新潟県上越・妙高市サメ食文化 1 上越魚市場の年末サメ競売

ネズミザメの消費地での競りはたぶんここだけだと思っている


新潟県上越市、『一印 上越魚市場』で、毎年12月27日に「ふかざめ(もうかとも。ネズミザメのこと)」の競売が行われている。
ちなみに「鱶(ふか)」とは、サメ類の中でも大きなものを指す。
100kg以上になるネズミザメを「ふかざめ」というのは、この地でもともと揚がっていた食用ザメの中でも大きいという意味になる。
新聞社やテレビも来てなかなか盛況、地味ではあるがイベントと化している。

上越市・妙高市では年取(大晦日と正月)に「ふかざめ」を食べる習慣がある。
「ふかざめ」で年取をするのは主に海から離れた地域と山間部で、上越市高田、妙高市新井・関山・妙高高原だ。
また、新潟県西蒲原郡岩室村(現新潟市西蒲原区岩室)では、サメの種は不明だが、 〈神主さんから、この地では正月にサメを食べねばならぬ習慣があったと聞いた。海から一里ほど離れたここでは年の暮にサメを買ってきて雪の中に入れておき、正月料理にとり出して田楽や酢のあえものにしたそうだ。〉『ものと人間との文化史 鮫』(矢野憲一 法政大学出版局 1979)

ちなみに海沿いの上越市直江津では「棒ざめ」は食べるが、「ふかざめ」はあまり食べない。
同じように西の糸魚川市でも、「さめぬた(たぶんアブラツノザメの)」を正月に食べることはあっても、「ふかざめ」は食べないようである。
「ふかざめ」の競売は、本来直江津以外の地域の需要をまかなうためのものだ。
当然、競売に参加するのは、年取に「ふかざめ」を食べる習慣のある地域の鮮魚店と上越市・妙高市でも広域な商圏を持つスーパーとなる。

気仙沼から前日までに運ばれてくる


12月26日、宮城県気仙沼から運ばれてきた「ふかざめ」は場内に氷を敷き、上からも氷を掛けられて翌日の競売を待つ。
今回競りにかけられるのは18尾である。
ここ数年、気仙沼ではネズミザメが不漁である。2022年10月の気仙沼魚市場に行ったおりには、本来ずらりと場内を埋め尽くしているはずの血まみれのネズミザメが数えるほどしか並んでいなかった。この気仙沼の漁況からすると、よくもこれだけ集めたものだと思う。

12月27日、午前3時、市場の職員が氷の中から「ふかざめ」を掘り起こす。
氷点下で氷が固まっているので、見ていてとても大変そうである。
そのときに使った氷は場内に敷き詰められる。

独特の大包丁を使って輪切にしていく


サメは気仙沼で鰭と内臓は取ってしまっている。
最初に交接器(クラスパー)を切り取る。
これを輪切(ころ)にしていくのだけど、頭部は鰓の部分から先を大きく切る。
後は胴を4等分に切る。
昔、頭部は人気があったが、今ではスーパーなどで飾りとなくらいで利用されていないようで、競りからは除外されている。
この5等分された「ふかざめ」が氷の上で競りの時間を待つ。

輪切にされた「ふかざめ」の身は1つずつ競りにかけられる


7時になるとこの輪切にされたネズミザメの輪切は、1つずつ競りが行われる。
この日の競り値は公表できないが予想外の高値がついていた。

ちなみに上越市とサメに関することは1980年代の新潟旅で聞取している。なんとそれから40年以上上越市にたどり着けないでいた。『一印 上越魚市場』の方に競売の話を聞いたのも2016年なので、今回の新潟旅はうれしさもひとしおである。
ネズミザメが輪切で販売されるわけは、上越市内、妙高市内で判明した。
これは上越市・妙高市のサメ食文化のページを作る。
旧頸城郡でとれていたサメの一覧ページも作ろうと思っている。
また上越市と宮城県気仙沼までのネズミザメの経路も同様に別コラムで述べたい。


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