近所の鮹さんが利島沖で釣った魚、まずはアカササノハベラ
小振りでもおいしいアカササノハベラ
近所に住む鮹さん(岩崎薫さん)が伊豆諸島利島沖で釣り上げた魚をいろいろ持って来てくれた。利島沖の魚は多彩でやたらに値の張る魚もたくさんいて、だいたいそれこそがターゲットである。
そんな本命には目もくれず、気になる魚ばっかりいただいた。選んだ魚を見て、蛸さんの目が泳いでいたように見えたが、気のせいだろう。
さて、我がテーマというか追い求めているものは自然であり、季節感である。だから季節感のない養殖ものなどは基本的に扱わない。できるだけ、キ・セ・ツを強烈に感じさせてくれる魚が好きなのだ。
本命である旬真っ盛りの大きなアオダイの真横に浮かんでいたのが、アカササノハベラである。20世紀末、1997年までササノハベラの仲間はササノハベラだけだった。これがホシササノハベラとアカササノハベラに分かれたときは、かなり大きな衝撃を受けた。『日本産魚類検索 全種の同定 第二版』が全2巻になったのもビックリだったが、1種類だと思われていた魚が実は2種類なんてことがあり得ること自体が理解できなかったのだ。比較的種を分けない主義だった田中茂穂なんて、生きていたらどう思っただろう。
どっかの哲学者が物質は名前がつくまで存在しない、なんてことを言っていたはずだが、ちゃんと2種類だと思って見ると、間違いなく2種類なのだから不思議だ。
2種はともに晩春から脂がのりはじめ、秋口くらいまで味がいい。ただ少なからぬズレを感じるのだ。だから旬日(10日間)ごとの1尾はアオダイ以上にうれしい。
刺身も焼霜造りもうまい
今回の個体は18cm SL・151gなので小振りである。小さいけれど触ると明らかに脂が感じられる。今回は三枚に下ろして、片身を刺身、片身を焼霜造り(あぶり)に造ってみた。
見ての通り、脂が身に混在している。小さいのでべっとりとまでは言えないが程よい脂ののりである。このほどよい脂がしっかり舌の上で溶解するのが感じ取れて甘い。釣り立てなので食感がとても心地よく、値千金の味といってもいいすぎではない。
焼霜造りはこのうますぎる刺身からすると屋上屋を架す的なものと思っていたら、然に非ず。皮と皮直下の味だけでごちそうそのものだった。ダイナミックな味といってもいいだろう。
小魚と侮るなよ、と言われているようだ。
鮹さんには、まことに感謝!