ボウズギンポにあっと驚くのか?

魚と言うよりも、アザラシといった方がいい気がする


【学者などにとってはちっとも珍魚ではないし、超深海や、南北両極にいるわけでもない。魚屋でもスーパーでもときどき見かける魚だが、見た目が変なので普通の人にとっては珍魚だったり、何気なく見ていると普通だけど、よくよく見ると変というのを「隣の珍魚」という。】
ボウズギンポは、10年前までは珍魚中の珍魚だった。今じゃ、見た目の気持ち悪さに後ずさりしたくはなるものの、ちょっと珍しいだけの魚になってしまっている。
初めて見たのは12年前(2024年現在)のこと、京都中央市場のレアなもん大好き魚屋で、だ。
まるでアザラシの死体ようだと思ったら魚だった、というのも変な出合いである。
ぱっと見たらアザラシだけど、よくよく見るともっと奇想天外、太い丸太ん棒のようで、どっかのオヤジサンの顔を思わせたり、円谷プロの怪獣のようでもある。これを最初に競り落として、売ってみたヤツはどこのどいつなんじゃいと思う。
明治時代の魚類学の父たちもかなりコイツに悩まされたようだ。そこにいるのが魚類であることは間違いない。魚類を定義する条件である顎もあるし、鰭もあるのだから。でも似たような魚がどこにもいない。結局、近縁種と思われる魚はいないことがわかり、ちょっと専門的だが1種、1属、1科で孤立無援な魚であるとされている。
ちなみに本種は広い意味ではゲンゲ亜目(ゲンゲの仲間)だが、この「げんげ」は下魚とか幻魚とかの漢字が当てられ、とれてもまずいので売れない魚とか、見た目が変な魚とかいう意味を持つ。
魚類学の黎明期、「わからないものはとりあえず、ゲンゲの仲間として置こうじゃないかい」的なポジションだったようだ。

こんな魚が売れる魚に大変身するなんて


太平洋沿岸の東北と北海道、オホーツク海に生息しており、水深200m前後の深海に多い。
北海道の漁師さんの話ではとっても売れないし、非常にでかいので困った存在だった。今流にいうところの未利用魚だったことになる。魚の水揚げがじょじょに少なくなって、狙えば釣れるんだから、一度競りにかけてみよう! と出荷してみたら、たぶん京都の魚屋のような数寄者がいて売れた。
10㎏近くあるので競り値が安くても金になる。じゃあもっととってみようと思ったのだと思う。
実際、北海道の漁港での話では最近よく見かけるようになった、というのは「金になるからとるようになった」だけのことのようだ。
今や希に都内の魚屋にも並ぶし、東京都や神奈川県の市場にもときどきさりげなくやって来ている。
いつのまにか、奇っ怪な魚を見ても市場人はそんなに驚かなくなっている。

見たら恐いけど食ったらうまい


だいたい食べてみると、とてもうまいのだ。
刺身は単調な味だけど、漬け魚(みそ漬けや醤油づけ)にするとベリーグー、なのである。フライもうまいし、バター焼きもいい。要するに和にこだわらなければ、魅力いっぱいなのだ。
やっぱり魚も見た目で判断してはダメ、ダメなのである。


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