鉄板の味、ハチジョウアカムツの刺身
いちばんおいしいところから、尾、尾っと食べる

小笠原は今や21世紀の江戸前といっても間違いではない。
その父島からきたので、江戸前のハチジョウアカムツだ。
ちょっとくどくなるけど、ハチジョウアカムツは東京を代表する高級魚でもある。
刺身は、近所の小学生の言葉を借りると、鉄板の味である。
絶対にハズレがない。
小笠原の魚は船便なので鮮度的にはやや落ちる。
ただし、小笠原の魚には白身が多いので、仲卸に並んで、買っても数日は刺身になる。
同じ江戸前でも伊豆諸島のものは鮮度がいいものの、値段も当然、非常に高く、清水の舞台から飛び降りるつもりで買わなければならない。
個人的には高いことは高いけれど、小笠原で十分だ。
さて、まずは尾の部分の刺身である。
細長い魚は尾がおいしい。
おいしい部分から食べるのがボクの仕儀なので、本能の赴くままに尾から食らう。
もちろんいちばん脂のない部分なので口溶け感はない。
でも口に入れた途端にどばーっとうま味が、口の容積の3倍くらいに膨らむ。
そして筋っぽいのだけど、この筋の歯触りが素晴らしい。
筋と言っても硬いわけではない。
噛んでいると味が出てくる。
刺身一切れで、味の交響曲を聴き終わった感じがする。
もっともこの魚を感じさせるねっとりした味

もっともハチジョウアカムツらしい味というと頭部近くの背の部分だろう。
いちばん脂が乗っている個体が多い時季は初夏から夏だと思っている。
旬のわかりにくい魚なので確信はないものの、今回の個体は脂が乗っていない。
ただし、やはり背の部分にも味がある。
味が長々と口の中で続くのがいい。
身質が練り絹のように滑らかなのもうれしいところだ。
色物的な皮霜造りは、面白きを楽しむべし

ついでに造ったのが皮霜造りである。
ハチジョウアカムツは皮が硬いので、今回の個体1.7kgくらいまでが、皮霜造りの限界である。
それでも湯をかけるだけでは、まだ硬い。
皮をあぶった方がまだ皮が食べやすくなるが、このあぶった香ばしさが、この魚には邪魔なのである。
皮霜造りは身も皮も独立して楽しめる。
これはこれで結構だと思っている。