魚の呼び名学14 生まれて初めてつかまえた「じんぺい」と「じんぞく」

江戸時代から残っている「じんぞく」


徳島県美馬郡貞光町(現つるぎ町)の商店街で生まれて、3歳くらいから貞光川で魚とりをやりはじめた。
写真下は貞光川左岸貞光町東浦。
中央にあるのが旧町営住宅で、いちばん奥の家に日中預けられていた。
この家から坂を下り、川までの階段を降りて、生まれて初めて魚とりをした。

その最初の魚が「じんぞく」であり、「の(う)みんじゃこ」だ。
「のみんじゃこ」は別項をたてる。
「じんぞく」は旧ヨシノボリ(現カワヨシノボリ)のことで、日本手ぬぐいを広げてつかまえた。
それを見ていた、幼なじみが、「それは『じんぞく』の子で『じんぺい』じゃ」と言った。
幼なじみは川まで数メートルの町営住宅で生まれ育っていたので、より川との関わりが深かったのだと思う。
ちなみに、カワヨシノボリの成魚は川底にいて幼児がつかまえるのは難しく、稚魚は浮遊しているので幼児でも簡単につかまえられたのだ。

学生時代にボクが勝手に神保町大学と呼んでいた古書店で、「じんぞく」を調べたら、江戸の百科事典でもある『和漢三才図会』(寺島良安 正徳2年/1712)にあり、江戸時代の方言を集めた『物類称呼』(越谷吾山著 安永4/1775)にもある。
ともに四国での呼び名としているが、『物類称呼』は『和漢三才図会』を本にしていると思われる。
寺島良安は1700年前後に活躍した、大坂(現大阪市)の医師である。
渋沢敬三の『日本魚名集覧』(1942〜1944)には、より詳しく、吉野川、徳島県美馬郡脇町(現美馬市脇町)での呼び名としてある。
この「じんぞく」と呼ぶ地域は美馬市(旧美馬町・脇町)、つるぎ町(旧貞光町・半田町)周辺では確認しているが、県内ではまだ確認していない。

貞光川で川魚と関わった人間にとって「じんぞく」は母語だ。
また一次的魚名(言語そのものに意味がない)らしく、だれに聞いても、意味がわからない。
「じんぺい」の「ぺい」はたぶん、「平」で「じんぞく」よりも軽いとか小さいという意味だろう。
こちらを覚えている人は今はほとんどいない、ようだ。
当時、「じんぞく」を食べる人は町内では希であった。
現在でもほとんどいないだろう。
ちなみに2025年、まだ「じんぞく」という呼び名は生きている。

コンクリート護岸で生物が激減した


貞光町東浦、写真の堤防の見た目の構造自体は昔のままだ。
1974年の台風で我が故郷、貞光川が氾濫した。
もともと田があったばしょに中学校ができ、自動車学校ができたが、浸水してしまった。
このとき洪水防止の目的で建設省が貞光川を完膚なきまで破壊した。
町営住宅前の勧農(かんのう)という石を金網で包んで沈めた構造物や、石積みの護岸をすべてコンクリートで固めた。
写真奥、土井の岸にあった豊かな林も住宅地となり、消えてしまった。
貞光川の上流域もコンクリートで固め尽くしたので、山の土砂が川に直接流れ込み、川原の石と石の間に入り込んだ。
今や、川原に生えるはずのない雑草がうっそうと茂っている。
「じんぞく」をはじめ、貞光川の在来種は魚だけではなく、昆虫までもが激減した。
ミズカマキリなどは絶滅したかも知れない。

洪水を防ぐためとして、貞光川、本流である吉野川のクルミや孟宗竹の林は遊水区域までコンクリートで固め尽くしている。
今も続くこの河川工事はあきらかに間違っている。
川の水を逃がすための場所に道路を造り、宅地化したために、守らなければならない面積が増え、それを高い堤防で防いでいる。
最近の水害をみればわかるとおりに川の氾濫(外水氾濫)も問題だが、より深刻なのが内水氾濫だ。内水氾濫と外水氾濫が同時に起こっていることが危険なのである。
幸いつるぎ町は線状降水帯の被害もなく来ているが、このようなコンクリートだらけの旧態依然とした自然の摂理を無視した護岸で、先々町は大丈夫なのだろうか?
わずかに残っている「じんぞく」たち貞光川の在来種も大丈夫かな?
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