タイプ標本が丹後半島沖なのにエッチュウバイ

白バイと呼ばれるエッチュウバイはうますぎて困る


群馬県吉岡町、『スーパーマーケット ツルヤ』で買った福井県産白バイを食べながら考える。
それにしてもこの白バイは文句なしの美味で指が汚れるのもいとわず、ついつい手が伸びる。
関東のスーパーにもよく並んでいて、見つけると必ず買う水産生物のひとつだ。
念のために煮方をば。
まずは流水でていねいに泥などを流す。
鍋に水・醤油・酒(みりんでも)を入れて10分前後煮る。
このまま冷ます。
泥を噛んでいることが多いので、軟体を貝から出し、煮た汁の中で洗う。
軟体は貝に戻す。

今回『ツルヤ』で買った福井県産白バイの標準和名はエッチュウバイである。
このエッチュウバイをはじめ日本貝類学にはびっくりするくらい謎が多い。別の分野の専門家で貝類学は謎学だといった人がいるくらいで、ボクなど門外漢は入り込むこと自体が危険だな、と思っている。
ただし、このようなありふれた食用貝に関しての謎を避けて通るわけにはいかない。
この謎の端切れを述べたいが、ここでは海域に関してに限定し、水深に関しては省く。複雑になりすぎるからだ。

以下、気にならない方は読む必要はない。
また、貝殻を愛でて楽しんでいる限り、あえていうと深みにはまり込まない限り、こんな永久迷路にはまり込むことはない。楽しもうぜ、貝の世界とも言っておきたい。

関東のスーパーにも普通に並んでいるおいしい巻き貝は謎だらけ


エッチュウバイは漢字にすると「越中貝」なのである。「越中」は現富山県だけど、なぜこの貝を「越中」にしたのかは不明である。なぜなら現在大量に貝殻を撮影してみている限り、富山湾にはいないからだ。
言語は江戸天保期に作られた貝類図鑑、武蔵石寿の『目八譜』からだが、絵柄から決めたのかも知れない。
明治期初期は御雇外国人に学んでいた時代で、貝の世界は京都の貝商であった平瀬與一郎とか、軟体類に限らず研究をしていた岩川友太郎の時代である。
博物学(植物、動物鉱物などなんでもかんでも研究対象としていた)からそれぞれの分野(軟体類学とか魚類学とか)への移行期にあたる。ある意味、エッチュウバイは混乱の時代(移行期)の負の遺産かも知れぬ。
エッチュウバイの生息域は能登半島以西だ。新種として記載したときの標本(タイプ標本)は丹後半島沖である。
主な産地は山陰の島根県と山口県である。ちなみにエッチュウバイは朝鮮半島側にもいる可能性があると思うが、たぶん朝鮮半島南部沖だと思っている。

カガバイも白バイで売られているが非常に少ない


富山から秋田県沖にかけて生息しているのはカガバイだと考えている。漢字にすると「加賀貝」だ。加賀前田家は越中も支配していたので、加賀藩でとれる巻き貝とすると、なんとか説明できるけど、むりやりつけたという感じがする。このカガバイは朝鮮半島東岸にも普通である。
要するにエッチュウバイはどちらかというとサンインバイ(山陰貝)もしくはシロバイ(白貝)とすべきで、カガバイこそエッチュウバイとすべきなのだ。

蛇足、今、このエゾバイ科(なんとなく読み飛ばすといい)に関しては遺伝子を調べているところらしい。どうなるんだかなーー。


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