弘前のカドザメの酢の物は料理法として優れている
真っ白いだけの彩りなど無視の料理がうまい

『みちのく食物誌』(木村守克 路上社)は机周りにおいて、ときどき拾い読みをしている。
中でも「懐かしのカドザメ」にある「酢の物」の作り方は、非常に合理的で、しかもおいしい。
ちなみに木村守克は1936年生まれなので戦中・戦後を生きている。
この書籍はとても貴重である。
家庭料理の出来上がるまでの時間は短ければ短いほどよく、できるだけ単純でなければならない。
できるだけ手間を省いて、しかもおいしくなければならない。
この点からしても、弘前の「酢の物」は、料理屋の料理人の料理よりも優れていると思っている。
この「酢の物」が非常にうまいのである。
見た目は大根おろしの白に、ゆでたネズミザメ(カドザメ。モウカザメとも)も白なので料理自体が白一色、地味なことこの上ないものだが、最近、家庭料理は格好つけすぎなのだ。
見た目の割りにまずいレシピが雑誌などを見ていても多すぎる。
この見た目の地味さに反してのおいしさには感動できる。
食卓の一隅にあると、アン・ドゥ・トロワの次くらいに箸が伸びる。
ネズミザメの身はまったくくせがない。
しかも柔らかく、後から甘味を伴ったうま味がくる。
そして大根おろしが甘酸っぱい。
料理の考え方としておぼえておくと、他の素材にも生かせそうである。
文字にすると複雑だけど、非常に簡単

作り方は簡単。
ネズミザメの身をゆでて水に取り粗熱を取り水分を切る→塩と酢の二杯酢につける→大根おろしと和える→砂糖で味をととのえる。
〈カドザメの身はぶつ切りにしてゆでたものを、塩を少し加えた酢に三十分ほど漬けておき〉
ぶつ切りでは食べにくいので少し小さめに切る。
塩と酢の二杯酢に30分漬けるのは同じ。