殻長8cm前後になる。丸みを帯びた三角形で殻頂付近がいちばん膨らみが強い。後縁は大きくなるに従い直線的になる。帯状の斑文を持つもの、黒一色のものなど色彩は多様。写真は丹後宮津産の大形で後縁が直線的。またこの宮津湾周辺のものは無紋で黄土色をしている。[東京湾]
ハマグリの生物写真一覧 (クリックで上に拡大表示)
-
珍魚度・珍しさ
★★★
がんばって探せば手に入る魚貝の物知り度
★★★★
知っていたら達人級食べ物としての重要度
★★
地域的、嗜好品的なもの味の評価度
★★★★
非常に美味
分類
軟体動物門二枚貝綱マルスダレガイ目マルスダレガイ超科マルスダレガイ科ハマグリ亜科ハマグリ属外国名
学名
Meretrix lusoria (Roding,1798)漢字・学名由来
漢字 蛤、浜栗、文蛤、花蛤、波万久里、蚌 Standard Japanese name / Hamaguri
由来・語源/『目八譜』からだが、非常に古くからの呼び名で一般名としておくべきだと思う。
「はまぐり」の語源◆
浜栗 〈思うに、文蛤は海浜にいて形は栗に似ている。それで俗に浜栗という。〉『和漢三才図会』(寺島良安 東洋文庫 平凡社 正徳2年 1712)
文蛤、花蛤、油貝 〈灰白色に紫黒文(もよう)あって花のように鮮明なので、文といい花という。また純褐(きぐろ)色のものがあって油貝という。〉『和漢三才図会』(寺島良安 東洋文庫 平凡社 正徳2年 1712)
■ 「はま」は「浜」、「ぐり」は「石」の意味。石が地中にあるに似ていることから。地方名・市場名 ?
ミミシロガイ[耳白貝] その他貝殻の白い物
アブラガイ[油貝] その他栗色の物
アヤハマグリ[文蛤] その他いろいろ文様の出る物
備考【色や文様によって呼び名が変わる】1貝殻の白いのが「耳白貝(ミミシロガイ)」。2栗色のを「油貝(アブラガイ)」。3いろいろ文様の出るのを「文蛤(アヤハマグリ)」。
テッパツ
サイズ / 時期5年ものの大型 備考すし屋が一枚づけにする5年ものの大きなハマグリを「テッパツ」。生息域
内湾性。淡水の流入するところで干潟から水深12m前後まで。
北海道南部から九州。生態
産卵期は5月から10月。
孵化した卵はベリジャー幼生というプランクトン期を経て稚貝になる。
水管根元分の粘液線から多量の粘液を出し、これが1メートル〜3メートルの紐状になり。
潮流(潮の流れや、波など)を受けて海底上30センチ〜1.5メートル浮き上がり移動することができる。
珪藻類、有機物などを漉し取って食べている。基本情報
国内の内湾でとれる二枚貝の代表的なもの。ひな祭りや婚儀に利用されていた。
食用だけではなく「貝合」などの玩具に、また「ぐれる」などの語源いなるなど様々な分野に登場している。
江戸時代江戸の町には深川、上総などから貝売りがやってきていた。中でももっとも上等のものが江戸湾で揚がるハマグリだった。現江東区には「深川蛤町」まであって、江東区が二枚貝の集積で江戸時代には重要な地であったのがわかる。
国内で激減している二枚貝で、青森県陸奥湾、東京湾東京都・千葉県、三河湾、伊勢湾、京都府宮津、大分県、熊本県などが産地。
市場で見る限り、一般的に売られているハマグリは九十九里などの地はま(チョウセンハマグリ)、台湾・中国などからのシナハマグリ、ミスハマグリにとって代わられている。本種はとても特殊なもので手に入れにくくなっている。
珍しさ度 消費地ではめったに見かけることがない。珍しい貝とまではいかないが、入手困難な二枚貝である。水産基本情報
市場での評価 熊本、大分などから少ないながら入荷してくる。国産、輸入ものを問わず、ハマグリは大きさによって値段がつく。本種は比較的小振りであるために値段は安すい。
漁法 じょれん曳
産地 大分県、熊本県、京都府選び方
原則的に生きているもの。貝殻の表面がぬめぬめ、光沢のあるもの。滑りがなく、さらさらしている、色合いがさめて白っぽいものは古い。味わい
旨みが強く、火を通してもあまり硬くならない。栄養
ー危険性など
ー食べ方・料理法・作り方 (基本はオススメ順掲載です)
ハマグリの料理・レシピ・食べ方/汁(すまし汁、みそ汁、みそ汁をご飯にかけた『深川飯』、鍋、スープ、ブイヤベース)、焼く(焼きハマグリ)、煮る(煮貝、佃煮)、ソテー(アヒージョ、卵焼き)、飯(炊き込みご飯)クリックで閉じます
ハマグリの鍋 ザルなどに入れて流水で洗う。水分をよく切っておく。これを昆布だし・酒・塩のなかで温めながら食べる。鍋に入れて口が開いたら食べ頃である。食べるほどに鍋の汁のうま味が増す。最後に雑炊で締めても、ネギを加えて卵でとじてもいい。汁で日本酒を割って飲んでもおいしい。
吸いもの ひな祭り(雛の節句)の膳に「蛤」の吸いものは今でもつきもの。贅沢だが多めのハマグリを水から煮て、だしが出ると椀の数だけ取り出す。後の残りはだしをより濃厚にするために鍋にとどまらせておくとうまい汁になる。最後まで煮たハマグリも決してまずくはないが、まだ硬くならないうちに取り出した、ハマグリを椀に入れて汁を加えて供するとより美味である。クリックで閉じますハマグリの酒蒸し 小振りの熊本県産小型のハマグリを酒蒸しにしたもの。ザルなどに入れてざくざくと洗う。水分をよくきり、フタのできる鍋に入れて、酒を加えて火をつける。鍋をときどき揺らしながら貝のフタが開いたら出来上がり。軟体は非常に柔らかく、嫌みのない味わい。いくらでも食べられる。クリックで閉じます焼きハマグリ ザルなどにいれてざくざくと粗い。水分を切る。貝の表面に塩をまぶし、火にかけて塩が乾いてきたら貝が開く前兆。汁をこぼさないように取り、食べる。貝のうま味が濃縮されて適度に塩気がある。調味料なしでも十二分にうまい。クリックで閉じます焼きハマグリ
ハマグリのアヒージョ 剥き身にする。適当に切り、直火が使える小型の鍋などに大量のにんにく、オリーブオイル、唐辛子を入れて、振り塩をする。適当にかきまぜて火にかける。オイルが沸き立ってきたら出来上がり。ハマグリもうまいが、オリーブオイルがまた絶品。クリックで閉じます好んで食べる地域・名物料理
■三重県桑名では「焼きはまぐり」が名物。囃子文句に「その手は桑名の焼きはまぐり」。関連コラム(郷土料理)
加工品・名産品
■ 三重県桑名では「時雨煮(しぐれに)」、「時雨蛤(しぐれはまぐり)」が名物。これは伊勢名物の溜まり醤油でハマグリを煮たもの。囃子文句に「桑名の殿さん時雨で茶々漬け」。おむすびにも入れる。釣り情報
ー歴史・ことわざ・雑学など
季語 「雀海に入りて蛤となる」は秋の季語。
伝説 「すずめ蛤となる」:『夢蛤 電子版』(大阪市自然史博物館)
伝説 「爵(すずめ)大水に入り蛤となる」と礼記にある。
伝説 「蛤蜃気楼をはく」。夏に環境が悪くなるとゼラチン状の粘液(ひも)を出し、海流に漂わせて、その浮力で移動する。蜃気楼とはこの粘液のこと。
伝説 「蛤蜃気虹をはく」とも。
夫婦和合 殻のかみ合わせは、対になっているもの以外は合わないので夫婦和合の徴(しるし)とされ、結婚の祝い事に使われる。
祝い膳 八代将軍徳川吉宗が、結婚の祝い膳にハマグリの吸い物を出すことを発案した。
旬と祭事 ひな祭りには「ハマグリのお吸い物」という。現在でも雛祭の3月3日以前、1週間前後がもっともハマグリ類の出るとき。
貝桶・貝合わせ 娘が輿入れするときに貝桶を持たせる。これはハマグリの貝殻360個に源氏物語などの絵をかいたもの。
貝桶・貝合わせ 殻のかみ合わせは、対になっているもの以外は合わないので左右の貝を合わせ当てる遊技「貝合(かいあわせ)」、「貝覆(かいおおい)」が生まれた。右貝を「地貝(じかい)」、左貝を「出貝(でがい)」とする。「地貝」を並べ、出貝を一個ずつ出して合うのを当てる。
貝桶・貝合わせ 殻合は中世以降になると、便宜のため左右の貝に絵または歌を書いた。
グリハマ ハマグリのことを「グレハマ」と呼んだ。ハマグリを逆さまに呼んで「グリハマ」としたものがなまって「グリハマ」になったもの。ここから話が食い違うこと、わけのわからぬ者のことを「グリハマ」とも言う。
ぐれる 「ぐれる」とは予想通りにいかないこと、また非行に走ることをいうが。これも「グレハマ」すなわちハマグリの貝殻を逆さまにしても合わないことから来る。
夏のはまぐり 魚河岸の符丁に「夏のはまぐり」。意味は「身(見)くさり、貝(買い)くさらずで、ひやかし客のこと。
初午の蛤 初午にハマグリを食べると鬼気に犯されない。
胡粉 人形の顔などを白く塗る胡粉(ごふん)の材料。
俗語 「うち蛤のそと蜆ッ貝」、「内の中の蛤貝、外へでると蜆っ貝(しじめっかい)」『明治東京風俗語事典』(正岡容 有光堂 1957)/「うーちのなあかの蛤ッ貝、外へ出ちゃ蜆ッ貝」『幼少時代』(谷崎潤一郎 岩波文庫 初版は文藝春秋社1957)
外弁慶に同じで内では積極的で外では恐がりで引っ込み思案であること。
池波正太郎 「(少年の頃)……深川へ行くたのしみは、道の何処にでもある飯屋へ入って、新鮮な蛤を味噌で煮て飯へかけた深川飯を食べられることだった」『江戸切絵図散歩』(池波正太郎 新潮文庫)
深川蛤町 現江東区永代・門前仲町の一部。江戸時代から昭和初期まで市場があったところ。ハマグリの活け越しなどが行われていたのだろうか。
参考文献・協力
協力/中山陽一さん(京都府)、吉原努さん(東京都)
『日本近海産貝類図鑑』(奥谷喬司編著 東海大学出版局)