高値をつけても当然、淡路の小アジ
小さいアジにこんなに複雑で奥深い味があるなんて
深夜、冷たい酒を用意して、小鉢に向かうと、中に盛り込んだ刺身の表面がギラついてきている。身に混在していた脂が溶け出して浮き上がって来ているのだ。
淡路島のマアジは5月から始まり7月には第一群が終わる。そしてまた次の群れが釣れ始め、10月に一段落つく。
今回のものはその先触れの個体群であるが、脂が豊かすぎて切りつけた刺身が鈍い色をしている。口に入れると真っ先に口溶け感からの甘さがくる。青魚の豊かなうま味もあって名状しがたい味としかいいようがない。
冷やした酒で口中を洗うのがもったいない気がしてくる。
この丸味のある体こそ上物の証
八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に兵庫県淡路のマアジがやってきていた。小振りだが体高があり、グラマラスである。
淡路島のマアジは現在もっとも入荷が安定していて、おまけに味も抜群にいい。関東ではいちばん信頼度が高い。
昔、淡路島沼島のマアジ船団には乗り込ませて頂いたが、全部釣りアジであること、一度も手に触れないで生かして帰港することなど、これ以上やれない、といった出荷体制をほこる。
だから関東ではこれを上アジとか、「淡路」と呼ぶ。
帰宅して測定すると、17cm・85g前後で、生殖巣が膨らみかけている。まさに産卵期前の盛期を迎えている個体である。
マアジの旬ほどわかりにくいもはない。夏の魚だといっても違う気がするし、秋なのかといってもそれは単に地域的な話でしかない。
ただ間違いなく7月、淡路島のマアジは旬を迎えている。
大急ぎで水洗いをすまし、頭部と尾を切り落としてペーパータオルにくるんで冷蔵庫で寝かせる。
深夜に取り出して刺身を作る。