東京湾のアジは国内屈指の味なんです

東京湾のマアジはもっと評価されるべきである

三浦半島,大津,マアジ

ときに、関東在住の魚好きの方と話をしているとき、いちばん違和感を感じることは、脳みそから関東周辺の水産生物のことが抜け落ちていること、だ。
昔、とある番組でかなりの若い魚通の男性と話をしていたときもそうだった。ブランドものが大好きなのだ。宮城県では1つ1万円のサバ缶(買ってもいいがそれで騒いでもいい消費者にはなれぬ)がありますとか、「関あじ」はおいしいですね、とかとか。無邪気なので苦言を呈することはしなかったものの、ブランドが頭に浮かぶようでは、真の魚通、水産生物全般の通にはなれぬ。むしろブランドに目が行くのは、学校に例えるなら、幼稚園以下と言っていいだろう。
なぜ、関東に住みながら、「関あじ」が口から飛び出すのに、それ以上かも知れない、東京湾内や相模湾のマアジが出てこないのだろう。
昔、魚河岸の若い衆が、「一度ノドグロを食べてみたい」と島根まで行ったら、アカムツだったという笑い話があるが、水産物を見る目は、厳密で厳格でなければならない。隣の芝生はイカンよ、なのだ。
さて、下氷(発泡の底に氷を敷き詰め、クッションを敷き魚を並べた)の高級マアジの後に、八王子総合卸売協同組合、舵丸水産、クマゴロウが大津で釣り上げた、中アジを食べてみた。
関東の釣り師に「大津」というと三浦半島、神奈川県横須賀市、東京湾側の大津漁港のことになり、きっと(釣りものは)マアジかカサゴとかかな、まで考えが至るはず。決して滋賀県の県庁所在地大津は浮かぶことがない。
ちなみに、「津」、「大津」は特殊な地名だ。例えば滋賀県大津は奈良・平安時代を通じてヤマト王権にとってもっとも重要な港で、たぶん多くの役所があったための地名だ。伊勢国の津(三重県津市)もそうである。伊勢平氏が平家になれた(力があった)のも「津」があったためだ。
当然、三浦半島の大津も鎌倉時代の三浦氏や後北条氏にとっては重要な港だった。江戸時代になると房総半島と三浦半島をジグザグに操船して江戸に至る航路が海の大動脈となるが、そのときの港でもある。
この大津港の船は、沖合の猿島まわりでアジを狙い、ときに『蘇る金狼』のロケ地にもなった第二海堡でもアジを釣ることがあったと記憶する。
猿島まわりのマアジは、釣り師の間で味のよいことで有名なのだ。
計測すると体調22cm・140gなので、冬痩せしているが、まさに食べ頃である。

厳冬期でこの味は、とてもすごいと思う

三浦半島,大津,マアジ刺身

三枚に下ろすと、さすがに厳冬期なので脂はない。ただし味はある。
魚屋の釣り師のよいところは魚の扱いがていねいなことだ。
たぶん釣り上げて、ボクの口に入るまでには34時間くらい経っているのに、しっかり締めているので、食感も心地よい。
鮮度がよいだけではなく、とても味わい深い、これが冬のベストアジだと思うがいかがだろう。
釣り上げたクマゴロウには「キロ3000円でも安いな」、と言ってやろう。
実に久しぶりの、夜中の一合酒がうまい。


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