城ヶ島沖のムツのちり
ムツの鍋を料理店で食べるなんて、普通の人間には無理だと思う
産地でもあるので、関東では盛んにムツを鍋に用いていた。
昔は贅沢なものではあるが、ちょっとがんばれば庶民の手の届くものだったようだ。
今ではあまりにも高価なので、特別な日の料理となってしまっている。
当然、料理店で食べるなんて夢のまた夢だ。
だから「ムツの鍋」はいつも自宅で作る。
さて、ムツの鍋が煮えてきたら、まずは汁の味見から始めたい。
ムツのあらからじわりと煮汁に染み出したうま味たるや名状しがたい。
これだけで酒が飲める。
黒くて薄くて地味だけれど、皮は柔らかく脆いものの、おいしさが凝縮されて存在している。
ましてや身の甘さ、うま味の豊かさよ。
ムツばかり食べていると興奮して過呼吸になりそうなので、豆腐も山東菜もしいたけも、食べる。
名残の黄色い、すだちは香りこそ弱くなっているが果汁はたっぷりである。
このすだちと醤油だけで食べると、ムツの脂がありながら上品な味が端的に楽しめる。
酒も進むけど正一合のみで、我慢、我慢。
ムツの鍋の後の汁までも、ご飯と卵で食べ尽くす
鍋に残った汁は一度濾しておき、翌日の朝ご飯は雑炊にする。
うまさの坩堝にご飯と溶き卵を投入すると、完全無欠、他には何もいらぬ味になる。
酒の肴を翌日の朝ご飯に食べると、前日を引きずっているようでいやだけど、雑炊だけは、今日も元気でやろう! という気にさせてくれる。