体盤長(尾を除く)80cm以上になる。平たく口、鼻、鰓孔は下(腹面)に吸水口(呼吸の海水を取り入れる)が背面にある。鱗(うろこ)はない。アカエイは目の後ろの噴水孔の付近は黄色い。体盤の正中線上に1列のトゲトゲがある。裏側の縁がオレンジ色だ。尾に一本の硬くて大きな棘がある。
アカエイの生物写真一覧 (クリックで上に拡大表示)
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珍魚度・珍しさ
★★★
がんばって探せば手に入る魚貝の物知り度
★★★
知っていたら通人級食べ物としての重要度
★★★
一般的(流通量は普通)味の評価度
★★★★
非常に美味
分類
動物界脊索動物門顎口上綱軟骨魚綱板鰓亜綱エイ区エイ上目トビエイ目エイ亜目アカエイ科アカエイ属外国名
学名
Hemitrygon akajei (Bürger 1841)漢字・学名由来
漢字 赤鱝、赤鱏、赤海鷂魚 Standard Japanese name / Akaei
由来・語源/エイの仲間で、「赤」は裏側が赤い(オレンジ色)だから。
田中茂穂 東京の呼び名。田中茂穂は〈東京でアカエイ、関西でアカエ又は単にエと云う〉。『図説有用魚類千種 正続』(田中茂穂・阿部宗明 森北出版 1955年、1957年)
物類称呼 〈江戸にて○あかえいと云 今按に 京にて○えぎれ(え切れ)といえるは 江戸にて 赤えいのたちうり(裁売) というに同じ〉。江戸時代に大きくなるアカエイを裁売(適当に切り売る)していた。同「まえい」もアカエイのことだと思う。〈まえい は上品なり 又 よこさえい は菱形にして色白し 故に まえいの血をぬりて裁売となす がんぎえいは下品なり〉」『物類称呼』(越谷吾山著 安永4/1775 解説/杉本つとむ 八坂書房 1976)
エイの語源片辺辺(かたへい) すなわち片側魚(片側だけになった魚)で赤いの意味。
柄 尾が長く桝の「柄」に似ていることから。アカエイを単に「え」ということは物類称呼などにもある。
出針 「出針(いではり)」から。
枝針( 「枝針(えはり)」から。
燕尾 尾の長いことを「燕尾(えび)」ということから。
アイヌ語 アイヌ語で棘を「ai」、東北でも“刺されていたいこと”、棘、針、茨、矢などを「あい」といった。「エイ」の語源はアイヌ語の「アイ」。
Dasyatis akajei (Müller and Henle,1841)→Hemitrygon akajei (Bürger 1841)
種小名/akajei ハインリッヒ・ビュルゲルが日本で採取した標本が新種として記載された。Bürger のめもには akajei(アカエイ)と書かれていたことからの命名。〉『日本産魚類全種の学名 語源と解説』(中坊徹次・平嶋義宏 東海大学出版部 2015)Bürger
ハインリッヒ・ビュルゲル(Heinrich Bürger 1〜1858年)。薬剤師で生物学者。シーボルトの助手として生物の採取、研究を行った。アカエイを記載。地方名・市場名
生息域
南日本。水深3〜780メートル。浅い干潟などにも多い。
北海道全沿岸〜九州南岸の日本海、東シナ海、太平洋、瀬戸内海、小笠原諸島。
朝鮮半島西岸・南岸、台湾、中国渤海・黄海、東シナ海、南シナ海沿岸、タイランド湾、ピーター大帝湾、沿海州オルガ湾。生態
■ 卵胎生。交尾して仔魚を5月から8月の夜に5〜10個体生む。この時期に海辺に出かけると干潟などでも普通に子アカエイがみられる。
■ 浅い砂地、干潟などに生息。砂などにもぐっている。
■ エサは砂地などにいる甲殻類、環形動物。
■ 薄く平たい身体で獲物を伏せてしまって、その後ゆっくりとエサを食べる。
■ 尾にある棘には毒がある。基本情報
琉球列島をのぞく国内の浅場に普通に見られる大型魚。国内では多種類のエイを食べているが、もっとも一般的なもので、古く「真鱏(まえい)」などとも呼ばれていた。国内だけではなく朝鮮半島などでも重要な食用魚だ。
古くから人気のある魚で、例えば都市部は大きな湾に面していることが多いので、近場でたくさん揚がり、当然よく食べていた。ところが今では明らかに未利用魚となっている。
安くておいしい魚なのに、消費量が減ってきている。国内の内湾では未だにかなりの漁獲量があるのでとても残念だ。海辺の産地から山間部などにも送られていたようで、山間部では貴重なたんぱく源であった可能性がある。
煮付け用の魚として一般的な魚だった。煮て冷ますと煮こごりができる。また「ぬた」にもなるし、みそ汁にもなる。これが近年、鰭の洗い、肝の刺身、鰭のムニエルなど料理法も広がってきている。韓国料理では鰭の刺身(フェ)、肝の刺身などが喜ばれる。
珍魚度 珍しい魚ではないが、最近流通に乗ることがほとんど皆無といってもいい。よく食べる瀬戸内海沿岸とか大阪などで探す方が早いかも。普通の魚なのに探すと大変という変な魚である。水産基本情報
市場での評価 関東の市場では少ない。値段は安い。関西では韓国料理などの需要があり、活け、野締めなどしばしば見られる。
漁法 空バリ漁(空っ針、えいかん針、えい針)、底曳網、簀立漁(定置網)、定置網
浅海漁業では重要なもの東京湾、三河湾、大阪湾など干潟のある内湾でとれる。
切り身になって流通することも多いが、白い裏側に鮮やかな赤い色の帯があるのですぐにアカエイとわかる。選び方
柔らかいものは避ける。裏側の赤色の鮮やかなもの。味わい
旬は夏。
味は年間を通してあまり変わらない。浅場に移動するときにまとまって取れる。漁の盛期でもある。
鱗はなく、内臓も小さくきれい。皮も熱を通すと柔らかくなり、そのまま料理できる。骨は軟骨。軟らかい。
クセがなく適度に繊維質の白身。柔らかく口に入れると適度にほぐれる。鮮度さえよければ刺身になり、また各地で洗いにして楽しまれている。熱を通しても硬く締まらない。栄養
ー危険性など
アカエイの毒棘は長さ10cm前後と長く幅もある。先端部分はそれほど鋭くはないので、触っていて刺さることはあまりなく、干潟などを歩いているとき踏みつけたり、漁の時に誤って刺されたりすることが多い。刺毒があり、刺されると激しく痛み、腫れる。
おとなしい魚で向かってくることも攻撃を仕掛けてくることもない。干潟などを歩くとき、注意深く毒棘を踏まないようにすることが重要なのであり、無闇に怖がることはまったくない。食べ方・料理法・作り方 (基本はオススメ順掲載です)
アカエイの料理・レシピ・食べ方/煮る(煮つけ、煮こごり)、汁(みそ汁)、ソテー(ムニエル)、生食(刺身、肝刺身)、ゆでる(酢みそ和え)、揚げる(唐揚げ)クリックで閉じます
アカエイの煮つけ いちばんポピュラーな食べ方は煮つけだろう。内臓と尾以外は総て使える。皮付きのまま適当に切る。湯通しして冷水に落としてぬめりをていねいに流す。これを酒・砂糖・しょうゆ・水などでこってり甘辛に味つけした。甘味を加えず、薄味に煮ると微かに渋みのようなものが感じられる。好みの問題だが甘い方がご飯に合う。
アカエイの煮こごり 軟骨や筋肉にゼラチン質を多量に含んでいるため、煮つけを冷やすと見事な「煮こごり」ができる。これを翌朝、炊きたてのご飯にのせて食べると、まことにうまい。アカエイで作る煮凝りは魚類中最上級のおいしさだ。クリックで閉じますアカエイの鰭の干もの(えいひれ) 鰭の部分の干ものは本種の定番料理である。左右の薄い部分を強めに干すと軟骨の食感、その間の筋肉のうま味が同時に楽しめる。鰭を切り落とし、皮を剥く。水分をよく拭き取り、立て塩に5分つける。つけすぎると塩辛くなる。やや強めに干し上げる。クリックで閉じます好んで食べる地域・名物料理
酢みそ和え/東京都 ゆでて酢みそ和えは東京での古くからの家庭料理。
エイの煮つけ・煮こごり/奈良市 奈良市餅飯殿通りにある春日若宮大宿所(祭などに際して宿泊沐浴する場所)で行われる大宿所祭にアカエイの煮こごりがごちそうとして食べられた。
煮つけ/徳島県 阿南市橘水産の市場で聞いたところによると、アカエイは辛い唐辛子と煮るのだという。「ピリピリしてうまいんでよ」とのこと。実際に作ってみると、甘辛い煮つけよりも夏向きになる。
煮つけ(みそ味) 三重県鳥羽市小浜では一度焼いてからみそ・酒・水で煮る。
洗い 山口県北浦(日本海側)でしばしば見かけるもの。鰭などの皮を剥き、縦方向に切り、冷水でしめる。えぶたの煮つけ/和歌山県紀の川市 「えぶた」は鍋のふたのことだと思われる。煮て冷まして煮こごりにしている。この煮こごりを温かいご飯にのせて食べると実にうまい。[ますや飯店 和歌山県紀の川市]クリックで閉じますアカエイの煮つけ
アカエイの肝の刺身/大阪府鶴橋 コチュジャンと酢、ごま油と塩などで食べる。生臭さはなく、甘味をともなったうま味が口中を満たす。個人的にはごま油、塩がいいと思う。[よあけ食堂 大阪府大阪市鶴橋]クリックで閉じますアカエイの刺身
みそ汁/福岡県豊前地区 アカエイのみそ汁は日本各地で食べられている。実際に作ってみたら、旨みのある汁、そして軟骨のコリコリとした食感があって絶品だった。和歌山県、大阪府などでも同様。『聞き書 福岡の食事』(農文協同)クリックで閉じますエイの肝のおから/奈良県奈良盆地 エイの肝でおからを炒り煮。作り方はエイの肝を鍋などで煎り、そこにおから、にんじん、ごぼうなどを加えいりあげていく。味つけは砂糖としょうゆ。『聞き書 奈良の食事』(農文協同)クリックで閉じますエイのみそ煮/愛知県豊橋市 愛知県東三河地方ではアカエイをみそで煮るという。この地域で作られている豆みそ(西三河地方のとは別物だというが、実はよくわからない)で煮る。豆みそならではの酸味があって、アカエイの微かな渋みが消える。クリックで閉じますえいのどろぼう焼き 初夏に産卵のために浅瀬に来るアカエイで作る。ぶつ切りにして串焼きにし味噌をつけたもの。こんがり串焼きにして軟骨が香ばしい。〈泥をつけた棒ということで、料理の姿から名づけられたもの。〉『聞書き 三重の食事』お伊勢さんとその周辺の食べもの (農山漁村文化協会)クリックで閉じます関連コラム(郷土料理)
三重県伊勢、「えいのどろぼう焼き」
カエイの郷土料理は数知れずあると思っている。とりあえず農文協の聞き書シリーズの料理をじょじょに作り始めている。 三重県伊勢地方の「えいのどろぼう焼き」もそのひ・・・ 続きを開く煮つけの汁でおからをたく
煮つけの煮汁でおからを炒り煮する。この煮汁でおからの煮る、は日本各地で行われている、家庭料理だ。 関東などでは煮汁を保存して、魚の煮つけに何度も使うが、これをと・・・ 続きを開く湯がけ・長崎県の湯がけ
長崎県雲仙市小浜富津・平戸市度島で作られているもの。他の地方でも作られているはずだが、まだ情報を収集できていない。 地域によって魚種が代わる。 魚を皮付きのまま・・・ 続きを開く【さかな飯】アカエイの煮凝りでご飯
昔、東京市場築地場内の老人が、「エイの煮凝りで飯食うのがいちばんだね」と言った。実は医者に酒を止められた人が、「代わりに飯だ」ということで、たらこ、アジの塩焼・・・ 続きを開く加工品・名産品
ー釣り情報
ー歴史・ことわざ・雑学など
赤えい祭 中河内(東大阪市、八尾)では恩地神社の秋祭り(秋季例祭本宮祭)でアカエイの煮つけ、アカエイの煮つけの煮汁を使ったおからを食べる。
歳時記・季語 夏。
夏の魚 〈……昔から江戸前を代表する一風変わった「夏の魚」として珍重されてきた。……東京湾でも、コイのぼりがはためくころになると、浦安あたりで名物の「空っ針」によるエイ漁が始まる。〉『河岸の魚』(町山清 国際商業出版 1979 著者は天明年間より代々の魚問屋で八代目。明治38/1905年生まれ)
神の使い 大阪市浪速区にある廣田神社、神の使いはアカエイとされている。痔疾の平癒を祈願してアカエイの絵馬をささげる。
禁忌 長崎県雲仙市小浜・千々石の老人の話。野山に行く前にエイを食べるのはマムシに嚙まれやすくなるので禁忌だった。エイの肝をカメにいれ土に埋めとくとマムシが入るとも。[佐藤厚さん 長崎県雲仙市]参考文献・協力
『日本産魚類検索 全種の同定 第二版』(中坊徹次編 東海大学出版会)、『日本産魚名大辞典』(日本魚類学会編 三省堂)、『魚河岸の魚』(1975 高山久 日刊食料新聞社)、『魚の分類の図鑑』(上野輝彌・坂本一男 東海大学出版局)、『魚』(1940 田中茂穂 創元社)、『私の魚博物誌』(内田恵太郎 立風書房)、『さかな異名抄』(1966・単行本 内田恵太郎 朝日文庫)、『聞き書 福岡の食事』(農文協)