「磯つぶ」とはエゾバイのことである

北の巻き貝の代表的なもので、人気抜群の食用巻き貝でもある


巻き貝は、一般的な生活をしていると食用として遠い存在でしかない。唯一身近な存在がサザエだと思うが、他になにか、というと出てこない人が多いはずだ。
そんな食用巻き貝の代表的なもののひとつがエゾバイである。
エゾバイはエゾバイ科エゾバイ属エゾバイ(Buccinum middendorffi、市場では「磯つぶ」)なので、「蝦夷=北」の「蛽=巻き貝」を代表するものと言っていいだろう。
貝殻の巻き始めを上にして立てたときの長さは5cmほどなので、とても小さい。小石のようにごつごつして貝殻が硬い。
『日本近海産貝類図鑑 第二版』(奥谷喬司編著 東海大学出版局 20170130)に東北以北の潮間帯(潮の満ち干で海水に使ったり干上がったりする浅場)に生息しているとあるが、東北に本種がいるとは思えない。探せば見つかる程度にはいるのだろうか? 主な産地は北海道太平洋側である。
北海道日本海側にはいないはずだし、内浦湾(噴火湾)からの流通も見ていない。
ちなみに日本の貝類図鑑は主に貝の収集を行っている人達のために作られている。貝殻偏重で、その貝自体に興味のある人のためではない。
北の貝は収集の対象ではないので、かなり長いこと北の貝に関しての、生息域などなどの進歩が見られないのが残念でならない。

チャンピオンバイ対挑戦者エゾバイだった時代は終わっている


この大きさの巻き貝には、本州以南に生息するバイ(バイ科バイ Babylonia japonica)がある。
バイ(ばい貝)はそれこそ縄文時代以前から本州、四国、九州などで食用となっており、小型の食用巻き貝の基本的な存在だった。
1960年代から使われ始めた有機スズ化合物(船底に塗って貝や海藻などの付着を防ぐ)によるインポセックス(雌の雄化)で激減する。小型の巻き貝は料理店などで人気があるので、困った市場で、それまであまり脚光を浴びなかった、エゾバイが小型巻き貝の主役になったとされている。
ただし、今現在、バイは復活してそこそこ水揚げ量があり、市場でも普通に見かけるが、エゾバイ人気は一向に衰えていない。需要は明らかにエゾバイの方が、バイを凌いでいる。
なぜならば調理しやすいからだ。
写真は向かって右がエゾバイ、左がバイ。

「磯つぶ」と呼ばれることはあってもエゾバイとは呼ばれない


北海道が国内海産物の大供給地になった歴史は古いが、生鮮品に限定すると供給の歴史はどこまで遡るれるのかは、わからない。
北海道の水産物は船で集積地に運ばれて、本州に渡り、東北本線で東京市場駅(築地市場)に来たのだと思ってる。東北本線は明治半ばに全線が開通しているので、この時代に北海道からの生鮮品の流通が盛んになったはずだ。ただし、多種多様な北海道の水産物それぞれの歴史はわからない。
エゾバイは築地市場(現在は豊洲に移っている)で聞取した限りでは、1970年代(万博があったとき)には見ているという人がいた。
今や小型の食用貝類の代表的なもので、流通上は「磯つぶ」と呼ばれている。
「磯(潮間帯)」にいる「つぶ(巻き貝)」という意味である。
流通上、エゾバイでわかる人はいない、「磯つぶ」と言わないとダメだ。

煮るか、ゆでるか、が基本的な料理


巻き貝の中でももっとも調理しやすいもので、味だって抜群にいい。
普通は塩ゆでにするか、醤油味で煮るかだ。
これは単純に好みのもんだいである。
鍋に塩水、もしくは醤油・酒で調味した水を用意してざくざく洗った「磯つぶ」を放り込む。
我が家では冷たい状態から7分くらい煮て、そのまま鍋止めし、冷めたら出来上がり。
面白いもので貝の煮つけの熱々はうまくない。


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