花の時季には青柳
殻付き活けがいい
千葉県内房では今でも「ばかげ」と呼ばれている。江東区の歴史からすると大島、小松川などは明らかに東京湾奥で共通する文化を持っていた。きっと大川を渡るまでは「ばかげ」だったはずだと考えている。また日本橋・築地・豊洲市場に船橋や浦安、佃島などの出身者が多い。この人達にとっても「ばかげ」である。ほんの10年くらい前まで、築地にはいた「ばかげ」という人は今もまだいるのだろうか。
バカガイは、1960年代くらいまでは江戸時代と同じように千葉県東京湾の産地から新川、小名木川を使って運ばれていたようだ。ちなみにこの貝(魚貝類)の舟運が船橋や小名木川周辺での貝剥きの技術を生んだのだと思っている。
その集積地のひとつが千葉県市原市の青柳で、いつの間にか都内すし屋などでは青柳と呼ぶようになる。「上方は実をとり、江戸は名をとる」、その最たるものが青柳なのである。
豊洲を始め都内市場では略して「やぎ」という。昔、築地を歩いていたとき貝をたくさん並べている仲卸で、「めー」と鳴いたら、「やぎが出て来た」と言ったすし屋がいた。嘘だとは思うけど、ことほど左様に市場では「やぎ」であって青柳なんて言わない。
八王子総合卸売組合、マル幸で2月中旬に初やぎを買い、豊洲でも買った。実は異常なほどのやぎ好きなのだ。特に殻やぎ(貝殻つきで、活けという意味)が好き。剥き身を買うのは鮮度と形(大きさ)がわかりやすいためで、すし屋で剥き身しか買わないという職人を何人も知っている。
2月の殻やぎは愛知県三河湾、三重県伊勢湾のもの。最近、瀬戸内海産を見ないけど、山口などではとれているようだ。
赤く発色する足
バラ科の花が咲き始めたら、とにかく「やぎ」を買う。すし屋仕立でもいいが、今回は星(貝柱。開閉筋)があるので1秒弱湯通しする。氷水に落として水分をきる。
「やぎ」のいいところは微かな渋味と苦み、そしてそれを大いに上まわる甘味だろう。