コラム「鰤大根の歴史と作り方」

鰤大根(ブリ大根)はブリと大根を煮た一般的な料理だ


農林水産省が「ぶり大根」を富山県の郷土料理に選定している。なんて愚かな、としか言いようがない。例えばライスカレーを特定の県の郷土料理とするようなもの。典型的なお役所仕事だ。「鰤大根」は郷土料理ではないと考えている。養殖が盛んになりブリの頭が単独流通するなどして、別にブリを仕入れなくても料理店で提供ができる。一般家庭でも普通の日常的な料理だと思っている。
最初に。「鰤大根(ブリだいこん)」は冬に作られるものだが、年取とは無関係だということを述べておきたい。年取魚としてのブリはあくまでも塩蔵、もしくは塩蔵して干したものである。しょうゆ味の総菜、「鰤大根」は生のブリでなければ作れない。当然、産地でもない限り正月に食べるものではない。
「鰤大根」という料理名が定着したのは最近のことだ。同様の料理に名前がなかったり、別の料理名であったかも知れない。郷土料理などの料理名が急激に消滅し始めるのは1970年代からだと思う。この頃、ラジオの料理の番組がテレビに移行する。この時期以降の料理番組、料理家(料理研究家ではない)には、地域性に関しても配慮が明らかに欠けている。
地域での呼び名としての「鰤大根」は、1984年から刊行開始された『聞書き 日本の食事全集』をみる限り『聞書き 石川の食事』の金沢市、『聞書き 福井の食事』の福井平野にあり、ブリのあらと大根をしょう油で煮つけたものものとしている。蛇足になるが古い版の広辞苑、歳時記、『飲食事典』(山本荻舟 平凡社 1958)などにも「鰤大根」は出てこない。
ちなみに『聞書き 富山の食事』に氷見地方の料理として「ぶりの残と大根の煮もん」が出てくるがみそ味だ。石川県と富山県は言葉など共通する部分が多いので、富山県にもしょう油味の鰤と大根の煮つけは存在するはずである。『聞書き 日本の食事全集』は優れた出版物だが、日常的にその地域で食されてきたほんの一部しか掲載していないということも忘れてはならない。

基本はブリのあら、大根、しょう油


「鰤大根(ブリだいこん)」はブリのあらと大根をしょうゆ味で煮た料理である。もしも醤油が使われた料理だとすると、しょう油が日本各地に広まったのは江戸時代以降で、根が肥大した大根も江戸時代に栽培が本格化する。ブリと大根をしょう油で煮た料理が江戸中期以降だとしても、郷土料理ではなく全国的な料理になってしまって当たり前だ。
材料はブリ(ブリサイズという意味ではなく小さくでもいい)、大根としょう油が基本となる。前記の福井平野では甘味である砂糖もみりんも酒も使われていない。金沢市では赤砂糖が使われている。このあたりに農村地帯と町屋での時差を感じる。本来、家庭料理が料理店でも作られるようになり、酒やみりんが使われるようになる。そしていつの間にか家庭でも酒・みりん・砂糖を加えることは今や当たり前となっている。
大量に作り、何度か煮返して食べるもので、金沢市で聞取した老人は、「大鍋で作り4〜5日食べるものだった」と言う。
【写真】幾度か煮返したもので、骨まで柔らかくなっている。大根は金沢の打木源助大根。

鰤大根は翌日の煮凝りが出来た冷たいものがおいしい。


我が家では寒い時期なので作った鰤大根を当日は温かい状態で食べる。残ったものを外に出しておくと見事な煮凝りが出来る。
この煮凝った鰤大根を温めて食べてもいいが、冷たいまま食べた方がうまいと思っている。翌朝の朝食のいいおかずになる。
この冷たい「鰤大根」こそは冬にしか食べられないものだと思っている。

ご飯に乗せると煮凝りは溶け始める


煮凝りをご飯に乗せると、じょじょに溶けてご飯に混ざり込む。溶けない間に食べてもいいし、溶けて汁だくになったものを食べてもいいが、非常にご飯がすすむ。寒い時期の脂がのったブリ(ワラサ、イナダも)を煮つけると、煮上がったときよりも翌朝の煮凝りが主役になる、かも知れぬ。

富山県氷見の「ぶりの残と大根の煮もん」


ブリと大根を煮るというのは季節のものを合わせるという至ってありきたりな料理だ。当然、ブリの水揚げがない琉球列島以外の多くの地域で作られてきたものだと思う。
そこで問題となるのが調味料だ。国内で一般的に使われるようになったのはしょう油よりもみその方が古い。当然、『聞書き 富山の食事』に氷見地方の料理として出ている「ぶりの残と大根の煮もん」は、しょう油味の「ブリと大根煮たもの」よりも古いものだろう。
国内ではみその歴史は奈良時代にまで遡ることができる。しょう油の歴史は遡ってもせいぜい室町期であり、産業的に大量に作られるようになったのは江戸時代になってからだ。。
作り方は簡単である。皮を剥き大振りに切った大根を煮る。
八分通り煮えたらブリの残(あら)を加えて、大根が柔らかくなったらみそを溶いてさらに煮込む。
「鰤大根」のみそ味版といったものだが、しょう油とは別種の味が楽しめる。

鰤大根の作り方 1


今回はワラサの頭部のみで作る。12月の北海道のワラサは日本海のブリにひけを取らない脂ののりである。
頭部を食べやすい大きさに切って鍋などに入れて上から熱湯をかけ回す。数分そのままにして冷水に落とし、残った鱗やヌメリを徹底的に取る。
水分を切っておく。
煮汁が濁ってもよければこの工程は不要。

鰤大根(ブリ大根)の作り方 2


大根は皮を剥き適当に切る。白水か玄米を入れた水で5分通り(少量作る場合は八分通り火を通す)火を通して冷水に落とす。少し晒してザルなどに開けておく。
大根の灰汁が気にならない向きにはこの工程は不要。
その場合は鍋で大根を八分通り煮て、ブリを加えてと時差をつけるといい。

鰤大根の作り方 3


しょう油・みりん・酒・水でしょう油は少なめにする。甘めが好きなら砂糖を加える。これを沸騰させる。

鰤大根の作り方 3


沸騰してきたら大根、ブリを加えて煮る。

鰤大根の作り方 4


ていねいに下ごしらえをすると蓋をして煮ても煮汁が濁らない。ときどき味見してしょう油を加えていく。

鰤大根の作り方 5


煮えたと思ったら味をみてしょう油などを加え、少し煮て火をとめる。
1時間くらい鍋止めする。


関連コンテンツ



サイト内検索

その他コンテンツ

ぼうずコンニャク関連サイト

ぼうずコンニャク本

ぼうずコンニャクの日本の高級魚事典
魚通、釣り人、魚を扱うプロの為の初めての「高級魚」の本。
美味しいマイナー魚介図鑑
製作期間5年を超す渾身作!
美味しいマイナー魚図鑑ミニ
[美味しいマイナー魚介図鑑]の文庫版が登場
すし図鑑
バッグに入るハンディサイズ本。320貫掲載。Kindle版も。
すし図鑑ミニ ~プロもビックリ!!~
すし図鑑が文庫本サイズになりました。Kindle版も。
全国47都道府県 うますぎゴーゴー!
ぼうずコンニャク新境地!? グルメエッセイ也。
からだにおいしい魚の便利帳
発行部数20万部突破のベストセラー。
イラスト図解 寿司ネタ1年生
イラストとマンガを交えて展開する見た目にも楽しい一冊。
地域食材大百科〈第5巻〉魚介類、海藻
魚介類、海藻460品目を収録。