北海道羽幌産ボタンエビに懊悩する

トヤマエビは50g以上になると俄然高くなる

羽幌産トヤマエビ

標準和名が「正しい名前」という愚か者が多くて困る。標準和名とはあくまでも科学の世界で便宜的につけた名であって、正否の問題ではない。だいたい標準和名など使うと余計にその動物、植物に行き当たらないなんてことだってある。
特に生食されることが多いタラバエビ科のエビなど標準和名などない方がいい、のではないかと思っている。
さて、1970年代くらいまでタラバエビ科のエビはこの国でほとんど流通して食べられていなかった。タラバエビ科のエビは筋肉が発達しておらず、呈味成分が多いわけでもない。多種多様なアミノ酸がからみあって身も身のエキス分をも粘質にし、またこの多様なアミノ酸が甘いとヒトの舌に感じさせる。身に水分が多いのも特徴である。
それまで本州、四国、九州などで主に食べられていた、非常に原始的なクルマエビ科のエビとは真逆の味である。
ちなみにタラバエビ科でもっとも早く全国的に知られたのが甘エビ(ホッコクアカエビ)である。これは1970年代東京都内デパートが始めた新潟物産展からとされている。ちなみに1974年、銀座の秋田料理の店で初めて食べたとき、「都内でも数軒しか食べられない」と説明を受けている。
タラバエビ科のエビでは、標準和名でホッコクアカエビ(甘エビ)、トヤマエビ(ボタンエビ)、モロトゲアカエビ(シマエビ)、ボタンエビ、ヒゴロモエビ(ブドウエビ)の順で流通量が多い。ほかにもあるが、ここでは省く。
今タラバエビ科でいちばん高いのはヒゴロモエビ(ブドウエビ)であるが、ここには流通量が少なくて希少だということが加味されている。流通量のことを考えると、正真正銘、いちばん高いエビはトヤマエビ(ボタンエビ)とした方が正しいと思っている。
本種は国産だけではなくアメリカやロシアから冷凍輸入されたものもある。アメリカのものはともかくロシアのものは格段に安い。今どき大はやりの海鮮丼に乗るボタンエビの何割かは、ロシア産の冷凍ものである可能性が高い。丼にのるボタンエビをありがたがって食べている人がいるが丼の値段から儲かると思う。
さて、本種は特に60gを超えるとキロ単価で(仲卸値段なので卸値以下同)1万円くらいする。品薄感があると2万円というのも見た事があり、過去に80gでキロ単価25000円というのを買っているが、こうなると食べ物の値段とはとても思えない。
さて、八王子総合卸売協同組合、マル幸に来ていた羽幌産はだいたい60g前後で平均価格の㎏あたり10000円よりも安かった。それでも2本で原価1000円ほどになる。
ちなみに1尾500円と考えると、刺身に2尾盛り込んだとして、料理店では2000円では出せない。たぶん3000円で出しても苦しいと思う。なぜなら足が速いからだ。

本当は水から殻を剥きながら食べるべきだけど

ボタンエビの刺身

定期的に上物のトヤマエビの味見をしているが、今回のまだ脚が動いているような個体の味は感動的というよりも官能的で懊悩、だった。
ほの甘くてエビの風味があって、仕舞いにみそをすすって仕上げるのだけど、うまいとかまずいの空間をはみ出している、そんな味である。
もっと頻繁に味見したいが夢の又夢だな。


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