板倉町の「やなぎばえ」はモツゴとタモロコ

渡良瀬・利根川水郷地帯の淡水小魚について

やなぎばえ

群馬県に行くと必ず買ってくるのが、「やなぎばえの佃煮」である。
群馬県板倉町のハスミフーズのものである。古く、町内にはたくさんの淡水魚を扱う問屋(地元の淡水魚を集めてそのまま出荷したり、加工していた)があったが、近年ではハスミフーズをはじめ数軒しか残っていない。
「やなぎばえ」という聞き慣れぬ言語を理解するには、国内の淡水小魚の呼び名を考える必要がある。
淡水性の小魚の呼び名に「もろこ」とか「はえ」というのがある。特定の魚の呼び名ではなく、様々な魚の呼び名として使われている。
その上、この2つの言語はかなり広範囲で使われているようだ。この淡水性小魚の呼び名の整理は非常に難しく、現在のところ五里霧中といった状態にある。
ちなみにオイカワを「はえ」という地域があるが、実は食用としてのオイカワとは夏の成魚のことを差すのではなく、冬から春にかけての若い個体というか、未成魚のことだと考えている。とするとこの場合の「はえ」も小さな淡水魚という意味になる。
また木曽三川の輪中地帯周辺で「新バエ」は小ブナのことだ。ここでも「はえ」に小さいという意味合いが見いだせる。
群馬県板倉町で「やなぎばえ」は本来はタモロコの呼び名だと考えている。「やなぎ」は柳の葉のように細長い体形のことで、「はえ」は先に述べたように淡水の小魚で、まさにタモロコそのものである。
ところがここ15年近く群馬県板倉町で「やなぎばえの佃煮」を買うと、タモロコとモツゴが一緒くたになっている。板倉町でモツゴは、「くちほそ(口細)」、「くちぼそ(同)」だ。
この群馬県・栃木県・埼玉県・茨城県の渡良瀬川・利根川の水郷地帯では古くは大量にこの淡水の小魚がいて、それをとる人もたくさんいた。そこから考えると、「やなぎばえの佃煮」はタモロコの佃煮で、モツゴはモツゴだけの佃煮があったのかも知れない。同じものが東京都・茨城県古河市・埼玉県加須市・栃木県栃木市などでは「雑魚煮(ざこに、ざっこ煮)」という。
余談だが、広い地域で淡水の佃煮(加工食品の正式な名称)を調べていると、佃煮が東京都中央区佃島で生まれたわけではなく、「佃煮」という言葉が生まれたに過ぎないことがわかる。
さて、今回のものは国産原料を使っている。板倉町では地元でも漁が行われているが、霞ヶ浦への依存度が高い。
原料の正確な産地はわからないが、関東周辺の可能性が高いのは、タモロコに対してモツゴのサイズが非常に小さいことからわかる。
最近は淡水小魚が輸入され、また岡山県などから送られてくるが、その場合、比較的原料は大きさが揃っているのである。

ほろ苦さがおいしい淡水小魚煮


今回のものは「辛口」とあるが、意外に味つけは薄めだ。醤油辛いのが好きなのでもの足りなく感じるが、味はとてもいい。
最近、淡水魚を食べる文化が急速に消えてしまいつつある。これをなんとか残せないものか。
関東などで住まいしている人は一度、この水郷地帯の淡水魚を食べてもらいたい。


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