ホウライヒメジのムニエルはゴージャスな味
まっさきに香りを楽しむための、ルジェーのムニエル

ヒメジ科の魚をフランスでは、ルジェー(ルージェ、ルジェとも。Rouget)という。ルジェーは赤い魚という意味である。
ルジェーのムニエルやポワレは珍しいものではなくなっているが、昔はめったに巡り合えないものだった。
初めてルジェーのムニエル、もしくはポワレを食べたのは、まだ若造で、ただの便利な運転手のようにこき使われていたときだ。
フランス直送の素材を使っているという青山の店だった。
魚の写真を見た限りルジェーは、ヒメジ科アカヒメジ属まではたどることができた。
アカヒメジ属の魚はヒメジ科でもあまり大きくならない。
メニューの脇に「ヒメジのムニエル」とあったが、もちろん日本にいる標準和名のヒメジ属ヒメジとは属段階で違う。
最近、ヒメジ科のムニエル、ポワレは輸入素材が増え、国産のヒメジ科アカヒメジ属・ウミヒゴイ属の流通が増えたので珍しいものではなくなっている。
「ヒメジのムニエル」は「ヒメジ科の魚」と考えるとあながち間違いではないが、店での魚の紹介で、切り身にしてムニエルにならない小魚のヒメジの写真を添えていることが多い、これがなんとなく滑稽である。
見当違いですよ、と言いたくなる。
そのときの、ルジェーが実にまずかった。冷凍輸入したものだろうし、飾りが多すぎるしで、フランス料理の名店などくそくらえ、と思ったものだ。
実は、自分で作ると非常においしいのである。
今回のホウライヒメジはウミヒゴイ属で大型になるタイプ。
大きくなるとソテーにしにくいが、このサイズはソテーに向いている。
三枚に下ろし、腹骨・血合い骨を取る。
表面の水分をていねいに取る。
塩コショウして、小麦粉をまぶし、少し置く。
これを最初弱火でじっくりソテー、中火に上げて、仕上げる。
仕上げにタイムの枝とバターでモンテ(強火にして泡立てて塩コショウで味を調える)する。
皮は香ばしく、身は豊潤である。
最大の魅力は皮の風味と、身よりも遙かに強い甘味だ。
甘味がすぐに消えないのもいい。
身は端正な味である。
柔らかな筋繊維が束になっていて、口の中でほどよくほどける。
いけないと思いながら山梨県の一升瓶赤をロックでやってしまう。
Vin rouge なので、赤 et 赤だ。