兵庫県産ハタハタを食べて、ハタハタについて考える

ハタハタは回遊魚なのだ


八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に兵庫県日本海側、浜坂からハタハタが来ていた。この小振りのハタハタのうまさを知る人は少ない。昨年は一度も買えていなかったので、大発見した気分になってまとめ買いする。また、大きいものの方が高いが、味は大きさに正比例しないことだけは知っておくべきである。
ハタハタは西部北太平洋の沖合いに生息している。本州太平洋沿岸にも少ないながら生息しているが、日本海、北海道に圧倒的に多い。
ハタハタ科は上の階級までたどるとカジカ(カジカ科)に近い魚だ。ハタハタ科は世界中に2種。日本周辺に多い本種と、もう1種は東部北太平洋にいる、 Pacific sandfish である。
古い図鑑をみるとエゾハタハタという魚がいるが、このPacific sandfish と、国内海域にいるハタハタを混同したための無効な和名である。
ハタハタには北海道、秋田、朝鮮半島で産卵する3系統がある。漁期も産卵時期も異なるので、北海道では未成熟なものと、成熟したものがともに揚がり。秋田県は比較的成熟したものが揚がる。能登半島以西の日本海では未成熟なものだけが揚がっている。
もっとも昔からハタハタを食べていた秋田県や山形県でのハタハタを考えると、非常に地域性の高い魚だと思えてしまうが、実は広範囲に回遊しているのだ。
例えば太平洋側にも少ないながらハタハタがいるが、生まれは日本海や北海道らしい。
ハタハタは回遊魚なのだ。
山陰沖のハタハタ漁は9月から5月までで、ボクの個人的な感覚では春の魚といった感じがする。
今回の個体の腹からは大量のホタルイカが出て来た。山陰沖の個体に脂が豊かなのは、同じ海域にいる春の味覚、ホタルイカのせい、かも知れない。
これを山陰ではハタハタと呼ばず、白ハタという。山陰に行くたびに「秋田や山形のとは別の魚だ」、とくどいほど言われるが、確かに味はまったく違っている。
秋田、山形はブリコを喜び、冬の風物詩として喜ぶべきで、山陰ものは本体自体を楽しむもので別種、別物と考えるのは正しいことだと思っている。
今回、兵庫県浜坂のハタハタは体長16cm・50g前後しかない。
9月の北海道釧路産が体長22cm・重さ130g前後だったのと比べると、重さ半分以下しかないものの、脂ののりでは浜坂産に軍配が上がる。

煮つけにすると脂の玉が輝く


さて、煮つけは頭を落としてわたを出す。
水分をきり、酒・みりん・醤油・水を沸騰させた中で短時間煮る。調味料は控えめにして途中で味加減をするといい。
脂の泡がきらきら浮いているのが食欲をそそる。
鱗がなく骨があまり硬くない。その上、身離れがいいので、いくらでもすいすい食べられる。
この上品な味の煮つけがご飯に合う。

腹の残したホタルイカに独特の風味がある


塩焼きは買って来た日に流水であらって、頭も内臓もそのままで塩をして、ビニールに密閉して翌日焼き上げる。
1日寝かせた方が塩が少なくてすむ、と考えているがいかがだろう。
後は焼き上げて、太宰治のごとくに野蛮にむしゃむしゃと食らう。
ハタハタは箸なんかで食べてもうまくない。
腹の中のホタルイカがやけに濃厚な味わいで、独特の風味を生み出している。
酒を飲むのも忘れて食らってしまうのは、端的にうまいからだ。
さて、ハタハタ漁に好不漁があるのは仕方がない。
だから天然の魚は面白いのである。
今年の春のハタハタが好漁であることを祈りたい。


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