
和名の「虫食い」は葉などを虫の幼虫が食べた跡のことで、「虫食い状態」とか、紋などに使われるもの。体側の独特の線形文様を表したもの。アイゴは、アイヌ語で棘のあるイラクサを「あい」という。ここから「あい」は棘のある、「ご」は魚を表す語尾だ。英名、Vermiculated spinefoot のVermiculated は線形の動物であるミミズや線虫などが這い回った跡(曲がりくねった形)を思わせる模様や造形のこと。もしくは虫そのものが蠢く様という意味だ。『日本産魚類検索』(岡田彌一郎、松原喜代松 三省堂 初版1938)にも蠕虫が出て来ているのは当時の魚類学者が英名を知っていたからだろう。さすがに蠕虫アイゴとつけては問題だと考えた上での「虫食い」だということがわかる。ちなみに1938年は第二次世界大戦の敗戦前で臺灣を統治していたとき。本魚類検索には現国内は生息域に入っていないことから、台湾(臺灣)の標本を基に標準和名がつけられていたことがわかる。spinefoot は直訳すると刺のある足になるが、足ではなく鰭のことで鰭に刺があるという意味。

もともとの鰍・杜父魚(かじか)は河川にいる標準和名のカジカ属のカジカ、ウツセミカジカ、カマキリのことだ。またハゼ科の魚との混称もある。これは「ごり」が石川県金沢でハゼ(ウキゴリなど)でもあり標準和名のカジカでもあることと同様だ。『和漢三才図会』(寺島良安 東洋文庫 平凡社 正徳2年 1712)に、かじか、ごりの多いところとして〈いま加州(加賀のことで現石川県)の浅野川に多くいる。〉がある。季語では秋のもので、〈河川にすむ渓流魚で、石にはりつくので石伏魚(正しくはハゼ科の魚だと考えている)の名もある〉、〈鰍突く〉も季語である。『物類称呼』(越谷吾山著 安永4/1775 解説/杉本つとむ 八坂書房 1976)では杜父魚(とふぎょ)が出てくる。大言海には〈ちかちかかぶりヲ上下に略シタル語ナルベシ〉。「ちかちかかぶり」は「ちちかぶり」と同じで〈かぢか(鰍)ニ同ジ〉。古名を「ちちかぶり」。〈淡水ニ産ズ〉ともある。海にいるカジカは千島、函館、青森などで「うみかじか」とされていた。『帝国博物館天産部魚類標本目録.帝国博物館』(石川千代松・松浦歓一郎 1897/明治30年)海にいるカジカ科の魚は非常に多く、大型の種の多くが食用となっている。一般にカジカというと淡水魚という概念があるが、水産の世界では「うみかじか」すなわち海産のカジカ科、ケムシカジカ科の魚である場合が多い。