ツブ学1 BとはAよりも下という意味のアツエゾボラ

比較的雑に扱われていたはずのBツブ


関東と関西と比べると、関東の方が「ツブ」と呼ばれる、エゾバイ科エゾボラ属の巻き貝をよく食べている。
なぜか?
関西では「バイ」であるエゾボラ科エゾバイ属のエッチュウバイ(もっと深く知りたい人はカガバイも憶えておくといい)を生で食べることが、関東よりも普通だからだ。
関東では刺身といえば「つぶ」だが、関西で刺身といえば「バイ」もあるし「ツブ」もありで、選択肢が多いのだ。
昔、島根県では、「なぜ関東では『白バイ』の刺身を食わんのか?」なんて、隠岐の県職員が悪戦苦闘していた。
だから隠岐などで揚がる上物の大振りの刺身用エッチュウバイは関東には向かわず、石川県金沢市場、京都市場、大坂市場、広島市場に向かうことになる。
関東では刺身で食べる巻き貝は、エゾバイ科エゾボラ属の「ツブ」という考えが強いのだ。
豊洲などでエッチュウバイは煮物用の小振りの方が高く、大振りなのは安い。対するにエゾボラ属のツブは、豊洲などの仲卸に大小揃い踏みで種類も多く並べられているが、大きければ大きいほど高い。
関東で、Aツブは真ツブともいい、エゾボラのことだ。その他のエゾボラ属はみなBツブなのである。
昨年からこのAツブ(エゾボラ)が非常に高騰している。ひょっとしたら巻き貝の王であるマダカアワビよりも高い可能性がある。それだけで終わればよかったのだけど、Bツブまで高騰したのである。

取りつくところがないくらいに頑丈


Bツブの代表が標準和名のアツエゾボラである。黒田徳米(1886-1987)のつけた「厚蝦夷法螺」は言い得て妙。とてもいい和名だと思っている。他のエゾボラ属と比べると貝殻に厚みがあり硬いのだ。
銚子以北とされているが、漁業的には北海道噴火湾以西の太平洋側である。
流通する、主なツブであるエゾボラ属の同定は非常に難しい。わかりやすいのはエゾボラと本種と北海道太平洋側のエゾボラモドキ、クリイロエゾボラの4種である。
巻き貝の同定の多くが難しいものだが、エゾバイは収集の対象ではないので、放って置かれている気がする。ときどき思う事だけど、エゾバイ科は貝類の専門家に継子いじめされているようだ。
豊洲などでも「Bツブにしなよ」は「安い方でいいんじゃないの」、という意味だった。アツエゾボラは比較的水揚げが多く、しかも小振りなので値がつかなかったのだ。

身を取り出すのがとても大変


久しぶりに買ってビックリ、Bツブなのにビックリ仰天するほど高い。この「ツブ大高騰事件」の犯人は誰なんだろう。
アツエゾボラが値をつけない理由は、貝殻がとても硬く身を取り出しにくいこと。足(刺身にする部分)が黄色みを帯びていてエゾボラのクリーム色ほど食指が動かないためだ。

見た目からしてAツブに敵わないけど、おいしいことはおいしいのだ


実際、刺身にすると巻き貝らしい風味もあり、食感も心地よいのである。
ツブ好きなので、値段的にもアツエゾボラばかり買っている気がする。
要はAツブと比べなければ、いいのだ。


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