
サンマの2㎏で13(2㎏で13尾という意味)を中心に8月末から買って食べてみた。すべて、とてもだけどおいしいとは思えなかった。脂がないというか、魅力のない味だ。平凡な味でも安ければいいのだけど、高い。取り分け150g以上の個体が高すぎる。9月の最大12は185g前後だけど、買わなければよかったと後悔した。200g以上もあるようだけど、いったいいくらするんだろう。物価高騰で消費者も料理店主も苦しんでいるとき、高いサンマを買う必要はないかも。

連休明けの9月24日は、魚があるのが不思議といった日である。期待ゼロで舵丸水産に行ったら、「根ぼっけ(大型のホッケ)」があった。触った限りでは鮮度がいい、気がするし、脂が乗っていそうである。体長44㎝・1.3㎏なので、今なら「根ぼっけ」としても間違いではないはずだ。以上は前回書いた。実は刺身はオマケのようなもので、いちばん作りたかったのは干ものである。気温は低いものの湿度が高いので、エアコンがついている仕事の部屋で扇風機で干した。一夜ではなく、24時間干しである。

知るため、調べるために買って撮影しているムツだけど、こんなしつこくて、地道なことはさておいて、ムツ科の魚の煮つけはやっぱりうまいなー、と思う。さんざん触った後なので、塩焼きか煮つけにすることが多いが、煮つけがいい。ご飯ずきで、ご飯には塩焼きよりも、煮つけだ! というのもある。ただしご飯に煮つけの今だけど、真反対だったこともある。また変わるかも。さて、今回の千葉県産の、ムツ科の魚大小は見た目から、標準和名のムツなのはわかっていたけど、細部まで、できる限り撮影する。ムツにも固体変化があるということがわかってきたので、片っ端から撮影して、片っ端から煮つけにする、そんな日々だと言ってもいいだろう。それでも「ムツの煮つけ」には飽きが来ない。残念なことに肝心な肝が小さかったけど、脂がたっぷりのっていた。茶碗のご飯が消える速度が速い。

いろんな職業についていたのでわかるのだけど、魚初心者というか、スーパーの魚売場には行ったことがない人が多いようだ。日本列島に住むほとんどがそうだと思う。最近、スーパーでびっくりすることが起きた。ボクは有名人でも何でもない無名人なのだけど、近所のスーパーの魚売場で「何を買ったらいいですか?」と一面識もない人に聞かれたのだ。土曜日だからかも知れないけど、若い夫婦だったことにも驚いた。ボクに問いかけてくる人は年寄りが多いのだ。ここぞとばかりに懇切ていねいに答えた。「子供がいること」、「家族揃って魚をあまり自宅では食べないこと」、「料理が得意ではないこと」などを聞いて、まずはその日、「いちばん安いものから始めたらいい」とアドバイスした。ついでに初心者はこうあって欲しい、ということも。1、魚を食べること、料理することをストイックに考えないこと。できる限り、がんばらないこと。2、スーパーで買うのは切身から。3、切身に飽きたら、丸のままの魚を買えばいい、そして包丁などを揃えるのではなく、スーパーで下ろしてもらうこと。4、食べものは一定のものを食べるのではなく、多様な物を食べた方がいいこと。それが自然保護にも温暖化防止にも繋がること。5、それでは飽き足らなくなったり、困ったらいつでも聞いてね、とアドレスを教えておいた。ちょっとしゃべりすぎだけど、その日の特売、バショウカジキの切り身をすすめた。6切れ入ってびっくりするほど安い。念のために割高の2切れ入りを買ったら、1切れ135g前後で一切れ税込みで150円だった。「家では、ご飯よりもパンとかパスタが多い」というので、まずムニエルをすすめる。バショウカジキは手放しにおいしい、とはとても言えない。それを補うのが油やバターである。ボクのその日のお昼には、最近お気に入りであるこんがりソテーしたエリンギ、ソテーしたリンゴもつけた。これと米粉の食パンで、おいしいお昼となった。まずは近所のパン屋がすすめてくれた米粉のパンがおいしいことに感激、その上、バショウカジキ自体にも味がある。ちなみに我が家ではバターではなくマーガリンで風味づけしている。

市場通いして、仲卸と懇意になる。そこまでやらないと出来ないことがある。例えば比較的安いマイワシの1尾買いとか、1尾もらってくるとかだ。年間を通して日本各地の様々なサイズのマイワシの味見が出来るのも、市場に通っているからだ。さて、今回のものは鹿児島県産で刺身にして味見してみた。鹿児島県といっても西は東シナ海、真ん中は鹿児島湾(錦江湾)、東の太平洋と3つの海がある。前回、鹿児島湾産でいやな思いをしているので、おずおずと食べたら、今回はやけにうまいし、問題もなし。中羽イワシなのに脂が乗っていて、口溶け感がある。生醤油をかけ回してご飯に乗せて食べたら、箸がすすんで困るといったものだった。ご飯の甘みに脂のとろっとするまろやかさに、生醤油のうま味が合体すると、いい時間があっと言う間に過ぎていく。もう一尾、買って来るべきだったかも。

連休明けの9月24日は、魚があるのが不思議といった日である。期待ゼロで舵丸水産に行ったら、「根ぼっけ(大型のホッケ)」があった。触った限りでは鮮度がいい、気がするし、脂が乗っていそうである。体長44㎝・1.3㎏なので、今なら「根ぼっけ」としても間違いではないはずだ。下ろしているときにアニサキスを発見したので、30時間ほど冷凍して、刺身にする。非常に脂が乗っているので、冷凍劣化はほとんどない。冷凍前は透明感があったが、それが完全に白濁し、食感も落ちたが、味は体層いい。ここ数年造ったホッケの刺身の中でも最上級かもしれない。それにしてもホッケの刺身はうまい。たっぷりと乗った脂の口溶け感からくる甘味が感じられ、白身魚なのに強いうま味がある。

9月11日、神奈川県小田原市、小田原魚市場の二宮定置でオキアジを分けてもらった。体長25㎝・359gと、微妙なサイズであった。オキアジの500gくらいから値段がつき始め、1㎏前後になると、非常に高値をつける。今回の350gは売れ行きはよさそうだけど、あまり値段がつかないといったサイズである。ちなみにこのサイズから刺身にしておいしい。今回も刺身、刺身で食べてみたけど、抜群にとまではいかないが、いい味であった。脂があるためかとろっとして甘味が感じられた。気になった点は味が単調であることと、食感が弱いことだ。ただ、生醤油だけで食べて、これほどおいしく、嫌みがないというのが素晴らしい。

神奈川県小田原市、小田原魚市場の二宮定置にも分けてもらい、小田原市内の顔見知りの魚屋さんにも大きめのを1尾分けてもらった。小田原で「えば」とか、「めっき」と呼ばれているギンガメアジである。非常においしい上に、まとまってとれるのにも関わらず値がつかない。もっと評価が上がるといい、そんな魚だ。持ち帰ってすぐに大きめを刺身にして、仕事で来ていた若い衆に食べてもらい、自分でもじっくり味わってみた。小ギンガメアジの刺身は非常にうまい。秀麗な味といってもいいだろう。アジ科ならではの強いうま味があり、また白身魚のようなほの甘さがある。舌にしっとりからみつく感じがするのは脂があるからだ。若い個体なのに、文句の付け所がない。味見してくれたお礼に三枚下ろしをお土産にもたせた。

福井県のチビ太くんがスズキのムニエルにソースをかけているのを見て、懐かしいなと思った。まだ小学生のとき、父はなんにでも醤油をかける人だった。当時、徳島県の山間の町にムニエルなんてハイカラなものはなく、せいぜい塩焼きくらい、しかも魚は「はまち(40〜50㎝ほどのブリ)」しかなかったが、それにも父は醤油をかけていた。それに習ってボクも醤油をかけていたら、家族がソースをかけているではないか、子供にとって魅力のないおかずだった、のがソースをかけるようになり、塩焼きにはソースになる。考えてみると最近、ムニエルも塩焼きも、面白みのない食べ方をしすぎている気がしてきた。魚はもっと自由に楽しく食べるべし、なのに「月並み」という沼にどっぷりはまっている。ボクってダメだなと反省して、久しぶりのソース食いをしてみる。今回、近所のスーパーにスズキがなかったので、北海道産ブリの切り身を買って来た。弱塩で塩焼きにして、醤油とソース(ウスターソースがなかったので徳島県のヒカリ中濃ソース)をかけてみた。北海道産ブリはこれから10月にかけて脂がのるので、塩焼きでも十二分にうまいが、醤油にすだちで若干変化がついて、なにもなし、よりもいい気がする。そしてソースだけれど、今のボクにはダメだった。魚と言えば「はまち」しかなかった山奥の町だったので、「はまちの塩焼き」は贅沢なものだったはず、それにソースをかけているのを見て父はどう思っていたのだろう。

三重県尾鷲市の岩田昭人さんから、特産のトウガラシ「虎の尾」が送られて来た。すだちも入っていた。毎年、まことにありがたい。これで「何作ろう?」と思いながら新潟県まで行って帰ってくる。水産物の豊富な新潟県だけど、今回は忙しくて魚を買う暇がなかった。帰途につく夕暮れ時、何もないスーパーで、お門違いの北海道産スルメイカの小(若い個体)を買って来た。これを適当に切り、油で炒めて「虎の尾みそ」でからめ、すだちを加えたもので酒を飲んだ。旅の後の疲れの残る中、新潟県の酒と合わせる、酒の肴である。スルメイカを水洗い、「虎の尾みそ」さえあればあっと言う間に出来る。下旬にさしかかり、忙しいときなど「虎の尾みそ」くらい重宝するものはない。今年の「虎の尾」はあまり辛くないが、今のボクにはちょうどいい。たっぷりと刻み込んだので、青いトウガラシの風味が生きている。すだちは「虎の尾みそ」とからめたと同時に搾り込み、皮ごと細切りにしたものも加えている。スルメイカの味と食感が楽しめ、こってり甘辛い味だけど、「虎の尾みそ」の辛みと、すだちの酸味が鼻に抜けて後味が爽やかだ。今回、「虎の尾」を少々入れすぎて辛すぎだけど、疲れに効きそうでもある。酒はスーパーで買った新潟県新発田市、缶入りの「菊水 純米吟醸ひやおろし」。うま口で、切れのいい味だ。

約200gの筋子を買ったら去年のほぼ二倍の値段がついていた。塩乾の人間に今年の市販のイクラの相場を聞いたら、100g、輸入ものですら、最低2000円だという。国産ならもっとするだろう。年に一度だけなので、今年も自分で作る。筋子と同じ重さのイクラが作れる。考えてみると、10年前までは1度に500gくらいを年に2回作っていたのだから、値段から感じる温暖化というやつかも。たった200gしかないと思うと、それだけ余計にうまい。普段はあまり酒の肴にはしないのだけど、今年の醤油漬けでは不思議なほど酒が進んだ。イクラの味は脂の味だと思う。9月初旬のイクラはまくが薄く、舌で押しつぶせる、この軟らかさとコロイド状の脂がいいのである。

タイ科のヘダイは、死ぬと炭っぽい銀色で地味だが、生きているときは白く見えるので、「白鯛」と呼ぶ地方が多い。クロダイに近い種だが、クロダイと比べると淡水の混ざり合うような場所との縁は薄い。クロダイは浅場の環境に影響を受けやすいが、ヘダイはほとんど受けない。これからの時季、脂が乗っておいしくなる。ヘダイは白身界の優等生である。嫌みのない白身で、臭みなど皆無といっていい。今回の個体は少し小さすぎるものの、思った以上に味があり、身がしっとりして滑らかな舌触りなのは、脂が少ないながらあるからだ。味見として造った刺身が結構うまい。今回は醤油とわさびをかけ、かき混ぜて、ご飯に乗せて食べたが、最高の丼となった。

神奈川県小田原市、小田原魚市場の二宮定置のダンベ(大型水槽)には大量の小アジ(マアジ)が入っていた。4つ並んだダンベの3つまでが小アジで1つがいろいろ。小アジは干ものになるが、最後の1ダンベは魚粉などになり、ほとんどお金にはならない。ここから小イサキを2尾分けてもらってきた。よくよく見ると、魚市場の魚好きがやって来ては、おかず(分で食べるため)に持っていく。おいしいのがわかっている、のである。当日の夕方は刺身三昧で高級なもの、それなりに値がつくものと、小イサキの刺身を並べる。恐るべきことに、小イサキの味の魅力は5種盛りにして、一番かも知れぬほどおいしい。9月に入ってイサキは産卵群の大型はほとんど揚がらなくなり、小イサキばかりになっているが、イサキは大小にかかわらずうまい。確かに0.7㎏以上の雄大さを感じるほどのうまさはないけど、実にいい味だし、脂がのっているのである。二宮定置では数箱競り場にも出していたので、小田原周辺では売られていたはずだ。小イサキは見つけたらぜひ買ってみて欲しい。長野県辰野町、「夜明け前」を正2合。

神奈川県小田原市、小田原魚市場に着いてすぐに、活魚槽のメイチダイの数を数える。7月はどんなに高くてもいいから、とのぞんだ活けの競りは想像以上に高かった。水揚げ量も少なかったし、ライバルが多すぎた。この日は活魚も多いし、野締めも多い。さんの水産さんに、「今日はいけるでしょ」と言ってお願いした。メイチダイがダメならヘダイもあるさ、とも考えたが、今、手に入れないと来季まで食べない、ことになりそうだ。「メイチ一本で競ってください」と、念押しする。一本手に入れて帰宅したのは10時過ぎ、なんとデータを取りにやってきた人間と鉢合わせする。重いクーラーを運んでもらって、すぐにメイチダイの計測と撮影をする。体長29㎝・757g はこの日の、メイチダイの平均サイズである。三枚に下ろして刺身で味見してみる。魚をほとんど食べないという、若い衆にも食わせたら、「タイですか?」という。説明すると、余計に箸が伸びるようで、少しだけ仕事場にもたせてあげる。たぶん、1人1切れくらいだったはずだが、非常にセンセーショナルな味だったみたいで、すぐにケータイが鳴った。締めてから5時間なので、まだ身は硬い。それでもうま味豊かで、脂から来る甘味が感じられるのは本種などメイチダイ属の特徴でもある。来季はもっと高くなりそうで恐くなる。

神奈川県小田原市、小田原魚市場の、活魚槽の大方を占めるイセエビを見て、いきなり食べたい、と思った。特にエビ好きなわけでもないし、エビと言っても多種であるので、イセエビに対して強い欲求を感じることはめったにない。その上、イセエビの刺身でもなく、ソテーでもなく、アメリケーヌソースをからめてなんてものでもなく、ましてや漁師の定番料理・みそ汁でもない。具足煮が食べたい、と思って買った。具足とは、武士が戦時に着用する鎧(よろい)のことで、イセエビが「まるで鎧をまとっている武士ように見える」のでイセエビ類の煮つけを「具足煮」という。名前ほどには難しい料理ではなく、適当にぶった切って甘辛く煮つければいいだけの、超簡単料理でしかない。甘辛い煮汁をからめたのを一切れ手に取って、野性的に食べるのが好き、だ。酒もお茶など、すべての飲み物は不要である。輪切りにした胴の部分の殻から身をぷにゅっと押し出してはかぶりつく。頭部は噛んだり、しゃぶったりしてミソをなめ、すすり、破片でしかない小さな身を食べる。最後に熱湯をかけて煮汁をすすり、食べ残した部分を食べるのだけど、食べ終わりまで10分足らずでしかない。イセエビというのは非常に高い。大相撲を見に行って取り組み一番だけ見て帰ってくるような贅沢さ、であるが、たまにはいいと思っている。

神奈川県小田原市、小田原魚市場の二宮定置のダンベ(大型水槽)をのぞいては小アジをおかずに持って行く人がいる。体長13㎝・50gほどで、まさにボク好みでもある。今回のダンベのマアジは人の口に、ほぼ直接入るという意味では未利用魚(直接人の口に入らず家畜や養殖魚の餌になる)ではない。小田原名物の「アジの開き干し」になる。ダンベではなく箱入りにして鮮魚としても競りにかけられる。鮮魚はちゃんと小田原周辺でスーパーなど小売店に並ぶ。市場関係者がおかずに拾っていくのは、干ものを作るのではなく、刺身に塩焼きに、普通に料理してびっくりするほどおいしいからだ。それじゃ、全部、鮮魚で競りにかけろ、というのは無理な話である。鮮魚で流すには多すぎるのだ。ネンブツダイに小ムツ、フグ類が混ざる中で小振りのマアジを選別するのは手間がかかる。大変なのだけど、選別しないと、ほとんどただ同然で魚粉になってしまう。それを市場人は知っているので、すまん、すまんと言いながら持っていく。ボクも4、5尾もらって、その日のお昼は刺身にして、あったかいご飯を食べる。小さいのに脂が乗っているし、強いうま味がある。佐賀県産の新米のおいしさがあって、取れたてのマアジの刺身なのだから、文句なしの昼ご飯である。

大型のタラバエビ科のトヤマエビ(ぼたんえび)、ボタンエビは非常に値を上げている。鮮度がよく大型が揃う、トヤマエビの方がおしなべて高く、ボタンエビは不揃いなので高価格帯のものは少ない。最近、豊洲に行けていないので、最高値のボタンエビを買えていない。残念ながら値頃感が消えている。さて、今年もまた壊れて問題ありの、小振りのボタンエビを買う。安くてありがたい。だいたい、小さくてもうまいのだから、正真正銘の庶民であるボクには持って来いだ。さて、剥き身にして塩水でざっと洗えば刺身になる。350gのパック詰めを2回に分けて酒のつまみにする。タラバエビ科を代表する「甘えび(ホッコクアカエビ)」よりも身がしっかりして、ねっとり感が少ない。それでも多様なアミノ酸からくる甘味はちゃんとある。酒は高知県佐川町、「金凰司牡丹」を常温で飲む。今どきのきらきらした香りの強い酒は合わない。ボタンエビには本醸造のうま口に限るな。

舵丸水産で袋入りのマイワシを買った、ボクの大好きな小イワシサイズで、やたらに安い。小イワシはもっと高くてもいいのにな、とは思うが、安いのはありがたい。いろんな料理を作ったが、手触りのいいもの5尾に塩をまぶして焼いた。有明海の小イワシは焼いているそばから、表面が脂に包まれて、ざわついてきた。焼きたてに高知県土佐市、「亀泉 本醸造」を正1合を添える。酒が主役か、小イワシが主役か、わからないくらいに相性がよかった。それにしても常温で飲む、「亀泉」はうまい。その、うま口の酒よりも味わい深い小イワシであることよ。

八王子総合卸売センター、八百角に千葉県八街市(やちまたし)から見事な泥つきの里芋が来ていた。東京では里芋の大方が千葉県産で、中でも八街の里芋はとても有名である。わざわざ箱を開けてもらって買った。そのまま八王子卸売協同組合、舵丸水産にもどり、今度はスルメイカを切ってパックにしたものを買う。季節が消滅しつつある中でも季節を感じたい。帰宅したら、雨の中、ツクツクボウシが悲しそうに鳴いている。聞きながら里芋を洗って部屋干しにする。この日、外の湿度は75%、里芋は本当は日光に当てて干したかったが致し方ない。あとは毎度おなじみの、スルメイカと里芋煮の基本的な煮方で煮る。おかしなことに年々、甘味がちな味つけになってきている。人間の味覚っていうのもおかしな話だけど、ボクの好みは人生を振り返ると変化しまくりである。「いかと里芋煮」はスルメイカがとれる地域、流通する地域で共通する料理である。もっとも標高の高いところでは長野県開田高原でも作っているのを見ている。要するに誰が作っても、里芋がある限り、間違いなくおいしい料理だということだ。ちなみに我が家ではスルメイカ以上に里芋が主役である。甘辛いこってこっての里芋は惜しみつつ食べ、その合間にスルメイカを食べる。

舵丸水産で袋入りのマイワシを買った、ボクの大好きな小イワシサイズで、やたらに安い。小イワシは高くてもいいのにな、とは思うが、安いのはありがたい。持ち帰ってすぐに頭部を落として下処理にかかる。作ろうと思ったのは、塩焼き、酢漬け、コンフィ風である。あと、2尾残ったときに、手触りから念のために刺身で食べてみようと思った。食べてビックリ、とても脂が乗っているではないか?海水程度の塩分濃度の水袋入りだったせいか、鮮度的にも刺身にして申し分なく、これなら刺身中心でもよかったかも知れない。たった2尾、4枚の刺身しか作らなかった自分が悲しい。

近所のスーパーのお買い得品にカツオの冊が並んでいる。鮮度抜群だし、安いしで、無意識に手が伸びる。さて、安くて鮮度のいいカツオの表面に塩を振り、皮目をあぶって刺身状に切り、「ぶしゅかん(モチユ)」の果汁をつけてたたく。「ぶしゅかん(モチユ)」の皮を下ろしかけて、これぞ土佐風といったところかな。「ぶしゅかん(モチユ)」の皮の苦みとすっぱさが秋風のようでいい。東京でもすだち並に手に入るといいと思う。最盛期とまでとはいえないものの、9月初旬とは思えないほど脂がある。日本太平洋沖合い北部産なので気仙沼に揚がったものと思われるが、脂の甘味と程よい酸味、うま味でおいしさにあふれている。高知県土佐市、「亀泉 本醸造」を小1合で、まんぞく、まんぞく。

「ひろーさー(メガネモチノウオ)」はベラ類の中でも屈指のおいしさを誇る。大型になるベラはすべて味がいい気がするが、これまた大型になる「まくぶ(シロクラベラ)」と同等、もしくは上だろう。久しぶりに沖縄県石垣島のウミンチュに送ってもらったら、なんと11㎏以上もあった。産卵期は夏から初秋なので微妙だな、と思っていたら、生殖巣は膨らんでおらず、身に張りがある。刺身は真っ白で見た目は単調であるが、味はとても複雑である。最大級の甘味とうま味が舌を刺激する。角のあるうまさではなく、口の中で急激に広がる、おいしさ、だ。あんこ型の大型関取に押し出され、まいった! という感じでもある。

東京湾(神奈川県)のメイタガレイや相模湾(神奈川県)のメイタガレイと瀬戸内海、大阪湾産を味で比べると、やはり西に軍配が上がると思う。ただし、瀬戸内海周辺のメイタガレイは水揚げがていねいな上に、活かしであるので、比較は無駄かも知れない。8月の東京湾のメイタガレイは体長19㎝・229gで決して小さくはない。卵巣が小さいことから旬まっただ中にあると思われる。皮を剥くと身がふくらんでいて張りがある。刺身の味わいも上等である。クセのない白身で、じんわりと舌をうま味が浸透していく。うま味を感じる時間が長いのも魅力だろう。問題は瀬戸内海のメイタガレイには独特の風味があり、身が微かに飴色をしていることだ。兵庫県神戸産、山口県宇部産と比べると曲がない。ただし、今回の東京湾産は通常流通であることからすると、素晴らしいとしか言いようがない。合わせたのは兵庫県伊丹市「御免酒 老松 本醸造 上撰(伊丹老松酒造)」で、酒もよし肴もよしだ。

がんばってはいるけれど一向に上手にならない、ハモの骨切り。井内水産さん(大坂市中央卸売市場本場内)でやっていただいた、ハモで自分の稚拙さを知り、今回は市販の骨切り鱧で、奮闘努力をしないとダメだと悟る。今回のものは愛媛県宇和島で国産のハモを骨切りしたもので、決して安くはない。それなりに使えるだろうと思ったら、自分で骨切りしたものよりもよく骨切りできていて、がっくりしなだれる思いを感じた。ハモ自体は自分で選んで買ったものが上だとは思うものの、今回のものなら料理屋でも使えるだろう。「落とし(ちり)」はボクが骨切ったものよりきれいに花が咲いた。ハモ自体はそんなに高い値がつくようなものではないが、初めて自分で「落とし」を作るなら、これを使ってやってみるといい。湯をわかし、塩を加えて沸騰点よりも少し温度を下げた湯に落とし、1秒程度、氷水に落としてすぐに引き上げる。氷水はできる限り氷を聞かせて短時間の方がいい。梅肉をつけてハモの口に入れるとほ、ろっとくずれて、ほんのり甘い味が楽しめるはず。

マアジは稚魚期から流通し、加工される。ほとんどの魚が、ある大きさまで未利用魚(直接人の口に入らない)だったりするのに対し、すべての成長段階で人の口に入る。大小での味の違いがなく、しかも流通による劣化が少ない。今回のものは兵庫県淡路、由良のものだ。由良の真東にあるのが友ヶ島(和歌山県和歌山市)、そして加太がある。関西きっての釣りのメッカで水深が深そうである。淡路でも沼島で見たものは小振りだったが、今回のものは非常に大きい。ほぼ体長35㎝は大アジそのものだ。しかも黄金色を帯びている。淡路島でも由良のものと、沼島のものは別物に見える。ボクはあまり大アジは好きではないが、今回のものは思った以上に脂がのっていた。8月20日は釣り上げて2日目とみたが、思ったほど脂も感じられず、味もなかった。うまい、と思ったのは21日である。寝かせたマアジの味がこんなに変わるというのにびっくりする。問題は、大型が好きな関東では高値がつくということ。魚って難しい。

7月の兵庫県神戸市駒ヶ林、淡路島岩屋の「ちぬ(クロダイ)」は産卵後とは思えぬほど身に張りがあり、買受人は争うように買い求めていた。8月になって大分県産と熊本県天草産を買った。クロダイの産卵後の回復は早く、やはり夏でも個体によってはおいしい。特に天草産の腹には大量のイガイ類が入っていて、食欲旺盛だったことがわかる。クロダイは浅場にいるときの方が味がいいということがわかる。刺身は旬と比べると脆弱で張りがない。ただし味はある。結構イケる味である。料理店で2、3切れついてきたら、間違いなくおいしいと思うだろう。まだ完全に回復していないのに脂があったのも意外である。今回は、大阪府池田市「呉春 池田酒』と合わせたが、相思相愛だった。

産地は日本太平洋北部とあることから、漁場は遠いのだろうな。決して小さくはないが、脂はさほどなく、もう少し日本列島に近づくまで待って取るべきじゃないかな、サンマは秋の味覚で気象庁からして8月は秋ではないのだから。サンマ漁の投資額は巨大なので仕方がないのだろう、と忖度をする我に嫌悪感をおぼえる。こんなところに自然の摂理を無視した行きすぎた資本主義の弊害を感じる。さて、塩焼きはサンマらしい味ではある。残念ながら脂は乗っていない。ボクは、サンマのこの独特の風味が好きなので、初ものをそれなりに楽しんだ。魚の内臓は大方好きではないのだけど、サンマは好きなので、その内臓の味も楽しめた。ちなみにサンマは酒の友ではなく、ご飯の友だ。まあまあおいしい真夏の飯となりにけり、だ。

八王子卸売協同組合、舵丸水産に銭州の魚が並んでいた。本命以外のいくつかが片寄せられていたので見つからない内に隠して持ち帰ってきた。1秒の半分くらいでヨスジフエダイ、ニセタカサゴ、シイラ、アカヒメジ、カツオの幼魚だと考えた。残念なことにアカヒメジはウミヒゴイで、カツオは縞模様があっただけでヒラソウダだった。夏のヒラソウダを誘拐したのは大失敗だったが、時季はずれに食べられるのもデータベース的には重要である。半身は振り塩をして表面をあぶり、冷凍庫で数分冷やして刺身状に切る。やはり脂はないものの、ヒラソウダの身にたっぷりうま味成分がある。酸味はほんのわずかばかりで、じわじわとうま味が舌を押す。時季はずれのヒラソウダ、もええかも。

八王子卸売協同組合、舵丸水産で新イカが10ぱい、パック詰めされていたので、買おうか、買うまいか悩んで買った。産地不明なのも迷いの種だ。それに、やはり8月半ばのコウイカの若い個体は高い。走り物好きな東京周辺だけの話だが、これを「新イカ」という。このサイズはすべて東京を目指してくる。水洗いはていねいにていねいにしないと、身が破けるし、潰れるほど柔らかい。皮を剥いてそのまま食べる。すなわち刺身である。イカらしい食感はなく、ただただ柔らかい。ほの甘い。おいしいか? というと悪くはないと思うとしかいいようがない。

八王子卸売協同組合、舵丸水産、クマゴロウが新島沖(東京都)で釣り上げたアカイサキ雄、体長32㎝・703gを持ち帰ってきた。ハナダイ科の魚は難敵である。旬がわかりにくい上に雄雌の味の違いもわからない。今回は釣果の中からいちばん大きいのを選んだ。旬は翌春である3から7月くらいだろうと思ったが、今回の個体は生殖巣が縮みきっていたのにそれなりに脂が乗っていた。さて、アカイサキの味は皮と皮下にあり、だと思うが皮を引いた刺身の上品で淡い味も捨てがたい。最近では皮付きが煩わしいと思うこともある。5月くらいから脂が多くなり、6、7と脂ののりが安定的になる。とろっとした口溶け感はないものの、今回改めて、刺身の味を見直した。

ムツ科のクロムツの値段は高級魚ムツの2倍近くする。同定は過去のデータと比較して、時間をかけて行い、それでも不安が残るので、いやらしいくらい高く、いやらしいほどボクを疲れさせる。早く隠蔽種問題を解決してくれないと我は死ぬ。魚体をばらばらにするので、当然、刺身で食べられるはずもなく、火を通す料理を作ることになる。クロムツの旬は12月から3月だと思っている。当然8月の個体は脂が少ない。それでもおいしいのだけら、クロムツは高いのかも。煮つけ、塩焼き、祐庵焼き、西京漬け、粕漬けにする。やはりクロムツの煮つけはすごい、と思う。当たり前だけど、前回2月のものはとろとろ脂のりのりだったけど、今回のクロムツはそこまでとろとろでなくてもうまい、ということは身にうま味成分が多いということだろう。

徳島県海部郡竹ヶ島の刺網漁師さんで、「ぜんまい」をよく食べるという方に話を聞いたことがある。「ぜんまい」のよさはあの強い臭みにあり、おいしいので5つでも6つでも食べられるというが、最近、食べる漁師がほとんどいないという。「ぜんまい」は主に海藻類を食べるアイゴの長い消化管で、腹にゼンマイ状にくるくると巻きこまれて納まっている。瀬戸内海東部四国側、徳島県で食べられていると思っているが、その範囲はよくわからない。アイゴを料理するたびに味見のために「ぜんまい」を煮つけて食べている。ボクはどちらかというと珍味佳肴のたぐいは苦手だが、ふなずしはやけに好き、という相容れないところがある。徳島県の一部の漁師にとって、「ぜんまい」は普通の酒のつまみだが、ボクにとっては珍味佳肴でしかない。要するに少量ずつ食べるもの、なのだ。それにしても人の好みはひとそれぞれで難しいということだ。旬を迎えているせいもあり、その臭みに強弱があり、あまり臭みのないものもある。今回の二宮定置のアイゴは活けじめだったためか、臭いが非常に弱くて、しかも非常に濃厚な「ぜんまい」の味が楽しめた。もちろん根っからの「ぜんまい」好き以外にとっては珍味なので大量に食べるものではなく、1尾分を3回に分けて、酒の肴として食べるといったものだが、久しぶりに「ぜんまい」のおいしさを楽しめた。たぶんフォアグラ以上に濃厚で、しかも微かな臭みが、好ましい風味に思える。アイゴを下ろすたびに「ぜんまい」を食べているが、ときに大当たりに出くわすが、今回がそれに当たる。もちろん生粋の「ぜんまい」好きからみるとボクは、のようなものでしかないが、臭みの少ない「ぜんまい」はうまい。

ヒラマサも定期的に買って状態を見ている魚のひとつだ。昔は産地ではなかった青森県産の入荷が増えている。産地が北に移動すると旬にも変化があると思っているのもある。さて、刺身は上々の味だったが、1.5㎏もあるので、いろんな料理を作った。意外においしいと思ったのが天ぷらである。ボクはグルメでも通でもないので、天ぷらなどは、なんでもかんでも好きなように食べているが、ここのところ魚の天ぷらはウスターソースで食べている。神戸で買ったブラザーウスターソースがとてもボク好みでいい。これをたっぷりつけて食べている。

マアジはどちらかというと小振りが好きだ。和歌山県から来たサイズはずばりボク好みの17㎝前後。4尾で2尾を昼ご飯のおかずに、2尾を夜の酒の肴にする。醤油をつけないで味見すると、小さいのに脂があり、舌にじわりとうま味が張りつく。マアジのよさは、このうま味がさらりと消えてくれることだろう。醤油をつけると驚異的に味わい深くなる。小アジってすばらしい! と言いたくなる。夜も同じものを同じだけ。2回連続でも、3回連続でもいい気がする。昼と夜で味に変かがあるじゃなし、だけどいい。小さいのに脂があるな、と再認識する。酒は長野県辰野町、小野酒造の「からくち 夜明け前」。

2袋しか残っていなかったコノシロの「新子(コノシロの若い個体)」を1袋買う。まだまだ高すぎるなと思いながら、見た目的にもボク好みの「こはだ」サイズで、思わず手が出た。これこそが、キヨミズガイというのだろう。出始めの1尾3gなどと比べると、ずいぶん安くなっているし、脂がのってもいる。しめたその日から食べ始める。酢で洗っただけなので酸味が弱い。すだちをかけては食べる。醤油はつけない。これがボク好みの食べ方である。「新子」の口溶け感はないが、脂と複雑なアミノ酸からくる甘味がある。濃厚な味を酢でほどよく抑えている。

コイのわた(内臓)だけの煮つけはえっと久しぶりだ。いきなり大量に食べるものではないので、3回に分けて酒の肴にする。箸でつつきながら、白子や肝はわかるが、魚類学の臓器に関する知識は見事に頭から消えているので、ここはちょっと苦いとか、食感がいいので腸管なんだろうか、胃だろうか、とか思いながら食べる。やはりコイでいちばんうまいのは内臓だと思う。8月、決してコイがうまい時季じゃない気がするが、それにしてもいい時間が過ごせた。この、この白い部分はどんな味だっけな、黒い部分は? と思う幸せはコイ好きじゃなければわからない。酒は長野県辰野町、小野酒造の「からくち 夜明け前」。室温でのむと辛口ではなくうま口の酒で、コイのわたに合う。

4月、5月と小さすぎてとても食べる気にならない「水がます(ヤマトカマス)」が7月になると、一回り大きくなる。今年(2026)8月上旬の「水がます」は体長25㎝・110g前後だった。この時季、神奈川県小田原魚市場では大量に「水がます」が揚がってもとてもさばききれないので、だんべ行きとなるものもある。ただ、比較的大形は場内に並ぶ。『スーパー ヤオマサ』のナイトウさんが競り落としたものを、数尾わけてもらう。ボクが選んでいると、近くにいた仲買さんが、「えさ食ってねえの、選びな」と食っているのと食ってないのを分けてくれる。ありがとうございました。これでいろいろ。とれた日だけしかできないのが、生食である。本種の基本は皮霜造りだ。最近は「あぶり」と呼ばれることが多い。口に近づけたときの香りからしてご馳走。皮周辺のうま味の豊かさは無類である。名状しがたい味といってもいいだろう。これが実にうま口の酒に合う。

4月、5月くらいの海水温が上がり始めたときくらいから、おいしくなるのがタカノハダイである。秋めいてくると産卵を終え、痩せるとともに水揚げがなくなる。野締めは臭い個体があるが、ていねいに活けじめにしたものとか、活魚などは、魚類中、この魚の「上」ってあるのかな? と思うほどうまい。今回のものは小田原の競り場で見つけた大小2尾で、ともに定置網で揚がった活魚である。煮つけて、フライにして、生でも当然食べた。刺身は体長32㎝・715gを3日間にわたって食べたが、3日目がいちばん味がよかった。初日はやや硬めだったが、これが3日目にはほどよい食感になる。脂の口溶け感とアミノ酸が複雑にからんだ甘さがある。今回は頭部の後ろ、赤い身の部分も使ったが食感が少し違っているもののおいしいことには代わりがなかった。活けじめなので、当たり前だけど臭みは皆無だった。

青木太一さん(小田原 すし処 海攻・Carry on)は根っからの食材好きという点で、ボクに似た気質を持っている。ボクの方が食材探しの範囲は広いが、自然界という点では、青木さんには敵わない。そんな青木さんが東伊豆で見つけたのがマガキガイだ。高知県中央地域での呼び名「ちゃんばらがい」が有名である。伊豆半島では「とねり」、沖縄では「てらじゃー」という。マガキガイは全世界で食べられているスイショウガイ科の巻き貝である。スイショウガイ科の貝の味は、同じく食用巻き貝のエゾバイ科の白ばい(エッチュウバイ)や真つぶ(エゾボラ)とは味の方向性からして違っている。ただただ甘いだけではなく、巻紙状に出てくる軟体の先にあるわたの味が独特なのである。鎌のような形をしたフタをゆっくり引っ張ると、くるりんと軟体が出てくるのだが、おいしい部分はいちばん奥にある。これが実にもどかしい。もう少しで全部出るというときに切れてしまうと元も子もない。軟体は非常に筋肉質で食感がいい。この食感は本種が浅いタイドプールなどを盛んに動くことから生まれる。奄美大島で「とびんにゃ(飛ぶ貝)」というのは鎌を支点にして跳ねるからだ。高知県宿毛の「きりあい」は鎌を盛んに動かすのが、斬り合いしているようだから。

4月、5月くらいの海水温が上がり始めたときくらいから、おいしくなるのがタカノハダイである。秋めいてくると産卵を終え、痩せるとともに水揚げがなくなる。野締めは臭い個体があるが、ていねいに活けじめにしたものとか、活魚などは、魚類中、この魚の「上」ってあるのかな? と思うほどうまい。ちなみに臭みは生で食べると弱く感じられ、熱を通した方がより強い。今回のものは煮つけ、塩焼きとも臭みなしだ。さて、当然、刺身からといきたいところだが、煮つけから始める。おいしいろ思う以前に、ついつい箸が伸びてしまうほどの煮つけだった。非常に脂が乗っていたので柔らかく煮上がり、皮周辺を食べるとトロっとして甘い。このトロ甘が思った以上に長続きする。濃厚かつ、後味よしで、ご飯に乗せたら最強のおかずである。ついには煮汁の中で身をほぐしては食べ、ほぐしては食べると、煮汁と骨に付着した身や皮が急激に消えてくれる。骨湯と思ったが、煮汁をご飯かけてしまったので、皿の上になにも残らず、終了となる。蛇足になるが今回、青トウガラシを一緒に煮て、辛みとした。あまり辛いのが得意ではないので、ほんの少し傷つけただけで煮たが、辛いのが好きなら刻んで煮るといい。やはりタカノハダイは夏の魚だ。

八王子卸売協同組合、舵丸水産、クマゴロウが利島沖(東京都)で釣り上げたシマアジである。シマアジ狙いで出船して、釣り上げたシマアジなので、本命でもある。クマゴロウは「おおかみクラスが何本か上がったのに、小さいのしか来なかった」と嘆き嘆くが、「おおかみ」よりも小振りがいいってこともある。さて、超大型のシマアジってうまいんだろうか?食べたことがないのでわからない。最大4㎏までの味の比較をすると、1㎏以上、3㎏前後までが安定的おいしいきがする。今回のシマアジは体長35㎝・874g なので、もう少し大きいといい、といったサイズである。ただし、脂ののりは三枚に下ろしているときから、ずんずんと手に伝わる。釣り上げた翌日なのに刺身が素晴らしい。背、腹を交互に食べると、少しだけ味が違うが両方ともにうまいので何がなんだかわからなくなったけど、満足しすぎ。

ある朝、八王子卸売協同組合、舵丸水産に行ったら、突然、クマゴロウが青柳(バカガイ)をくれた。たった5個かよ、と思ったが、一料理作れそうだ。作ったのが「から炒り」である。青柳はゆでてそのまま食べてもうまいが、から炒りするともっと遙かにうまい。なんと言っても香りがたまらぬ。できるだけ炒りたての温かいのを食べる。香りだけでも大ご馳走である。バカガイの旬は3月、4月かな、と思っている。ただし北海道では5月から7月くらいまで身がふっくらしている。今回は産地不明だが、7月下旬の青柳は身がふっくらとして張りがあり、濃厚なうま味があった。合いの手にきゅうりもみを食べながら、大阪府池田市の「呉春 特吟」でいい時間が過ごせた。

長崎県佐世保産、オオモンハタは、小振りなのにやや高値をつけていた。雷と豪雨で魚の値段が落ち気味でも、ハタ科の魚の値段は落ちない。特に本種は入荷量が増え和名が知られるようになったので、高級魚としての評価が定着している。この魚、旬がわかりにくい。産卵期は8月、9月ではないか、と思っているので、4月から産卵前の7月が旬だろうと思っていたら、12月の個体に脂があったりする。大きさによる味の違いが少ないことだけはわかってきたが、これは本種などアカハタ属の特徴かも。さて、長崎県佐世保産は刺身にして抜群にうまし、だった。抱卵していたので、不安だったが想像以上の味であった。ハタ科の特徴は脂のありかがわかりにくいことだけど、ねっとりとした舌触りにはっきり脂と思える甘味がある。多彩なうま味成分からくる甘味が強く、口に入れている間中、味のだれがない。後味がいいので、ついつい箸が伸びる。

カルパッチョくらい簡単な料理は他にないと思っている。本来はイタリアローマの肉料理で、魚料理にしたのはこの国かも。材料さえあれば、作ろうと思って数分で出来上がる。いちばん難しいのは魚の身を薄く切ることだけど、きれいに切らない方がおいしいのだから、恐れることはない。今回、ちょっと贅沢にアオダイで作ったけど、本当は生で食べられる魚ならなんでもいい。使った材料はオリーブオイルと塩とにんにくがメインであとは、冷蔵庫にあるものでいい。要するにオリーブオイルとにんにく、塩の上にアオダイを敷き詰めて、後は絵を描くように作りあげていくだけ。ハーブはあった方がいいけど、絶対にではない、トマトや果物があるととってもいい。今回は近所で手に入れたレモンバジルにトマトにキウイで、にんにくが効いたアオダイに味の彩りを添えてくれる。見た目にもゴージャスだけど、簡単というのがいいのだ。それにしてもアオダイの身の、味の濃さというか強さが凄い。特異なものではなく非常にありきたりな、上品なうま味だけど長く舌に残る。ベースの味にキウイの甘酸っぱさ、トマトのうま味で多彩な味の競演が楽しめる。まるで協奏曲のような味だ。

八王子卸売協同組合、舵丸水産、クマゴロウが伊豆諸島利島沖で若い尾長(ハマダイ)を釣ってきてくれた。ちなみにクマゴロウは生粋の東京人なので、ハマダイではなく「尾長」と呼ぶ。ハマダイは、サイズごとに撮影すべき成長による変化がある魚なのでありがたい。撮影だけではもったいないので、刺身にしてあぶり、焼霜造り(あぶり)にする。刺身は平凡だけど、焼霜造りがやけにうまい。皮が柔らかく、皮の裏側にうま味と脂が感じられる。こんなにおいしくていいのかしら?なんて自問自答してしまうほどおいしい。前回は幼魚のおいしさに感激し、今回は若魚もうまいとびっくりする。釣り人はできれば小さいのは放流した方がいいと思うけど、ハリを飲まれたときなどお持ち帰り願いたい。

築地場内(東京市場)の年寄りから「入梅いわし」を聞いたのは、ものすごく前のことで、そのときボクは一眼レフのフイルムカメラを隠し隠し、場内を歩いていたのだが、そのマイワシの写真は撮らせてくれなかった。変わった魚を探していたら、「イワシがいいよ。入梅イワシだよ」と言われたのだ。この言葉が使われるのは千葉県の最東端にある千葉県銚子産のマイワシに対してである。「入梅いわし」は江戸時代、入梅時期に銚子から塩か糠漬けにされたマイワシが戸の町に大量に江送られて来ていたせいだ。当たり前だけど、全国的な言語ではない。ただ入梅の6月になると銚子産マイワシが増えてくることは間違いない。今回の銚子産は、やけにころころしてうまそうだったので買って来た。7月なのに非常に脂の層が分厚い。口入れると噛む前に溶ける。毎年、8月初めになると脂の層がもっと厚くなる。でも、今回くらいがいちばんうまい、気がする。酒の友ではなく、ご飯がすすむ、すすむ。

生まれてほんの数ヶ月程度の小さなイカはあまり味がない。イカだけはある程度以上に大きい方がおいしい。ただ、今現在、もっとも繁殖海域がわからないというか、謎なのはケンサキイカではないか?だから味とは関係なく、徹底的にケンサキイカを買っては測定している。もともと島根県以西はケンサキイカが多かったが、徐々に北上しているのがわかる。さて今回のケンサキイカは外套長さ8㎝から9㎝ほどで、平均すると40gの小イカである。刺身にしても味がないので、皮をむいて1秒くらい湯に通したもの。面白いもので少しだけ熱を通した方が味がある。もちろん成イカの甘さも、イカらしい風味もないが、柔らかい中においしさを感じる。日本酒にはこのような穏やかな味の肴もいいのである。酒は大阪府池田市の「呉春 特吟」で、イカ以上に存在感がある。

6月、せっかく琵琶湖に行ったのに目的が人だったので、魚が買えなかった。琵琶湖に行くと、どうしてもコイの仲間に目が行き、ビワマスを買う以前にクーラーが満杯になっていたのもある。久しぶりに木津市場(大阪府大阪市浪速区敷津東)を歩いた。昔々の迷路が続く木津の市場は大阪らしくてよかったが、建物が変わり、なんとなく大坂度が落ちた、コロナの影響もあって、今回は大坂度以前に外国人度が高かくなっている。そんな中にも「地味だけどいいもん、置いてますね」という店があって、そのひとつが今回の『鮹仙』だ。木津市場場内で、最初に通り過ぎたとき、これ、当たりだなと思ったものの値段を聞かずに通り過ぎた。二回目に値段を聞いた。妥当なので買った。ビワマスは年々漁師さんの扱いがよくなり、サクラマスとはズレがあるので、存在感を増している。琵琶湖産なので刺身で食べられるのも魅力的である。刺網で揚がり、活けじめなので、早速、刺身にする。サケ科の高級な種はあまり味に差がない。横並びではあるが、今回のものは鮮度も含めて最上級である。久しぶりにサケ科ならではの風味と強い甘味を堪能した。そして最後に、味の濃淡の農が残るのだけど、これが「こく」だ。

漁港などに行くと、「ごった煮」が出てくることがある。兵庫県淡路島では小振りの「あこう(キジハタ)」入りの、ちょっと贅沢な煮つけを食べているが、あれは明らかにお客用であって、売り物にならない魚を集めて作るのが「ごった煮」である。水産生物は選択的にではなく、なんでもかんでも選り好みせず多種類食べる方が自然にも優しく、温暖化にもいい。今回の魚は小田原魚市場、二宮定置で分けてもらったもので、イトヒキアジ、「すみやき(クロシビカマス)」、タカベ、タマガシラ、イボダイの魚類と、サルエビにニヨリミミイカの7種である。比較的薄味で煮てみたら、種ごとに味が違っている。思った以上にそれぞれが個性的である。醤油味の中に種それぞれの味が浮かんでくる。意外や小さなタマガシラの身自体の味がよかった。タカベはタカベの味で小さいのに脂があり、同じく「すみやき」にも脂が感じられる。イトヒキアジはアジ科特有の強いうま味があるし、身離れがいいのも魅力的だった。イボダイは小さくてもやけにうまい。ニヨリミミイカは小さすぎて行方不明になってしまったものの、サルエビの風味が煮汁にも他の魚にも影響を及ぼしている。甲殻類は最小限でもとてもインパクトがあるのだ。まことに「ごった煮」は楽しいのである。

やはりハモの本場は大坂、そして京都だと思う。大坂の方がより庶民的、かつ日常的な気がするが、祭り月(6月後半から7月)に大坂・京都に行ったら、ハモは欠かすことが出来ぬ。さて、骨切りしたハモは大阪府や兵庫県ではスーパーでも売っているし、魚屋にお願いすればやってもらえる。できにはばらつきがあるが、格好の土産物そのものだと思っている。今回は大坂市中央卸売市場本場内、井内水産にお願いして、1尾骨切りをしていただいた。水洗いして骨切りをやっていただけると、あとは簡単である。まずは骨切りしたハモを食べやすい大きさに切る。湯に塩を加えて一切れずつ落としていく、白くなってきたら氷水に取り、粗熱をとったらすぐに取り出す。氷水内での時間はできる限り短く、がコツだ。水切りして盛り付ける。梅肉を添えたが、市販の梅肉白(赤く着色していない)と普通に市販されている梅肉を合わせて、みりん、砂糖を加えて練ったもの。やはり、今季3度目の「落とし」だが、プロの骨切りにはかないませぬ、ちゃんと身が開いて美しい。当然骨が当たらず、旬を迎えたハモのわずかな脂を感じる。湯に落とすので「落とし」、湯の中でちりっと開くので、「ちり」だけど、どっちゃでもええ気がする。

奈良県中心部、奈良盆地の郷土料理に「おから」がある。アカエイの肝でおからを炒ったものだが、大層おいしいのでアカエイを手に入れたら必ず作る。余談になるが奈良県は、京都府に負けない海なし県特有の、深みのある郷土料理の宝庫である。また、アカエイを煮た汁でおからの味つけをする地域も少なくない。当たり前だが、ホシエイで作ってもうまかろう。今回のホシエイの肝はKais Kitchen、カイくんが水揚げ後、すぐに取り出したもので、刺身用である。アカエイの肝で作ったものは何度食べてもうまいものだが、ホシエイだって負けていない。おからをただの油で炒めると比較的あっさりとして軽い味である。ごぼうやにんじん入りで食卓にあるだけでうれしい。これをホシエイの肝で作ると、際立って強い味ではないが、口の中に大きなうま味が広がって膨張する。まさに肝そのもののうま味であるが、フォワグラの味に負けないといったもので、しかも後味が軽い。いくらでも胃袋に納まるといった味である。ご飯の友としては少しうますぎるけど、なぜか燗をつけた伊丹酒、「老松」に合う。面白いもので伊丹とか西宮・灘の酒は、今でも基本燗をつけて飲む酒だと思っているが、相思相愛のものが出合うべくして出合ったといった、いい時間となった。

ヒゲダイは関東近海では明らかに水揚げ量が増えている。ただ、流通量は未だに少なく、手に入れるのは至難である。我がサイトのデータも少ないので、今回の7月の個体は貴重である。さて、7月の個体は脂こそ少なかったものの、身に張りがあり、うま味豊かでもあった。データを見ていくと、9月くらいから身に脂が混在して、脆弱になり、12月には脂が皮下に層を作る。ただ本種に関しては脂ののりだけで味は判断できない。さて、大形だったので撮影に丸一日かけた。青木太一さんによってていねいに血抜きされていたので、翌日から刺身で食べたが、おいしいけど味がなかった。透明感のある身で実にきれい、食感もいいけど、食べ頃ではなかった。

アカエイは過去に何度も皮つき、皮なしで煮つけているが、どっちでもいいかな、と思っている。「でなければいけない」という凝り固まった考え方は料理の世界で、あえて言えば低級なことだ。ボクはできるだけ「どっちでもいい」と思いたい人間だけど、アカエイの皮つき、皮なしに関しても「どっちでもいい」と思っている。ただホシエイはそうもいかない。アカエイの皮にも少しだけえぐみがあるが、ホシエイはそれが強いように思えるのだ。ホシエイに関してもいろいろ試行錯誤しているが、昨年来、皮を剥いて煮ている。しかも今回は、神奈川県二宮町『Kai’s Kitchen』、カイくんに処理してもらったものなので、屋上屋を架す以上に万全である。血抜きして皮を剥くと、無個性な味になりそうだが、決してそうはならなかった。アカエイ科ならではの軟骨の食感と、身の甘さと、微かに感じられる独特の風味がある。アカエイ科、ガンギエイ科などはどちらかというと素朴な味といったものだが、今回に関しては上等であっさりした味なので箸が伸びて困る味となった。煮つけというある意味、日常的な、普通の味なので、そこから一段上の味になっても仕方がない気もする。ただ、上品でいながら味わい深いのでいくら食べても食べ飽きない。室温が27℃超えなのに、やけに熱燗に合う。

ウツボの同定はボクにはとても難しい。徹底的にウツボ経験を積むしかない。小田原魚市場の生け簀にたくさんのウツボが泳いでいたが、中にやけに攻撃的なやつがいた。ウツボと比べると一回り以上小さい。見たことがあるが標準和名が出てこない。欲しい、けどだれが落としたものか?しるべをたどると鮑屋の吉村さんにたどりついた。そして分けていただいた。ありがとうございました。さて、ユリウツボの皮はウツボよりも柔らかい。ハモのように湯に通すとほどよく柔らかくなり、冷え冷えにして、噛むとぶるんとして豊かなうま味が感じられる。身の方は淡泊そのものだけど、しっかり甘味がある。梅肉(梅干しの果肉をすり鉢ですったもの)をつけて食べると、不快指数が急激に下がる。ウツボよりも骨が弱いのか、ボクごとき下手くそな包丁ではあまり骨が当たらない。もちろん焼いても、煮てもうまいけど、夏は「落とし」こそうまし、だと思う。

ハズレの可能性が大きいのでわざわざ買ったクロダイが、不幸にも大当たりだった。32㎝・905gなので「かいず」はとうに過ぎている。「くろだい」でいいだろう。注/関東では若い個体は、「ちん」、成長するに従い「ちんちん」、「かいず」、「くろだい」と出世していく。小田原では何度もクロダイを買っているがほとんどハズレがない。7月なのでぜひともハズレをひきたいと思ったのに大当たり、小田原ではハズレをひくのが難しい気がしてきた。相模湾では厳冬期にはほとんど水揚げがなく4月くらいからとれ始めて、落ち(深場に移動する)10月になると数が減り、水温が下がるとともにまたとれなくなる。旬は明らかに8月後半から9月、10月である。逆にもっとも不安定なのが5,6、7月だと思っている。ちなみに30㎝以下のサイズは年間を通しておいしい。ハズレなかったので喜ぶべきなのだけど、ここまで大当たりだと、相模湾のクロダイの旬がますますわからなくなってくる。ただ選別は買受人の『さんの水産』さんにお任せしたので、本能的にいいものを選んだ可能性がある。活け締めした当日からしてうま味があり、脂も十二分にある。クロダイの刺身はうまいなー、と改めて感じた。

マイワシを手に入れたら、どのような料理にするにしても、まずは刺身にして脂ののりを確かめる。今回の福島県北部沖(たぶんボクの大好きな原釜漁港から)のマイワシの脂の層はくっきりして厚みがある。刺身を口に入れると口溶け感からくる甘味がある。

チカメキントキも年間を通して身質の変化を見ているので、基本的に産地不明は買わない、のだけど買った。抱卵個体なので、過去のデータからして7月後半とか8月初旬に産卵する個体が多いのだと思われるが、それを確かめたいのもある。旬のわかりにくい魚で、年間を通して味がよい。刺身と焼霜造りを作ったが、刺身がやけにおいしい。部分部分、造りを変えて3種盛りで楽しんだ。

シマアオダイクラスになると、刺身にしたときの端っきれだって、無駄に出来ない。釣り上げてから5日目、我が家に来てから4日目に中途半端な上身を集めて、赤酢で洗う。我が家の酢洗いには赤酢を使い、基本的に『ミツカン』の「三ツ判山吹」を使っている。非常に使いやすいし、手に入れやすいからだ。これで洗うと、適度に身が締まり、味にこくが出る。単に刺身を赤酢で洗ったものと、皮霜造りにして洗ったものの二色盛りにした。皮霜造り(皮に湯をかけたもの)の方がおいしい。赤酢のこくのある酸味に皮の豊かな味で、非常に完成度の高い、文句のつけようがない味だ。酢を使っているので、吟醸酒ではなく「金紋 御代栄 本醸造」(北島酒造 滋賀県湖南市)を合わせてみた。湖南の酒は比較的ボク好みのものが多いのもあって、いい時間が過ごせているな、と感じる。これぞ孤立無援の悲しい酒というやつかも。それでは皮を引いた方はダメだったかというと、なぜか、不思議なことに、こちらの方がボク好みなのである。おいしいのは皮つきの方だけど、最近、この不完全さがいいのである。シマアオダイのただただおいしい、素直すぎる味が、赤酢と出合って端的に味わえている気がする。人間歳を重ねると、変わるん、だなー。

魚を大量に買い、計測撮影しているので、ときどき刺身がいやになる。もちろん脂の乗り具合を皮下の層で見るので、刺身も作るが、ばっかり食べても、味がわからなくなる。気分を変えて、マアジ、マイワシ、「わらさ(ブリ)」の「なめろう(みそたたき)」を作って、前回は愛媛県宇和島の大カイワリでも作った。マアジは脂が乗りすぎるくらいにのっていたし、意外に「わらさ」がおいしかったが、ここ1週間はカイワリがダントツのうまさだった。今回初めて辛みに柚子こしょうを使ったのが正解だったと思う。あまり辛いものに強くはないが、夏だ「なめろう」だ、柚子こしょう多目入れなのだ。と、もう10年近く前に買って忘れていたトリスのハイボールを飲んだ。けだしカイワリのうま味成分の多さは特筆すべきものがある。大カイワリの半身の3分の1をたたいたのに、飽きが来ない。ちなみに今回「なめろう」としたのは、酢をつけつけ食べたからだ。酢を使う地域は他にはないと思う。昔、千葉県外房では情け容赦なく、酢をかけて出してくれた。その内、酢を小皿にもらうようになったが、この日は、かける気にはなれなくて、小皿の気分だった。「みそでたたいて、酢を使うのが外房のなめろう」なので、「なめろう」としたが、できればそれぞれの地域名で食べて欲しい。

魚のおいしさを堪能するためにも魚を買うが、年間を通してよしあしに関わらず魚を買うのは水産生物の季節変化を知るためだ。それでやたらにお金がかかるのだけど、お金がないと書くと脅迫めいたメールやメッセージを送ってくる人間がいる。今どき、年間を通して魚を買ってみればいかに経費がかかるか、わかると思うが、このような人たちを避けるすべがない。以上は愚痴である。さて、6月30日に愛媛県宇和島から大形のカイワリが来た。カイワリは3月下旬くらいに生殖巣を膨らませ始めた個体がいて、4月、5月になると生殖巣大きく膨らませた個体がやってくる。この時季が漁の最盛期だし、旬である。6月になると痩せた個体が来るようになり、ハズレが増える。それでは愛媛県佐田岬の南、太平洋に面した宇和島のカイワリはどうなんだろう?カイワリは大小にかかわらず味がよく、産卵後、味の落ちる期間が短い。今回の個体は精巣が縮んでいて、産卵後の個体である。表面の鱗が硬く、皮も硬めだ。刺身にすると背の部分は全体に赤い。少し硬いものの、とても味わい深いのはうま味が豊かだからだろう。脂もあり、少ないないながら口溶け感がある。カイワリとしては安目だったが、値段以上の味と言ってもいいだろう。

八王子卸売協同組合、舵丸水産、クマゴロウが釣り上げてきたシマアオダイは高級であるし、めったに手に入らない魚でもある。今回の756g サイズを例えば東京都豊洲市場で買えば、1尾3000円くらいはするだろう。これを高いか、安いかは、買った人の技量で決まると思う。今回、1尾で兜焼き(塩焼き)、兜煮(煮つけ)、刺身2回、刺身酢洗い、皮霜造り、カルパッチョ、たっぷりでゴージャスなあら汁を作った。これで1品あたり380円ほどだ。ちなみに八王子卸売協同組合、舵丸水産では三枚下ろしに頭部梨子割りくらいはやってくれる。あえて言えば最近のスーパーは素晴らしい。シマアオダイクラスを手に入れるのは難しいが、魚を1尾買うと懇切ていねいに下ろしてくれるところが増えている。単なる高級魚ならスーパーに頼ってもいい。ちなみに魚経験は多いほどいいが、できるだけ包丁など道具を買うのは後回しにすべき。まずは魚屋、スーパーに頼りなさい、なのだ。さて、頭と腹骨周りだけで2品なので、ほとんど無駄がない。もしもシマアオダイを料理店で食べたなら、刺身1人前で1000円強、高級店なら刺身3、5切れで1500円くらいはする。兜(頭)を使った料理だって安くはないはずだ。贅沢するならお金持ちは料理店で高級魚を食べるといいし、庶民は魚屋・スーパーに頼るか、腕を磨き高級魚を1尾丸々かって多品目作るしかないだろう。しかもシマアオダイは流通のプロや魚類学を学んでいる人間には在り来たりな魚だが、普通の人には非常に珍しい魚なのである。さて、鯛の兜焼き(マダイの頭の塩焼き)、兜煮(マダイの頭の煮つけ)はなぜ、定番料理になり得ているのか?マダイはクセのない上品な味わいで、頭部の骨が柔らかく、頭まわりの身がたっぷりだからだ。フエダイ科アオダイ属の本種はマダイ以上にに骨が柔らかく、頭まわりの身が多い。

鹿児島県鹿児島市、田中水産さんにムロアジをいただいた。大形で体長41cm・783g もある。6月28日に到着して早速撮影して刺身にする。ムロアジの旬はわかりにくい。今回の個体は大きいためか鱗が硬く、皮も硬い。白子(生殖巣)は小さくて産卵期はまだ先のように思える。ただ、刺身にするとあぶらがあり、でしかもうま味豊か素晴らしい味だったが、最旬とはいえない。2019日6月27日の神奈川県小田原から連れ帰ったムロアジより、今回の個体は脂という意味では劣っている。やけにうま味が豊かなのは、脂ののりがピークにはないためかも。ひょっとしたら、鹿児島県は小田原などと比べると脂ののりがピークに達するのは遅い可能性がある。

年年歳歳、6月には初ハモ、9月に名残のハモとなりにける、なのだ。あまりにも不器用なボクが、あまりにも不器用だと思い知るのが6月のハモで、さんたんたる仕上がりになり、これが8月になると結構やれるじゃないか? と思い、9月にはしゃりしゃりとリズム感よくハモが我が手中にあり、って感じになる。今季初ものはぎりぎりの合格点だとは思うけど、完璧ではない。落とし(ちり)も結構問題があるががんばった結果、及第点ではある。開いてていねいにていねいに骨切りをする。できるだけ、皮半分まで切れ目をいれ、身がひらっとするように切る。これを塩を加えた湯に落として身が開いたら氷水に取り、水分をきる。そのまま少し冷蔵庫で冷やし込んだもの。梅肉は梅干しをつぶし、すり鉢ですって、みりん少々を加えて、またすり、なので在り来たりすぎるものだ。ボクのハモの骨切りの腕はスカタンそのものだけど、山口県産活け、 全長90cm・1.04kgのハモがよかったので、助かった。思った以上に脂があって、口の中でちゃんとほろりと崩れて甘い。

鹿児島県鹿児島市、田中水産さんにスマをいただいた。うまかー! だった。スマは今食べ頃なのである。それにしてもこんなに脂ののったスマは久しぶりである。やはり、6、7月のスマはいい。今回の個体は全身がカチンカチンに硬くて鮮度が抜群によかった。鹿児島からなので日数がたっているが、水揚げしたてのようだ。スマ特有の皮下に厚みのある脂の層があるのだからたまらない。クロマグロの大トロの脂は上質でも胃の腑に強い負荷をかけるが、スマの脂は一向に腹に堪えない。酸味はマグロ類よりも弱い。だから口溶け感からくる甘味が強く感じられる。面白いもので日本酒よりもビールが合う。スマを頬張りながらぐいぐい飲めてしまう。

淡路島の釣りサバ(マサバ)は有名であるが、まだ6月、体長35㎝・643g とやや小振りで脂はあまり感じない。1ヶ月後だと値が上がり始めるはずなので、このへんで1尾買うというのもある。ついでに言えば、ボク自身が脂脂といって脂ぎっていたときを過ぎているので、触った感じ、ボク好みだなと思ったのもある。念のために、人生いつまでも脂が乗り乗りの魚を好む、とは限らないのだ。釣り物で淡路は扱いがいいので、鮮度抜群である。さて、赤酢じめとワインビネガーでのマリネの二品を作った。ミツカンの「純酒粕酢三ツ判山吹」は刺身の酢洗いなどに常備しているものだけど、あまり酢じめに使ったことはなかった。我がデータベースでも十数回といったところ。久しぶりでもある。酸度が低く(ボクの感想だけど)こくがあり、香り高い。酢の鋭角的な味ではなく、マサバのうま味を引き出してくれる。七割方酢でしめたので、柔らかく、まず初めに少ないながらマサバの脂の甘さがあり、うま味が感じられる。柔らかいのは少ないながらも脂があるためだ。背の青い魚特有の微かな酸味が生の部分にある。粕酢での酢じめは我が家の定番になりそう。酒は「喜楽長 権座 純米吟醸 生酒(喜多酒造 滋賀県東近江市)」だ。

舵丸水産のクマゴロウが利島沖で釣り上げてきたアオダイである。東京都、鹿児島県を代表する魚で、東京を始め関東の流通のプロの間では古くから知られていたが、未だ本種は一般にはマイナー魚そのものである。常に高値で取引され、引く手あまたの魚であるが、「青鯛」という地味な名前なので、目立たないのかも知れぬ。伊豆諸島に多く、これから水揚げ量も増えるし、味もよくなる。味がよくなると書いたが、正確ではないかも。年間を通して味が落ちないので旬がわかりにくい。これから食べる機会が増えるだけ、とすべきだ。まあ、ボクにとっては今年、3度目の刺身だが、自分で下ろして自分で食べたのは、今年初めてである。3度とも、まさに思わず踊り出してしまいそうになるほど美味であった。当然、この日の刺身も5切れ切って、5切れが消えるのが早かった。東京で白身の筆頭を本種としている料理人がいるが、なんど食べてもおいしいことから、安心して使えるのだろう。さて6月26日のアオダイは脂こそそこそこだったが、鮮度抜群なので食感が心地よく、多様なアミノ酸が生み出す、甘味が豊かだった。呈味成分だけではない、複雑だけど嫌みのない、甘味に思える旨味だ。今回は今までやらなかった料理を作るために手に入れたのに、刺身で大方終わってしまいそうで、恐い。酒は「喜楽長 権座 純米吟醸 生酒(喜多酒造 滋賀県東近江市)」だけど、本種の刺身にもやたらに合う。

1チャンネル2秒くらいしか見ないので、テレビは見ているんじゃなくて、いらいらしたときの、いらいら解消でしかない。ある日、イタリアの映像だろうか? パスタを片手で器用に食べているところだった。曖昧な記憶だが、『鉄道員』(違う映画かも)という映画でパスタを食べている光景があったはず。白黒画面で、ごっつい体つきの男性が、片手でまるで鉄棒を握るようにフォークを持ち。くるくると巻いて器用にパスタを盛んに口に運んでいる。見ていたらパスタが食べたくなった。八王子卸売協同組合、舵丸水産でパスタ用の魚貝類を探していたら、安いトリガイを見つけた。たぶん、売れ残りだし、時季も遅いからだろう、思った以上に安い。この内臓とひもなど、普段ぬたや湯引きに使わない部分を使ってカッペリーニを作った。貝類のパスタは我が家では定番料理で、簡単でおいしい。

八王子総合卸売センター、八百角で淡竹を買い、舵丸水産から勝手にクサヤモロを連れ帰り、煮節にしたことは前回書いた。ボクは季節が感じられる料理、昔から普通に作られてきた普通の料理が好きだ。カツオなどの生利節と竹の子、里芋などを煮るのは昔々からの家庭料理であるが、ときどき無性に作りたくなる。家庭料理の基本は簡単で、たいしてコツがいらなくて、短時間で出来ることだ。これをクサヤモロの煮節で作る。淡竹と煮節、醤油とみりん、酒だけの簡単な料理である。煮節・なまり節は山椒と相性がいいので、乾燥した有馬実山椒を加えている。たぶん、醤油が一般化した江戸時代には同様の料理が作られたであろう、普通の料理である。淡竹のよいところは「竹の子(孟宗竹)」よりも味があることだと思う。甘味は控えめながら、竹の子らしい風味が豊か。しかも一緒にたいた素材のうま味に素直に煮染まってくれるのもいい。淡竹を煮染めるほど、煮節からたっぷりうま味が出る。やや甘めに煮た、煮節が口の中でほどよく崩れながら、口の中にもうま味を放つ。不思議なことに煮節だけ食べてもおいしくはない。淡竹と交互に食べるからうまい。たっぷり食べられる、やや塩気の薄い味つけにしたが3日くらいは食べ続けられる。

昨年のお盆前以来の山口県、「瀬つきのあじ」が来ていた。山口県日本海側、長門・萩の中型船による巻き網でとったもので、脂質も10%以上という規定がある。ブランド化のよいところは漁業者だけではなく、出荷体制がブランド化以前よりもよくなることである。6月22日、舵丸水産にたどり着いたとき、すでに残り少なくなっていた。「兵どもが夢の跡」とはこのような惨状をいうのだろう、いいものから持っていくのは人の情というもので、残り物に福はなしだ。それでも1尾だけ選んで持ち帰った。山口県にとって理想的な値だったといっておきたい。ちなみに残りは少し値を下げて売られていくか、開きにするなどの処理がなされる。魚屋でひらいたものや、水洗いしたものを見つけたら、非常にラッキーだと思うべし。念のために、漁師さんと話をすると、仲卸で1㎏1000円だったら5㎏で5000円なんて話になる。例えば仕入れ値半分の500円(せいぜい7割くらい)だとして2500円はボロ儲けだろう、という。実は全部売り切ることはまずなく、ときにまったく売れないこともある。水産物はリスクの塊だというと、漁師は不機嫌になる。「瀬つきアジ」は売れ残るリスクが低いのは仲卸(魚屋)にとってもありがたいはずだ。消費者はこのような魚屋の機微を知ると、生活にプラスになる。ボクが食べたかったのは「アジフライ」だけど、念のために昼ご飯に刺身を作る。味見のつもりの刺身だったけど、実にウマスギ、踊り出したくなる味だった。クロマグロの大トロは口溶け感があって、甘く、口の中が濃厚な何かに満たされる。脂ののったマアジも口溶け感があって甘く感じるが、それ以上にアジ科特有の強いうま味が、甘味と口の中で徒競走をするがごとくだ。思わず、酒が欲しくなったが、ご飯、ご飯で、イケないことに一合飯となりにける。

八王子総合卸売センター、八百角の店頭に淡竹(ハチク)が並んでいた。魚屋に行く前に中くらいのを2本、バアチャンにお願いして確保する。淡竹はあまり大きくても小さくてもだめだ。八王子卸売協同組合、舵丸水産に行ったらクサヤモロが2尾並んでいた。寂しそうだったので連れ帰ってきた。これを煮節(生節)にする。煮節にはクサヤモロ、ムロアジ、マルソウダガツオなどいろんなものが使える。煮節の出来上がりはあんまりきれいではない。でも塩気の強い湯で煮上げたムロアジ属の魚は非常にうまい。マアジ属のマアジはおいしいことを誰でもが知っているが、ゆでたり、煮たりして、豊かなうま味が楽しめるのはムロアジ属なのだ。出来上がりを、尾の方を三分の一だけマヨネーズをつけて食べた。夜酒に食べたら、やけにおいしい。非常に豊かなうま味があり、小骨がないので食べやすい。さて、代金ゼロの生節で淡竹をたき、滋賀県日野町の焼き豆腐をたく。料理に関しては次回。

和歌山の「あじ(マアジ)」は関西では有名だけど、関東ではだれも「和歌山」に反応しない。大阪(大阪府大阪市)のすし屋さんなどで、「アジ 加太(かだ。和歌山市)」などとあると、さぞやと思うが、東京の人間には和歌山はみな和歌山でしかない。例えば最南端の串本で揚がろうと、箕島(有田市)で揚がろうと同じだ。だから今回の荷に「和歌山」だけではない情報があったはずだけど、舵丸水産(東京都八王子市)では、「和歌山がわかるだけで充分でしょ」となる。たぶんこれは豊洲市場でも同じである。和歌山県産は兵庫県淡路島産の半分以下の知名度しかない。「釣りアジ」なので、それ相応の値段であるし、単に和歌山県産だけとしかわからないのは残念だけど、ここ数ヶ月でもっとも上等な「あじ(マアジ)」だった。二日間に渡って刺身で食べた。その日に食べたら、不思議なことにあまりおいしくなかった。というか期待が大きかっただけに、落胆した。食感が強く硬いのである。翌日、食べたら激変していた。舌に触れた途端、ほどよい脂を感じたし、口溶け感もあった。しかも2日目なのに食感が心地よい。要するに下ろしているとき、2日目がいいと気づくべきだったのだ。我ながら修業が足りぬ。それにしても1切れの味が実に豊かである。満足度が高い。新潟県村上市「大洋盛 紫雲」がやたらにうまいが、「あじ(マアジ)」の刺身がうまいからかも。

八王子卸売協同組合、舵丸水産に静岡県下田産、並タカベ(体長20㎝弱)が来ていた。今や上タカベ(体長20㎝以上)は豊洲に行かないと見られない。それでも今回の体長18㎝は充分な大きさだし、決して安くはない。東京都民にとっては庶民的な味だったのに、いつの間にか手の届かない存在になっている。さて、タカベといえば塩焼きで、念のために作り方は下記に。残念ながら今回の個体は炎が出るほど脂があるわけでもなく、満足度はほどほどなれど、やはりうめーな、なんて落語の八っつぁん、くまさんのごとき言葉が飛び出してくる。落語の主人公が今の値段を聞いたら、べらぼうめ! なんて言いそうである。それでも食べないと夏が来た気がしないのがタカベだ。50年ほど前、神楽坂とか八重洲で炎を見ながら焼けるのを待っていたのが、ボクの人生の初タカベだけど、そんな景色も今は遠い昔のこと。昭和は遠くなりにけり(矢野誠一のまねなのだ)。タカベの味は独特の脂の味だと思う。鋭角的な例えばウニを思わせるような、硫黄系の風味のある脂が作り出す味というか、あれこれ言葉が出てくるが、説明すればするほど実の味から遠ざかる。小魚なのに強い味である。ついでにこの脂は皮近くに多いので、皮が矢鱈においしく、身もおいしいという感じ。初物は小さめだったのでビックリ仰天するほどの味ではなかったけど、その内、豊洲にいってビックリ仰天するくらいの値のタカベを買って、ビックリ仰天したい。もちろん合わせたのはサッポロの黒ラベル。

八王子卸売協同組合、福泉で見つけたクロコショウダイは、我がデータベース、2個体目である。産地は大分県佐伯産で、体長36cm・1.8kgであった。成魚の北限は三重県熊野市というイサキ科コショウダイ属の仲間である。熊野市の前に成魚が上がったのが愛媛県愛南町で、豊後水道を挟んだ大分県佐伯市の四国側、北緯はほぼ同じだ。珍魚の定義は難しいけど鹿児島県本土以北では珍魚だけど、沖縄県で揚がったら食用魚でしかない。さて、2014年、鹿児島県鹿児島市の田中水産、田中さんに送ってもらったとき、刺身にしたら文句なしにおいしかった。卵巣が膨らんでいて、脂がさほど乗っていなかったためかも。それでも豊かな脂が口の中で溶けて濃厚だけど、素晴らしい味だった。ところが今年、2026年に食べたら、素晴らしいというよりも、味が強すぎた。前回の11月の抱卵個体以上に脂が強く、口に入れると硬いのに口溶け感がある。口溶け感からくる甘味も強く、魚らしい味はいちばん後にくる。今回は生殖巣が膨らんでいなかったというか内臓脂肪がつまっていた。脂という意味では最旬かも。

魚ポチ、フーディソン(魚ポチ)の星野健一郎さんから愛知県蒲郡市で大形のコモンハタが揚がったと連絡が来た。今回のものは若いとき事故にあったようで寸詰まりだが体長53㎝・4.7kgもある。漁港の競り場には、もっと大形が写真には写っていたので、改めてコモンハタの大きさを再認識した。できるだけ大形のコモンハタを探しているのでありがたい。さて、刺身にもしたし、いろんな料理にしてみたが、最後に2回2種類のカルパッチョを作った。カルパッチョは本来、イタリア、ヴェネチアにあるハリーズバーで出された肉料理で、画家のカルパッチョに因む名だと、30年くらい前の専門料理(柴田書店)にあったはず。誌面を思い出しながら書くと、にんにくの香りをつけ、オリーブオイルを塗った皿に生の牛肉の薄切り並べて、上からとんとんとたたき馴染ませる。上から白いマヨネーズソースをかけるというもの。要するに非常に単純な料理だ。イタリア料理だというと大層なものに思ってしまうかも知れないが、魚貝類を使うと和食になる。イタリア風和食である。たぶんだけど料理店の、イタリア風和食カルパッチョよりも、自宅で作るイタリア風和食カルパッチョの方がうまい。しかもオコチャマが作るとなおうまい。魚貝類で作ると和食となるが、このイタリアのカルパッチョの基本的な作り方には従う、もちろんぼくはだけど、こととしたい。ちなみにカルパッチョはボクの師匠、当時小学生(今は高校生)にも教えたが、家の定番料理になっているという。たぶんオコチャマの方が発想が自由なので上手に作れるのだと思う。上に乗せるものは、本家本元とはなんの関係もないので自由自在、勝手にしやがれ! といった感じで作るといい。本格的なんてアホな言語は捨てて作るべし。カルパッチョの作り方は下記に。今回は上に乗せるものを変えて2種類作った。最初はディル、紫玉ねぎ、甘夏、ピンクペッパー。コモンハタの身は薄く切りつけてもうま味がある。そこに、ひと味足すとぐんを味がよくなる。基本的にはオリーブオイルと塩と果物だと思っているのだけど、肝心の果実である甘夏は酸味と薄皮の微かな渋味で、十二分においしいとは思うものの、ボクは甘いのが好きなので、もの足りない。

八王子卸売協同組合、舵丸水産、クマゴロウが銭州で大釣りをして帰ってきた。持ち帰った魚を見ると、ウメイロは数知れず、「おなが(ハマダイ)」だって大きいし、気になるメイチダイらしき魚も連れ帰ってきた。そこから選んで持ち帰ったのがボクにとっての今季初、ウメイロとなる。昔、夏になると白身魚がなくてこまっていたときに伊豆諸島から来るウメイロは多くの都内料理人にとって救いの神だったはず。ついでに言わせてもらうと、ウメイロはとってもかわいいのである。小さいという意味ではなく、コケティッシュというべきか? つぶらな目を見ているとついつい手が出てしまう。このウメイロも目立たぬ程度だが、入荷量が増えている。さて、ウメイロの刺身は東京では、今や夏の定番といったものかも知れない。東京を代表する魚となったのは、かなり昔のこと。伊豆諸島、小笠原から築地に魚が送られてくるようになった途端に知る人ぞ知る、となった。ただし量的には少なかった。それが入荷量が増えたのは流通が発達するとともに、知名度が上がったためだ。ちなみにこの知名度というのは流通のプロの間のことであって、消費者にとっては未だにマイナーな存在でしかない。今や夏の魚の代表格となったウメイロをまずは生で食べてみるといい。刺身はいつ食べても、何度食べても感激一汐の味だ、としかいいようがない。丹精な味わいで欠点がない。5月以降の個体は脂がのっていて、口溶け感からくる甘さがある。非常にうま味豊かで、後味がいいときては手放しでウメイロを食べていることに喜びを感じる。

アオメエソ科のアオメエソ・マルアオメエソ問題には苦しめられた。あのようなものは大量に集めて、同じ船の50個体くらいを比較して、個体間でどれくらい変異があるかを調べればわかりそうなものだが、種をなくすというのは魚類学者にとってはもっとも難しいことのようだ。さて、今回のものは茨城県北茨城市のものなので旧マルアオメエソで、今やアオメエソだ。南の個体でついた標準和名が、北でついた標準和名を消したことになる。でも、北の呼び名、「目光」が全国で使われるようになっているので、南北名前では1勝1敗ともいえる。持ち帰ったらささっと鱗をなぜるように取り、頭と内臓も取る。水分をよくきり、片栗粉をまぶして二度揚げする。揚げ上がりに塩と五香粉を振る。もちろんコショウでもチリペッパーでもいいし、なにも振らなくてもいい。ということで、「目光」の定番料理、唐揚げにかぶりつきながら、ビールを逢魔が時に飲む。頭を取ったらら3尾で40gほどなので軽いおやつといった感じだし、まだ明るい内のビールは仮眠をとるため、なのでなんとなく自由な、よい時間が過ぎていく。それにしても1980年代、茨城県日立港で、船が出なかったので魚を買った苦い経験がある。そのときにオマケでもらった「目光」が、安すぎるという意味での未利用魚ではなくなっている、そんなことも思い出す。

6月4日は、台風一過で八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産にめぼしいものはなかった。でも、このとき豊洲仲卸から、「これいらないか?」と魅力的な画像が送られてきた。こんなとき、東京豊洲と八王子の経済力の差を感じてしまうが、魚のないときの魅力的な魚の値は法外なものだった。。我が家でも災害が、もちろんボクのだらしなさからくる災害が起きていて、できるだけ手抜きの出来るものを探した。あったのは大形のカツオで、千葉県産と三重県産があり、三重県産のカツオを安いと言うだけでの理由で買った。もとは10㎏あまりで、これを4分の1にしてもらい持ち帰る。朝ご飯はカツオを乱切りにし、朝ご飯とする。ご飯をチンしていて思ったのは、白飯の時は過ぎているのに、白飯だということ。あわただしいので麦飯に切り替えるのを忘れたのだ。三重県産は脂はないよ、と言われたが、ボクにはどんぴしゃりのカツオだった。近年、脂脂したものよりも軽い酸味とうま味がけれんなく楽しめる、のが好き。にんにくとしょうが、走りの青ゆずを張り込んで、刺身定食にする。たっぷりカツオを食べて、5勺弱のご飯をくらって、時計を見ると午前9時となっていた。

比較的漁獲量が多く一般的なコウイカ類(体の中に貝殻の痕跡である甲を持っている)の中では本種は少しだけ評価が低い。昔、江戸湾(東京湾)にたくさんいたので東京都・千葉県西部で「真いか」と呼ばれていたのだけど、安くておいしいので庶民の味方だったはずだ。大方のイカが高止まりしていて、海は大荒れというときには、現(うつつ)に生きるボクにも、シリヤケイカは救いの神のようだ。シリヤケイカはコウイカ同様、刺身で食べることが多い。コウイカと比べられることが多いが、劣るのは食感だと思う。少し柔らかいのだ。ただし、イカらしいう複雑なうま味成分からくる甘味と、イカらしい風味が楽しめる上に、あえて言うと柔らかいのが好きならシリヤケが好きという向きもあると思う。

大坂風(関西風)江戸前ずしを初めて食べたのは2000年以前、1987年だったことがポジフィルムが出て来たことでわかった。てっきり2008年の堺魚市場が初めての大坂風だと思っていた。大坂風のすしの食べ方の面白さにちょっとだけ感動した憶えがある。1980年代は「すし」を調べ始めたばかり、すし種は調べていたが、食べ方には考えが及んでいなかったことがわかる。大坂風江戸前ずしというのは、注文を受けると3個ずつ握っ(つけ)てくれ、粉わさびを溶かした醤油を塗って食べるというもの。粉わさび抜きの醤油も用意されている。2008年の時点で、3個握る店は少なくなり、「塗るのがお嫌なら皿出しまひょか?」と鶴橋のすし屋で言われた憶えがある。この粉わさび溶かし込み醤油を久しぶりに作る。店によって違うが、刺身醤油もしくは濃い口醤油に煮切りみりん、錬った粉わさびを合わせるだけ。大坂市都島のすし屋では直接粉わさびを醤油に溶く、と言われたが、溶けにくいので錬ってから溶いている。粉わさび直の方が香りがいい気がするので、これから数日かけて比較していきたい。

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産、クマゴロウが銭州から持ち帰ったハチビキは体長48cm・1.98kg だった。ハチビキは大きいほどおいしいが、このサイズはその大きさを満たしている。卵巣が少しだけ膨らんでいて、そろそろいい時季かも、なんて思う。またハチビキの脂の補給源はクロタチカマス科(クロシビカマス)やハダカイワシからのもので、独特の風味を持つ。ほとんど赤身魚のような身色の身を、刺身にしたら、思った以上に脂がある。層を作るほどではないが、身に混在して、身が柔らかい。舌にねっとりとからむ。ハチビキのうま味は赤い身に、カツオマグロ類のような酸味ではなく、脂以外のうま味成分が複雑にからみあった甘味があるのこだ。脂が豊かなのに後味がいいのも魅力だろう。銭州で釣り上げられた翌日なのでほどよい硬さも魅力である。酒は新潟県村上市の「〆張鶴 花」で、でしゃばらないところが、やけにハチビキに合う。

神奈川県小田原魚市場、二宮定置で泳いでいたイサキは体長33cm・665g なので大型である。この日はとにもかくにも、イサキだけは連れて帰りたいと思って市場中を探して、いちばんいいのが二宮定置の活魚だった。さんの水産さんに締めてもらって持ち帰る。下ろさなくても身質がわかる、と言ったものだった。これほど背中が膨らんだイサキとは、この時季にしか巡り会えない。当日の夜から、酒を用意して刺身にして楽しんだ。口に入れると、あれれと思うほど味がない。むしろ脂の口溶け感からくる甘味があり、しかも食感が強い。初日はとても食感の強い、という意味では完成された味とみていいだろう。

神奈川県小田原魚市場で揚がったチダイは体長22cm・311g と小振りではあるが、脂がのもすごく乗っていた。おいしいとは思ったものの手放しにうまいとは言い難い。室温で刺身の表面が潤むほどだと、刺身を食べた気がしない。別に年齢のせいではない。脂の多すぎるもの、味の重いものは、まずは刺身にして食べるには食べるが、一部は必ず、酢じめ、もしくは酢で洗う。我が家では酢はいろいろ試した挙げ句に、ミツカンの三ツ判山吹を使っている。いちばん手に入れやすく、しかも使いやすいからだ。しかも赤酢は滅法うまいというか、こくがある。赤酢で洗うと見た目は悪いのだけど、味のバランスが絶妙なのだ。脂が強く、口の中でとろけて甘い。魚自体の味が脂の強さに埋没しそうになると、赤酢が脂の暴走を適度に抑えてくれる。皮のうま味、皮下の脂の層、身の甘さがしっかりわかる。脂脂したものが好きな向きには、しっかり脂を楽しんで欲しい。ただほどよいうまさを望むなら、脂の強さだけではなく、赤酢のこくや、魚の真の味がちゃんと味わえる方がいい。それにしても時季のチダイは実にうまい。酒は村上市「〆張鶴 花」を5勺で、ちょうどいい加減だ。

神奈川県小田原魚市場に水揚げする定置網は何か統もある。そんな小田原魚市場水揚げの定置でも、5月29日にワラサ(ブリの70㎝前後)が大漁だったのは、神奈川県二宮沖の二宮定置だけだったようだ。相模湾北部という狭い海域であっても、とれるものは定置網の場所で変わる。さて、今回の二宮定置のワラサ、体長63cm・3.114kgを当日5月29日から31日まで刺身で食べてみた。活け締めにした日には硬い上に味がなかった。まずいか、というと噛めば噛むほど脂と味を感じるけど、本来あるはずのワラサの味がしない。これをおいしいと食べていった、人間がいるので、このあたりが難しい。

たぶん神奈川県真鶴町岩、岩定置に揚がったものらしき、口物(くちもの。いろんな魚が混ざったもの)の中に同定してみたいエソ(エソ科マエソ属)があった。エソ欲しさに『さんの水産』さんに競ってもらったら、中にチダイが混ざっていた。まさかこれが隠れた大スターだとは思わなかった。体長22cm・311g なので「春日子」とまでは言えないが、成魚というには小さすぎる。小田原では今、このサイズがまとまって揚がっている。チダイはこれからが旬なのでおいしいはず、と思って下ろし始めたら切った包丁に脂がまとわりついてくる。大急ぎで皮を引いて、刺身に切ると、表面がうるうると泣き出してきた。ていねいな盛り付けにしたいと思っても、指が当たると切りつけた身が溶けるので、ざっと大葉(青じそ)に乗せた。チダイの刺身は本来、上品な味なのに野蛮な味になっている。有無を言わせないうまさ、とでもいうべきか、猛烈にうまい。年寄りなのでこの脂には辟易するのだけど、後味はいい。それほど重い味ではないのは脂の質なのだろう。チダイらしい味はあまり感じられないが、ム、ム、これは特上の刺身かも。せっかく用意していた酒をおいてけぼりにして、瞑想にふける。

八王子卸売協同組合、舵丸水産にいた「おこぜ(オニオコゼ)」は産地不明だった。産地不明の魚は基本的に買わないが、他になにもないので2尾締めてもらう。さて、帰宅後、市場の買い物を整理して魚の計測をし、撮影をしたら午前9時をまわっていた。ここ数日、昼夜逆転していて生活が乱れているので、数時間眠るつもりが眠れない。思い立って「おこぜ」を大急ぎで下ろして、背を割る。ペーパータオルにくるんで水分を抜いて片栗粉をまぶして、じっくり20分以上かけて揚げる。最初は低温で、2度目は高温で揚げる。揚げると身がぶわっとふくらんでくる。

八王子卸売協同組合、舵丸水産に島根県浜田市から「どんちっちアジ」が来ていた。今年初めての「どんちっち」なので、買おうと思ったらほとんど残っていない。水氷の底の方からよさそうなものを選んで、通してもらう(会計する)。体長21cm・152gと体長24cm・207gである。大きい方を刺身にする。まずはブランド名の「どんちっち」とは? から説明したい。浜田市も含む島根県西部、石見地方で盛んに行われる神楽のお囃子の音からとっている。石見人にもっとも親しみ深い音からとったブランド名である。ブランド化に際しては巻き網船主やJF、浜田市、島根県などの脂質を計測する技術の確立を経て、脂質10%以上のものを「どんちっちアジ」としている。巻き網ものなので本来「並アジ」だけど、味は並ではない、ので値段もそれ相応である。

日本海富山湾のマイワシの荷が消えたと思ったら、今度は鳥取県境港からやってきた。鳥取県産となるが、産地は不明である。なぜか境漁港の半数以上はJF島根だからだ。島根の海域なのか、鳥取県の海域であがったのか、わからない。とりあえず島根半島周辺で揚がったものであることだけは確かだ。マイワシの脂は皮下に雪が積もったように乗るのだけど、今回の1尾は見事な雪景色であった。2尾とも一緒に盛り付けたが、圧倒的に1尾に脂があるのは見えるので当然としても、断然、雪積もる方が味がある。昨年の境港産は3月、4月に旬であった。今年は少しずれているのかも。二戦一勝というか1尾は最旬のマイワシで、1尾はまったくだめだった。このあたり魚選びは難しいものである。久々にうまいマイワシに真昼間っから、兵庫県伊丹市「老松 本醸造 上撰」をほんの少しだけ。

兵庫県神戸市、駒ヶ林魚市場で揚がったヒラを手に入れた。いろんな料理にした。刺身がおいしいのは当たり前だが、たいたヒラも魅力的なのだ。近所の直売所で買ったナスとたいた。神奈川県産ナスも無加温栽培となったようで、個人的には加温をやめたらナスの時季だと思っている。作り方は簡単だし、作り置きができるのがいい。ちなみに仕上げにしょうがの搾り汁を落としただけで、飾りっ気なしの、家庭料理そのまんまである。今年は木の芽が高いし、こればっかりはしゃーない。見た目は地味だけど、ヒラは舌に乗せるとほろっと崩れるくらい柔らかい。ヒラの強いうま味が感じられるし、皮目には脂がある。煮汁のうま味を十二分に吸ったナスだってご馳走である。生殖巣を膨らませた個体がたくさんとれるころ、今度は岡山を放浪してヒラを手に入れたいと思っている。5月中旬だというのに、やけに熱い。冷やしてあった新潟県村上市の「〆張鶴」をすごしにすごす。翌日の朝は煮汁だけでご飯を食べる。漬物と煮汁と、ご飯と野菜だけだけど、とってもうまいので久しぶりに一合飯となる。

今回の神戸旅(兵庫県神戸市)では、神戸市中央卸売市場『かねいわ水産』、桝光晴さんに、お世話になった。さて、桝さんに見せて頂いたのが、渦巻処理である。文字では知っていた、渦巻協会の渦巻処理でああるが、実際に見たのは今回が初めてだ。と前回述べた。桝さんに提供していただいたのが、兵庫県淡路島岩屋で上がったマダイである。岩屋は淡路島だが、神戸にとっては駒ヶ林、垂水、須磨と同じように、前浜といっていいところだ。目の下一尺を分けていただき、処理した翌日、翌々日、処理して4日目と食べてみた。産卵場に集まるマダイを「魚島の鯛」というが、たくさんとれるという意味での旬である。扱い次第では他の時期よりも安く、しかもおいしい。さて我が家に到着したのは渦巻処理をした翌日である。もっとも単純な刺身(生食)で味わってみた。まず思ったのは、産卵直前の5月のマダイなのに食感がいいということだ。舌の上で存在感がある。締めて1日たっても神経まで抜くと味がないのが普通だけど、味があるのは5月のマダイだからだろう。秋から冬の個体は身が充実していて、張りがあり、強いうま味があるが、桜咲き、藤の花が終わる時季にかけて急激に味が落ちる。いかな天下にとどろく「岩屋の鯛」でも処理次第では食べられたものではないはずだ。それが渦巻処理で生かされている。しかも身に血液臭さがない。大きく膨らんだ卵巣がなければ、5月のマダイとは思えない。

兵庫県神戸市、駒ヶ林魚市場で揚がったヒラを手に入れた。関東に暮らしていると、めったに手に入らないのが、ヒラという魚なのだ。瀬戸内海に初夏を告げる魚といった存在だが、4月、5月に揚がるものの方がうまい。今回、ヒラは駒ヶ林魚市場で会ったどなたかに分けてもらったようで、仲介をしていただいたのが藤本修さん(鮮魚なな福 神戸市)である。分けて頂いた方にも、藤本さんにも感謝します。また神戸市ではヒラを食べるという人と、ヒラなどは見たこともないと言う人がいる。海に近い地域では食べるが、商業地域や山側では食べないという人もいた。このあたりも先々調べたい。宅配便で着いたその日に三枚に下ろす。腹骨、強い小骨を取り、皮つきのままザクザクと切り放つ。切ったのを味見すると、皮に独特の風味と強いうま味があり、身に甘味がある。うま味が口に広がるとともに、チンと小骨が歯に当たる。このチンと小骨を感じるところがとてもいいのである。ヒラは瀬戸内海とくに岡山県では比較的一般的な食用魚で、スーパーにもたくさん並んでいるが、国内みわたしても食べたことのある人は少ないはずである。皮・身ともにニシンの刺身のうまさと共通するが、より味が軽いというか、味よりも食感が主役だというとわかるだろうか。うま味は食べ始めから口の中で長々と続くが、それ以上に皮と身の歯触りと、ほんの少しだけ存在を感じさせる小骨のチンがいいのである。冷やしてあった新潟県村上市の「〆張鶴」にようおう(合て)てました。

兵庫県神戸市、神戸市中央卸売市場場内で真っ先に探す魚は、この時季ならメイタである。市場では「カレイ」までは、つけないで、メイタどまりで、メイタ、メイタとぼやきながら、(笑福亭)仁鶴そっくりの四角いメイタを探す。場内くまなく探して、『平八商店』で比較的大振りの活魚を発見した。瀬戸内海でも大阪湾側の駒ヶ林、垂水で揚がったものとみた。大阪以西、瀬戸内海は原則活魚での流通であるが、メイタは取り分け活魚でなければならない。大阪湾西部の魚は流通範囲が狭く、ここでしか手に入らないものが少なくない。さて、東京など関東ではカレイと言えばマコガレイだけど、瀬戸内海周辺ではマコガレイとメイタガレイの2種になる。関西や瀬戸内では意外にマコガレイよりもメイタという人が多い。ボクも2種並んでいて、ともに上物ならメイタがいい。久しぶりのメイタはやはりボク好みじゃ、なんて徳島弁になる。この時季、脂が乗っていて舌に乗せるとまったりとして、甘味がある。なによりもメイタの魅力は独特の風味というか、個性的なうま味にあり、だ。微かに飴色がかった一切れに複雑な味が満ちている。田辺聖子じゃないけれど、伊丹市の「老松」をわざわざ開ける。初めての「老松」は意外なことに華のある味だった。

兵庫県神戸市で水揚げされて2日目のコイチを生で食べてみた。市場流通したものでは、鮮度的に生食できないのでとても貴重である。コイチの生食は基本的に刺身ではなく、焼霜造りにする。味が皮と皮の直下にあるからだ。炎が皮に当たると脂が泡状に吹き上がってきた。産卵前のいちばんいい時季ならではの光景である。切りつけた一切れのおいしさの度合いが高い。満足度が高いと言ってもいいだろう。皮のうま味と、皮下の脂の層、身にも脂が混在しているが、基本的に白身なので、味わいは軽い。後味がいいのも魅力である。この時季のコイチには豊かな風味もある。

鹿児島県から来たでっかい「やいと(スマ)」は舵丸水産のクマゴロウの言うとおり、「びっかびっか」だった。触ったらやけに硬い。鹿児島の魚は航空便なので、関東での近場の魚とはタイムラグがあまりない。鮮度はこれ以上望めないといったものだった。さて、下ろしてすぐの、ほぼ7㎏の個体は、全身赤身のようだった。刺身に切りつけると大根を切っているような、スコンと音がする。これは産地で揚がったばかりのカツオなどと同じである。真っ先に中落ちの身でご飯を食べたら、旨味濃厚で、それだけでもう充分だと感じた、その後味に脂が感じられる。中落ちなのに歯ごたえがあり、ご飯の友だけではもったいなくて、酒の友にすべしと、半分は酒と一緒に食べてみた。酒が混ざり込むと余計に脂の存在が浮き上がる。

八王子卸売協同組合、舵丸水産のクマゴロウとか、水産関係者と話をしていたら、ショウサイフグの旬はわかりにくいという話になった。確かに旬は寒い時季だけど、それ以外にもおいしい個体に遭遇するという。それじゃダメな時季はというと、これまたはっきりしない。寒い時季から春、3月くらいまで水揚げが多く。4月から6月になってもぽつりぽつりと入荷を見る。さて、旬がわかりにくいショウサイフグなので、味の詳細メモを書き残しすことにした。今回、5月7日と11日に手に入れた個体は上々以上の味だった。7日のものは二宮定置の若い衆がくれたもの。ありがとう!11日のものは釣り師が相模湾もしくは三崎沖あたりで釣り上げたものだ。磨いて1日寝かせて刺身にした。撮影したときは、忙しすぎて、買い物にも行けず、ねぎと「かんずり(新潟県妙高市の赤トウガラシの調味料)」だけで食べた。5月のショウサイフグはともに生殖巣が膨らんでいなかったが、体長23cm・295g前後という大きさから産卵群ではなかった可能性があるし、早々に産卵したものかも知れぬ。エサの豊富な時季に荒食いをしたせいか身に張りがある。筋肉だけにして三枚に下ろし、1日水分を抜いただけで、薄く切りつけるのに適した硬さとなった。

目の前で相模湾二宮沖の刺身の表面がうるうると溶けていく。舌の上でまったりと甘味を放って、それでいて背の青い魚の味が強く感じられる。夏のマアジの味だな、と思う。水温が低いとエサの食いが悪いのか、春の初めはマアジの質にばらつきが出るが、5月ともなるとハズレなしになる。1尾丸ごと食べても、もの足りなくなる。二宮定置で分けてもらった3尾が全部消えてしまいそうで恐い。

たまには市場流通がいかに健全で、まともな評価をしており、価格を安定させ、鮮度保持の面からも優秀かという話をしたい。今回のマゴチなど小振りだけど、その上、かなりのアニキ(幾日か前の売れ残り)だけど、扱いがいいので実にいい状態だった。でも売りにくい。これが市場の肌感覚である。コチ科のマゴチには、同科で見た目が似ているイネゴチという市場評価の相方がいる。マゴチが100%としたら50〜60%くらいの値段で買える。市場の最大の仕事は評価なのである。しかも例えば1万円でマゴチを数キロ仕入れたら、利潤を乗せて、かなりの高確率で利潤がとれる。イネゴチはその利潤が低い上に、損失(売れ残る)となる可能性がマゴチよりも高い。鮮魚は売れなければすべて損失なので常にリスクがある。イネゴチはマゴチよりも最低でも40%安くなければならないというのは、味の評価だけではなくリスクが高いからだ。漁師さんを市場に案内すると、極端な例だけど、例えば競り値が1000円のものを5000円で売っているとか言う。これは、流通コストや、流通上に横たわるリスクやリスクの分散、価格の安定などに、経費がかかることは漁師さんにだってわかっているのに、わからないふりをしているのである。消費者も流通コストなどと単純化して考えるのではなく、しっかり流通の仕組みを知るべきである。実際、2日か3日前にしめたマゴチの刺身は鮮度抜群のイネゴチよりも遙かにうまい。イネゴチだってとてもうまい魚なので、一般人は市場人のように比較しない方がいいけど、マゴチが高いわけは食べたらわかる。旬を迎えているマゴチの刺身が舌の上でねっとりとするのは、少ないながら脂がのっているからだ。水温が上がり、産卵を前に小魚や甲殻類を鱈腹食べているので、身に張りがあり、豊かなうま味がある。一切れの刺身においしい要素に満ちているのである。しかもイネゴチの食感は活け締めにしてもあまり長く保たない、マゴチは少し寝かせても食感が心地よい。脳内が忙しすぎて、せっかく用意した、「〆張鶴」はコップに注がないままとあいなる。うまい酒の肴だったのに、詮無いことをした。

二宮定置のみんなに分けてもらって言うのもなんだが、小田原の「わにごち(イネゴチ)」は難しい。小田原のように高鮮度、活け締めが当たり前といった競り場では、野締めはほとんど値がつかない。しかもマゴチと比べると食感が落ちるのが早い。意外にやっかいな魚なのである。ただし、この時季、持ち帰った当日の刺身は抜群においしい。生殖巣(白子)が膨らみ始めていて、旬を迎えているのがわかる。残念なことにマゴチと比べるとわずかに味がない、というか身質が落ちる。それでも舌に脂が感じられて甘味がある。一切れのインパクトが強い。

タカベは東京をはじめ関東では今や高級魚で、日本中からやってくる。引く手あまただが、それでも小型のタカベはほぼ廃棄されて、魚粉になるしかない。なぜか? まとまらないからだ。小さい割りに、焼いてよし、生であぶって食べてよし、と申し分がないのに、売れない。今回のものも二宮定置の若い衆に分けてもらったもので、一生懸命選別しても一箱にはならない。その上、この日は「アジ祭」で大騒ぎだったので、細かいことなどに関わっている暇もなかった。小さなタカベだけど、定番料理の塩焼きにしたら、実に結構な味なのだ。皮や身に強いうま味があって、口の中で味のだれがない。ずーとうまいが続く。ほどほどに脂がのっていて、程よい甘味があるのでご飯に合う。ビールにも合うのだけど、疲れたときには強い味のタカベの滋養が欲しくなる。5勺ほどのご飯にたくわん、タカベの塩焼き、ワカメのみそ汁で、ほっと一息なのだ。

今回小田原から持ち帰った「かくあじ(カイワリ)」は、二宮定置で揚がった活けであるが、生け簀から上げて、こんなに大きいとは、思いもしなかった。重さ350g から500g あり、取り分け500gは相模湾ではめったに見られないサイズだ。背に厚みがあり、触るだけで脂が感じられた。国内で「かくあじ(カイワリ)」にいちばん高値をつけるのは小田原だ。それだけにカイワリの扱いが国内でいちばんいいのも小田原で、他の漁港では珍しい活魚も、小田原では普通である。衆目の集まる中での競り値にびっくりしたものの、よくぞ競り落とせたものだといううれしさがこみあげてきた。「かくあじ(カイワリ)」はなんといっても刺身である。当日の刺身は少し分厚く切りすぎた気がしたが、締めたその日なのに強いうま味があり、少し硬くはあるが噛めば噛むほど、脂が浮かんできて口溶け感からくる甘さが感じられる。ただ、驚くのは翌日である。刺身を食べてすごい、というのもおかしいかも知れないけど、すごい。食感もそれほど落ちているわけではないのに、濃厚な味わいがある。しかも口中に残るのは心地よい余韻で後味が軽い。「〆張鶴吟醸生貯蔵酒(宮尾酒造 新潟県村上市)」を飲む、その間がなかった。

今回の石川県産は体長22㎝・130g前後で痩せていた。期待しないで刺身にしたら意外や脂の層があった。舵丸水産だけではなく、スーパーにも石川県産が来ていて、4月30日、5月1日のマイワシは3個体ずつ買ってほぼ総てよかった。ここ数年、一般流通上は石川県産のマイワシが5月初旬にトリを務めて、半月くらいの空白期がある。空白期が非常に短いのは、日本列島で考えるとマイワシに旬(味の波)がないということになる。1939年に銀座に当時いちばん卑しい魚とされたマイワシの専門店、『いわしや』が出来たのは、年間を通していいマイワシが手に入ったからだが、ここ数年、同じ状況になる。ちなみに豊洲市場は、どんなに高額であってもマイワシを探し出して受けるので、空白期は存在しない。4月初めには皮下に雪が積もったように脂があったが、さすがに今は霜が張る程度だ。それでも口溶け感が感じられて甘く、マイワシのうま味が楽しめる。最近、これでご飯を食べているが、脂の甘味とご飯の甘味が一緒になる、これがたまらない。早く二膳食べられるようになりたい。