コイのあらのみそ汁

佐原はコイの町


ボクが勝手に利根川ハイウェーと呼んでいる利根川の撮影を終えて、久しぶりに佐原の町を歩く。
下総佐原(千葉県香取市)は江戸時代の大動脈利根川・江戸川屈指の港であり、流域最大級の商工業の町であった。酒蔵があったり古い金物店があったりと来る度に発見がある。江戸の風情もあり、明治、大正、昭和の町並みも残る街くらい楽しいところはない。
佐原を含む千葉県と茨城県にまたがる利根川・霞ヶ浦・外浪逆浦あたりを、「ちばらき」という人がいる。農産物にも水産物にも恵まれた地味豊かなところで、淡水魚貝類の宝庫だった。利根川漁師さんなどに聞くと、昔は米よりも淡水魚の食に占める比率が高かったという地域で、銚子から来る海水魚は贅沢なものでめったに口にできなかったという。
そして今でも淡水魚を食べる文化は残っている。佐原は今、表面上は典型的な日本の観光地だが、一歩生活の場所に踏み入れればちゃんと淡水魚が食べられるし、買えるのである。
「ちばらき」周辺でも淡水魚を食べる文化は衰退しつつあるのかも知れない。ほんの十数年前には、コイの甘煮用の切身、洗い、あらなどを買うのは簡単だった。産地でしか手に入らない、コイのあらは1尾分(1尾を料理してくれると必ずあらをつけてくれた)ではさびしかろうと、内臓たっぷりのあらをおまけしてもらったこともある。それが今や確実に淡水魚が買える店が減ってきている。ちなみにコイは肝などの内臓がいちばんうまい。次いで真子・白子でいちばん魅力を感じないのが身(筋肉)だ。
当然、佐原で真っ先に確保したのがコイの切身とあらだ。余談だが、これに醤油、みりん、酒を買えば佐原旅は完璧だ。

コイのあらはお宝である


あらで作るのはみそ汁である。千葉県でもこのあたりはコイのみそ汁をご飯のおかずによく食べていた。洗いや甘露煮に加工した残り、あらなどをもらってきてみそ汁にするのがいちばん安いおかずだったらしい。
スーパーでコイの甘煮、切身を買い、奥の方にあったコイのあらはなんと150円しかしない。まさかコイの切身以上にあらが欲しいとは言えないので買ったコイの切身だが、ちゃんと甘煮も作って食べたので悪しからず。

豆味噌を加えるべし


産地では生きている状態で洗いを作り、あらも同時に作るので、水からそのまま煮てみそを溶けばいいが、持ち帰って翌日作るときは必ず湯通しをする。冷水に落として表面のぬめりを取るが鱗はおいしいので取らないのが肝心。
みそはなんでもいいが、愛知県、三重県、岐阜県などで作られている豆味噌を少し加えると俄然うまくなる。

味は日日変化する


湯通ししたあらは水分をよくきり、酒、水を合わせた中に入れて火のかけて煮る。煮えてきたらみそを溶き、ことこと30分以上煮る。
みそ汁は当日を含めて、3日間に渡って食べる。皮や身はとろとろになってくる。この煮返す度の味変がとてもいいのだ。
ちなみにコイを食べていない人に限ってコイが嫌いという。実はコイを食べてコイをまずいという人はほとんどいないのだ。

汁はだんだんどろっとしてポタージュのようになる


3日間ご飯のおかずに食べたが、飽きの来ない、食べてまた無性に食べたくなる味である。もちろん1尾丸ごとで鯉濃を作った方がゴージャスではあるが、利根川漁師に習い、あら汁で我慢する。
ちなみにコイのみそ汁でやる常温の酒は抜群にうまい。


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