鳥羽市の「にし汁」を作ってみる

磯にいる小さな貝の軟体を全部生のまま汁にする


三重県鳥羽市周辺、愛知県三河湾篠島に「にし汁(螺汁)」という郷土料理がある。
この周辺だけではなく、国内各地に普通に見られる磯の小型の巻き貝である「にし」を使った、汁とも、なんとも、いえそうにない料理だ。
今回は、三重県鳥羽市周辺で作られている「にし汁」を地元の方に聞いて作ってみた。
思った以上に時間を要した末に出来上がったものはどろっとしたもので、決して見た目がいいとは言えそうにない。
まずは汁を飲んでみる。
中に混ざった「にし」の足(筋肉)の部分の部分に甘味があるものの、肝膵臓や生殖巣などが含まれる液状の部分が少々生臭い。
しかも舌だけではなく、口の天井から脇、舌の裏側までぴりぴりする。
今回使ったレイシガイは別名、「辛螺(からにし)」、「煙草螺(たばこにし)」というが、そんな呼び名通りの辛味というか、いがらっぽさがある。
ちなみに汁と足に味があることはある。むしろ非常に豊かにあると言ってもいいだろう。
ただし、おいしさ以前に刺激が口中から喉に移り、胃の腑に入ると、なんだか胃袋が熱っぽく感じられる。
この口の中から胃袋にかけての刺激的な味がなかなか去ってくれない。
汁だけで飲むよりも、と思ってご飯と一緒に食べたが、同じだった。
食べた後、喉のあたりにいがらっぽさが強く残った。
鳥羽に住んでいる人からも聞いたとおり、好きな人は好き、だめな人はなめるのもだめ、といったものだ。
個人的には決して好きだとは言えそうにないが、地元の人と、もう一度試してみたい気もする。
協力/出間リカさん(三重県鳥羽市)、岩尾豊紀さん(鳥羽市水産研究所)

「にし」とはなにか? レイシガイから説明する


汁とあるからには液体状である。その主役は「にし」で、味つけはみそ、水、それ以外は使わない。
ちなみに「にし」を漢字にすると螺で、巻き貝のことをさす。
例えば地方名をひろっていくと、淡水生のマルタニシも「にし」だし、ニシキウズガイ科のバテイラ(しったか)も「にし」のひとつだ。
全国的に見ると、潮間帯(満潮時には海の底であり、干潮時には陸になる)からせいぜい水深数メートルあたりまでにいる小型の巻き貝を指す場合が多い。
愛知県三河湾篠島、三重県鳥羽市周辺に限るならばアッキガイ科レイシガイ亜科のイボニシとレイシガイということになる。
鳥羽市では各集落、島で食べられている。
答志島 などではレイシガイとイボニシはともに「にし」であり、同じように「にし汁」を作る。
貝に詳しくないと両種を見分けることは難しい。
写真はレイシガイである。
写真を見るとわかるように口(巻き貝の巻き終わり部分)が黄色い。
山形県庄内地方では夏の風物詩とも言えそうなもので、日本各地で食用となっている。
狭い範囲ではあるが流通している。
足の部分は甘味があっておいしいが、内臓(わた)は熱を通してもぴりっという刺激が感じられる。

「にし」とはなにか? イボニシについて


イボニシとレイシガイはほぼ同じくらいの大きさである。
写真のイボニシをみるとわかるように口(巻き貝の巻き終わり部分)が黒い。
本種も日本各地で食用になっている。
当然、「にし」と呼ぶ地域が多い。
味もレイシガイに似て、ゆでて食べると、足(筋肉)には甘味があるものの、内臓には独特のぴりっとした刺激がある。
たくさん食べるといがらっぽくなるので「煙草にし」などとレイシガイとともに呼ばれている。
「にし汁」を作る場合、鳥羽市にイボニシでなければならないという人と、区別しない人がいる。

ニシ汁の作り方 1 つぶす


最初に貝を流水で洗う。
これをビニール袋などに入れて台の上に置き、金槌でつぶす。
ビニール袋を使うと貝殻が散乱しない。

ニシ汁の作り方 2 つぶした状態


つぶしたものは貝殻が混ざり、ときに砂も混じっている。

ニシ汁の作り方 3 水を加え貝殻を取り去る


つぶした貝殻に水を入れて洗いながら、貝殻と軟体部分を分ける。
このとき最初はざっと分けて、次ぎに厳密に分けるとやりやすい。
貝殻と軟体を分けるのはとても時間がかかる。

ニシ汁の作り方 4 ふたを取るのがとてもたいへん


分けたもののフタと取る。
強く筋肉に密着しているので力がいる。

ニシ汁の作り方 5 すり鉢でする


軟体部分をすり鉢に入れてていねいにする。
だんだんどろどろのペースト状になってくる。
足は適当につぶしながらするといい。

ニシ汁の作り方 6 みそと水を加えてふたたびする


どろどろになったらみそと水を加える。
水は控えめにして置く。
ふたたびていねいにする。

ニシ汁の作り方 7 少し足の部分が残っている状態が出来上がり


すり終わったらとろみを水で加減する。
汁の中に足の部分が残っていた方がおいしい。



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