3月25日 宇部産ナミガイ

長く伸びるのは水管

軟体はすべて食べられる

山口県宇部市の青山鮮魚、青山時彦さんに貝をいろいろたくさんいただいた。長年探し続けていた貝もあって、感謝の致しようがない。
中に「「白ミル(ナミガイ)」が入っていた。小振りだけど水管を触ると固太りで、むちむち健康優良児的である。
主に水管を食べる二枚貝、ナミガイとミルクイは比較されがちである。「ナミガイはミルクイのニセモノだ。まずい」、なんて言う人すらいる。そんなことを言うヤカラは舌がおかしいのだと思っている。なんでもかんでも比べる病に罹ってしまっている、言うなれば病人(やまいびと)である。
ミルクイとナミガイは別の味で別々にうまい。階級的に考えても縁もゆかりもない貝であり、共通点はともに水管が大きいという点だ。
軟体類はよく動かす部分が大型化する傾向にある。よく足(腕)を動かすマダコの足は大きく、むしろ胴で海水を取り込み噴射して移動するイカの足は小さい。浅蜊は水管も足もよく使うのでともに大きく、トリガイなどは足が大きい。イタヤガイ科は移動に足ではなく貝柱で貝殻をパクパクするために貝柱が大きい。
ナミガイ、ミルクイは泥の中に深く潜り、水管(哺乳類の口にあたる)を泥の表面上にまで伸ばして懸濁物質(エサ)をとる。泥上に伸ばしたり引っ込めたりを頻繁にするので水管が巨大化したのだ。
ナミガイは江戸時代以前の書籍にはなく、江戸時代の百科事典的な『本朝食鑑』や『和漢三才図会』にもない。天保時代、彼の赭鞭会の中心にいた武蔵石壽の『目八譜』にのみ「波貝」、「翁の面貝」がある。このあたり室町時代後期、戦国時代の会席料理の記録にもあるミル(クイ)と比べると陰が薄いのかも知れぬ。

刺身が一般的


ニセモノと言われて久しいが、今では決して安い貝ではなくなっている。
ニセモノとするには、あまりにもうまいことがわかってきたのだろう。
あらためて産地である山口県瀬戸内海側、宇部の「白ミル」の水管を刺身にして食べるとしこしこしてうまし。酒がやたらにすすみ過ぎて困る。

油がうまいアヒージョ


今回は水管以外をアヒージョにして食べた。意外にも濃厚なうま味と貝らしい食感が豊かで、一升瓶白ワインがぐいぐい飲めた。
ナミガイうまし、と貝春を言祝ぐのだ。

キヌマトイガイ科のキヌマトイガイ


余談ながら、ナミガイはキヌマトイガイ科である。キヌマトイガイなんて見た事がないという市場人は宣うのだけど、それは見ているけど認知していないだけだ。キヌマトイガイは市場でもお馴染みの貝なのである。ただ、1cm前後しかなく、マボヤなどにしがみついていて汚れにしか見えない。だから見た事がないのだ。


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