梅雨前のワカシ愛し、また恋し

ワカシの平凡な味こそ、愛しい味だし、恋しい味なのだ


小学校低学年のとき、いとこい(夢路いとし・喜味こいし)のよさがわからなかった。高学年になって好きになったのだけど、評論家で小説家、小林信彦の述べるところの、0.5秒のよさ、平坦な芸の真味がわかるようになったのだと思う。
変な例えを初手から長々と、だけど要するにワカシ(ブリの幼魚)のよさは、若いとき(小学校低学年)ではわからないもので、人生の道のりを経てわかるもの、だ。
歳のせいもあるけど、最近、持ち帰ったその日とか翌朝とかのワカシが、とても好き、好きすぎて困っている。

だいたい、刺身がよいのである。
脂があるわけでもないし、食感などほとんど望めない。
ちょっと酸味があって、なだらかなうま味が後に続く。
山場のないドラマのような味だけど、ついつい箸が伸びる。
この平凡なよさがわかるようになって、初めて魚の真味を知った気がする。
ついでにいうとワカシの味のよさがわかったとき、魚の味に順番をつけるバカらしさとか、愚かさを知った気がする。

ワカシの焼霜造りは40代の若い衆もうなる味


さて、仕事を取りにきた若い衆に、焼霜造りを作る。
4枚を半分ずつ食べてみたけど、若い衆は「脂がありますね」という。
お腹の中からうまそうな小魚がいっぱい出て来た。コイツ、うまいもんばんばん食っているんだろうなという、そんな若さみなぎる味にちょっと感動する。
しかも確かに焼いた皮に脂が感じられる。

なめろうは鳴門の大渦潮のような味


そして「なめろう」である。「みそたたき」でもいいけど、外房風に酢を使ったので「なめろう」だろう。
あら、まあ、ワカシって味に底力があるのね、という感じだ。
今回はしょうが、にんにく、ねぎ、みょうが、大葉を全部ぶち込んで、鳴門の渦潮のような味だけど、ついつい昼なのにビールを飲んでしまいそうになる、そんな魅力があった。
ちなみに3品を食べると、「龍馬がゆく」を全巻読んだ感じがする。

人の口に直接入らないという意味の未利用魚、それがワカシ


5月9日の神奈川県小田原魚市場は、二宮定置はぐちゃぐちゃと多種類の魚が、しかもたっぷり揚がっていた。
中にワカシ(体長18㎝・90g前後)が混ざっていた。ワカシばっかりなら売れるけど、ざったな魚に斑模様に混ざっていると売れない。
夜光虫に食われトゲトゲの骨が飛び出した魚の間からワカシを4尾ほど救出してきた。
ワカシくんのダンベ救出大作戦だ。
これを刺身、焼霜造り、なめろうにした。


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