体長50cmを超え、トビウオではもっとも大型になるもの(世界最大種)。細長く断面が角張っていて、側面から見ると頭部と尾に近い部分のみ体高が低くなる。胸鰭の前方から2本(1本目は痕跡的で指の感触でわかるのみ)までが不分枝で、胸鰭は暗色。
ハマトビウオの生物写真一覧 (クリックで上に拡大表示)
-
珍魚度・珍しさ
★★
少し努力すれば手に入る魚貝の物知り度
★★★★
知っていたら達人級食べ物としての重要度
★★★
一般的(流通量は普通)味の評価度
★★★
美味
分類
顎口上綱硬骨魚綱条鰭亜綱新鰭区新骨亜区正新骨下区棘鰭上目スメグマモルフ系トウゴロウイワシ亜系ダツ目トビウオ亜目トビウオ科ツクシトビウオ属外国名
学名
Cheilopogon pinnatibarbatus japonicus (Franz,1910)漢字・学名由来
漢字 浜飛魚 Hamafuefuki
由来・語源 「はま」は幅(はば)であり、同じ仲間(科もしくは属)の中でも、大きいことを意味するのではないかと考える。すなわち、トビウオの中でも大型だ、という意味。他の例としてはハマダイ、ハマフエフキなど。
トビウオは翼のような胸鰭で海上を滑空することから。
〈合内顎亞目トビウヲ科トビウヲ屬ハマトビウヲ Cypselurus japonicus (FRANZ)〉『日本産魚類検索』(岡田彌一郎、松原喜代松 三省堂 初版1938)
ハマトビウオ属(Cypselurus)から、2023年にツクシトビウオ属(Cheilopogon)に変わる。地方名・市場名 ?
生息域
海水魚。海の表層域。
希に石狩湾・北海道太平洋沿岸、岩手県〜九州南岸の大平洋沿岸、屋久島、九州西岸、幼魚が奄美大島西方海域。
朝鮮半島西岸。生態
冬から春に産卵。基本情報
トビウオ科では最大種だが、ハマトビウオの「ハマ」の意味はわからない。一般的には大きいので「大トビ」、断面が正方形に近いので「角トビ」、春に入荷するので「春トビ」などと呼ばれることの方が遙かに多い。
主に太平洋沿岸に生息。関東以南の太平洋、九州沿岸で水揚げがある。主な産地は東京都諸島部(八丈島)、鹿児島県、宮崎県などだったが、近年関東近海の房総半島などから入荷してきている。市場には厳寒期から春いっぱいくらいまで入荷があり、最盛期は春。
大型なので発泡スチロールに丁寧に並べられ、1尾いくらで売り買いすることが多い。
伊豆諸島の名産品、くさやの原料としても有名である。
基本的な食べ方は古くは塩焼きであったが、近年は生食用に買われることが多い。トビウオの中でももっとも味がよく、用途が広いのも魅力的。関東の市場を歩いていると厳冬期に真っ先に入荷してきて「春遠からじ」という思いがする。
珍魚度 季節限定の魚であること、種の同定が非常に難しいことなので、それなりに入手は努力を要す。水産基本情報
市場での評価 新春から鹿児島県などから入荷が始まる。鮮魚としてはトビウオ類でもっとも値段が高い。値段はやや高値。
漁法 すくい網、定置網
産地 鹿児島県、東京都選び方
目が澄んでいるもの。触って硬いもの。味わい
旬は冬から春
胸鰭、腹鰭が邪魔になるので取り去ってから下ろす。腹鰭は手で抜ける。ともに担鰭骨が大きいのでここは切り取って置く方が皮などを引くときにやりやすい。
鱗は薄く取りやすい。皮は薄く、手でひっぱると取れる。骨は硬くない。栄養
ー危険性など
ー食べ方・料理法・作り方 (基本はオススメ順掲載です)
ハマトビウオの料理・レシピ・食べ方/生食(刺身、たたき、焼霜造り、マリネ)、揚げ物(フライ、唐揚げ)、煮る(塩煮、しょうゆ煮)、焼く(素焼き、塩焼き、風味焼き、干物)、汁(みそ汁)クリックで閉じます
ハマトビウオの刺身 近年は暮れになると入荷してくる。大型で、関東周辺で揚がるので鮮度がいい。これを先ず一番に刺身にする。脂があるわけではないので、背の青い魚のうま味そのものを楽しむものである。
胸鰭・臀鰭の翼を切り、三枚に下ろす。腹骨をとり、鮮度がいいと血合い骨は取りにくいので切り落とす。皮を引き刺身にする。
脂の口溶け感からくる甘味こそないものの、口に入れると濃厚なうま味が口中に広がる。うま味が長続きして口の中でダレない。
ハマトビウオのなめろう トビウオ類は脂が少なく、うま味豊かではあるが、どちらかというと淡泊な味わい。ここにみそと香辛野菜の味わいをプラス。三枚に下ろして腹骨のみ取り、小さく切り、みそ、ねぎ、みょうがなどを合わせて切れる包丁でたたく。青魚の持つ風味ががたたいてみそと合わせることで十二分に感じられる。日本酒にとても好相性。クリックで閉じます
ハマトビウオの焼き切り(焼霜造り) 三枚に下ろして血合い骨と腹骨を取る。皮目をあぶって氷水に落とし、粗熱を取る。皮を傷めないようにていねいに水分を取り、皮目を落ち着かせるために少し冷蔵庫で寝かせる。皮が落ち着いたら刺身状に切る。やや淡泊なトビウオの味わいに皮目の香りと味わいがプラス。いい酒肴となる。クリックで閉じますハマトビウオのたたき 三枚に下ろして皮を引く。腹骨、血合い骨を切り取り細かく切って、香りのある野菜(ねぎ、みょうが、青じそ、しょうが)と合わせたもの。これに柑橘類としょうゆをふって食べる。爽やかな味わいのなかにトビウオの風味が感じられたバランスのいい味わい。クリックで閉じます
ハマトビウオのづけ 醤油とみりん、ねぎやしょうがと和えて寝かせたもの。水洗いして三枚に下ろす。腹骨・血合い骨を取る。皮はそのままでも、引いてもいい。ねぎ、しょうがなどの野菜と和えて、醤油・みりんを合わせた地に漬け込む。当日はそのまま翌日はお茶漬けにする。クリックで閉じますハマトビウオの柑橘類のマリネ 水洗いして三枚に下ろして小さめに切る。これを塩と柑橘類(あまり甘くないもの。写真はハッサク)の果肉と塩、太白ごま油でマリネする。トビウオの少し上品すぎる味わいと爽やかな柑橘類とさらっと軽い油で緩和したもの。クリックで閉じます
ハマトビウオのセビチェ 夏らしい強い辛味と塩味、ハマトビウオの青魚の豊かなうま味を足し算した料理である。水洗いして三枚に下ろす。腹骨・血合い骨をとり皮付きのまま細かく切る。これを塩・ライム・辛い唐辛子で和えて1時間くらい寝かせる。辛味がお好みで。クリックで閉じますハマトビウオのフライ 背の青い魚なので皮目に独特の風味があり、身に甘みがある。アジフライ以上においしいトビウオフライが作れる。水洗いして三枚に下ろして腹骨を取り、血合い骨をていねいに抜く。塩コショウして小麦粉をまぶし、溶き卵にくぐらせてパン粉をつけてかりっと揚げる。香ばしいなかに適度に締まった身のおいしさが光る。クリックで閉じますハマトビウオの竜田揚げ 水洗いして、三枚に下ろし、適宜な幅に切り、みりん、しょうゆの地につけ込んで唐揚げにしたもの。にんにく、しょうがなどの風味をつけてもいい。揚げてほどよく締まった身にうまみがある。クリックで閉じますハマトビウオの煮つけ東京下町風 二枚に下ろして鍋の大きさに合わせて切る。鍋に水、しょうゆ、砂糖を合わせて煮る。過去の煮汁が残っていたら(保存しておくと便利)それに、水、しょうゆ、砂糖を足して使って煮る。東京の味は現在のところ、あまり残っていない。希少だと思う。トビウオはこってりと煮た方がうまい。また水・酒・しょうゆで煮てもいいし、水・酒・みりん・しょうゆで煮てもいい。煮ることでやや強く締まるが身離れがいい。クリックで閉じますハマトビウオのまーす煮(塩煮) 「塩煮(まーすに、まーすにー)」は小振りの魚を丸のまま塩味で煮つけるもの。少量の泡盛を加えてもいいが、本来は水気がなくなるくらいに煮上げる。現在では汁気多めに煮上げて、必ず豆腐などと煮る。トビウオはうまいだしが出て、また身離れもいいのでとてもうまい。豆腐がまた主役を食ううまさだ。クリックで閉じますハマトビウオのみりん焼き 水洗いして適当に切る。水分をよく拭き取り、振り塩をして少し置く。これをじっくり焼き、九分通り火が通ったらみりんを塗りながら色づけする。みりんの香りと皮目の風味が際立ち美味。クリックで閉じます好んで食べる地域・名物料理
ー関連コラム(郷土料理)
加工品・名産品
釣り情報
ー歴史・ことわざ・雑学など
盆だて 「八月六日ころまでに、嫁が実家に、そうめんを重箱いっぱいと、とびうおの塩干ものを重箱のふたを逆さにした上にのせて持って行く。実家では半分を受け取り、残りを返す」。(大阪府旧南河内山村 トビウオ種不明)
お盆に食べる お盆には塩干しとびうおの焼いたものと、じゃがいも、焼き麩、湯葉、かんぴょうの煮ものを食べる。(大阪府旧南河内山村 トビウオ種不明)
市場では種を区別 「私ら市場関係者は、取引を簡明にするため、魚体の大小を区別している。成熟魚(大型 かくとび)を角飛、次を中飛(ちゅうとび)、小型は蠅飛(はいとび)」。角飛がハマトビウオだ。『干もの塩もの』(石黒正吉 毎日新聞社)
焼く魚 〈比目魚、鰈、鮎並、鰺、鱈、鯡、鮫、生節等は皆煮つけで、焼くのは蒸し鰈、魴鮄、鰯、飛び魚くらいであたが、煮肴は私は嫌いであった〉『幼少時代』(谷崎潤一郎 岩波文庫 初版は文藝春秋社1957)関連コラム(歴史)
谷崎潤一郎にみる明治の魚食事情 塩焼き編
谷崎潤一郎は明治19年(1886年)生まれで、成人して文学者となるまで、明治時代の東京を生きた。生まれは下町、日本橋蛎殻町(在の中央区日本橋人形町)で豊かさと貧・・・ 続きを開く参考文献・協力
『図説有用魚類千種 正続』(田中茂穂・阿部宗明 森北出版 1955年、1957年)、『日本産魚類検索 全種の同定 第二版』(中坊徹次編 東海大学出版会)『商用魚介名ハンドブック』(日本水産物貿易協会編 成山堂)、『歳時記語源辞典』(橋本文三郎 文芸社)、『日本産魚名大辞典』(日本魚類学会編 三省堂)、『聞書き 大阪の食事』(農文協)、『南大阪の伝統食』(小林至編著 大阪公立大学協同出版会)、『聞き書 鹿児島の食事』