツカンすし酢を使ってみた。ゆでたてのヤナギダコをミツカンすし酢に漬け込んで、4日後(いつもは翌日)から数日かけて食べた。仕上げにゆでたワカメと和えるだけだけど、ワカメは秋田県男鹿市船川の漁師、近藤亮さんにいただいたものだ。いつもはそのときどきに三杯酢を作っているが、ミツカンすし酢で十分かもと、深夜酒用の小鉢にしてみて考えた。なにしろ3月、4月はやたらにあわただしい。手抜きは、とてもいいことだ。さすがに大きな会社が作るもので、ミツカンすし酢の味は万人向けである。嫌みはなく、ヤナギダコを差し置いて出しゃばることもない。実にいい小鉢ものとなって、夜酒のいい友となる。この量で3日間楽しめた。酒は、いただきものの「剣菱」で体が冷え冷えなので熱燗にする。
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鉄板の味、ハチジョウアカムツの刺身

小笠原は今や21世紀の江戸前といっても間違いではない。その父島からきたので、江戸前のハチジョウアカムツだ。ちょっとくどくなるけど、ハチジョウアカムツは東京を代表する高級魚でもある。刺身は、近所の小学生の言葉を借りると、鉄板の味である。絶対にハズレがない。小笠原の魚は船便なので鮮度的にはやや落ちる。ただし、小笠原の魚には白身が多いので、仲卸に並んで、買っても数日は刺身になる。同じ江戸前でも伊豆諸島のものは鮮度がいいものの、値段も当然、非常に高く、清水の舞台から飛び降りるつもりで買わなければならない。個人的には高いことは高いけれど、小笠原で十分だ。さて、まずは尾の部分の刺身である。細長い魚は尾がおいしい。おいしい部分から食べるのがボクの仕儀なので、本能の赴くままに尾から食らう。もちろんいちばん脂のない部分なので口溶け感はない。でも口に入れた途端にどばーっとうま味が、口の容積の3倍くらいに膨らむ。そして筋っぽいのだけど、この筋の歯触りが素晴らしい。筋と言っても硬いわけではない。噛んでいると味が出てくる。刺身一切れで、味の交響曲を聴き終わった感じがする。
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忘れた挙げ句の鯛塩焼き

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に神奈川県横浜市、小柴から小振りのマダイがきていた。中にチダイが混ざっていたので、比較のために買った。魚は日常的に計測して撮影しているので、そのためでもある。チダイはあれこれ作ったが、マダイのことを忘れていた。ちなみに今回のマダイは体長25cm・436gと小振り、産卵郡ではないようで、非常によいものであった。放置すること5日間、皮霜造りにしよう、などと考えていたことが思い出される。水洗いしてはいたので、後は簡単である。大急ぎで多めの振り塩をする。半日ほど冷蔵庫で寝かせる。表面に出て来た水分を拭き取り、あとはじっくりと時間をかけて焼き上げる、だけだ。
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男鹿のワカメと千葉のカイワリと、のらぼうと

千葉県鴨川産のカイワリは1尾焼き、1尾天ぷらにし、2尾刺身にした。そして最後の2尾はなんにしようかな? と思っていたときに、秋田県男鹿市船川の漁師、近藤亮さんからワカメが届いた。ワカメを見たら頭に「料理の絵」が浮かんできた。ありがとうございますとしか言いようがない。ワカメでもいろいろ作るつもりだけど、まずは炊き合わせに使う。カイワリのおいしさを吸収してもらうのである。煮つけるとカイワリから「おいしい」が出る。ワカメを食べると、ワカメの「おいしい」よりも、カイワリの「おいしい」が感じられたりする。ほんの数分、一緒にたいただけでワカメからも「おいしい」が出るが、カイワリはガンコで意固地である。カイワリはどこまでもカイワリの味だけで、煮汁をからめるとやっとワカメのうまさがからまる。スーパースターなので仕方がないやも知れない。カイワリ、ワカメは炊き合わせても、合わさらない部分があるから「炊き合わせ」という料理なのである。融合しないことで料理の存在感が一回り大きくなる。それじゃー、私は、と、のらぼうの蕾が言いそうである。このほどよい苦味と甘味、植物持つ清涼感で、意外に存在感が強い。こう言った存在をたき合わせの「合いの手」、という。不思議なもので、魚介類の炊き合わせは、一般家庭では、どちらかというと春のものである。蛇足だけど、ブリ大根やスルメイカと里芋のように、煮込んで融合しているものを炊き合わせとは言わない。独立性が希薄だからだ。
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新島沖のユメカサゴ1尾の煮つけ

千八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産、クマゴロウに新島沖の小さなユメカサゴをもらう。ありがとう。たな(水深)は500mだというが、キンメダイ釣りの胴付き仕掛けなのでもう少し上だろう。ユメカサゴは150mあたりでも釣れるので、生息水深の幅があることがわかる。
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北海道道東産白貝の野菜炒め

今、白貝問題にのめり込んでいる。何度挑戦してもよくわからない。なにしろ、この白貝(マルスダレガイ目ニッコウガイ科サラガイ属)の同定の検索項目(種に行き着くための項目)をなんとかしないと、永遠に謎で終わりそうである。今年になって、そろそろ撮影画像が1000を超えるが、やっと形態的な特徴がわかってきた。考えてみると、この白貝問題とは、すでに30年も取っ組み合いのケンカをしている。それだけに我が家にはいつも白貝がある。さて、二枚貝と野菜を合わせて、炒めると非常においしい。取り分け白貝(今回のものはほぼアラスジサラガイ)はアサリなどと比べると軟体(貝殻以外の部分)が大きいので野菜炒めにとても向いている。二枚貝と炒めた野菜はすこぶるつきにうまい。野菜の味が白貝のうま味を吸って激変する。もちろん炒めた白貝だっておいしいのだけど、野菜を食べるための料理だと思うべきだろう。この日の昼定食は、白貝の野菜炒め、若布汁(ソウダ・さば節だしの醤油汁)、奈良漬け、ヨーグルト、そしてご飯なのでデブに優しい献立である。
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悩んだ末のエゾボラモドキの刺身

一般的に北海道産「つぶ」とされる巻き貝は、エゾボラ属の巻き貝達である。日本列島周辺に生息しているが、水揚げ量は北海道がいちばん多い。このエゾボラ属の同定は難しく、自分なりに検索項目を作るしかない。念のためにエゾボラモドキに関して、貝類学者とボクの間には、あくまでも貝殻の形態のでの話だが、考え方が異なる。この肩に板状の盛り上がりがある個体は、典型的なエゾボラモドキだと思っている。このエゾボラ属の刺身はここ数年高くなりすぎて食べられなかった。やっと値が落ち着いての刺身である。それにしてもエゾボラモドキの刺身は食感が強く、甘味や貝らしい風味が豊かである。サザエとは違って、磯の香りというものではなく、ただただ軟体類の持つうま味が堪能出来る。残念なことに、つぶの刺身には日本酒しかない。致し方なく、酒をやるが、辛口がいいと思っている。といっても東京都内では至って普通に売られている、長野県諏訪市、真澄 銀撰である。
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3月末日、千葉県鴨川産カイワリの刺身

千葉県鴨川市を説明するのは意外に難しい。例えば関東以外の、東海地方以西の人に「鴨川市」と言っても誰もわからないと思う。「京都の話」などとなりかねない。素晴らしい海があり、観光施設もあるので、関東での知名度はそれほど低くないが、魚と結びつくのは水産関係者くらいかも知れない。ただ、関東に住んでいるなら、鴨川市は新鮮な魚の供給地であり、そこでとれる魚は関東にとっての地物だ、という認識があってもいいと思っている。月曜日の魚なので、鮮度抜群とは言えないが、真っ先に刺身が頭に浮かぶくらいには、いい。市場で買って、帰宅後すぐに水洗い。三枚に下ろし、保存して置く。これを昼に刺身にして、刺身定食にする。カイワリは市場で買っているので、比較的手頃な値段である。定食などといいながら、懐に優しい値段のカイワリ刺身と、野菜サラダと赤だしのみそ汁の、ごくつましい昼ご飯である。3月末のカイワリはそんなに脂が豊かではない。なので、口溶け感からくる甘味こそ少ないものの、口に入れた瞬間にうま味が口中にぱーっと広がる。おいしさの口の中での滞在時間の長いことと、うま味の豊かさは、大小で表すしかないが、間違いなく大の味である。ご飯の友は塩分もそうだが、味わいが豊かで強くないと務まらないが、カイワリ140gほどが2尾で、二杯飯が食べられるくらいうまい。そんなにいい時季でもないのにこんなにおいしくてもいいの、と問いたくなる。きっと4月も半ばになると、カイワリ1尾で二杯飯になるだろう。
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真子も食腕もなんでもかんでも煮つけるスルメイカ

値段が気になるのでスルメイカは大小交えて買っている。基本的に大きいのは雌、小さいのは雄だ。スルメイカの真子(卵巣)はヤリイカと比べると落ちるが、比べなければ非常においしい。産地がわかりにくいのが難点だが、だんだん真子が膨らんでくる。スルメイカの足のつけ根が頭だ。この頭と足(げそ)と、真子、触腕(他の腕よりも長く、小魚などを捕らえるためのもの)、鰓などなどいろんな部分が混ざり合った煮つけの味からして楽しい。刺身などにした残り全部をただ煮つけただけの、雑雑しいおいしさだ。ちなみに今ボクは甘い誘惑に弱いときを迎えている。ひょっとしたら秋田県人よりもあまいもん好きかも知れない。でもこの甘っ辛いしょうゆ味こそが日本列島の味だという気がしてきた。ちなみに合わせたのは、ご飯で、次ぎもご飯。こんどは日本酒の友にするつもりだ。
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久しぶりに来た八戸産アラスジサラガイの刺身

関東では「白貝(しろがい)」と呼ばれていて、近縁種のサラガイと区別しない。ホッキガイ漁などでの混獲物である。ちなみに漁獲されているサラガイの仲間はサラガイ、アラスジサラガイ、ベニザラガイの3種とされているが、ベニザラガイは流通上みていない。この3種の検索項目は混乱している。個人的には早く北海道の専門家と話し合い、この検索項目の混乱を整理したい。さて、ちなみにサラガイとアラスジサラガイの味は同じである。アラスジサラガイの方が大きいので刺身などにしやすい。ちなみに刺身といってもすし種の青柳(バカガイ)同様に軽く火を通している。さて、非常にくせのない、甘味がちな味で、食感は弱い。これをもの足りないと感じるか、食べやすいと感じるかは個人個人の領域である。若いとき、青柳と比べて鈍い味わいに、どうにも食指が動かなかった。本種をとても好きな友人がいて、昔、みつけると刺身にして届けていたことがあるが、一緒に食べている内に本種のおだやかなおいしさが好ましく思えてきた。これは今も変わらない。だから本種を見つけると、真っ先に刺身を作る。これで酒をやると、とてもいい時間が過ごせる。ついでに、意外に本種で食べる、ご飯がおいしいこともつけ加えておく。
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春色の、かき揚げうまし、スルメイカ

タイトルからいきなり俳句は変だけど、日々、スルメイカを買っては量り、値段を記録していると頭が春色に染まって浮かれてくる。だからいろんな料理を作るのだけど、天ぷらのおいしさを、ここ半年で改めて知った気がする。イカ類の天ぷらというと、厚みが必要なので、取り分け都内の高級天ぷら店などでは、アオリイカか「墨いか(コウイカ)」になる。たぶん、庶民的な店でもスルメイカは避けて、冷凍のコウイカ類(一般的にはモンゴウイカという)を使うのだと思う。スルメイカの天ぷらを出すのは居酒屋くらいだろう。そんな主流じゃないスルメイカの天ぷらが、こんなにおいしいとは思わなかった。ちゃんと軟体類らしい甘みがあるし、夏を通すことでぷんとスルメイカの持ち味である風味が生きてくる。
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初ヒガンは厚く切りすぎたけど、ウマスギ

活ジメを甘くみすぎていたかも知れない。1日半寝かしたので、そんなに硬くないと思って、やや薄め程度に切りつけたが、明らかに薄造りにすべきだった。寝かしが足りなかった気もする。フグの刺身は寝かしが、重要だと改めて思った。この見極めの悪さは初ものだからである。これからさんざんヒガンフグを食べることになる。どんどん食べ巧者になるはずだ。それにしても厚めに切って、少々硬いものの、ヒガンフグには味がある。噛めば噛むほどうま味がじわりじわりとくる。せっかく用意した酒が邪魔になるうまさで、2枚、3枚をじっくり噛みしめて、口中のうま味を流さないで楽しんだ。春が漁の盛期で、旬と考えてもいい、ヒガンフグは、春は盛の恵みでもある。余談になるが、我が家には4合瓶に移し替えた、かなりお高い福島県南会津町、「花泉 瑞鮮」と、長野県諏訪の「真澄 銀撰」という普通酒がある。なぜか普通酒の方がきゅんと辛口でヒガンフグには合う。ちなみにボクは酒グルメでもないし、いい舌を持っているだけでもない、ことだけは言ったおきたいけれど。ちなみにフグ科で高級魚なのはトラフグだけだ。ほかのフグは丸のままの状態はそんなに高くないし、みがき(毒の除去)の手間賃を出しても、懐が寒くなるようなことはない。もっと気軽に、日常的に、食べようぜ、フグ。
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4月になるともっと、マアジはうまくなる

神奈川県小田原魚市場、二宮定置にわけていただいたマアジは、あまりにもてんやわんやだったので、煮つけ、塩焼きにした。いつもながらに、まことまことに、ありがとう。持ち帰ってすぐに頭部を落として腹を出し、尾鰭をちょんと落とす。振り塩をして1時間程度置き、表面に出た水分を拭き取り、ビニール袋に入れて冷蔵庫と冷凍庫に1尾ずつ保存する。振り塩さえしておけば冷凍保存しても大丈夫な出あることは、おぼえておくと便利だ。これをご飯時にじっくり焼き上げる。3月22日に冷蔵庫保存のを食べて、冷凍庫で1週間以上保存したマアジを焼いて、残念ではあるがこれにておしまい。余談になるがマアジの頭を落とすと、もったいないとか、クレームをよこす人がいるが、はっきりいって愚か者である。そのときどきの状況でいちばんいいやり方、楽なやり方で仕込むべし。ついでに魚の置き方は、左右手前向逆でもボク的にはどうでもいいと思っている。古事記などを引き合いに出す人がいるが、大和王権がそんなバカなことを残すはずがない。「海背川腹」の原則は、伊勢参りが一部地域で人気が出た江戸時代中期以降のこと。あくまでも料理店だけでの原則を一般家庭に持ち込むのはだめだ。特に頭を落としたときなど、いちばん普及している安いガスコンロのグリルで焼いているので、きれいに焼き上がった方が上でいいのである。料理に「で、なければいけない」ということはない。一般人は料理に「で、なければいけない」などという専門家は排除すべし。一般人の料理は自由自在がいい。

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