ドラゴンのモデルなのか? タチウオ
どんなにたくさんとれても隣の珍魚は珍魚なのだ
【学者にとってはちっとも珍魚ではないし、超深海や、南北両極にいるわけでもない。魚屋でもスーパーでもときどき見かける魚だが、見た目が変なので普通の人にとっては珍魚だったり、何気なく見ていると普通だけど、よくよく見ると変で、ちょっとだけ珍しい、のを「隣の珍魚」という。】
知り合いの老人から、タチウオは一度も見た事がないと言われて、持っていって料理したことがある。現在、90歳超えだし、学者なのだから嘘ではないと思うし、本当に現物に驚いているのをみて、ボクの方がもっと驚いた。
老人に、この魚は意外に進化をとげた魚で、いちばん近いのはサバ(サバ科)であること、サバは高速で長距離を泳ぐために体の形を紡錘形にしたが、きっとタチウオは長い距離を泳ぐのを止めて、エサを近場で探すことに決めたのだ。一定の場所でエサ見つけるのはそれなりに大変で、見つけたら一発必中、噛みついたら絶対に離さないために歯がこんなになったんだ、なんて教える。
東京都西部に住んでいるが、確かに近所のスーパーに切り身は並んでいるけど、丸のままでは並んでいない。そのまんまの姿を見る機会が極端に少ないという意味では「隣の珍魚」かも知れない。
ただ、漁獲量も増えているし、東京都、千葉県、神奈川県にまたがる東京湾では釣れて釣れて困っている。
こーんなにたくさんとれても、「隣の珍魚」だと思うはなぜか? このタチウオさんくらい変な魚はほかにいないからだ。
タチウオの仲間は獰猛かつ、身体能力がずば抜けている
ちなみにタチウオの仲間(タチウオ科)は国内に13種いるが、1種類をのぞき総てグアニンという銀色の層を持ち、銀色に輝いている。
その中で一般的な食用魚はタチウオだけなのである。少ないけど食用になっているテンジクタチとオキナワオオタチを含めても、計3種だけ。
ほかは全部珍魚と珍魚中の珍魚で、もうかれこれ40年以上探しているのに手に入らない種も1種や2種ではない。
話は変わって、非常に昔、昔、静岡県県焼津の防波堤で夜釣りの見学していたとき、タチウオを釣ったジイサマが「刀のようなので太刀魚じゃなくて、立って泳ぐから立ち魚じゃ(もちろん翻訳は不正確)」とタチウオの頭部を持って刀のように振り回したり、タチウオの頭を上に尾を下にして上げたり下げたりしてみせた。
これは後に定置網の網揚げを見ているとき、実際にぎらぎらきらめきながら立ち泳ぎしているのを見ているし、獲物の小魚に噛みつくとき、太刀のように振り下ろすのではなく、槍(やり)のように下から上に突くのを見ているの。たぶんジイサマも街灯に集まる小魚を、真下から縦になって浮き上がり襲うのを見ているのだろう。
その内、大タチを釣り上げて、「わしは、こいつがドラゴンのモデルじゃろと思っている(もちろんだいたいの翻訳で不正確)」と頭部を持ち、口を大開にさせようとして、なんの拍子にか手を切って、みるみるTシャツが血に染まった。思った以上に深手で、釣りどころか、慌てて病院に向かっていった。
歯は鋭く長いだけではなく、剃刀のように切れる。
翌早朝、クロダイ狙いで防波堤に行ったら、夜の惨劇のあとが生々しく気持ち悪かったものだ。
ブルースリーの映画がリバイバルしていたときで、龍ではなくドラゴンといった時代だった。こちらも最近、釣り人などが大型をドラゴンといったり、シェンロン(神龍)というのに繋がっている。
実際、爬虫類だろう龍の尾と同じように三角形の尾鰭がない。尾鰭がない上に腹鰭もないし、臀鰭などトゲトゲした感触はあるがほとんど見えない。限りなく無駄なものがない。
推進力を長い背鰭だけで生み出しているのだけど、闇の中にきらりと突進するその早さたるや目にもとまらない。細長い体が槍のようで、ものすごく泳ぎが上手で早いのだ。ときどき海面からぴよーんと飛びだすのもいる。
ちなみに、タチウオは毎夜、並んでフラダンスを踊っていたのである。夕闇が迫ると堤防に灯りがともる。そこに小さなプランクトンが来て、小魚が寄ってくる。そこにタチウオたちが宴をもよおすために集結して踊る。アローハーオエ♪ なのだ。
ボクらはみんな観客になる。