サザエ、基本のキ

北海道から九州まで国内でもっとも知名度の高い巻き貝だ

千葉県産サザエ

サザエは北海道西岸から九州までの、日本海・東シナ海、千葉県以南九州までの太平洋、瀬戸内海の浅い岩礁域に生息している。
巻き貝の中でも漁獲量が多く、もっともありふれた存在である。
主な産地は圧倒的に日本海が多く、代表的な産地は長崎県、山口県、新潟県、島根県などだ。太平洋側でも三重県、千葉県などで揚がるが、産地としての太平洋沿岸域は弱い。

分類学的には古腹足目サザエ(リュウテン)科リュウテン属サザエであるが、おぼえたい人はおぼえるといい。
サザエの仲間(サザエ科)には鹿児島県以南にいるチョウセンサザエや、食用だけではなく工芸にも使われるヤコウガイがいる。
標準和名の他に学名(世界的に共通する名)がある。古くサザエの学名には、Turbo cornutus Lightfoot, 1786(実はサザエではなくナンカイサザエ) が使われていたが、調べてみたら、サザエ自体には学名がなく、分類学的には新種であることを岡山大学の福田宏准が突きとめた。2007年に初めてついた学名が、Turbo sazae Fukuda, 2017 である。学名は一般的に縁遠いものだがおぼえておいてもいいだろう。

角は環境によって伸びたり伸びなかったり

山口県産サザエ

角が貝殻から伸びているのと、まったくないもの、角の短いのなどがある。原因はよくわかっていない。日本海には角が短い個体、まったくない個体がある。瀬戸内海産も角のないものが多い。
千葉県や三重県のものはやたらに角が長いのがある。
波の荒い海域で育ったものは角が長く、穏やかな海域のものは短いかまったくない、というところをみると環境による変化だろう。

姫さざえはサザエの子供である


ちなみに「姫さざえ」という小振りの巻き貝がある。これはサザエの若い個体で別種ではない。
流通上隣同士で置かれていることが多く、別の名前で呼ばれているが、実は親子である。

古代より都に送られていたので、サザエという共通言語が生まれる

さざえべし

浅い磯にいる巻き貝の中でも、飛び抜けて大きい。しかも味がいいので昔々から食べられてきた。
縄文時代(紀元前14000年から10000年)の貝塚(縄文時代のゴミ捨て場で主なゴミが貝だったのでこの名がついた)からも発掘されている。
サザエは標準和名(図鑑などで使われている名)だが、全国的に使われていた呼び名だ(本来巻き貝などは地域地域で呼び名が違うことが多い)。地方名に微妙な違いはあるが、「さじゃー」、「しゃーじゃ」などサザエが変化したものが多く、またサザエとは別の系統の呼び名は大小での呼び名であったりする。
なぜか? 延喜式(平安時代、905年。法律や地域名、地方から送られて来た産物)にもあり、都に送られていた漁獲物のひとつだったためだ。このように地方名の少ないものに、アワビ、カツオなどがある。
当時は主に「塩から」が産地から都へと運ばれていたのだろう。「塩から」は今でも石川県能登半島、山形県飛島などで作られている。
そのまま食べることもできるが、塩出しをしてその塩出しした汁と塩のぬけた身(筋肉)をともに使っていたのだと思っている。

山育ちには憧れの巻き貝だし、漫画サザエさんの顔でもあるし

サザエさん

山間部育ちだったので、サザエは子供の頃、というか幼児の頃から貝殻が欲しくてたまらなかった。1970年以前、よく灰皿代わりに使われていたものだが、ボクには憧れだった。

そして、漫画『サザエさん』である。4コマ漫画で、敗戦の翌年である1946年から始まっている。問題はなぜ、サザエさんなのか、だ。
巻き貝を調べているといろんな角度から貝殻を撮影する。ある日、殻頂(貝殻の一番先の部分で、この部分から巻きながら大きくなる)を手前にして見ていたらサザエさんがいたのである。この角度で見ていると、サザエさんの顔が浮かんでくる。
作者の長谷川町子は漫画の内容はともかく、主人公の名を考えているとき、目の前にサザエがあったのではないか。
昔からもっとも有名な巻き貝だけど、とれない地域でもよく知られるようになったのは、間違いなく漫画『サザエさん』のお陰かも。

壺焼きは非常に原始的な料理だ

サザエの壺焼き

塩から、惣菜である煮つけの缶詰、塩ゆでなどの加工品もある。全国流通するものは少ないが日本海側など旅先で見つけると楽しいだろう。
もっとも一般的な料理法は壺焼きである。
「つぼ」とは巻き貝をさす言葉だ。特定の巻き貝のことではないが、サザエは巻き貝の代表的なものともいえるだろう。
料理法はざっと流水で洗って火の上に乗せて焼くだけである。味つけは醤油や酒など。たぶん太古から行われてきた料理で内臓の苦味が特徴である。
刺身にもなるし、「姫さざえ」のように小さなものは煮つけてもいい。


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