魚の名所 つりがね

つりがねは胸部だと思う

マダイのつりがね

日本料理だけの料理用語集・事典はほとんど出版されていない。ボリューム的にも、フランスにラルースがあるのと比べるとこの国は低級だなと思う。
味の素に行っても、フランス、中国、日本料理など世界中の料理の事典、用語集はあるものの。和だけでいいものがないのだ。仕方がないので我が机の上は村井弦斎の大型本、鈴木晋一などなど、語源的な辞書類、本草綱目啓蒙などのこまごまとした書籍が山を成す。
中でも比較的面白いのが『よくわかる 日本料理用語事典』(遠藤十士夫 旭屋出版 2018)だと思う。いろいろ問題点もあるものの、いまのところこの本でしか見ていない事項がある。
そのひとつがマダイを使った図で説明されている「魚の名所」だ。名所の多くは一般的なものだが、独特だと思われるのが「うぐいす骨」、「うなもと」、「たきうち」、「髪分け」、そして「つりがね」だ。
図では「つりがね」が、どこを指すのかよくわからないものの、「釣り鐘」だとすると形が見えてくる。魚の胸部のことではないか。頭部と二等辺三角形の形でつながり、腹鰭に繋がる。そこを切り取ると、「釣り鐘」に見えなくはない。

つりがねの若狭焼き

マダイの釣り鐘の若狭焼き

今回は「釣り鐘」状に切り取り、強めの振り塩をして寝かせた。要するに一汐に。
一汐ものの料理と言えば若狭焼きである。若狭焼きの語源は書籍を見てもわからない。京都中央市場で会った仕入れ人さんは、「若狭が酒どころだから」というが、むしろ「若狭もの」である若狭がれい(ヤナギムシガレイ)やマサバ、ぐじ(アカアマダイ)の代表的な料理だからだと思っている。
一夜寝かせた「つりがね」は水分をよくきる。
これをじっくりと焼き上げる。
焼き上がりに酒を塗りながら仕上げる。
若狭地(酒・醤油・ときにみりん)でもいいが、ボクには味が濃すぎる。
この小さな「釣り鐘」状の若狭焼きが非常に味わい深い。微かに焦げた酒が非常に香しい。
皮のうまさ、身の甘さ。繊維質の身が口の中で適当にほぐれながらうま味を放出してくれるのがたまらない。
これを肴に、近所で買った菊正宗樽酒を盃一杯だけ。


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