ちりめんとすだちで阿波徳島飯

見た目は質素だけれど、くったら安土桃山時代なのだ


「阿波徳島飯」とは徳島県産ちりめんと、徳島県産すだちだけで食べる飯という意味である。
大分県ならかぼすで大分飯でもええし、広島県ならレモンで広島飯とすればいいだろう。

スーパーで特売していたので買ってきた、徳島県産ちりめんはボウルに入れて湯をそそぎ、1、2、3くらいまで数えて湯を切る。
ほんの数年前までこんなことはしなかった、年を取ったと言うことだろう。
ボクの生まれ故郷、徳島県美馬郡貞光町(現つるぎ町貞光)で家族はこの湯を使った食べ方をしていた。
両親の親戚の多くは隣町の美馬町(現美馬市)にいたが、何人かが同様のことをやっていたので、「なんでお湯かけるんじゃ?」と聞いたら、「砂が混じっとるからじゃ」といった。当時、湯をかけて箸でちりめんを揚げると、茶碗の底に【希】にではあるが砂があったものだ。

ちなみにボクの生まれ故郷は県西部の山間部である。
すだち(分類的にはユズ)は県東部のもので、県西部に入ってきたのは意外に遅くて、1960年代はじめだと柑橘農家の叔父からきいたことがある。
ボクがすだちという植物を認識したのは、この木に抱きついて大変な目にあった小学校中学年のときだ。
だからボクが幼児の頃、すだちとちりめんはなかったかも。

もちろん当時のちりめんにはコウイカ(コウイカやシリヤケイカ)やツツイカ類(スルメイカなど)、クルマエビ科のアカエビ属、サルエビ、タチウオ、イワシ類(マイワシ、ウルメイワシ)、アユやフグ類、タツノオトシゴ類の稚魚などが混ざっていた。
ただ砂は混ざっていたとは思えない。
念のために最近、ちりめんやしらす干しに、フグの稚魚が混ざっていたと言って大騒ぎするバカがいる。回収したりする。なんの問題があるんだろう。もったいないこと甚だしい。甲殻類なら大問題だが、フグの稚魚が人に影響を与える毒(MU値を考えろ)を持っている可能性などない。こんなバカなことはやめようね、といいたい。

今、ボクが湯を使うのは少しだけだけどしっとりして柔らかくなるからだ。
しらす干しの妖艶なまでのやわらかさではなく、さらさらしたちりめんが、ちょっとだけよ、と言いながら柔らかく、ご飯に馴染みやすくなる。
これを茶碗のご飯に大量に盛り上げて、すだちをのせて、食卓へ。
今回はすだち2個だったが、安い時季なので3個使ってもよかったなと、後悔している。
すだちはこれからどんどん安くなる。香よりも果汁が主役になる。
この「阿波徳島飯」の旬は秋のシラス漁の最盛期と、すだちがちょっと黄色くなる時季である。
家族はちりめんに醤油を垂らしていたが、今現在のボクなどちりめんの塩気で十分過ぎるくらいである。
塩気でカタクチイワシの稚魚のおいしさが生まれ、それを硬く干し水分含量を減らすことで濃縮する。
ちりめんはうま味の塊なのである。
すだちはそこに大量の香りと酸味を足してくれている。
これがご飯の甘さと結婚すると言うに言われぬ味になる。
今回はちょっとだけ大盛りご飯の、「阿波徳島飯」である。

阿波の徳島はちりめん、しらす干しの産地なんである


近所のスーパーで珍しく徳島県産ちりめんの特売をやっていた。
徳島県は紀伊水道に面した小松島市、阿南市とちりめんの産地が並んでいる。京都中央市場の塩乾(乾物や干もの、惣菜などを売る仲卸)を見て歩くとわかるが、徳島県産のちりめんはとても上質だとされ、人気が高い。
ちりめんは今でもどちらかというと西のもの、東京都のスーパーでは「しらす干し8に対し、ちりめんは2」くらいしか並ばない。
徳島県産のちりめんが特売されている、のはとても珍しいことなのだ。


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