SL 50cm前後になる。側変して全体に銀黒色。若い個体は横縞が目立つ。[SL37cm 関東ではクロダイ]
クロダイの生物写真一覧 (クリックで上に拡大表示)
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珍魚度・珍しさ
★★
少し努力すれば手に入る魚貝の物知り度
★★★
知っていたら通人級食べ物としての重要度
★★★
一般的(流通量は普通)味の評価度
★★★★
非常に美味
分類
顎口上綱硬骨魚綱条鰭亜綱新鰭区棘鰭上目スズキ系スズキ目スズキ亜目タイ科ヘダイ亜科クロダイ属外国名
学名
Acanthopagrus schlegelii (Bleeker, 1854)漢字・学名由来
漢字 黒鯛、鳥頬魚 Standard Japanese name / Kurodai
由来・語源
『和漢三才図会』(寺島良安 東洋文庫 平凡社 正徳2年 1712)にも「くろだい」。東京での呼び名。体色から。
「鳥頬魚」は『物類称呼』(越谷吾山著 安永4/1775 解説/杉本つとむ 八坂書房)
〈くろだひ ……その味美味し、真鯛に次ものなり【気味】甘温(かんうん)毒なし、妊婦食ふときわ堕胎(はんさん)す〉。『魚鑑』(武井周作 天保辛卯 1831)
〈CHRYSOPHRYS hasta くろだひ 紀伊 和歌山〉。『帝国博物館天産部魚類標本目録.帝国博物館』(石川千代松・松浦歓一郎 1897/明治30年)
〈タヒ科クロダヒ属クロダヒ Sparus swinhonis GUNTHER〉。『日本魚類圖説』(岡田彌一郎、内田惠太郎、松原喜代松 三省堂 初版1935)Bleeker
Pieter Bleeker(ピーター・ブリーカー 1819-1878 オランダ)。医師、魚類学者。『東インドオランダ領の魚類図鑑』(Atlas Ichtyologique des Indes Orientales Netherlandaises 1862-1878)。軍医としてバタビア(現インドネシアジャカルタ)に赴任。インド洋、西太平洋の魚を採取。地方名・市場名
生息域
海水魚。内湾、汽水域や沿岸の岩礁。
北海道〜九州南岸の日本海・東シナ海沿岸、北海道〜九州南岸の太平洋沿岸、瀬戸内海。
朝鮮半島全沿岸、済州島、台湾、渤海、中国東シナ海・南シナ海沿岸、ベトナム。生態
■ エビやカニから海藻、またスイカや果物なども食べる雑食性。
■ 産卵期は春から夏。
■ 産卵後小さな時期は総てが雄(オス)。15センチから25センチくらいには両性型。満2年まではオスとして機能する。
■ 3年目からは雌雄が分かれ、それぞれ成熟し産卵活動をする。また大きくなると多くがメスに分化する。
■ クロダイの仲間はもっとも内湾を好むもので、ときに川を登ることもある。それで各地で「川鯛(かわだい)などとも呼ばれている。基本情報
北海道から九州までの浅い内湾、河川の河口域にいる。浅場や汽水域にいて全長50cmを超えることから食用としても、釣りの世界でも人気が高い。クロダイは関東での呼び名で、関西から西では「チヌ」だ。昔、大阪湾を「茅渟の海(ちぬのうみ)」といったのは、チヌが多産したからだという説もある。
関東では昔は、夏、井戸水でも生かしておけるので、夏の白身として高級魚だったという。山形県庄内地方では旧藩時代に殿様が磯釣りを武士の間で奨励した。
雑食性でなんでもどん欲に食べることから、嫌う向きもある。これは江戸の町でも大坂でも日常的な場所で見られ、家庭から出たゴミなどあさっている光景が見られたためだろう。同じような水域にいるスズキが上物として扱われるのに対して評価が分かれるのは雑食性であるためだ。また、卵巣を食べないという地域は取り分け多い。
東日本よりも西日本で食用魚として重要。古くは真鯛に次いで美味と評されていたが、近年人気がない。特に関東では不祝儀に使われるために縁起の悪い魚だと考えられていることもある。
西日本では名物料理も多い。特に瀬戸内海の漁師料理の「ちぬ飯(たきこみごはん)」は豪快で、しかも非常にうまい。
寒い時季のクロダイはうまさ際立つといったところがあるが、意外に値段は安い。今やもっともお買い得な魚といえそうである。
珍魚度 珍しい魚でもなんでもなく普通の食用魚。ただ最近関東では人気がなく、関東などでは探さないと手に入らない。水産基本情報
市場での評価/年間を通して入荷してくる。昔は一定の値がついていたが、近年下落傾向にある。活け、活け締め以外は非常に安い。
漁法/釣り、定置網
産地/広島県、愛媛県、愛知県、兵庫県選び方
触って硬いもの。鰓が鮮やかに赤いもの。消費地では活け締め、活魚が好ましい。味わい
栄養
ー危険性など
ー食べ方・料理法・作り方 (基本はオススメ順掲載です)
クロダイの料理・レシピ・食べ方/生食(刺身、皮霜造り、焼霜)、煮つけ、汁(潮汁、みそ汁、鍋、ブイヤベース)、焼く(塩焼き、みそ漬け)、揚げる(フライ、唐揚げ)、ソテー(バター焼き、ポワレ)、炊き込みご飯クリックで閉じますチヌの造り
クロダイの刺身 寒い時季の大振りの活のクロダイを水洗い。三枚に下ろして皮を引き、単に刺身に切りつける。ここでは角造りにしたがそぎ造りにしても、薄く作ってもいい。血合いが赤く見た目にも美しく、身はタイ科ならではの上品でいながらうま味豊かでおいしい。
クロダイの皮霜造り 活け締めのクロダイが脂乗っていて、皮目が柔らかく思えた。これを皮霜造りにしてみる。三枚に下ろして腹骨・血合い骨を抜き、皮目に湯をかけて氷水に落として粗熱をとる。後は刺身状に切った。やはり脂がのっていると皮が柔らかい。この皮の食感に皮下の脂の甘さがあいまって非常にうまい。クリックで閉じますチヌの皮霜造り
クロダイの焼霜造り 大型の皮は硬いので、皮霜よりもバーナーであぶった方が食べやすい。水洗いして三枚に下ろす。腹骨をとり、背と腹に分けて血合い骨を切り放す。皮目をあぶり、氷水に落として粗熱を取る。水分をよくきり切りつける。焼いた香りと皮・皮直下のうま味、身の食感が相まって非常にうまい。クリックで閉じますチヌの焼霜造り
クロダイのカルパッチョ 水洗いして三枚に下ろして皮を引く、血合い部分を切り落として出来るだけ薄く切る。皿ににんにくをなすりつけ(すり下ろしたにんにくをオリーブオイルに溶かし込んでもいい)、オリーブオイルを塗り塩コショウ、切り身を並べていく。並べ終わったらスプーンなどでとんとんとなじませて、上からも塩コショウ。オリーブオイルをかけて好きな青みを散らす、野菜類を載せるなどする。クリックで閉じますクロダイのカルパッチョ
クロダイのマリネ 刺身を作ると必ず中途半端な部分が出る。これを集めて置く。小さめに切り、塩とクラッシュ黒コショウでしめる。半日ほどしめてライムと油(ここではグレープシードオイル)でマリネする。ここに野菜を合わせる。クリックで閉じますちぬ飯南予風 たれ(煮きり酒、煮きりみりん、しょうゆ、少量のだしを合わせたもの)と溶き卵(卵黄だけでもいい)を混ぜ、切り身を漬け込んだものをご飯にのせて食べる。さらさらとご飯がよくすすむ。また2杯目は湯もしくは茶を注いで食べてもいい。クリックで閉じますクロダイの兜焼き(塩焼き) 水洗いして頭部を梨子割りにする。振り塩をして1時間以上寝かせる。これをじっくりと焼き上げる。時季のものなら内側から染み出した脂で皮と身を揚げるように焼き上がる。身はしっとりと甘味があってとても味わい深い。柑橘類、大根下ろし、しょうがなどお好みのものを添えて。クリックで閉じますチヌの塩焼き
クロダイの木ノ芽焼き 漁の最盛期が山笑う時期でもある。ここでは出盛りの山椒の芽(木の芽)を香りづけにする。水洗いして頭部を梨子割りにする。振り塩をして1時間以上寝かせる。水分をよく拭き取り、じくりと焼き上げる。8分通り焼き上がったら酒を塗りながら仕上げ、最後に木の芽を散らして少しだけ焼く。クリックで閉じますチヌの木ノ芽焼き
クロダイの白みそ漬け(西京漬け) タイ科なので筋繊維が発達していて、身のほぐれ感が楽しめる。ただ焼くと硬く締まる傾向にある。このあたりが回遊性の高いサバ科の魚との違いだ。みそ漬けのみそは塩分濃度が低い方が柔らかく漬け揚がる。切り身にして水分をよくきり、白みそにみりんを加えた地で半日以上つけ込む。写真は24時間。焦がさないように焼き上げる。程よく身が締まり、白みその甘さと魚のうま味が相まって実に美味。クリックで閉じます
クロダイの白子焼き 春の白子もとても美味である。ここでは白子を取り出して塩をして密閉保存。取り出して水分をよくきり、焼き上げたもの。中はクリームで甘みがある。後味がいいのも魅力的だ。クリックで閉じますクリックで閉じますチヌちり鍋
クロダイちり鍋(鯛ちり) ちりは身をだしに入れたとき、ちりりと身が縮むからなどというが、由来語源は不明。水洗いして、二枚に下ろして骨つきの方を適宜に切る。これを湯通しして、冷水に落とし鱗やぬめりなどを流して、よく水をきっておく。昆布だしにあらを加えてだしをとり、酒、塩で味つけして汁を作る。この汁で切り身と豆腐、野菜を煮ながら食べる。見た目を気にしないならあらも一緒に煮ながら食べるとより美味。
クロダイの兜焼き 割烹料理の基本である、たまり醤油を使った煮つけ方で作った。梨子割りにした頭部は湯通しして冷水に落とし、残った鱗やぬめりを流す。これを酒・砂糖・濃口醤油・たまり醤油・水で煮上げる。こってり味に見えるが実は煮染まっているわけではなく、調味料は身は白い状態である。煮汁をからめながら食べる。クリックで閉じますチヌの兜焼き
クロダイのあら煮 4月の抱卵個体を刺身、塩焼きで食べた残りのあら、真子(卵巣)、肝などを煮つけにする。あらは湯通しして冷水に落として残ったぬめりや残った鱗を流す。水分をよくきり、酒・砂糖・醤油・水で煮る。あらからいいだしが出て、頭部を始めすべておいしい。また真子・白子も美味。卵巣は火の通りが悪いので食べないという地域が少なくない。要注意かも知れぬ。クリックで閉じますチヌのあら煮
クリックで閉じますチヌの真子煮
クロダイの真子煮 真子を食べない地域は少なくない。火の通りが悪いからとか、当たるからとかの理由が見られるが、実際にはとても味わい深い。
春の大型個体の多くが真子を抱いている。クロダイの真子・白子はとてもおいしい。真子は適当に切り、湯に落として開かせておく。水分をよくきり、酒・砂糖・醤油・水でさっと煮る。煮て冷めるまで鍋止め。鍋止めすることで卵粒が適度にしまる。ほっこりして甘くとても味わい深い。
卵巣は火の通りが悪いので食べないという地域が少なくない。要注意かも知れぬ。
クロダイのフィッシュ&ティップス 非常に緻密で豊潤な白身なので、揚げると表面のぱりっとした食感との対比が面白い。水洗いして三枚に下ろし、腹骨と血合い骨を取る。塩コショウして小麦粉をまぶし、衣(小麦粉・重曹・油・水)をつけて揚げる。ジャガイモと一緒に揚げたものがフィッシュ&ティップスである。ご飯にもなる。クリックで閉じますクロダイのバター焼き(ムニエル) 三枚に下ろして適宜に切る。塩コショウして小麦粉をまぶし、これを最初は油でじっくりとソテー。皮目がこんがりと香ばしくなったら、マーガリン(バター)を加えて仕上げる。パセリや乾燥ディルなどを使うと豪華に見える。また柑橘類もいい。パンに好相性だが、最後にしょうゆを振るとご飯によく合う。クリックで閉じますクロダイのムニエルサラダ添え
好んで食べる地域・名物料理
雑煮 千葉県内房では秋になるとチンチン(25㎝以下)を雑煮のだしに使う。
産後に食べる 愛媛県西条市ではチヌ(クロダイ)かキビレ(キチヌ)は「産後の乳の出がいい」、と産褥期の母親に食べさせる。
ちぬ飯 はクロダイの炊き込みご飯。瀬戸内海周辺では1尾丸ごと炊き込むが、一般家庭では半身、もしくは切り身を炊き込む。切り身に振り塩をして少し寝かせて、水分を拭き取り、少し干したものを炊き込むとうま味が強く出る。柑橘類や青じそ、ねぎなどお好みの薬味で。
干もの 三重県鳥羽市小浜ではカイズ(25〜30cm)を干ものにする。非常に人気が高い。関連コラム(郷土料理)
産地不明クロダイで鯛ちり
千葉県内房竹岡産に味をしめたので、地元、八王子の市場で、こんどは活け締めのクロダイを買う。産地不明で1.5kgもある。 刺身にして、煮つけにして、塩焼きにしてと・・・ 続きを開く加工品・名産品
ー釣り情報
■ 陸からの釣りというと、防波堤(関西では波止)、磯などからという手軽さから根強い人気がある。陸からの釣りには浮き釣り、ふかせ釣りなど。沖の防波堤などでは落とし込み釣り(一種のふかせ釣り)。
■ 湾内などにイカダ、小舟をとめての釣りもある。
■ 関東では内房などで船釣りが行われている。コマセを使い、天秤仕掛け。
■ 餌は多様。オキアミ、カイコのさなぎ、カニエサ。
■ 真夏にだけ行われるスイカエサのパックン釣りなんてのもある。歴史・ことわざ・雑学など
出世魚 関東では成長に伴って呼び名が代わる出世魚でもある。
ちぬ 「チヌ」と呼ぶ地域が多く。出雲風土記に「鎮仁(ちに)」、和名抄に「知沼」。
幸田露伴 釣りの対象魚の代表的なもののひとつで、明治の頃の東京湾隅田川河口での本種を釣る様子は幸田露伴の短編にも描かれる。
黒鯛(ちぬ)を賞味 〈霊亀二年(716)、元正天皇の和泉離宮(珍努宮)造営の理由の1つに、特産の黒鯛(ちぬ)を賞味することがあげられていた。当時大阪湾は茅渟(ちぬ)の海と呼ばれるほど黒鯛が多かった〉『日本人と魚』(長崎福三 はる書房 1991)
茅渟の海 関西では「ちぬ」というが、大阪湾を古くは茅渟(ちぬ)の海といったというその「茅渟の魚」ということだろうか?
真水で生かせる 湾内や河口に多いのだけれどときにまったくの淡水域にも上る。そのため築地など市場では冷蔵庫のない時代には真水で活かせる魚と言うので重宝したという。
葬式に出す 神奈川県小田原市、二宮町などでは葬儀のときに出す料理、精進落としにクロダイを使う。やはり「黒=不祝儀」なのだと思う。
神道では葬儀に黒鯛(黒)を供える 神道(神式)の葬儀にはクロダイを供えることが多い。[神奈川県小田原市・伊勢原市]
クロダイを忌避・避けて食べない堕胎 〈妊婦食ふときわ堕胎(はんさん)す〉。『魚鑑』(武井周作 天保辛卯 1831)
微毒有り 〈肉には微毒あり、血を損なう。産後や瘡(できもの)のある人はもっともこれを忌む。尾の長いものを海津(かいず)〔加伊豆〕という。毒が甚だしい。〉『和漢三才図会』(寺島良安 正徳3年/1713 東洋文庫 平凡社)
血を荒らす 〈クロダイは血を荒らすといって妊婦に食べさせない地方が多いが、その反対に血を洗うといって特別に食べさせる地方もある。〉『鮓・鮨・すし すしの辞典』(吉野ます雄 旭屋出版)関連コラム(歴史)
クロダイの真子食べる? 食べない?
昔、千葉県勝浦市へスルメイカ乗り合いに乗ったとき、荒天でなんと客はボク一人だった。 今ではケータイがあるからドタキャンできるけど、海が荒れていると宿泊して翌日に・・・ 続きを開く参考文献・協力
『日本産魚類検索 全種の同定 第二版』(中坊徹次編 東海大学出版会)、『魚』(1940 田中茂穂 創元社)、『さかな異名抄』(内田恵太郎 朝日文庫)、『魚類学 下』(落合明、田中克 恒星社厚生閣)、『新釈魚名考』(榮川省造 青銅企画出)、『魚と貝の事典』(月賢二 柏書房」)、『日本の海水魚』(山と渓谷社)、『島根のさかな』(島根県水産試験場 山陰中央新報社)『新釈魚名考』(榮川省造 青銅企画出版)、『高知の魚名集』(岡林正十郎 リーブル出版)、『あいちの水産物 ハンドブック100』(愛知県農林水産課)、『鮓・鮨・すし すしの辞典』(吉野ます雄 旭屋出版)