新潟県上越・妙高のサメ食文化2 上越高田・妙高市新井の正月「ふかざめ」三大料理

上越山間部の正月の膳に欠かせない「ふかざめ」料理

上越市サメの競売

糸魚川市と上越市直江津を除く上越地方山間部(上越市高田と妙高市)では、普段から「ふかざめ(ネズミザメ)」を食べているが、特に年取・正月には欠かせない。
普段から食べているのは「煮つけ」とフライである。
年取・正月だけに作るのが「煮凝り」と「ぬた」だ。
正月の膳には「煮凝り」と「ぬた」、そして「煮つけ」が欠かせない。
この3つは伝統的な料理で、正月三大料理と考えるとわかりやすい。
余談だが、同じ上越市でも日本海に面している直江津では「棒ざめ(アブラツノザメ)」を好む。こちらはあくまでも日常に食べるためのもので、ハレの日に食べるものではない。
年の暮れ27日に、上越市にある一印 上越魚市場で、宮城県気仙沼産の丸のままの「ふかざめ(ネズミザメ)」の競売が行われているのもこの地域のためだ。

山間部でも「ふかざめ(ネズミザメ)」の身は一年を通して販売されている。
こちらは主に煮つけとフライなど日々の総菜用である。
皮と、刺身で食べられるくらい鮮度のいいものは明らかに正月用で、11月下旬から12月、1月の初旬くらいまで流通する。
なぜ、この上越地方の山間部で「ふかざめ(ネズミザメ)」を食べるようになったのか、は別項を立てる。
正月にサメを食べるのは、この上越地方、栃木県、茨城県と群馬県の一部地域、広島県備北地方である。
共通するのは海から離れていることだ。

もっとも正月らしい、料理は皮の煮凝りである。

ネズミザメの煮凝り

正月の膳に欠かせない代表的なものが「煮凝り」である。
口に入れると冷んやりして、舌の上で溶ける。魚のうま味と醤油や砂糖の味わいが口全体に広がる。
そのうま味の正体である煮て柔らかくなった皮は、ほどよい柔らかさで、舌触りが独特である。
煮凝りに浮かんでいる皮を含めてあっけなく口の中から消えてしまう。そのあっけなさが、煮凝りの持ち味である。
空腹ゆえに食べるものではなく、味わいたいから食べるもの。見た目は地味だが、明らかにハレの味だ。
「ふかざめ」に含まれているゼラチン質(コレーゲン)が煮ることにより溶け出してくる。これが冷えて固まったものが煮凝りだ。
もともとは魚を煮て(水で加熱して)ゼラチン質を煮汁に溶け出させて、冷やすと自然と固まる。この自然現象から生まれた料理である。

サメを刺身で食べる習慣がある地域は限られる

ふかざめのぬた

「ぬた」は完全な生、すなわち刺身を酢みそで食べるものという人と、軽く湯がいて酢みそで食べる人がいた。
ここでは上越市南本町、『石崎鮮魚店』のご夫婦に聞いた、刺身タイプの写真を載せてみた。
「ぬた」に関しては別項を立てる。

煮つけは正月の膳にものる

ふかざめの煮つけ

日常的にも作るし、正月にも作るのが「煮つけ」だ。
他の地域から嫁いできたご婦人は、正月の膳に乗る「煮つけ」の正体が最初わからなかったようだ。
魚らしいと思ったが、サメだとは思わなかった。
朝市で会った女性で逆の立場の話も聞いている。
嫁はサメでと聞いて驚くものの、「今では嫁の方がすきだねや」、という。
それほどサメの煮つけは食べやすいものなのである。

正月用に買い求めた「ふかざめ」の残りはフライになる

ふかざめのフライ

「煮凝り」と、「ぬた」と「煮つけ」は言うなれば伝統的な「ふかざめ」料理である。
ここにフライが加わったのは、当然の成り行きだろう。
上越市高田・妙高市新井で聞いた限りでも、年取・正月に伝統的な料理を作って余った「ふかざめ」で必ず作るという話である。
お節料理の淡泊で上品な味に飽きて、今どきの嗜好から揚げ物を作るのは自然である。
年末にたくさん買った「ふかざめ」がこれにてきれいさっぱりなくなるのだと思う。


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