専門家すらしらない未利用魚、ミギガレイ
お金にならない未利用魚

さて、未利用魚、未利用魚と騒がしいが、未利用魚がわかっている人はいない。未利用魚は奥が深く、まだまだ定見がない。ここに未利用魚の基礎知識を始めていきたい。
未利用魚問題は、魚をたくさん集めて、たくさん料理するなどして作りあげた巨大なデータを見て初めてわかるが、国内を見渡す限り、どこにもそんなものはなく、あえて言えば我がサイトが一番大きい。また、魚価を知らなければ、未利用魚はわからない、が、そのためには、日常的に魚を買っていないとダメだが、そんな人間見た事がない。
当然国内各地で聞取をする必要があるが、例えば漁業者に聞いてもいいが、加工品業者、買受人(大卸・仲卸)、小売業の話も重要であり、消費者も重要だということを忘れている人がいる。むしろいちばん未利用魚がわからないのは行政、そして漁業者かも知れないと言う事実を知るべきでもある。
最近、未利用魚にマイナー魚を加えるなど、驚くほどのバカ丸出しなことをいうヤカラまでいる。今現在のところ未利用魚とはお金にならない魚のことである。
ミギガレイはカレイ科の小型の魚だ。北海道南部から九州までの日本海と、これまた北海道南部から千葉県銚子市あたりの、やや深場に生息している。
韓国沿岸にもいるが、ほとんど日本固有種といっても間違いではない。
カレイ科の中でもっとも小さく、育っても全長25cmくらいにしかならない。高級カレイのマコガレイが全長50cm以上になることからも小ささがわかると思う。
ミギガレイという標準和名はどうにも馴染めないでいる。カレイの仲間(カレイ目カレイ科)は、海底に体の左側つけて暮らしている内に、海底についている方の目が、つけていない右側に移動してきた。目が右にしかないという不思議な生き物である。遙か昔々は普通の魚の姿をしていたのが、なぜこんな姿に変身してしまったのか? は神のみぞ知る、だ。
ミギガレイは漢字にすると「右鰈」であるが、姿形に「右」を探しても、どこにも「右」に思える部分はない。カレイ科の魚全種が基本的に2つ目がとも右にあるのが特徴なので、目が右にあるから本種の標準和名の意味が「右」なのだ、としてら、これもまた変なのだ。
記載は、20世紀の初め頃、国内の魚をたくさん記載したことで有名な、アメリカの魚類学者、デイビッド・スター・ジョーダンとエドウィン・チャピン・スタークスである。
学名(基本的にラテン語)には属名と小種名がある。属名が人の苗字だとしたら、小種名は名前である。このカレイの属名(苗字)のラテン語の意味が「右」なので、苗字、Dexistes は「右」さん、なのである。ついでに小種名(名前)、rikuzenius、は「陸前」で、宮城県陸前にあたる松島で揚がったもので記載さたための名前だ。この属名の「右」からミギガレイになった。
標準和名を決めたのは、ジョーダンらと関わりの深い、田中茂穂である可能性が高いが、本種の特徴をまったく鑑みない標準和名はいただけない。
福島県相馬市で「にくもちがれい」、岩手県では「目玉がれい」という。
ミギガレイの仲間、ミギガレイ属にはミギガレイ1種しかいない。ミギガレイは天涯孤独なカレイなのである。
煮つけたらおいしいんです、は産地の常套句

主な産地は、東北太平洋側で、底曳き網で大量に揚がることがある。たくさん揚がるので産地周辺の小売店には至って普通に並んでいる。
産地の人は「煮つけると、とてもおいしい」と言うが、ボクも同感である。おいしいのに安すぎるという意味での「未利用魚」なのだ。全国流通することもほとんどない。
たぶん、小型だし、水分が多くて保ちが悪いとされているのだ。
福島県、岩手県などで何度か買っているが、もともと刺身には向かない魚なので、煮る焼く、揚げることからすると数日間は冷蔵保存できる。保ちが悪いわけではない。
国内の魚の価値が「刺身にできるか? できないか?」で決まったり、大きさで決まる。この評価の基準は一刻も早くなくすべきだ。