厚岸産天然ホタテのよさは貝殻の膨らみ

天然ものの膨らみのある方の貝殻は白い


ホタテガイを買う度に「帆立貝」という言葉が気になる。「帆立」は名詞ではなく副詞、もしくは「帆立てる」で動詞である。帆掛け船が帆を大きく広げた、広げようとする状態をいう。
本種だけの呼び名ではなくイタヤガイ科の同じような姿の貝、二等辺三角形をしたハボウキガイ科の呼び名でもある。「帆立」は、末広がりを思わせるので、どこかしら目出度い言語だったのかも知れない。
東北以北の冷たい海域に生息するもので、貝殻を開け閉めして盛んに動く(移動)こと、外套膜(ひも)に目のように光を感じることのできる器官があることなどが特徴である。またおいしい貝柱が大きいのも特徴である。ちなみにアサリやカキ(マガキ)などは軟体部分全部を丸ごと食べるが、ホタテガイの主な可食部分は貝柱である。
今回のものは天然ホタテガイとされているが、完全なる天然ではない。種苗採取をしてある程度の大きさまで育て、生育しやすい海域に撒いて、一定の期間を自然の中で暮らさせたものを捕獲したものである。
自然の中で育ったもののよさは貝殻が大きく、膨らみが強いことだ。
古くホタテガイの貝殻は食器であり、鍋でもあった。青森県青森市などにはホタテの貝殻を専門に売る店すらあった。当時店内には非常に大きな貝殻があったことからして、種苗生産したものではなく、完全なる天然もの、すなわち海で生まれて海で育ったものかも知れない。
ちなみに東北地方の底曳き網で揚がる完全な天然ものは、今現在天然として売られているものよりも一回り大きい。
さて、師走になって豊洲市場にも地元八王子にも天然もののホタテガイが見られるようになっている。天然ものとカゴやヒモで吊り下げて生育したものの、味の違いはあまりよくわからない。ただ天然ものの方が大型になり、その分貝柱も大きい。
食べた後の貝殻を鍋に使えるという利点もある。

ホタテガイの貝柱はだれでも好きだと思う


八王子総合卸売協同組合、舵丸水産に北海道厚岸産の天然ホタテガイが売られていた。貝殻の大きさ(殻長)15cm・382gなので養殖ものよりも一回り大きい。ただし貝柱の重さは60gなのでこんな大きな個体を買っても、刺身は一人前しかとれない。思った以上に刺身の原価は高い。
今回は貝柱、外套膜(ひも)、卵巣を刺身、塩ゆでにして食べた。
料理はとても簡単だ。
ホタテガイを剥く器具もあるが包丁でもいいし、ステーキナイフでもいい。貝殻の隙間から差し込んで貝柱のつけ根を少しずつ切り剥がす。時間をかけてもいいのでていねいに。当然貝殻が開くので反対側の貝殻からも同様に剥がす。
貝柱の周りの消化器と肝膵臓、ヒモを貝柱からゆっくり引き離す。
貝柱の周りに白い皮膜があるので取り、貝柱に小さな三日月型の貝柱がついているので、これもゆっくりと剥がしとる。汚れがついていたら貝柱を塩水で洗うか、濡れ布巾で拭く。
ヒモと白い精巣かオレンジ色の卵巣以外は捨てる。特にウロと呼ばれる濃い緑色の部分は重金属が含まれている可能性があるので食べないこと。
オレンジ色の卵巣は塩ゆでにして氷水に落として、水分をよくきり、食べやすい大きさに切る。
ヒモはすり鉢などに入れて、ヘラなどをつかってかき混ぜながらぬめりを落とす。手を使ってもいいが手荒れすることがあるので要注意。仕上げに塩を加えてかき混ぜて氷水に落として洗うとともに締める。最後においしくないヒモの皮膜などが着いていたら切り取る。

意外に知らない貝柱以外の、部分のおいしさ


貝柱は適当に切るだけだけど、筋繊維に縦方向に切るよりも筋繊維を断ち切るように横方向に切った方が食べやすい。
甘味が強くて柔らかい貝柱の味はだれが食べてもおいしいだろう。青森の町の老人に聞くと現在のように養殖もののない時代、ホタテガイは非常に高価だったらしい。めったに食べられない贅沢な味を今、そんなに散財しなくても食べられているのだ。
ちなみに貝柱が主役だが、ボクがいちばん好きなのはヒモである。塩味はついているので、柑橘類だけで食べると食感が心地よく、無類の味だと思っている。


関連コンテンツ

サイト内検索

その他コンテンツ

ぼうずコンニャク本

ぼうずコンニャクの日本の高級魚事典
魚通、釣り人、魚を扱うプロの為の初めての「高級魚」の本。
美味しいマイナー魚介図鑑
製作期間5年を超す渾身作!
美味しいマイナー魚図鑑ミニ
[美味しいマイナー魚介図鑑]の文庫版が登場
すし図鑑
バッグに入るハンディサイズ本。320貫掲載。Kindle版も。
すし図鑑ミニ ~プロもビックリ!!~
すし図鑑が文庫本サイズになりました。Kindle版も。
全国47都道府県 うますぎゴーゴー!
ぼうずコンニャク新境地!? グルメエッセイ也。
からだにおいしい魚の便利帳
発行部数20万部突破のベストセラー。
イラスト図解 寿司ネタ1年生
イラストとマンガを交えて展開する見た目にも楽しい一冊。
地域食材大百科〈第5巻〉魚介類、海藻
魚介類、海藻460品目を収録。