伊勢湾のみごとな「こはだ」を見つけて、思わずひろい買い
全長20cm弱はもっとも使いやすい
コノシロは北海道から九州の内湾や川の河口域に普通に見られる。そんなにきれいな水域ではないところに群れているので、初めて港の防波堤(波止)で釣ったときはとても食べられるとは思えなかった。徳島県の山の奥に生まれ、食用魚の知識は皆目なかったのもある。
ちなみに大都市は往々にして川の河口域に生まれる。江戸時代の江戸で「こはだのすし(すし飯ではなくおからのすし)」が名物だったのも、こはだ(コノシロ)がたくさん揚がるところに、たまたま江戸の町が誕生したからだ。
最初の出合いは決してよいとは言えないものだったが、酒を嗜むようになってからのボクはコノシロには目がない。
例えば、神奈川県小田原市、小田原魚市場を晩春から初夏歩いていると、ときどき大きなコノシロが落ちている(まとまらないと売れないからだ)。面白いもので相模湾でも東より、江ノ島周辺にはコハダ(体長13〜18cm)がいるが、小田原にいるのは成魚ばかり、20cmはおろか25cmくらいの大コノシロであったりする。これも小田原でコノシロが邪険に扱われる理由だと思う。
普通、魚は小さいと売り物にならないが、コノシロばかりは大きく育つと売り物にならないのである。
この大コノシロがやたらにうまい。わざわざ競り落としてもらった主役を食うことすらある。ものすごく豊かな味というと変な表現だが、味のボリュームが大きいのだ。持ち帰ると頭部も尾も切り飛ばして、骨切りをして振り塩をして保存する。あとはときどきに焼いて食べる。三枚に下ろして、酢で締めても、端からできるだけ薄く切り飛ばして刺身にしてもうまい。
不思議なものでコノシロという魚は大小にかかわらず味のよしあしがあり、脂の乗る乗らないも大小に関わりがない。脂は身に混在して柔らかさを感じる。鮮度のよさも、脂のあるなしも触ってみなければわからない。
八王子総合卸売協同組合、舵丸水産に三重県鈴鹿市白子から、「こはだ」がやってきていた。鱗がびっしりとつき、ベストサイズであるし、触ると脂がある。年末なので決して安くはないが、刺身用に数尾買い求める。
体長15cm、重さ50g前後、高級すし店では「こはだ」ではなく、その上の「なかずみ」ではある。ただし今どきこのサイズを「なかずみ」というすし屋は都内にもほんの一握りである。