コラム

臭味を抜けば高級魚、イスズミ

イスズミはイスズミ属4種の総称である


さて、未利用魚、未利用魚と騒がしいが、未利用魚がわかっている人はいない。未利用魚は奥が深く、まだまだ定見がない。ここに未利用魚の基礎知識を始めていきたい。
未利用魚問題は、魚をたくさん集めて、たくさん料理するなどして作りあげた巨大なデータを見て初めてわかるが、国内を見渡す限り、どこにもそんなものはなく、あえて言えば我がサイトが一番大きい。また、魚価を知らなければ、未利用魚はわからない、が、そのためには、日常的に魚を買っていないとダメだが、そんな人間見た事がない。
当然国内各地で聞取をする必要があるが、例えば漁業者に聞いてもいいが、加工品業者、買受人(大卸・仲卸)、小売業の話も重要であり、消費者も重要だということを忘れている人がいる。むしろいちばん未利用魚がわからないのは行政、そして漁業者かも知れないと言う事実を知るべきでもある。
最近、未利用魚にマイナー魚を加えるなど、驚くほどのバカ丸出しなことをいうヤカラまでいる。今現在のところ未利用魚とは、比較的水揚げが多く、お金にならない魚のことである。


未利用魚の中で「問題のある魚」の「問題」は臭いだろう。雑食性の魚は多かれ少なかれ臭味がある。腸管が長いのも共通点だと思う。
臭味のある魚としてはイスズミ科、アイゴ科、ニザダイ科、タカノハダイ科、マンジュウダイ科(ツバメウオ類)などが揚げられるが、イスズミ科、アイゴ科が量的にいってもいちばん深刻だと思っている。
中でも臭い問題でもっとも難易度が高いのがイスズミ科の魚だ。国内にいるイスズミ科にはコシナガイスズミ属とイスズミ属の2属があるが、問題なのはイスズミ、ノトイスズミ、ミナミイスズミ、テンジクイサキの4種がいるイスズミ属である。もともとは関東海域までの魚だったが、今や東北でも見られるようになっている。
種としては圧倒的にノトイスズミが多いものの、この4種の総称としてイスズミを使いたい。
もちろん臭味のない個体もいるが、この4種は、かなり高い確率でとても臭くて食べるに耐えられない個体がいる。
また海藻を食べる魚なので磯焼け(海藻類が消滅すること)の原因である可能性もある。磯焼けは温暖化とも相まってこれからますます深刻になるだろう。
海藻自体の消滅も問題だが、海藻がなくなると生物の再生産の障害ともなる。
原因を取り除くという意味では、本種の利用を考えずにはいられないと思う。

ときどき冬のイスズミ(イスズミ属)は臭くないという人がいるが、それは産地での話、とってすぐに食べるからだ。翌日、翌々日に食べ手に渡る消費地の話ではない。
昔、東京都八丈島で釣りました、「今(12月)なら食べられるから」と、送ってもらったものも、取り出してみると臭味が出ていたことがある。
臭味がない固体もいるが、例えば50固体に1固体臭いだけでも流通は難しいと思う。

柑橘類を使っても臭味は消えない


臭味のない固体は身質がよく、特に冬など脂がのっている。刺身にすると非常においしい。
熱を通してもびっくりするおいしさである。
4㎏、5㎏にもなる魚なので、半身あれば家族4、5人で楽しめるだろう。
そんな臭味のない個体を食べて、次ぎに期待していると手ひどい思いをすることがある。
消費者には、おいしかった記憶よりも、まずかった記憶の方が強く残る。
本種が食用として未利用なのは一にも二にも、臭いからだ。

これを解消するには料理法もあると思う。小笠原諸島の郷土料理「ピーマカ」はイスズミ属の魚を薄切りにして、柑橘類の酢でしめ、香りのある野菜で和えたもの。
また熱帯域では皮付きのまま素揚げにして食べるが、これも臭味を軽減できる。
ただ例えば柑橘類を使ったとしても、スパイス類やハーブ類を使っても臭味が消えるわけではないし、熱を通した方がむしろ臭味が強くなる傾向にある。

ぐるぐるゼンマイ状に納まった長い消化器官


個体数を減らしたいなら家畜の飼料とかペットの餌にしてもいいだろう。
食用として本種の利用度を上げたいなら、活け越し(数日生け簀などで活かしておく)、もしくは短期間の養殖しかないと思う。
雑食性なので、1個体の魚を作り出すために何倍もの量の魚を与える、という自然破壊的養殖ではなく、植物性のエサで養殖できるかも知れない。
渦巻き状の内臓の中にある消化途中のエサが臭味の原因であることは明らかである。これを完全に体外に出し、また筋肉に移行した臭味が消えなければ流通には向かない。
育てるのではなく臭味を抜くのが目的なので、味の季節感を破壊することもないだろう。
中途半端にやるとむしろ逆効果になりかねない。


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