202311/27掲載

東京都台東区北上野『湯蓋』の佃煮

佃煮は東京湾の汽水域が生み出した

湯葢の佃煮

多くの文学作品に出てくるのが東京都内、千葉県西部の佃煮である。山本周五郎の『青べか物語』などをみても、庶民にとっての基本的な菜(副菜)だったことがわかる。
東京都をはじめ東京湾周辺には無数の海辺漁業(造語です)があった。汽水域ではたくさんの二枚貝が取れ、アミ類、シラタエビ、テナガエビ、スジエビなどに、アマノリ(アサクサノリ)、青のり(ヒトエグサやスジアオノリ)がとれていた。小魚としてはフナにモツゴや小型のハゼ類などもとる。
これを江戸時代初期などは塩で煮て軽く干し、やがて醤油が使われるようになり、19世紀になると上等な品にはみりんが使われるようになる。
東京湾周辺には汽水域や内湾の小型の水産生物を無駄なく使う食文化が生まれて、今に続いているのだ。
この小魚文化の主役的な存在である佃煮屋が急激になくなってきている。佃煮好きとしてはゆゆしき問題だし、汽水域が暮らしの場から、自然保護とか自然観察だけの場になるのもイヤダネーと思う。
だから今や貴重な佃煮屋めぐりをしている。
台東区上野、下谷から浅草にかけては取り分け佃煮屋の多い地域で、ボクが上京したての頃には無数の佃煮店があったと記憶する。家族が浅草暮らしをしていたので、田原町を中心に念入りに歩き回っているが、佃煮屋は普通の町に溶け込んでいた。
それが今や2軒、3軒と数えるほどになっている。
今回台東区北上野、『湯葢』で買った佃煮は、あみ、あさり、雑魚佃煮、昆布、おまけのスジエビ(テナガエビ)だ。
どれもいい炊き加減で保ちがよい割りにそれだけを食べても、箸が止まらなくなるほど味わい深い。無意味に、この店、22世紀まで残したいと思ったほどだ。

雑魚佃煮

雑魚煮

東京湾が江戸湾だった頃から、浅瀬である汽水域でたくさんとれたのが、海水魚ではなく淡水魚である。
主にコイ科の小魚とハゼ科の魚たちだ。
雑魚煮は東京を代表する佃煮であり、関東周辺部まで広がっている。
関東の食文化を考える上でも非常に重要である。
『湯葢』の雑魚佃煮は調味料が均等に染みこんでおり、あまり甘くない。

浅蜊の佃煮


二枚貝の佃煮はアサリ、バカガイ、アカガイが基本である。
中でももっともたくさん作られていたのがアサリである。
『湯葢』のアサリの佃煮は比較的煮方が甘く、食べやすい。

アミの佃煮


アミは非常に大きなくくりではエビの仲間といってもいいが、クルマエビやホッコクアカエビ(甘えび)とはかなり遠い縁しかない。
ガザミやズワイガニのカニとエビは近い存在だが、別の系統になる。
主にニホンイサザアミが川の河口域や汽水域で今でもとれており、多摩川河口などに行くと、今でも無数にいたりする。
これが江戸時代から続く醤油を使った佃煮の主役になったのは非常にたくさんとれたからだ。

テナガエビの甘い佃煮



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