秋田県横手市雄物川町、雄物川の「ためっこ漁」 1

「ためっこ漁」は人力だけで行う原始的なもの


2017年1月21日、秋田県横手市雄物川町、佐藤政彦さんの家に到着すると同時に川に向かう。
佐藤政彦さんは1945年、旧館合村(雄物川の右岸、現薄井・大雄)で生まれる。農業を営みながら、春はウグイ漁、夏から秋にかけてはアユ漁、冬には「ためっこ漁」を行っている。
雄物川方面を見ると一面の銀世界で冷たさに顔が凍る。
除雪されている地域は人があるけるが、少し離れるととても歩いていけない、そんな雪深さだ。
それでも佐藤さんたちは「暖かい日だな」などと笑っている。
雄物川は直線距離にしたら目と鼻の先だが、川原まではとても歩いては行けない。大型トラックターに乗って向かう。
「ためっこ漁」は佐藤さんを含めて3人で行う。
秋田県山間部の厳冬期の漁で一人ではとてもできない集団で行うものだ。
「ためっこ」は数カ所あるが、1日に1カ所ずつ上げていく。
古くは雄物川の各所に、農家の人達の無数の「ためっこ」があったはずである。

狙うのは「ざっこ」である。「ざっこ」とは「雑魚」のことで、主にコイ科の小魚のことで、特にウグイを指すのだと考えている。
雄物川ではサケやコイに対しての言葉だと思う。
貴重なたんぱく源である「ざっこ」をとる「ためっこ漁」はとても原始的なもので、歴史は非常に古いものと考えられる。
コイ科の小魚は、石のくぼみや、水際の木が沈み込む周辺などにもぐり込む習性がある。
これを利用したのが全国で行われているのが「柴漬け漁」である。
「柴漬け漁」は木の枝などを束ねて沈めておき、魚がもぐり込みやすい環境を作る。これをゆっくり上げて、下にたも網などで受けて取る。
この「柴漬け漁」を大がかりにし、固定化したものが「ためっこ漁」である。
取り分け秋田などの北国では、冬季になると「ざっこ」は川の冷たさを避けて岸のよどみなどに集まる。
そこに木の枝などを束ねたものがあると格好のねぐらだと思うのだろう。

白銀の世界から川原に降りるとやけに静かな水面に行き着く


12月に始まる「ためっこ漁」のために、若くすーっと伸びた柳の枝をたくさん集めて束ねておく。川の岸のくぼみなどに柳の束を根元が上流、枝を下流に流れと平行に、上から見ると長方形になるように並べていく。
柳の束を何層かに積み上げたら、上からシートをかぶせて、肥料袋で作った土嚢で押さえて止める。

「ためっこ」の周りを網で囲っていく


20日~ひと月そのままにしておくと、柳の束に「ざっこ」が集まり、枝の隙間などにもぐり込む。
この沈めた柳の束の周りをウケ(細長い袋状で奥に入ることは出来るが戻ることはできない構造になっている)のある網で囲っていく。
ウケは「ためっこ」の下流側の隅から、下流に向けて張る。

上からシートを外すと柳の束が現れる


川の流れに手をつけていると感覚がなくなるほど冷たい。
「ためっこ」の上の土嚢を岸に上げ、シートを外すと柳の束が現れる。

柳の束を揺らすと仮死状態の「ざっこ」が浮かんでは沈む


柳の束の間には無数の「ざっこ」がもぐり込んでいるので、ゆすり落としながら上げる。
思った以上にオイカワが多く混ざっている。
古く、「ざっこ」の主役はウグイであったが、本来いないはずのオイカワが同じくらい混ざっている。

長い袋状のウケをゆっくり引き上げる


ほとんど冬眠状態にあった「ざっこ」が腹をきらめかせながら、ゆっくりと袋網にそってウケに入って行く。
これをたぐって引き上げる。

水の入っていない容器に「ざっこ」を入れる


引き上げは一日に一カ所で、だいたい30kgほどの「ざっこ」がとれる。
これを袋などに入れて持ち帰るが活性が低いので、途中で死んでしまうことはがほとんどない。
比較的弱いオイカワですら死んではいない。当然、もともと生命力の強いウグイ、アブラハヤなどは冬眠から目覚めたのかうごめき始めている。
獲物は「だいとうあ(オイカワのことで大東亜戦争1937-1945の頃から姿を見かけるようになったため)、「くき(ウグイ、エゾウグイも含むと思われる)、「あぶらべ(アブラハヤ)」、モツゴ、タモロコ、「みごい(ニゴイ)」、1匹だけアカザが混ざる。違う場所ではフナ(ギンブナ)もとれるという。
本来の獲物はウグイとアブラハヤである。特にウグイは代表的な「ざっこ」だったようだ。
オイカワは稚アユの放流によっての移入。モツゴ、ニゴイ、タモロコなども移入したものである可能性が強い。

もう一度元通りの状態にもどして漁は終わる


漁は柳の束を元通りに水に沈め、ブルーシートで覆い、重しであるブロックを乗せて終わる。
思った以上に大がかりなもので、重労働である。
佐藤さんたちには末永く、この貴重な伝統漁を続けていただきたい。
また継承者が現れて欲しいとも思っている。


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