刺身のうまさに、クロダイはまだいけるとぞ思う

12時間以上経っても切りつけた身がぷくっとふくらむ


5月9日の神奈川県小田原魚市場はアジであふれていた。名物といってもいいカイワリもたくさん揚がっていて、活況を呈していた。
箱にも、活魚槽にも、この時季多いのがクロダイ(西日本のチヌ)である。

活魚槽をのぞくと、手頃なのがいたので、さんの水産さんにお願いして買って頂く。
体長37cm・1.5kgの雌で卵巣は非常に大きく膨らんでいたが、ばらけ感はなかった。
ちなみに刺身にするなら活魚。
加熱するなら活け締め、野締めでも可、だと思っている。
いずれにしろ高い魚ではないので、そんなにガタガタ言いたくはない。近年魚価が全般に上がっているが、白身魚はおしなべておいてけぼりになっている。
これは白身魚(昔の白身魚で、キチジや目抜け類、アカムツは含まない)全種の価値の下落だし、白身魚に対する国内の料理人、消費者の間違った認識による。
その点からしても「クロダイは安い」と、他の白身魚と比べないで無闇に言う人がいることに驚く。
ちなみに活魚は決して安くはない。

午前、6時過ぎを小田原魚市場で締めてもらい、血抜きしたものを昼過ぎに刺身にすると、身に張りがあり、食感が心地よくてうまいとは思ったが、歯が立たない。
一度、仮眠をとって、午後8時して食べたら、俄然おいしくなっていた。
そして午後10時に夜酒のともに刺身して味が◎となる。

そして翌日の、今はもっとうまくて、ご飯の友としたので、飯がすすんで危険だと思ったほどだ。
うま味濃厚で、しかも食感が心地よい。
うまいクロダイの刺身で、飯を食う時間はいい時間だ。
これなら5月中に、もう一度買ってみよう!

5月、産卵間近で味はとても不安定だ


さて、釣り人は春の良型を「のっ込みのクロダイ」という。「のっ込む」とは普通、深場にいる魚が産卵のために浅瀬に揚がってくることをいうが、クロダイは水温が上がってくるとエサを求めて浅瀬にくるので、純粋な意味での産卵回遊的群れ行動としての浅瀬移動ではない。
このあたりは西日本のチヌ釣り師、東日本のクロダイ釣り師はご存じだろう。
クロダイは年間を通して食べて、その変化を見ているので、小田原で見事なクロダイの場合には見つけて買ったのではなく、そろそろ1ヶ月以上食べていないので、買っただけだ。

クロダイの産卵期は相模湾など太平洋側の多くで、4月後半から6月初めではないかと思っている。
この時季がいちばん味的には不安定で、5月下旬から8月初旬はまたいで歩きたいといったものだ。
クロダイは悪食で、内藤鳴雪(正岡子規よりも年長だが、よく弟子とされる俳人)の例を引くまでもなく、なにを食べているのかわかったものではない。
取り分け、夏のクロダイはなんでもかんでも食らう。
このときクロダイ師はサナギエサ(カイコのサナギ)で狙う。
千葉県などではこのスイカが安くなる8月になると、スイカでクロダイを狙う。
有名なクロダイ師が、サナギではなく、スイカでくるようになるとうまい、と言っていた。
完全に回復するのは9月になってだ。
今年もまた日日クロダイを食べて、クロダイカレンダーを作ろう。
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