北海道産アカホヤの色は限りなくマゼンタ
少しブラックが入るけど赤々強い

田中小実昌(1925-2000)の文章が味わえるようになったとき、自分の文章読力が上がったな、と思ったものだ。文字を真面目に追っていくと、非常に稚拙であったり、どこにも修辞を感じられなかったり。無造作にほうり投げた文章の中にいろんな事象が散らばっていたりする。とりとめがなく、結句がない。
山口瞳とは両極端にある。中学生にとっても面白くて仕方がなかった山口瞳的脳みそで田中小実昌を読むとは大変なことになる。
今、枕周りに四五十冊の本が散らばっているが、昨日手に取った田中小実昌に、
〈ホヤは北のほうにいくほど、ピンクに近い色だ。それが西(南)に下るにつれて色がうすれ、仙台湾あたりでは、ほとんど砂色だ。〉『ほろよい味の旅』(田中小実昌 中公文庫 単行本1988)
という文章がある。
マボヤと比べると入荷量は非常に少ない

国内で流通するホヤはマボヤ、アカボヤの2種で、圧倒的にマボヤが多く、アカボヤはさほど多くない。アカホヤはマゼンタそのもの。仙台湾の砂色はともかく、マボヤの色は基本的に黄が混ざり、南西にいくと色あせてくる。もちろん田中小実昌が動物の地域差がわかっているとは思えないが、色の違いには気づいていたことになる。また、思春期に広島県呉市にいたので、瀬戸内海のマボヤを見ていた可能性もある。