食べてみよう隣の珍魚 クロウシノシタ
近づいて見てみると、怪獣以上に恐い顔だった
【学者などにとってはちっとも珍魚ではないし、超深海や、南北両極にいるわけでもない。魚屋でもスーパーでもときどき見かける魚だが、普通の人にとっては珍魚、何気なく見ていると普通だけど、よくよく見ると変というのを「隣の珍魚」という。】
梅雨入り間近のある日、福岡県北九州市小倉の市場で小学校低学年くらいの男子が顔を近づけて、ある魚をなめるように見ていた。
言わなきゃいいのに、「ヒゲがあるよね」と無駄な親切心で教えてあげたのだ。
小学生は、「ヒゲなの?(意訳)」とボクを指さして聞いたのだ。
これはヒゲなんだろうか?
ボクはそのとき長旅でヒゲぼうぼうの情けない顔をしていた。
うまく説明できなかった。
目は左にの左右にぺったんこで細長い魚だ
クロウシノシタの下顎に生えているのは触髯(しょくしゅ)と言われるもので、人間のヒゲとは違う。
もともとはスズキやタイ(マダイ)のような普通の魚が進化したものなので、生まれたときは普通の魚の姿で目は左右にある。これが10mmくらいになると右目が左に移動してくるのだが、同時に胸鰭が消えてなくなる。
体は目のない右側と目のある左側の幅(厚み)がなく、ぺったんこで平べったい。
その内、口が大きく裂け上唇が逆さまの長い二等辺三角形になり、下顎の前に垂れ下がり、下顎にヒゲ状のものが生える。
普段、浅い泥と砂が混ざったようなところにいて、底生生物(底にいる生き物のことで、ベントスともいう)の小さなエビやカニ、ゴカイや魚の稚魚などを食べている。
小型の生物をキャッチして、食べられるかどうかを感じているのがヒゲだと思う。一緒に食べた泥などとより分ける役割もしているのかも。
左の目が上顎のつけ根にあるのも、とらえた獲物を見るためだろう
人のヒゲはケラチンというタンパク質で出来ていて、これと言って役割がない。クロウシノシタのヒゲは肉質で大きな役割を担っていることになる。
市場などで普通に見ていると、「シタビラメのムニエルにでもしたいな」と、おいしそうに思えるけど、近寄ってみるとまるで怪物のようだ、という事実を小学生に教わったのだ。