202501/19掲載

新潟県上越・妙高のサメ食文化3 上越地方山間部の煮凝り、東京との繋がり

上越地方の煮凝りと東京の煮凝りはそっくり同じ


ここ十年来、東京都内での「煮凝り」を調べている。都内に昔、たくさんあった蒲鉾店(おでん種など練り製品を作る店)や食品加工の会社では、寒くなると煮凝りを作り始め、師走になると正月用として魚屋、スーパー、市場にあふれかえっていた。
本来の煮凝りは魚の煮つけを作って、煮汁に染み出してきたコラーゲン(ゼラチン)が自然に冷えて固まったもので、料理ではなく、料理の状態といったものだ。
ここでいう煮凝りはコラーゲンの多い魚の部位を煮だして、コラーゲンの多い煮汁を作り。
そのコラーゲンの素となる魚の部位を食べやすい大きさに切り、コラーゲンの多い煮汁に戻し、もう一度煮て味つけする。
これを形に入れて固めるという料理であり、料理名である。
これとまったく同じことが遙か離れた新潟県上越市高田、妙高市で行われているのである。

これとまったく同じことが遙か離れた新潟県上越市高田、妙高市で行われているのである。
12月前後になると魚屋やスーパーに「ふかざめ(ネズミザメ)の煮凝り」が並び始め。また「煮凝り」の材料である「ふかざめの皮」が売られる。
海から離れたこの一帯で作られている「煮凝り」は東京のものとまったく同じ物だ。
原料が宮城県で水揚げされている、ネズミザメの皮であること。(都内ではフグ皮、ヨシキリザメの皮でも少ないながら作られている)
年取(正月の膳)の肴であることも同じである。
不思議なことにサメの産地である宮城県で、正月に煮凝りを食べるという話を聞かない。
とすると「サメの煮凝り」は東京の郷土料理と考えるべきだ。
それが新潟県上越市で、しかも正月に食べられている。
こんな偶然あるのだろうか?
東京都だけではなく埼玉県など周辺でも「煮凝り」が正月用品として出回っている。ただこれは明らかに東京からの影響である。
上越地方は東京からすると実に遠い。なぜ同じ食文化がここにあるのだろう。
ちなみに正月に「サメの煮凝り」を食べる地域はもっと多い可能性もある。

サメとサメの食文化は鉄道で運ばれていた


三陸常磐地方のサメは東京経由で上越まで送られていたのではないか。
例えば三陸、常磐のサメは一度、東京駅まで送られていた。東北本線も常磐線も明治時代には開通していたのである。
サメは東京駅に近い日本橋魚河岸(現東京都中央区日本橋1丁目)に下ろされ、また周辺域、遠く上越や飛騨地方にまで鉄道で送られていた。
昭和になると魚河岸は築地に移転する。
築地は市場であるとともに東京市場駅でもある。
日本橋魚河岸は舟運の時代、築地市場鉄道の時代を象徴する。
トラック輸送が導入される以前、国内の多くの市場が駅に隣接していたのである。

東京から高田(上越市)までは明治26年(1893)には開通していた信越本線を使って送られていた。
『聞書き 東京の食事』(農文協)に「本ざめ」の煮凝りが冬になると作るものとして出てくる。
この食文化を、サメとともに鉄道が持ち込んだのではないかと考えている。

以下に新潟県のサメについての資料を整理しておく。
この上越山間部では古くからサメ類をよく食べた。また正月にサメを食べるというのも古い伝統かも知れない。ただし新潟県寺泊、頸城海岸(上越市直江津から能生町、親不知にかけて)で揚がったものなので、様々な種類であったと思われるし、また一時に大量にとれることは希だったのだと思われる。
江戸時代には俵物(ナマコの乾製品である「いりこ」、「干し鮑」、「ふかひれ」)の輸出を幕府自体が奨励し、高田藩など日本海の藩や天領でも大型のサメ類(ふかざめでネズミザメ、メジロザメ、シュモクザメ、アオザメ)集めた。鰭をとってしまえば、後は地域で食べるしかない。ただしとりわけこの地域での水揚げ量が多かったとは思えない。
サメを食べる文化がこの地域に根強く残っていることはとても不思議なことなのである。
例えば、同じく新潟県西蒲原郡岩室村(現新潟市)にも正月にサメが食べられていたとある。『ものと人間との文化史 鮫』(矢野憲一 法政大学出版局 1979)
『越後頸城郡誌稿』物産一巻の「海魚─鮫─」、「越後名寄」(寺泊で漢方医をしていた丸山元純が、宝暦6年(1756)に表した越後の百科事典的な書籍)にあるサメ類を、全国の地方名と照らし合わせるなどして、標準和名に置き直している。
目白鮫(メジロザメ)、星鮫(ホシザメ)、鯛鮫(佐渡でホシザメ)、ツノヂ鮫(アブラツノザメ)、キクテツ鮫、カセ鮫(シロシュモクザメ)、ボウヂ鮫(ボウズザメでドチザメのことか)、姥鮫(ウバザメ)、鰐鮫(シロシュモクザメ 新潟県石地)、カヂキ鮫、モチリ鮫、ウトウ鮫(ウバザメ 北海道) フタ鮫、犀鰐鮫(大魚なり ジンベイザメ?)、マツノ鮫、テンカイ鮫(てんがいざめでは? サカタザメ)、蘓鮫(すさめ?)、信九郎鮫、猫鮫(ネコザメではなくナヌカザメではないか?)、サス鮫(不明だったカヂキ鮫と同じ種かも)、悪党鮫、鱶鮫(ネズミザメ)
以上は、上越市公文書センターの資料に負うところが多い。
■写真は弧を描いて並ぶ築地市場。ここに貨車が横付けされていた。

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ネズミザメSalmon shark海水魚。沿岸、外洋の表層付近。〜水深650メートル。北海道全沿岸、青森〜九州北岸の日本海沿岸、青森〜相模湾の太平洋沿岸・・・・
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