福島のニクモチガレイで島根県石見地方の「へか焼き」

石見の夕市には多種多様な魚貝類が揚がっていた

島根県大田市和江の夕市

島根県で作られている鍋ものに「へか焼き」がある。「いり焼き」、「煮食い」とも言う。
魚を主役とした醤油味の鍋で、大阪の「魚すき」にあたる。兵庫県日本海側但馬地方の「じゃう」、三重県尾鷲市の「じふ」なども基本は同じで、このしょうゆ味の鍋は、日本各地で作られているのだろうと思われる。
2008年、島根県大田市和江では、底曳き網でとれたばかりの魚を夕方に競りにかけていた。これを夕市(現在は廃止)という。底曳き網には様々な魚がはいるが、売っても高値がつかない魚や、カレイ類の若い個体(小型)で作るのが、「へか焼き」である。
カナガシラ、キダイ、ソウハチガレイ、ヤナギムシガレイなど、使われる魚の種類は日々変わり、多彩であった。
これを福島県相馬市原釜産のミギガレイで作ってみた。
大田市和江の元組合長であった月森元市さんに教わったやり方は、鍋に水と醤油を煮立たせて、そこにとれたばかり、水洗いしたばかりの魚を入れて、煮えたそばから食べると言ったもの。
必ず入れるのはこんにゃくで、野菜はあるものを使い、豆腐も好みで入れるという鍋である。

魚も野菜もなんでもいいが、こんにゃくは欠かしてはいけない


さすがに東京の郊外までやって来たカレイは、そのまま煮てうまいわけがない。水洗いして一度湯通しして、冷水に落として残った鱗やぬめりを流し、水分を切って鍋の具とした。
野菜は三つ葉しかなく、エリンギ、こんにゃくを適当に切った。
また醤油と水だけの味つけにするには魚の種類も量も足りない。仕方なく割り下(酒・みりん(砂糖でも)・醤油・水を合わせる)にする。
小鍋仕立てなのでミギガレイにきのこ、こんにゃくを煮て、野菜を加えながら、温かいまま食べる。
この煮え立てを食べるうまさは、煮て皿に盛って食べるのと物理的には同じだけど、たかが時間差ではないかと思うものの味が違う。
急激に気温が下がった夕方だったこともあり、今回の子持ちのミギガレイは「へか焼き」にして煮立てを食べたら、やたらにうまい。身がふくらんで身離れがよく、身の甘味が強く引き出された。
ここに、こんにゃくとは和江の方達の知恵を感じる。
鍋の起源は、古代住居の居間(生活空間)に火(囲炉裏など)があったところで自然に行われていたものを、日本家屋が生まれた中世に炉と一緒に卓上に移したものではないか? と思っている。
それほど煮え立てをすぐに食べるのは、通常の煮ものの倍くらいにうまい。


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